新連載◆渡辺真綾「夢色ミックスジュース」第1回「出会いは突然に」

唐突ですが、皆さんはどのようにして自分の大好きな音楽と出会いましたか？
 
フェスで知らないバンドが知ってる曲を演奏していた…
自分が好きなバンドと仲が良くて…
何気なく再生していた動画が耳から離れなくなった…
ラジオから流れてきた瞬間に周りの景色が変わってみえた…
 
などなど、沢山の出会い方があると思います。もしかしたら、恋人が聞いていたメロディーがそのまま自分の好きなものに変わっていた、なんてロマンチックな話もあるのかも、…なんて思いつつ。
 
初めまして。この春からYUMECO RECORDSの連載陣に、恐れおののきながらも仲間入りさせて頂くことになりました、渡辺 真綾です。今回は初回ということで、自己紹介と今の私を形作るきっかけになった音楽について、少しだけ。
 
私はこの春から大学生になったばかりの、多分、人より少しぼんやりしているくらいの、ごくごく普通のライターを夢見る女子大生です。ぼんやりしている割に妙なところで我が強かったり、周囲の空気を読んでうまくその場をしのぐことが壊滅的に苦手だった私は、当然のように一人でいることが多くて。教室にもなかなか向かえず、誰かといたいと願っても、大切な人を作ることで、「自分の好き」に嫌われてしまう可能性を作るくらいなら、「私は一人でいたいと思っているんだ」と思いこもうとするような、筋金入りの臆病者でした。
 
でも、ひとりぼっちはやっぱり寂しくて、私だけの特別ができればいいのになんてTwitterで架空の繋がりを探す日々。そんななかで出会った、大人びた雰囲気の気になる少女が、定期的に知らない男の人の写真をあげていました。ある日、これを知ればもっと彼女と近づけるのでは・・・？と尋ねてみたところ、帰ってきたのは暗号のような不思議な言葉。どうやらそれはバンドの名前らしい。しかも彼女は「その人たち」のことを楽しげに話す。音楽が手軽に聞けるこの時代。少しでも彼女に近づきたかった私に聞かないという選択肢はありません。
 
オススメを教えてもらってイヤホンを差し込んだ瞬間、秘密を共有しているみたいでときめいた胸。思えばあの時から魔法の時間は始まっていたのでしょう。再生ボタンを押して、流れてきた爽風のようなメロディーに鼓動が高まっていく。「知らなかった人」の、未来をまっすぐみすえた、力強さと色っぽさの入り混じった声に心臓を掴まれました。自分には無い、はっきりとした意思を感じさせる声が羨ましくて、格好良くて。たちまちに惹きつけられた。曲が終わってすぐに彼女にメールを送り、ちょうど発売ほやほやだったベストアルバムを買いに走ったのがもう随分前の話。
 
NICO Touches the Wallsとの出会いは、音から衝撃を受けたことのなかった私にとって、本当にセンセーショナルなものでした。それはまるで、見向きもしなかった場所に眠っていた宝物のように。
 
音楽というキラキラして見えるものに出会ってから、臆病な私がどうして公の場で記事を書こうと思ったのかは、これからゆっくりお話できたらと思うのですが、せっかく場所をお借りできるのであれば、何よりも音楽を聴いてほしい。ということで・・・
 
今回は、NICO Touches the Wallsの中から知る人ぞ知る名曲「雲空の悪魔」という曲をご紹介します。大げさなことを言っているわけでもなく、曲中に起伏の激しいメロディーを散りばめているわけでもない。それでも、淡々と繰り出されるリズムと情感に満ちた声に身を委ねていると、自分の感情が大荒れしている時でも不思議と心が凪いでいくのを感じます。心が静かになると、目を塞いでいたものが少しずつ見えてくる。霧が晴れていくような感覚を、私はこの曲で何度も味わいました。光村さんの歌声は、ブルージーだったり、ファンキーだったり、はたまた抜けるようなストレートさでかっ飛ばして見せたりと、シャボン玉の表面みたいに様々な色合いを見せるのが面白くて、その時々で感じ方も変わるものだから何度も聞き直してしまう。一種の麻薬だと思います。ここまで読んでくれた方で、もし少しでも気になって頂けたら。残念ながらオリジナル音源はもう売り切れてしまって手に入らないのですが、ライヴバージョンが「ビックフット（初回生産限定盤）」のボーナストラックとして収録されているので、是非Apple Musicなどでチェックしてみてください。案外、音源化されていないと思い込んでいる人も多いので。
 
私の連載では、毎回必ず音楽に関連したお話をしていきたいと思っています。タイトルに込めた想いは、また、次の回で。最後になりましたが…不束者ですが、これからどうぞ宜しくお願い致します。
 
 
 

『ビックフット（初回生産限定盤）』（2009年5月）