「生きづらさ」について書こうと思う。
私は生まれてからずっと、生きているのがつらいと感じてきた。
思っていた・・・というよりも感じてきたという方が正しい。
 
人生で一番覚えている古い記憶は、幼稚園の年中さんの「いもころがし」で小僧役を演じた時。本番になると、全く科白が出てこない。幕が下りるまでずっとうつむいて泣いていた。
「もう、生きていたくない」と初めて感じた日を忘れはしない。
大事な日に限って失敗をしたり、失敗が怖くて不安が募り、体調を崩す。
一生懸命、準備や練習はするから周りの人は期待してくれて役がまわってきてしまう。この繰り返しが大人になったいまでも続いている。
 
「本を読む」という行為は、準備だ。
わかりやすいことから言えば、美味しい夕ご飯を作るために料理本を読むのは料理への準備だ。
恋愛をする前にも小さいころから山ほど、恋愛小説を読んできたし、
結婚式の時には、ウェディングのマナーとコツ的な本を10冊は読んだ。
とにかく予備知識を得るために本を読む。そして行動に移す。
この行為がなけれ不安で不安で仕方ない。逆に本を読む行為は、準備をきちんとしたという安心を得る行為でもある。
今回紹介するのは、「生きづらさ」と真剣に向き合って闘ってきた人の本だ。
私は、この本を読んだことによってこれから自分の「生きづらさ」と共存していける気がしている。
 
 
 
 
 
■『男であれず、女になれない』鈴木伸平著 小学館刊


 
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捲った1ページからすばらしいので引用・・・。
 
 
 

想像してみてください。
あなたから性別を除いたとしたら、
今のあなたをとりまく愛しいものは、
どれだけ残りますか?

 
 
 
 
この本の著者である鈴木伸平さんは、高校在学中の頃から自身の性別に疑問を覚えていた。
同性愛、性同一性障害など既存のセクシャルマイノリティへ自らの居場所を求めるが適応には至らなかった。
鈴木さんは、男でもない、女でもない「私」を求め続けていく。
大学時代、初めて同性に恋をする。誰もが経験する「恋」だが、ひどい失恋をする。
生きていられないほどの失恋だ。
 
「彼に恋人ができました。相手は私の女友達でした」
ここから非常に冷静にその後の心情が書かれていく。
心が全壊していくのがわかって、とめどなく切ない。
心が壊れてしまう条件が5つ書いてある。
 
・私が、男だった。
・好きなった人が男の人だった。
・好きになった人は女の人を好きになる人だった。
・好きになったひとが女の人を好きになった。
・私は女でなかった。
 
生きるのを辞める、とにかく終わりにしたいと思う日々も、ある一言が光となる。
「心の寿命まで生きてみよう」
この失恋を通して、鈴木さんはより一層強く生きていくのだ。
身体の寿命ではない。そう心にだって寿命がある。
私もいままでと同じように、心の寿命の灯火をなんとか死守してきたのだと
共感して思わず涙した。
 
人が生まれてきた以上、向き合わないといけない性別の問題。
男か女かの身体つきや、ピンクの服を着せられたりして私は、自然に女に〇をつけるようになってしまったのかな。
でも、この行為に悲しみや戸惑いがある人はこの世界にたくさんいる。この本を読むまで自分も理解が及ばなかったことを反省している。
 
36歳で、鈴木さんは一歩人生を前に踏み出す。男性器をとる手術を受けるのだ。
この描写は詳細で、痛い!痛い!血がドクドクと溢れ出す様子がリアルに伝わる。
命がけの手術で、自分のアイデンティティーを探求していく姿に胸がひりひりした。
 
最後の章のワンフレーズが心が刺さる。
「もう親になることはありません。時にどうか、隣人を愛するように、無責任に我が子を愛してください。」
 
そう願う鈴木さんを、ご両親、お兄さん、お姉さんは、ずっと見守ってくれていた。
過剰な干渉でない、見守り。これが、彼をどれだけ救ったか。
たくさんの愛に包まれている鈴木さん、本当に素敵な人なんだろう、こういう人が世の名をハッピーにする存在なんだろうと自然に感じる。
 
私はこの本を、これから子供を持つすべての人に読んでほしい。
 
人生で一番大事なこと。
男でもない、女でもない、「私」が「私」であること。
生きづらさを抱えても、乗り越える力があなたにはあるよ、と子供に言ってあげてほしい。
そして、その言葉を絶えず自分のお守りにしていこうと思うのであった。
 
 
 
 
 


 
uemura上村祐子●1979年東京都品川区生まれ。元書店員。2016年、結婚を機に兵庫県淡路島玉ねぎ畑の真ん中に移住。「やすらぎの郷」と「バチェラー・ジャパン」に夢中。はじめまして、風光る4月より連載を担当させて頂くことになりました。文章を書くのは久々でドキドキしています。淡路島の暮らしにも慣れてきて、何か始めたいと思っていた矢先に上野三樹さんよりお話を頂いて嬉しい限りです。私が、東京で書店員としてキラキラしていた時代、三樹さんに出会いました。お会いしていたのはほぼ夜中だったwと思いますが、今では、朝ドラの感想をツイッターで語り合う仲です。結婚し、中年になりましたがキラキラした書評を青臭い感じで書いていこうと思っています。