「終わらせること」と「続けること」
 
「諦めること」と「望むこと」
 
「現実をみること」と「夢をみること」
 
今から30秒で、簡単な方を選んでください。
こんな風に尋ねられた時、あなたはどう答えますか?
 
ものの数秒で答えを出せるのか。
悩んだ末に選ぶのか。
それとも。
 
 
 
■「やっかいな熱」――音楽ライター:イシハラマイ


 
①YUMECO201704
 
紳士淑女、ならびにロックンローラーの皆様、初めまして。
YUMECO読者の皆様、またも出戻って参りました。
ロックンロールをこよなく愛す、音楽ライターのイシハラマイと申します。
 
今年度の連載では、私の独断と偏見と溺愛を基準に(ここは変わらず)、「音楽」とそれにまつわる「カルチャー」を軸に、紹介できればと思っております。
形式についても前年と変わらず、メインの紹介記事(ライヴレポートだったり、レビューだったり、インタビューだったり)と、関連する曲紹介という2部構成でお送りします。
 
ご存知の方もいらっしゃるかとは思いますが、初回なので今回は自己紹介を。
 
今を去ること2年前の2015年。音楽ライターと名乗り始めたばかりの頃、初連載「やめられないなら愛してしまえ」はスタートしました。大学を卒業して就職をして数年。「社会」を知れば知るほど、その対岸にある音楽や芸術が持つ生命力が眩しさに恋焦がれていった。同時に、音楽や芸術と自分の生活が背中合わせで離れて行く感覚にいつも怯えていた気がします。音楽について書くことを始めたのは、表現することでその距離を埋めたかった、繋ぎ止めていたかったからかも知れない。あとはやっぱり自分の愛するものの素晴らしさを、自分の言葉で伝えたかった。不純だけど純粋で、燻っているけど決して消えない。そんなやっかいな熱を受け止めてくれたのが、主宰の上野さんであり、このYUMECO RECORDSでした。
 
「続・やめられないなら愛してしまえ」とタイトルをマイナーチェンジして始めた2年目は、幸せにもライターとして色々なチャンスに恵まれた年でした。その分、自分の未熟さや無力さを思い知る場面も多く、気付けばひとり、疑心暗鬼の井戸の底で体育座りしている自分がいました。そこでとりとめもなく考えていたのが、冒頭の2択。
でも本当は、いつも答えは出ていたんです。ただそれを認めるための自信と気力がなかっただけで。書き終わっては「もうやめよう」「これで最後にしよう」と思う癖に、依頼が来るとふたつ返事で引き受ける。そんなことの繰り返しでした。だからと言って、いい加減に書いたものは勿論ひとつもありません。それだけは自信を持って、言い切れます。
 
そんなこんなで丸2年続けた連載も、今年の2月で終了。打ち合わせのタイミングが合わなかったこともあり、その時点では今回の連載についてはまだ白紙の状態。その後、晴れて正式に連載の続投が決まったものの、3月からのスタートにはせず、ひと月だけお休みをいただきました。ライターを名乗ってから今の今まで、愛すべきロックンロールバンドに倣ってKeep on Rollingの精神で走り続けてきたけれど、無理矢理動かし続けた足はとっくに縺れていたのです。「これ以上行ったらハデに転ぶぞ」と、頭の隅で警報が鳴るのがずっとずっと聴こえている。もしかすると、そんなものを振り切ってハデに転んでしまった方が良かったのかもしれない。でも、それはできなかった。だからせめて、ひと月分だけゆっくり走ること(案の定、私の中のロックンロール魂は「止まるな!」と叫んでいるから)で呼吸を整えることにしました。……今更ながら活動休止をするバンドの気持ちが、少しだけ分かった気がします。
 
そして「活休」期間は、なるべく普段と違うものに触れようと決めていました。美術館に行ったり、全く分野違いの雑誌を読んだり、大学生の時ぶりにゴダールの『アルファヴィル』を観たり。新しいコミュニティーに首を突っ込んでみたり、「何かを作ること」に触れたくて、ずっと気になっていたレトロワンピースのセミオーダーをしてみたり。(自宅アトリエで手作りしてくれるとのことで、到着が楽しみです)
こんな生活をしていて気付くのは、音楽以外にも語りたいものはたくさんある、ということ。そしてその全てが巡り巡って音楽に繫がっている、ということ。どこに行っても、誰かと居ても、何かを観ても、そこに鳴っている音楽があって、頭に鳴っている音楽がある。
 
ああ、やっぱり、やめられないな。
ならば、無駄な抵抗はせず愛してしまおう。
 
2年前、この連載を始めるにあたってつけたタイトルが、2年間、私を支えてくれました。
そしてこれからも、走ったり歩いたり躓いたりしながらも、愛すべきものを文章にしていきたいと思います。
 
私なりのKeep on Rolling、「やめられないなら愛してしまえ2017」始まります。
よろしくどうぞ、お願いします。
 
 
②YUMECO201704
 
 
 
■monthly Rock ‘n’ Roll vol.1 ――ドレスコーズ「エゴサーチ・アンド・デストロイ」


 
このコーナーでは「今月のテーマ曲」としてメイン記事にまつわる曲を、紹介します。
今回は先日発売されたドレスコーズのアルバム『平凡』より「エゴサーチ・アンド・デストロイ」。左右から違う音が流れるので、ぜひ視聴の際はイヤホンで堪能してください。
その音楽の秀逸さも然ることながら、志磨遼平という人からは、彼を形作った先人たちの芸術が透けて見えている。それに何より心惹かれた。そして1月に観た「デヴィッド・ボウイ大回顧展」で描かれたジギー・スターダストの死と、映画『アルファヴィル』の無機質な近未来と、『平凡』の世界が私の中で一直線に繫がった。そんな訳で、今回のテーマソングに選びました。
 
 
 
 
 
 


 
ishihara_2017イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。活休中に夢中で読み漁ったものがあとひとつ。それは村上春樹氏の新作『騎士団長殺し』。私なら即興で何かひとつでも気の利いた暗喩が言えるだろうか、いや無理だろう。祝連載3年目! 今年度もよろしくお願い致します!