ふと、不安になることがある。
わたしは大事なものを、きちんと愛せているのだろうか。
自分に向けられる愛情に、きちんと応えているのだろうか。
アイラヴユー、と
ひとすじの翳りもなく、伝えることができるだろうか。
自分たちの愛すべき、バンド活動へ。今一度、愛を確かめるためにツアーを通して徹底的に自らに向き合ったバンドがいる。その名もOutside dandy。今回はそのツアーの集大成となるファイナル公演のレポートをお届けします。きちんと愛することの大事さを気付かせてくれたライヴでした。
■「ロックンロール・ダンディ:Outside dandy@TSUTAYA O-Crestライヴレポート」
結成から8年目にして発売されたデビューアルバム『Mr.』を引っ提げ、約2年ぶりとなる全国ツアーを敢行したOutside dandy。11月11日渋谷・TSUTAYA O-Crestにて行われたツアーファイナルでは、バンド初の完全単独公演を実現。彼らのバンド人生の集大成と呼べる覚悟と決意に満ちたステージとなった。
3月に同会場で開催された『Mr.』の発売記念自主企画で、バンドとして一皮剥けた姿を見せてくれた彼ら。それから約半年、満を持して9月10日の渋谷・Milky wayを皮切りに、全17本に及ぶ全国ツアー『愛を越えてTOUR2016』に挑んだ。そして、このツアーを廻るにあたってメンバー4人はひとつの約束をしていたことを、ファイナル終了後に松本翔(Gt)がTwitterとツアーブログで明かした。それは、このツアーが成功しなかった時はバンドを解散するというものだった。
3月の自主企画で良い予感の手応えしかなかったのは、彼らも同じだったはず。だからこそ「解散」というワードはまさに寝耳に水だった。なぜ彼らはそこまで大きな代償を、自らに課したのだろう。それはきっと、ひとことで言うならば「愛を確かめるため」。自分たちは、本当にバンドを愛せているのだろうか。楽曲、メンバー、自分のルーツ、演奏を、歌を、愛せているだろうか。スタッフ、共演者、ライヴハウスとは、相思相愛の関係を築けているだろうか。そして、自分たちの音楽を愛してくれる人に、それ以上の愛を返せているだろうか。その全てに自信を持って「イエス」というために2ヶ月間、愚直に向き合ってきた。そして、彼らはこの日、未来を賭けてO-Crestのステージに上がったのだ。
最後の決意を確かめるべくステージに揃った4人はドラムセットの前に集合。顔を見合わせて何度も頷き、じっくりと時間をかけてから定位置についた。オープニングナンバーは「ROLLING」。〈Baby そっと I love you キスをしよう〉という村上達郎(Vo/Gt)の甘い弾き語りで始まった。そこからバンドサウンドへと変化した瞬間、彼らが如何に覚悟を持って濃密なツアーを過ごして来たのかが分かった。まず、各パートの音が格段にシャープになっている。「スパイダー」では柳田龍太(Dr)の打ち鳴らすドラムロールと観客の手拍子が一体となって熱狂のグルーヴを生む。さらにバンドのオリジナルメンバーである村上と松本翔(Gt)は互いに背中を預けてギターを掻き鳴らし、息の合ったプレイを披露すると、フロアからは歓声が上がった。ブルージーなセッションで幕開けた「愛のラビリンス」はdandy節が炸裂。村上と松本による阿吽の掛け合いがスリリングに畳み掛け、ロックの熱と歌謡曲の艶が黄金比で混ざり合い、得も言われぬ色気が漂うシーンだった。
「見つけてくれてありがとう。俺を救ってくれて、メンバーを救ってくれてありがとう。俺たちをつなげてくれた音楽に、敬意と感謝を込めて」と始めたのは「MUSIC」。この時のみならず村上はライヴの端々で観客への感謝の言葉を口にした。声が掠れることも厭わずに声を振り絞るサビの〈アイラヴユー〉は、そんな気持ちの全てを凝縮した彼、そして彼らなりの最上級の愛情表現なのだろう。
〈失いたくないのであれば守ろう。守るために強くなろう。守れなかった時はけじめをつけよう。これが俺たちの覚悟でした〉解散を覚悟してツアーに臨んだ意図を、松本はツアーブログでこう語った。それが決して投げやりでも捨て身の勝負ではなかったことは、言うまでもない。お世辞にもインターネットやSNSを使ってのプロモーションが得意とは言えないバンドながらも、ツアー中はツアーブログやTwitterでの動画の配信などを積極的に行っていた。それ程に彼らがこのツアーにかける想いがひとしおであったということだ。だからこそ、この日メンバー登場前に会場に流れたツアーのロードムービーには思わず胸が詰まった。
『Mr.』の楽曲を中心とした前半に対し、セットリストの後半は新曲が中心となった。ツアーを通して誕生したという「Beautiful」や、村上が10代の頃に初めて作ったラヴソングを今のバンドへと落とし込んだ「.愛しい人よ」。そしてメンバー自身も「どうだ! 爽やかだろう!」と言ってしまう、バンドの新境地とも言える太陽が似合うナンバー「Heart Beat」が披露された。本編ラストは「サタデーナイトメランコリック」。鈴木勇真(Ba)が代名詞とも言えるイントロのリフを奏でると、バンドの熱もフロアの熱もさらに高まる。しまいには松本がギターもろともフロアの観客の上にダイヴ。ようやく彼らにも、このステージを成功として終えられる実感が湧いたのだろうか。4人それぞれがしゃにむに暴れ尽くしてステージを去った。
鳴り止まぬ拍手に応えてのアンコールでは3曲を演奏。やはり沁みるのはバンドマンの生き様を描いた「さらば、ロックスター」だ。村上はスタンドからマイクを毟り取り、ハンドマイクでフロアに乗りだし、語りかけるように歌う。そして歌い切ったあと、「なりたい自分にちょっとだけ近づけた気がするわ」と口にした。今思うと、この一言がバンドの未来を確信した瞬間だったのだろう。愛を確かめるために、敢えて一番愛すべきものを賭ける。それも、失うかもしれないというリスクを伴っても。あんまりにも不器用だ。だけど、それがOutside dandyだ。だからこそ、彼らの叫ぶ愛には全幅の信頼を置くことができる。鋼の愛を手にした4人のロックンロール・ダンディ。次はどんな風に、私たちを魅了してくれるのだろう。
2016/11/11「愛を超えてTOUR2016」@TSUTAYA O-Crest
セットリスト
01.ROLLING
02.レイジーモンスター
03.シルビア
04.スパイダー
05.Mr.Moonlight
06.愛のラビリンス
07.メリーゴーランド
08.MUSIC
09.25時のラブソング
10.愛しい人よ(新曲)
11.Any(新曲)
12.Heart Beat(新曲)
13.Beautiful(新曲)
14.Bye bye yellow
15.PANDORA
16.バニーダンス
17.サタデーナイトメランコリック
EN1.ストリッパー
EN2.さらば、ロックスター
EN3.OVER
■end “ROCK’N” roll vol.11 ― セカイイチ「バンドマン」
Outside dandyの「さらば、ロックスター」同様、こちらもタイトル通りバンドマンの歌。この歌が好き過ぎて、色んなところで今まで何度紹介してきたことでしょう。でも、今回のテーマソングはこれしかない、と。バンドマンは勿論のこと、夢と生活の中でもがく人全てに聴いて欲しい曲。〈シンガーは吐き出した ため息を歌に変える〉という歌詞があるのだけれど、ほんとにそう。個人的な話をすると、負の感情や状況すらも糧にしないと成り立たないという時がある。でもそれってすごく荒むし、傷付くし、傷付ける。色んなバランスが崩れて行く。それでも、やめられないのはやはりそこに「愛」があるからだろう。願わくば、2016年を笑って終えたい。
イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。新木場STUDIO COASTで行われたGLIM SPANKYのワンマンは圧巻だった。甘えず、怯まず、怠けずに、「ワイルドサイド」を行こうと思う。
イシハラマイ「続・やめられないなら愛してしまえ」
第9回「ブルーを以て、青く在れ!」
第8回「石狩賛歌」
第7回「たからものをあつめて」
第6回「現実主義者はロックンロールの夢を見るか」
第5回「愛と勇気の“貴ちゃんナイト”」
第4回「その眼差しに捧ぐ」―The cold tommy新体制を観た
第3回ジャンプ ザ ライツインタヴュー「ヒーロー・コンプレックス」
第2回「透明な熱が熟れるとき」
第1回「ロックンロールのそばにいて」