7月30日。
これから真夏の幕開けを迎えるには相応しいこの日に、私はボヘミアンズのショーを観るため、東京キネマ倶楽部へ足を運んだ。
ボヘミアンズがワンマンショーを行うのは、この日実におよそ8か月ぶりだったという。ということは昨年のツアー以来ということか。アルバムリリースも関係なく、ツアーの一環でもない、ただ純粋に単発で行われる、ある意味貴重な今回のワンマンショーは『Super Summer Fire Atomic BOHEMIANS SHOW』と題されているだけあって、「この日のショーを境に“真夏”始めよう!」と事前に平田ぱんだ(Vo)が公言しており、今回のワンマンショーに懸ける熱意を伺わせていた。
開演前、場内では平田ぱんだ自ら選曲した彼が敬愛してやまないハイロウズの曲が延々と流されていた。しかも夏にぴったりのナンバーばかり。私はハイロウズの曲を聴きながらこれからボヘミアンズとともに始める真夏の幕開けに期待を寄せ胸を躍らせた。ちなみに今回、私はボヘミアンズのショーを観るのは初めてのことで少しばかり緊張もしていた。
19時30分。場内は暗転し、パティ・ペイジの登場SEが流れると下手の階段からビートりょう(G)を筆頭に、千葉オライリー(と無法の世界)(Dr)、本間ドミノ(Key)、星川ドントレットミーダウン(Ba)が登場。場内は盛大な歓声が起こり、それは彼らの登場を待ち焦がれていたオーディエンスの思いの大きさを物語っていた。
薄暗いステージに、弓を手にしギターの弦を鳴らそうとするビートりょうのシルエットが浮かび上がった。その弓で大胆にギターを掻き鳴らす姿に私は思わず息を呑み、ステージ中央を目にするとそこには平田ぱんだの姿があった。遂にボヘミアンズのショーが始まった。
1曲目は「メイビリーン」。かのチャックベリーの曲を彼らがオリジナルの日本語詞でカバーしたものである。そこから「夢と理想のフェスティバルに行きたい」「パーフェクトライフ」「ガール女モーターサイクル」と続き、そしていよいよこの曲のイントロが鳴った瞬間、場内は一気に熱気で包まれた。それは「THE ROBELETS」。私は背後から人の波に一気に押され、気づけばかなりステージに近づいていた。この曲は不思議なほどに人にトキメキを与え、高揚させる力があるなと思う。お馴染みのコール&レスポンスも完璧で、ショーの序盤とは思えないほど。場内にはボヘミアンズとオーディエンスがひとつになった瞬間の輝きと多幸感で満ち溢れていた。
このショーの序盤に披露された5曲は、ボヘミアンズが過去に発表した作品の中で唯一夏に発売された2nd Album『憧れられたい』の収録曲の順番通りなのである。真夏の幕開けらしい彼らの選曲にグッとしつつ、ショーはここからどんな展開を迎えるのだろうかと心の底からワクワクした。
その後、夏らしい「ジーン・ヴィンセントのTシャツ」では平田ぱんだの合図でオーディエンスの大合唱が成功し盛り上がりを見せ、「SUPER THUNDER ELEGANT SECRET BIG MACHINE」では入場時に全員に配布されたクラッカーをサビの“ゴー! ゴー!”という掛け声に合わせて噴射するという、斬新な試みもあり、場内はまるで真夏の幕開けを祝福するパーティー会場のような状態になっていた。平田ぱんだ自身もオーディエンスとともにクラッカーを噴射し、それはとても満足そうな笑みを浮かべて、ステージ上から客席に向かって新しいクラッカーをばら撒いていた。平田ぱんだとオーディエンスがクラッカー噴射に夢中になる中、当然のことだけれど楽器隊のメンバーは皆真剣に演奏しコーラスも頑張っているわけで、私はこの状態がなんだかカオスにも思えてきてしまい、可笑しくなってつい笑ってしまった。でもとても楽しく場内には皆の笑顔が咲き誇っているようだったしまあいいのかな! (実を言うと私は配布されたクラッカーを開演前に落としてしまうというありえない失態をしてしまったのだけれど…。)
クラッカーでお祭り騒ぎをしたかと思えば、今度は一転、the pillowsの山中さわおが主宰するデリシャスレーベルより8月19日に発売されたニューアルバム『brother,you have to wait』(生粋のロックンロールアルバム! これは必聴! )から直球のロックンロールナンバーを2曲連発しオーディエンスを魅了した。
ここで「『憧れられたい』の曲を初めにやって、そして新曲2曲やりました。もうあとやることって騒ぐだけですよね!!!」という平田ぱんだの言葉に続いたのが、ビートりょうの激しいギターソロも見どころの「太陽ロールバンド」、“オイ!”というコール&レスポンスが痛快な「シーナ・イズ・ア・シーナ」。この2曲で一気に畳みかける。
今年、ボヘミアンズは生誕10周年を迎えた。それを踏まえて平田ぱんだは、昔の自分は嫌いだけどボヘミアンズというバンドを始めたことだけは昔の自分の唯一好きなところだと語り、そしてこの「そんな昔の大馬鹿野郎に向けてこの歌を歌います。」という言葉の後に始まったのが「THE BIKE」。
この「THE BIKE」という曲はボヘミアンズがかつて上京する前に、彼らが自身の出身地である山形で過ごした青春時代の面影が反映された曲だと私は思う。
この曲を聴きながら、この空間で“過去”と“今”という瞬間が繋がった気がした。当たり前のことだけれど、“過去”があって“今”がある。時の繋がりや時の経過というものは意外と普段、意識することはないし忘れてしまうのだけれど、ふとそんなことを気づかせられた。過去の綺麗な思い出も、そうでない思い出も何かしら今に繋がっていたりして。私も“時”という名の大きな川の流れに乗って“今”を生きる一人なのだと改めて思う。
曲が終わりへ向かう中、俯きながらじっと何かに思いを馳せているかのような平田ぱんだの表情が今も忘れられない。
私はほんのちょっとセンチメンタルな気持ちになっていたのだが、イントロのドラムが印象的な「おぉ!スザンナ」が始まるとセンチメンタルな気持ちはどこかへ吹っ飛んでしまい、ただただ楽しいという気持ちだけであった。お決まりのオーディエンスの大合唱も健在だ。この曲で勢いをつけ、そのまま「ダーティーリバティーベイビープリーズ」と続き、<音楽は素晴らしい それでしかねえのさ>と高らかに歌い上げ、ロックンロールの素晴らしさや楽しさ、喜びが爆発した「That Is Rock And Roll」で場内のボルテージは最高潮に達し本編は幕を閉じた。
鳴りやまぬアンコールに応え、メンバーが再びステージに戻ってくる。
アンコールで披露された曲で特筆すべきは「ロックンロール」という曲だ。
場内は一旦暗転し、かすかな光の中、この曲のイントロのキーボードの音色が響き渡る。私はこの時、まるで神聖な何かが自分の中に降ってきたかのような感覚と、この日のショーの他の場面では一切感じることがなかった独特な緊張感に包まれたのだ。そんな中、ビートりょうがギターを掻き鳴らしながら、こう歌いだす。
私は不覚にも涙を流してしまった。私にはかつて精神的にひどく落ち込み、誰かに助けを求めることもろくにできず一人で塞ぎ込み、孤独を感じていた時期があった。こんな時期に出会った音楽がたまたまロックンロールで、それをきっかけにロックンロールをはじめとする様々な音楽に興味を持つようになり、果てない音楽の世界の扉を開けたのだった。だから私もロックンロールをはじめとする音楽というものに、孤独や寂しさを共有してもらおうとし、結果救われてきたのだなと改めて実感していた。
息もつかせず、曲はドラマチックに展開していく。平田ぱんだがステージに登場し、躍動感ある大胆なジャンプを連発し、前述のビートりょうが歌い上げたフレーズを繰り返す。私は流していた涙を必死に抑え、今という瞬間を目に焼き付けた。この曲を通して強く思うのは、ロックンロールとは一過性のものにすぎないということだ。永久ではないからこそ、ロックンロールの衝撃や衝動、ロックンロールが放つ輝き、ロックンロールに詰まった夢…こういったものが大きく膨れ上がり、“今”というこの瞬間に爆発してとてつもないエネルギーを生み出すのだ。
平田ぱんだとビートりょうが、もう一度叫ぶ。ただ、それだけなのだ。これ以上他に言えることはないのだ。でもこの言葉を言えるのは、ロックンロールを心から愛しロックンロールに救われてきた者だけだろう。そんな着飾らないまっすぐなボヘミアンズが好きだ。
そして最後、平田ぱんだが力強いまなざしで“ロックンロール!!!”と叫ぶ。
私はまたここで思わず息を呑んだ。まさにこの瞬間が“ロックンロール”そのものであった。
もう言葉で表そうとすること自体、野暮なことなのかもしれないとすら思えてしまう。でも私はあの日あの瞬間の感動を伝えたくてこうして言葉にしているのだけれど。言葉で表現するには難しい、ロックンロールが放つ不思議な力、それを見せつけたボヘミアンズ。あれは魔法なのだろうか。一体何なのだろうか。でも確かに心が揺さぶられたのは間違いなかった。
こうしておよそ2時間に及ぶショーはあっという間に幕を閉じた。
メンバーがステージを去ったあと、場内には彼らの1st Single「NEW LOVE」が流れていた。私は「NEW LOVE」を口ずさみながら、もっとボヘミアンズとともにこの夏を過ごしたい、要するにもっともっとボヘミアンズのショーを観ていたいと心の底から思っていた。気づいたときには既に遅かった。なぜなら私はとっくにボヘミアンズと彼らのロックンロールの虜になっていたのだから。
この日、ボヘミアンズと東京キネマ倶楽部に集結したオーディエンスたちは、見事に真夏の幕開けを迎えることができたと言えるだろう。あの時あの空間で生み出された熱気や感動は、何かを動かしてしまうほどの強烈さを持ち合わせていたはずだからだ。事実、2015年夏、日本列島は幾度となく猛暑に見舞われた。もしかしたら少しばかり7月30日の出来事が影響しているといってもよかったりして。
この夏、猛暑には悩まされたが、それ以上に大切な夏の思い出がまた一つ増えたことがとても嬉しかった。夏は終わりに近づいていくけれど、この日の感動は秋になっても冬になっても忘れぬよう、そっと胸にしまって、残りの2015年も生きて行こうと思っている。
青木 リサ●1997年生まれ、18歳現役女子高生。幼少期から音楽は好きであったものの長い間R&Rとは無縁であったが、吉井和哉 / THE YELLOW MONKEYとの出会いをきっかけにR&Rやロックバンドに興味を持ち、好きになる。大人になったらブルースのアナログレコードを聴きながらお酒を飲みたい。音楽はダウンロードよりもCD派。歌うことが好き。今の夢は音楽の作り手と聴き手を繋ぐ、音楽雑誌をはじめとした音楽メディアに携わる仕事をすること。今回が初投稿です!