思うに、ロックンロールとカタカナは同じロマンのもとに成り立っているのではなかろうか。
 
世の中、大抵のことは事実が求められては肯定されていく。
けれども、ハッタリをかましても大袈裟に振舞っても大口をたたいても、カッコ良ければ許されるものもある。私はそんな音楽をロックンロールと呼ぶのだと思っています。
 
なぜならロックンロールに恋する瞬間なんて、物事の真偽など考えちゃいないのだから。例えばくたびれたシャツを着たろくでなしが、ギターを持ってステージに上がった途端ヒーローに見えてしまう一瞬だったり、普通の会話の中に出てきたら笑ってしまう様な青臭い台詞を、声を大にして叫ぶ姿に気付けば涙している瞬間だったり。その瞬間はたとえろくでなしだろうが、青臭い台詞が虚勢だろうが、どうだっていいのだ。真偽の程はどうであれ、ただその瞬間が有無を言わさず格好良ければ、それは観るものにとっての“真実”になるというもの。
 
演劇の演出の手法のひとつに“外連(けれん)”と言って、仕掛け物や宙返り、早替わり等を指す言葉がある。他にも、他人の気を引く為のおおげさな言動やごまかし、ハッタリをも意味するという。それゆえ皮肉に使われることもあれば、粋であることを讃えて使う場合もある。つまり、ロックンロールに必要なのは、この外連味。いかに上質な外連味を以て人々を魅了できるか否かがそのバンドのカリスマ性と言えるのではなかろうか。ロックンロールも演劇も、ステージという束の間の夢を観せる商売。やはり通ずるものがあるのだろう。
 
そしてもうひとつ。この外連味についてはカタカナにも言えるのではないかと思っている。例えば鶯谷にあるライヴハウス「東京キネマ倶楽部」は“キネマ”という字面や音から、得も言われぬノスタルジックでエロティックな雰囲気を漂わせている。実際、元キャバレーを改造したライヴハウスなのだけれど、それを知らずとも名前だけで真っ赤な緞帳やバルコニーを頭に浮かべてしまう。これがもしも「Tokyo kinema club 」だったら、きっとそうはいかないだろう。Thee Michelle Gun Elephantの名曲「シャンデリヤ」も同じ。辞書的な表記は「シャンデリア」なのだけれど、最後ひと文字を「ヤ」にすることによって生まれるチープさや胡散臭さが、チバユウスケのやぶれかぶれなヴォーカルとの相性をぐんと高めていると思うのです。
 
そもそもカタカナは外来語を日本語として表記する為に使われているもの(勿論他の役割も多々ありますが)。だがしかし、当たり前だけれどカタカナを読んでみたところで、厳密には外国語のそれとは異なる訳で、いわばちょっとしたニセモノなのです。これと同じで日本のロックンロールも、本来は外国の音楽であるROCK’N”ROLLを日本人の耳が聴いて、そこに自分なりの解釈や要素を付け加えて独自の進化を遂げているもの。今でこそレトロな趣のカタカナ語も、当時はハイカラだともてはやされていた訳で。ロックンロールもまた、日本人らしさを体得してゆきながら、海外のそれとは一線を画した形でシーンを築いていった。つまりはカタカナもロックンロールも、ひとつの憧れに対して猿真似ではなく独自に進化し、オリジナルとは違う美しさを手に入れたもの同士、ということになるのだ。
 
去る8月5日、下北沢SHELTERでARIZONAというロックバンドがレコ発企画を行った。その日の出演者は主催者であるARIZONAを含めて全3組。いずれも上記のロマンを継承する様な佇まいのあるバンドが集った。日本語の歌詞と、キャッチーなメロディを持ち、歌がど真ん中にあるという所謂日本のロックンロールバンド然としている。だがしかし、彼等の音楽の持つ色は驚く程違う。それ即ち、外連味の効かせどころがそれぞれに異なるということ。そこで、今回はそんな外連味たっぷりの3バンドを紹介させていただきます。
 
 
 

The Doggy Paddle

The Doggy Paddle


The Doggy paddleについては本連載の第3回で熱く語らせていただいているので、是非そちらをご覧いただきたい。(第3回「愛しき遠吠えのロックンロール」)彼等は物語をしながらロックンロールが出来る貴重なバンド。グラム・ロックの持つレトロなきらめきと王道ロックの黄金比から成るキャッチーなメロディが、おとぎ話から皮肉までを余すところなく描き切る。余計な飾りを持たないスモーキーなサウンドはまさに血統書付のロックンロールバンドだと言えよう。
 
 

 
 
 
 

Outside dandy

Outside dandy


2015年の世、気障という言葉を担うのはOutside dandy以外の何物でもない。とあるイベントのタイムテーブルを眺めていた時に一際ギラついた空気を放っていたバンド名、それがOutside dandyだった。自らを“ダンディ”と名乗るとは、一体どれ程粋なのだろうか。しかもOutside のおまけ付きときた。急遽予定を変更して彼等のステージを観に行った。疾走感のある歌謡曲風のコテコテのロックサウンドに歪んだかと思えば科を作るセクシーなヴォーカル。BOOWYを始めとする1980年代的サウンドはともすれば時代錯誤なのだが、何故か古臭さを感じさせない。それどころかきっちりとダンディズムを香らせるステージが、バンド名が名前負けでないことを証明していた。この時聴いた彼等の代表曲、「Bye bye yellow」は終日私の頭の中にループし続けたのだった。またこのバンド、バラードもとても秀逸。「25時のラブソング」はもう、文字通りのキラーチューン。<Baby 俺を見縊るなよ そんな薄情な男じゃない>という歌い出しだけで一気に虜にされる。気障でダンディなロックンロールに酔いたい方、必聴です。
 
 

 
 
 
 

ARIZONA

ARIZONA


最後はARIZONA 。この濃厚な面子を呼びつけて自らのレコ発企画を行った強者だ。ARIZONAのロックはとにかく男臭くてやんちゃ。火を噴きそうな程煙たくてアツいガレージロックを武器にステージに立つ彼等は、まるで悪ガキがそのまま大人になったかの様。だからこの日発売された彼等の新しいアルバムのタイトルが『VOLCANO』(火山、噴火口)だと知った時は、ものすごい納得感があった。この『VOLCANO』に収められた曲たちも然りなのだが、ARIZONAというバンドの面白いところはただのガレージロックバンドでは終わらないところだ。<撃てば当たる 俺はヒットマン もう逃げらんないよ チェックメイト>という歌詞がまるでギャング映画の様にハードボイルドな「チェックメイト」や<シケモク>に<ヤケザケ>とロックなモチーフが登場するブルースナンバー「HAPPY」という“いかにも”な曲達を差し置いてリードトラックに据えられているのは、広がりのあるキャッチーでストレートな「Hello&Goodbye」。このふり幅こそが彼等の魅力。既存のガレージロックでは飽き足らない方は、是非。
 
 

 
 
対バンイベントはごまんとあるけれども、こうしてひとつの文脈として語れるものは極めて少ないのも事実。The Doggy paddle、Outside dandy、ARIZONA。それぞれが素晴らしいステージで魅了してくれたのは勿論だが、この3バンドが揃う事で更にドラマチックな一夜になっていた。願わくば、こういう対バンイベントが増えてほしいもの。
 
 


 
_vPmFu_0_400x400イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。『MUSICA』鹿野淳主宰「音小屋」卒。鹿野氏、柴那典氏に師事。この度、やさしい音楽サイト「レミファ」にライターとして参加することになりました!お役立ち系の記事からプレイリストまで、音楽に詳しくない人にも「やさしい」記事が沢山あります。勿論音楽に詳しい人も必見。音楽好きのスタッフ達によるプレイリストにはきっと新たな音楽との出会いがあるはず。ぜひご覧ください!http://remifa.net/