私の頭に住み着いている、ロックンロールの神様は言いました。「いいかよく聞け、俺は転がり続けるヤツにしか、興味はないんだ。お前がどんなに躓いたって、転んだって、泣いたって俺は構いやしないけど、もしもお前が足を止めて腰を下ろしてため息をつくのなら、お前とはそこでおサラバだ。」
昔から私は極度のロマンチストで重度の現実主義者で。夢物語が大好きで、“夢”という言葉が苦手でした。だから“諦めなければ夢は叶う!”なんて思った事も言った覚えもなかったし、勝者の言葉も敗者の教訓も、何も聞きたくなかった。そんな私にとって、ロックンローラーの言葉だけが、信用できるものでした。彼等から教わったのは“転がり続ける”こと。躓こうが、怪我をしようが、足を止めるな。格好を付けて前を向け、と。以来、私はこの言葉に乗せられて、ここまで来てしまった様な気がします。
ブログにライヴレポートやらディスクレビューを書く事はとても自由だし、ブログはブログの面白さがある。けれども書けば書くほど“音楽ライター”という肩書が欲しくなった。だから勝手につけて、名刺も作った。でも誰かがそう扱ってくれなければ、所詮“自称”の二文字に付き纏われて終わる。…どうにかそこから脱したかった。だからといって手当り次第雑誌やウェブメディアに投稿したり、音楽ライターとしての雇い口を探したりするのは、なんだか違った。こんな事を言うとすごく語弊がある気がするけれど、言うなれば既成事実として“音楽ライター”になってしまいたかった。あまりの都合の良さに自分のことながら、呆れ返ってしまう。けれどもふたつのウェブサイトとの出会いによって、結果的にこの作戦がまかり通ってしまったのです。
ひとつは勿論この「YUMECO RECORDS」。私はThe cold tommyのインタビュー記事を掲載してもらう媒体を探していて、「格好良いバンドだから上野さんにも知ってもらいたいな…。」という気持ちもあり、「YUMECO RECORDS」への掲載のお願いをしたところ、ご快諾いただくばかりか、連載のお話をいただくにことになりました。連載の内容は、音楽への愛情を抑えきれずに始めたライター活動のことや、私自身の音楽体験を語るというものにしましょう、と決まったは良いものの、自分の事を語るのはとても苦手で…初回以降あまり私自身の事を書かずに来てしまいました。けれども上野さんに、こうやって私が自分のことを書くことが「夢を掴もうと頑張っているひとに届く」と言っていただいたこともあり、こんな風に自分のことを書かせてもらえる機会もないと思い、連載も1/3の終えようというこのタイミングで、閑話休題がてら今回は100%私事を書き連ねている次第です。来月からはまた色々やっていきますので、今回はもう少しこのまま御付き合いくださいませ。
そしてふたつめは名古屋の音楽情報サイト「しゃちほこロック」(http://syachirock.jp/)。こちらは私の知人を含む数名が立ち上げた、いわば“名古屋版音楽ナタリー”の様なウェブサイト。知人を通して聞いた運営陣の真摯な姿勢や、アーティストとの確かな信頼関係の上で作られる記事の数々に惚れ込んでしまい、メンバー入りを希望。「しゃちほこロック」ではブログや「YUMECO RECORDS」とは違いニュース記事など、所謂“情報”としての文章を書く事も多く、いつも武者修行しているつもりで色々なジャンルの文章を日々書いています。昨年12月に名古屋クラブクアトロに行き、「年末調整GIG 2014」の特集ページの為にライヴレポートを書いたことも、とても良い経験をさせて貰ったと思っている。…この時はまさか、この経験に助けられる事態が起きようとは露程も知らずに。
「YUMECO RECORDS」に「しゃちほこロック」。このふたつのウェブサイトに関わることが出来ただけでも、今までの私の人生からすれば奇跡のようなものだし、一年前の自分からは予想もつかない展開で、自分でも碌に実感もないまま、ここまで来てしまったように思っていました。何せ筆が遅いものだから、パソコンに向かっては朝になって、そのまま仕事に行く、なんていう無茶をしてると決まって、ロックンロールの神様が私の耳元で冒頭の台詞を言うのが聞こえた。だからそれに負けじと、なんとかやってきました。
そしてご褒美は、突然やってきたのです。先日新木場スタジオコーストで行われた「HighApps SPECIAL!! ~SPRING ROCK PARTY 2015~」。私はNEXUSの速報レポートを書く為、その現場に居ました。突如巡ってきた願ってもない好機に勿論二つ返事で飛びついたのは言うまでもなくて。冷静になればあっという間に喜びを不安が呑み込んでしまいそうになったけれども、それでも“やっと”ひとりの音楽ライターとして書けることは、やっぱり感慨深かった。そして奇跡はさらに重なって。担当するバンドの中にあったのはa flood of circle(以下フラッド)の名前。3月に突然ギターの脱退を発表した彼らにとって、この日が新体制の初舞台。波乱万丈なバンドヒストリーを<Keep on Rolling>(a flood of circle「Boy」)の精神で駆け抜けてきた同世代のこのバンドを、いつしか私は戦友の様に思っていたし、フラッドがロックンロールを続けている限りは自分も書く事を続けていたい、そんな事さえ思っていました。ライヴが始まる直前、誰よりも真っ先に彼等の新体制を書くというプレッシャーがいよいよ高まって、指先が冷えた。けれども彼等のライヴが始まると、彼等の負けん気たっぷりの演奏で腹が括れて、“お互い初舞台なんだから、とにかくがむしゃらにやろうぜ!”という気持ちでレポートに挑むことが出来ました。
a flood of circle「KIDS」
こうしてavengers in sci-fi、a flood of circle、THE ORAL CIGARETTESの3バンドのライヴレポートを担当し、初めての単独での“ライター”としての仕事を終えた訳ですが。勿論悔しさしかなく笑、次のリベンジの機会を手に入れられるよう、できることはやはり“転がり続ける”ことなのだと再認識。この連載もあと8回。最終回には泥だらけで大笑いできるように、転がっていきたいと思っております。
●HighApps SPECIAL!! ~SPRING ROCK PARTY 2015~
http://www.nexus-web.net/article/highapps_tokyo/
●しゃちほこロック 年末調整GIGライヴレポート
http://syachirock.jp/report/2015/0110222653.html
(担当:DOT HAPPENING、Drop’s、a flood of circle)
イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。『MUSICA』鹿野淳主宰「音小屋」卒。鹿野氏、柴那典氏に師事。HighApps SPECIAL!! ~SPRING ROCK PARTY 2015~に関して、実はもうひとつ嬉しい偶然が。大阪開催分のTHE ORAL CIGARETTESのライヴレポートの担当は、関西ぴあの奥“ボウイ”昌史氏。私が尊敬してやまないライターさんのうちの一人であり、私をThe cheseraseraファンにした張本人様。転がり続けていることは、つながってゆくものでもある、と実感する日々です。