YUMECO RECORESをご覧の皆様、はじめまして。イシハラマイと申します。
去年の今頃は、アーティストの方も多く名を連ねるこのYUMECO RECORESの連載陣にまさか自分が加わろうとは、夢にも思っておりませんでした。
私が何者かと申しますと、音楽が好き過ぎて、それをどうにか自分の文章で伝えたくて、音楽ライターとしての活動を始めてしまい右往左往している、しがない会社員です。
仕事が終われば深夜まで書き物。有給はほぼ全部ライヴの為に費やす。馬鹿げていると言われることも多々あります。御もっとも。けれども、やめられないのです。何故なら、そこに愛すべき音楽があるから。それを自分の言葉で、文章にしたためたいと思ってしまうから。まさに、惚れた弱み。と、いう訳でこの連載のタイトルを『やめられないなら愛してしまえ』に決めました。私が愛してやまない音楽たちの紹介や、私の活動などをつらつらと書いてゆければ、と思っております。暫くの間、お付き合い頂ければ幸いです。
今回は連載初回、という事で、まずは自己紹介を。数年前。本を読み漁り、お気に入りの音楽を聴きながら文章を書きまくる呑気な学生生活を終えた私は、音楽とも文章とも関係の無い会社に就職。人生で初めて“何も創作しない”日々が始まりました。それどころか、音楽や本の話が出来る相手も一切いない。そんな暮らしが何年か続くと、何を聴いても、読んでも、ただただ自分の中に積もるだけに。すっかりアウトプット機能を失った私の中で、積もったものは次第に腐って、毒になって私の中に充満していったのです。
ついには本も読まなくなり、日常に連れ添う「好きな物」が、気付けば音楽だけになっていました。何かしながらでも、注意力を注がなくても、ただそこに流れてくれる音楽だけは、最低限の気力で付き合えるものだったのだと思います。そんなある日、CDを買う為に赴いたタワーレコードで、久方ぶりに手に取ったのは『音楽と人』。…たまらなく、美しかった。装丁も、写真も、文章も、何もかも。情報としてではなく、まるで文学の様に、音楽が文字で表現されている。ああ、私も、こんな文章が書きたい。まるで憑き物が落ちた様に、体の中の毒が失せて行く感覚がありました。そうして家に帰るや否や、『音楽ヲ文学スル』の前身となるブログを始めたのです。
動き出せば、欲が出るのが人間。もっと音楽の世界を知りたい。もっと本格的な文章を書きたい。そこで偶然見つけたのが『MUSICA』の鹿野淳氏が主宰する音楽ジャーナリスト養成講座「音小屋」の募集。これだ、と飛びついて、エントリーシートを書きました。今思えば、選考を通過したという有頂天と、『MUSICA』の編集部で、かの有名な鹿野さんから生で授業を受けられるという高揚感のもと、半ばミーハーな気持ちで受講していた様にも思います。とはいえ、単純な私はすっかりその気になり、文章のスタイルも所謂ブログ的なものから評論的なものに改める等、音楽を書く事への熱は高まるばかりでした。
そこから約二年。Twitterやブログで音楽の事を発信する日々が続き、緩やかではあるものの、イシハラマイという人間の言葉や文章に興味を持ってくださる方も増え、僅かばかりの手応えと喜びを感じていました。けれども、手詰まり感は否めなかった。そこで頭をよぎったのが、知人から聞いた柴那典さんの言葉でした。(どうしたら音楽ライターになれるのか、という問いに対して)「名刺を作ってtwitterのプロフィール欄に“音楽ライター”と書けばなれる」と。
そんな言葉を思い出してしまった私は、早速印刷所に行って名刺を注文。流石に“音楽ライター”と肩書を付けるまでの度胸はなかったので、肩書代わりに自分のブログのタイトル『音楽ヲ文学スル』を入れてもらい、名刺が完成。これが、2014年の春頃の出来事。それから、柴さんの下で二回目の音小屋生になったり、とある媒体と出逢ったり…と、YUMECO RECORESへの連載に至るまで、もう少しばかりエピソードがあるのですが、そろそろ私の身の上話にも飽きてきた方もいらっしゃると思うので、続きは次回へ。
それでは、前置きが随分と長くなってしましましたが、連載初回に相応しいバンドをひとつ、紹介したいと思います。The cold tommyというバンドです。よろしくどうぞ。
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“The cold tommy”
「中毒性が高い」。そんな表現は生易しい。彼等の音楽は言うなれば、洗脳。最初の一音を聴いたらもう、逃げられない。硬質で緊迫感のあるサウンドに乗せて、矢継ぎ早に叩きつけられる無数の言葉。その衝撃に、思わず思考が一瞬凍る。曲が終わるその時まで、考える隙を与えられず、ただただ為す術もなくその音楽に翻弄されるしかない。こんなにも危険で、甘美な音楽体験があるものか。堪らず、虜になった。
▼「パラドックス」
丁度一年前の今頃、友人から送られてきたこの動画が、彼等の音楽との出逢いだった。研井文陽(Vo./G.)、榊原ありさ(Ba.)、松原一樹(Dr./Cho.)の3名から成るThe cold tommy。昨年、東京スカパラダイス―ケストラ主催のレーベル、avex「JUSTA RECORD」へ移籍し、メジャー進出を果たしたばかりの「旬」なバンドだ。リリースはまだないが、2,3,4月には渋谷 O-Crestにて3カ月連続で自主企画ライヴを行う事が決定している。今彼等を語らずしていつ語る。と、いう訳で、The cold tommy、紹介させていただきます。
▼「Break, She’s Coat」
どんなショッキングな言葉に埋め尽くされていても、湿気た日常が描かれていても、彼等の音楽は美しい。
棘のある声をヒステリックに引き攣らせ、堰を切った様に言葉を暴発させる研井は、まるで曲の化身。その狂気と色気に、思わずぞくりとする。そこに榊原が奏でる副旋律の様なベースラインと、松原の冷たい炎の様なドラムが重なる事で、彼等の音楽は優雅さを得るのだ。例えばベースラインがもっと男性的で武骨であったら、曲の持つ壊れ物の様な繊細さは表現できなかっただろうし、あと少し松原のドラムが冷静さを欠いてしまったら、暴力的な音楽になってしまうだろう。そんな紙一重のバランスで、彼等の音楽は成り立っているのだ。
私が彼等に出逢った頃は、圧倒的な力を持つ曲に対して、彼等の危ういバランスを、とても危惧した。曲の持つエネルギーに彼等自身が食われてしまう様な、そんな悪い予感がしたのだ。今だから言えるが、正直長くは続かないだろうとさえ思った。けれど、そんなものは杞憂だった。8月、メジャー移籍が決まり、それを祝して行われたワンマンライヴでは、まだその予感を払拭できない部分もあったが、秋頃に再度彼等のライヴを観た時には、ちらつく死神の影はもう、見えなかった。何がどう変わったかと言われても、上手く表現できないのだが、強いて言うなら、少しだけ肩の力が抜けた様に思った。
とはいえ、The cold tommyの本質は何も変わりはしない。絶妙なバランス感覚を以て、不協和音の一歩手前、支離滅裂の寸前で、眩暈の様な前後不覚のロックン・ロールを演じている。だから彼等のライヴを観る時はいつも、心臓の鼓動を早め、手に汗握り、息を飲む。サーカスのピエロを見つめるように。わかっているけど、喜んでその危うさに踊らされるのだ。そんな彼等が、これからメジャーの土俵で、どう活躍するか。楽しみでならない。
▼「パスコード」
と、言う訳で、長くなりましたが、今回はこの辺りで。
The cold tommy。彼等の音楽も、ライヴパフォーマンスも、喋り言葉も、御世辞にも器用とは言えなくて。蛇足に満ちていて、ちょっと野暮ったい。何を隠そう私も不器用で要領の悪い人間なので、彼等のそんなところに、共鳴しているのかもしれません。三カ月連続の自主企画ライヴは勿論皆勤賞の予定。
The cold tommy、是非チェックしみてください!
●The cold tommy Official Web Site :http://thecoldtommy.syncl.jp/
イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。『MUSICA』鹿野淳主宰「音小屋」卒。鹿野氏、柴那典氏に師事。音楽の始まりは小学生の頃に出逢ったL’Arc~en~cielと椎名林檎。以来、色気ある音楽を追い求め、今に至る。2015年の目標はオンナな文章を書く事。『音楽と人』のレビューで椎名林檎を語る上野さんの文章を読んで決意した。…筈なのに。って、いやいや、まだ先は長い!がんばります!