「趣味を仕事にしない方がいい」なんて使い古された言葉だが、その真偽は人それぞれなんだろう。

答えが簡単に出ないからこそ今でも問われ続けるのだともいえる。

 

幼いころは、ケーキを食べるのが好きだからケーキ屋さんになりたいとか、そういうのでよかったのだろう。

でもさすがに十代も後半になると、本を読むのが好きだから本屋さんになりたいとか、

それだけで進路を決めるのはかなり危なっかしい。

もちろんそういう部分も必要だとは思うけれども、

それだけでじゅうぶんってわけじゃない。

本屋さんになりたいという生徒も、久世番子の『暴れん坊本屋さん』だとまだ笑っていられたけれど、

『傷だらけの店長』に書かれた厳しい状況を知るとさすがに不安そうにしてた。

 

 

 

 

 

高卒で社会に出ていく生徒たちに接していると、

自分が高校生だった時のことは棚に上げつつも、

働く環境がこの20年でずいぶん変わったのだなと思うことがある。

 

 

高校生よりもさらに遡るけれど、1985年に開催された「つくば万博」では2001年の自分に手紙を出すという企画があったことをご存じだろうか。

わたし自身、それに参加したことをすっかり忘れてて2001年に届いて驚いたんだが、

その他にも驚いたことがあった。

ひとつは、地球が滅亡するというノストラダムスの大予言を小学生だった自分は信じていなかったこと。

もうひとつは、24歳の自分はサラリーマンになると漠然ながらも思っていたこと。

なかなかさめた子どもだったのかなと冷や汗をかいた。

一方、まわりにいる高校生は、働くことを現実的に考えた場合、非正規雇用を思い浮かべることが多いようだ。

はじめは驚いたが、そんなことに気にとめつつ高校生が日頃接しているものをながめていると、

たしかにそうなのかもしれない。

彼らが日頃接している身近な世界がそうなのだ。

働くってどんなことをイメージするかを生徒たちに聞いた際、

少なからぬ高校生が『はたらく魔王さま!』というライトノベルを例に上げたのが印象的だった。

つい最近アニメ化もされた影響もあって勤務先の図書室でもずいぶん借りられたのだが、

あらすじはといえば、異世界の魔王がこちらの世界に飛ばされて、

風呂なしのアパートでつつましく生活するというものだ。

魔法が使えなくなった魔王は生活するためにファーストフード店でアルバイトをする。

ちなみに、魔王を追ってきた勇者はテレオペの契約社員をやってたりする。

 

残念ながら目的意識もなく不真面目な生徒もいるので、

『ドキュメント高校中退』『ブラック企業』『ブラック企業ビジネス』『ブラック企業川柳』

などを薦めて働くことの甘くない部分をきちんと考えさせることも必要だろうけど、

できれば前向きに働いてほしい。

単純な反復作業が仕事ならともかく、

起きている時間の大半を費やすことになるのだからその時間が充実しているにこしたことない。

 

 

 

 

 

こんなことを書くと、『「やりがいのある仕事」という幻想』『「やりたい仕事」病』が頭をよぎるけれど、

それを踏まえつつもやはりやりがいを持って仕事ができるというのはなかなかいいものですよ、と伝えたい。

他人はどう言うかわからないけど、少なくとも自分は納得をしつつやってると違うもの。

 

 

『新13歳のハローワーク』や、『社会起業家になるには』などの「なるにはBOOKS」シリーズはもちろんのこと、『建設業者』『夢で食えると思うなよ−役者・演芸人プロ図鑑』などでいろいろな職業があることをまず知ってほしい。

 

また、最近出た『善き書店員』という本がひとりひとりのページ数が多くて、書店員にかぎらず「働く」ということ自体を深く考えさせる丁寧な内容だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

のま・つとむ●東京生まれ。米子在住。学校図書館に勤務。このような執筆の機会を与えてもらったことに感謝!
七福神でもないのに宝船にのせてもらった気分でした。今年も残り少ないですが良い年をお迎えください!