数年前に井上靖の『天平の』をなんとはなしに読み返してみた。中学生の時に読書感想文の課題図書の一つとして出されて以来なのでおよそ20年ぶり。10代なかばの頃にはあんなにも退屈だったものが今回はとても面白かった。成果物を求められと読書はだいたいつまらなくなるというが、一方では歳を重ねてちょうど『天平の甍』を楽しめる時期になったのかもしれない。さすがに20年もたてばいろいろ変わるんでしょうね。

 

井上靖の作品といえば、個人的にはシルクロードや中国の西域を扱った小説が印象深い。例えば、『敦煌』や『桜蘭』などがまず頭に浮かぶ。それと、チンギス・ハーンを扱った『蒼き狼』もスケールが大きくて好きな作品の一つだ。シルクロード好きにはたまらない。もちろん小説だけでなく、司馬遼太郎との共著である『西域をゆく

にも出版年が1970年代後半という時代の制約があるものの、小説とはまた違った味わいがある。   シルクロード好きになったきっかけを探ってみると、『NHK特集 シルクロード』から受けた映像面での影響はとても大きい。くわえて、喜多郎のオカリナや石坂浩二のナレーションは私の脳みそに強烈なまでに刷り込まれてるようで、今でもシルクロードを扱った本を読んでいる時に、ふと脳内再生されることがある。2005年から放送された『NHKスペシャル 新シルクロード』ももちろん印象に残っていて、かの土地の現状を知るのにとても役に立ったけれど、やっぱり幼い時に受けたインパクトを凌駕したかというとそこまでではなかった。刷り込み恐るべし。

 

あと話が前後するが、井上靖といえば、若き日の佐藤浩市が出ている映画『敦煌』も忘れられない。西田敏行演じる朱王礼が反乱を起こす場面、佐藤浩市演じる趙行徳が経典を石窟に隠す場面、印象的なシーンがたくさんある。小説を読むと静かな余韻が残り、映画を観たあとには熱い高ぶりが残る。

 

そうそう、西田敏行といえば、夏目雅子が玄奘三蔵に扮した『西遊記』もシルクロードものとしてあげていいのだろうけど、どうも、幼いころの私にはNHK特集のシルクロードと『西遊記』の中のシルクロードがつながっていなかったようで、どちらかというと、戦隊モノの延長線上で見ていた気がする。   横道にそれるけど、「西遊記」といえば、諸星大二郎の『西遊妖猿伝 西域篇』も再開されて、西域篇も盛り上がってきてるので今後の展開への期待が否が応でも高まるのだけど、さらに漫画といえば、

その他にも、『シュトヘル』に出てくる騎馬隊の躍動感や、『乙嫁語り』の生活雑貨に至るまでの細密な描写にもシルクロード好きの心をくすぐるものがある。   最後に小説や漫画を離れると、まずは山川出版社の世界史リブレットというシリーズをお薦めしたい。一つのテーマを100ページ未満でまとめてくれているので気軽に読める。今回のテーマだと、『オアシス国家とキャラヴァン交易』、『遊牧国家の誕生』、『内陸アジア史の展開』、『唐代の国際関係』などを読むとさらに理解が深まるだろう。 もう少しまとまったものを読みたい場合には、講談社学術文庫に収められている岩村忍の『文明の十字路=中央アジアの歴史』や、日経ビジネス人文庫の『遊牧民から見た世界史 増補版』はどうだろうか。20年前に高校で世界史を習ってからまとまった知識を仕入れていない身としては、西洋を中心とした世界史観が身に染み付いてしまっているが、それとは違った別の視点で語られる世界史はとても新鮮だった。

 

 

のま・つとむ●東京生まれ。米子在住。学校図書館に勤務。鳥取砂丘にも観光用にラクダがいるのですが、あれはシルクロードとはまた別モノです。