慌ただしかった四月も終わり、五月に入り早半月。私はとにかく五月病という言葉が嫌いである。何故、十二個ある月のうち五月だけ病とつく言葉が存在してしまうのか。こんなにも新緑で溢れ気持ちの良い五月がなんだか気の毒な気がして、かわいそう。
そんなイメージでただ嫌いだった言葉の意味を改めて調べてみると、“五月病(ごがつびょう)とは、新人社員や大学の新入生などに見られる、新しい環境に適応できないことに起因する精神的な症状の総称である。”と記されている。
しかし、私は大学三年生になったばかり。授業が変わったくらいで、新しい環境ではない。毎日同じ門をくぐりそれなりに楽しい大学生活を送りはじめて三年目。しかし、私の周りにはこの時期になると毎年のごとく“自称五月病”を理由に学校に来なくなるもの、人と関わるのを嫌がるもの、一人で落ち込むもの、みんな五月だからって見計らったようにげっそりしていく。
毎年そんな友人たちを横目に自分はなんら変わりない毎日を送っていた。しかし、今年はどうも様子がおかしい。人に会いたくない、こんなにも天気がいいのに外に出たくない、そんなことを悶々と考えている。
おそらく、その理由は半年後鬼の形相をして待ちうけている『シュウカツ』が原因だろう。いやいや、考えるの早くない?と言われるのはわかっている。自分の周りが特別意識が高いわけでもない。私がただの心配性なだけである。
とりあえず授業のない日は、何か始めなきゃと、課題を後回しにしつつ目的もないままパソコンとにらめっこ。しかし、どんどん自分のお気に入りページにマウスの手が動く。そんなこんなでいつも通り好きなアーティストの音楽を聞いたり、ブログを見たり。有言不実行。大学生あるある。
そんな中、出合ってしまったのがハンバートハンバートの「国語」という曲である。
——みんなが普通に使っている そのコトバの意味がわからない
かわいい声の人だなあ
——ねえ、イデオロギーって?ねえ、アイデンティティって?
!?
みんなが普通に使っている そのコトバの意味がわからない
ねえ、マニフェストって?ねえ、プライオリティって?
だますときにだけ使うなよ
わからないくせに使うなよ
てめえの都合で使うなよ
動画時間2分26秒。なぜだか私は手を口にあててにやにやが止まらない。こんなにもポップで爽快で風刺的な歌が存在したことがとてもうれしい。調べてみると、1998年結成、男女二人組デュオ、その二人は夫婦。一時話題になったアセロラ体操の歌を作った人達らしい。
今の今まで知らなかった音楽に出合い、それが自分の中にある何かをぐいぐい動かされる瞬間が私は本当に大好きだ。
今がまさにそれ。ゴガツビョウ、ショウライ、シュウカツ、悶々としていた自分の心がどんどん晴れていく。
私は将来、紙に携わる仕事がしたい。映像ではなく、紙。自分の目に映ったもの、耳で聞いたものを自分自身の言葉で記したい。欲を言えばそれをいろんな人に見てもらいたい。それはライブだったり、本だったり、街の風景だったり。なんでもいいから自分が見た綺麗なものを多くの人に紹介したい。
そんな夢を持った私がこの“国語”という曲と出合ってしまった以上、生ぬるいコトバは使えない。国語とはその国を代表する言語。自分が発するコトバは自分を代表するコトバ。
この歌の通り、ごまかすために曖昧なコトバを使う世の中だと私も思うことが多かった。しかし、それは自分にも当てはまることで自分の都合が悪い時はぬるい言葉でごまかしてしまうことが本当に多い。その痛いところをつんつんとつかれた気がする。だが、つついた当本人たちはいたってポップで軽快である。青空の下の野原で歌われながら木の枝でつつかれてるイメージだろうか。うーん、ちょっと違うかもしれないが、笑いながらごめんごめんと言いたくなる。
今どんなにわかりやすい、正しい、コトバを使えと声高々に世間に叫んだところでそのコトバ達が減ることはない。だから、とりあえずこの歌に出合ったあなただけでもいいから、自分をごまかさないコトバを使いましょう、そんなハンバートハンバートの二人からのメッセージが詰まっている気がした。
そんなコトバを歌にのせたらそれは音楽になり、紙に書いたら手紙になる。たくさんたくさん集めたら本になる。コトバというのは常に私たちの中心にある。そんなコトバ達をもっと大切にして、自分と一緒に成長していきたい。私ができることはこれじゃないか。そうやって気付かせてくれたこの曲のおかげで私はまた少し成長できたのではないか。
そんなことを考えてたら、いつの間にか明るかった外が暗くなっていた。せっかく天気がよかったのになんで外でなかったんだろう、とふと思った。朝とまったく思っていることが違う。五月病が終わった瞬間だったのか、いや、五月病というコトバは今日から使いたくないから、五月になったけどちょっと暑くて体力なくなっちゃった病とでもしておこう。そうやって、ゆっくりでいいからわたしは頭をぐるぐる変な回し方をしながら将来について考えていけばいいやと思った。
なら、今の私がやることはただひとつ。
単位取得のため、正しいコトバを書き並べる、明日提出のレポートである。
もりた・のぞみ●平成5年生まれ、B型、東京都出身。都内大学3年生、マーケティングコミュニケーションという学問を専攻しています。楽器は一切出来ませんが、様々なジャンルの音楽が好きです。中でも、THE BACK HORNとAIが大好きです。小さい頃から母には甲斐バンドを、父にはエリッククラプトンを聴かされながら育ちました。友人や家族への贈り物を考えるのが大好きで、ちょっと形は違いますがそれが将来の夢へのルーツになっているとおもいます。趣味はライブ、読書、写真、フリーペーパー集め。マイブームは牛乳。最近の悩みは涙もろいこと。今年の目標はたくさんお茶を飲んで、たくさん歩いて、たくさんの人に出会う事です!