個人的な体験なので他の学校図書館がどうなっているか分からないのですが、学校に勤めるといっても、司書って生徒を評価する機会がほとんどないんです。テストしたり成績表書いたりしません。だから、ちょっと舐められているかもしれません。
でも、一方ではそんな気楽さからか、生徒から軽い相談事を持ち込まれることがあります。保健室や相談室(カウンセリング・ルーム)を煩わせるほど重い話題ではないけれど、誰かに話したいから本の貸し借りのついでに、といった感じなのでしょう。なので、カウンターで生徒と話し込むこともしばしばです。そこが市町村立の公共図書館とは大きく違うところかもしれません。話をしていて考えがまとまることもあるだろうし、気軽に話ができる人が周りにいるのって大切だと思っているので、時間の許す限り対応してます。
そして、生徒たちとそんな関係を築いていくと、卒業してからも相談されることが時々あります。5月病などというくらいですから5月に多いかもしれません。彼ら、彼女らは新しい環境で戸惑っていることが多いです。
「便りのないのはよい便り」と思いつつ、わざわざ私を選んで相談してくれたのならば、こちらの趣味嗜好も知ってそれに共感してくれてる場合が多いので、趣味全開で本を薦めてみます。
悩んでいる時って頭がカチコチになって視野が狭まってる場合が多いので、また違った視点でモノを考えてみて欲しいのです。そんな時に、逆説的な言い回しの多い『老子 』なんかはうってつけだと思ってます。最近は『老荘思想の心理学 』なんて本も出てるのであながち間違いでもないでしょう。
もちろん、趣味全開で本を薦めるといっても、いきなり岩波文庫の『老子』や「荘子」ってわけじゃなくて、取っ付きやすいものから薦めます。最近はますます漢文を授業でやらなくなっているみたいなので、できるだけ手に取りやすいものからじわじわと薦めていきます。
例えば、「I miss you」シリーズや「わたしたちの名言集」シリーズのようなあまり文字が多くないのが好きだった人には、「老子」を散文詩のように訳した加島祥造の『タオ』を薦めました。表紙などに「老子」とか「老子道徳経」とか入ってないので、先入観なく詩集を読むような気分で読めたそうです。
マンガ好きの人には単純に『マンガ 老荘の思想 』を薦めています。絵を描いているのが台湾の方なので、今の日本の流行りの絵ではないですが、こちらが心配したほど読みにくくなかったそうです。例えば、「上善若水」という言葉を知っていると、今現在「もやしもん」や「銀の匙 」に続く農耕マンガになっている『バガボンド35巻』に出てきた水の描写もより深く理解できるはずです。もちろん、あれは禅宗の影響が一番なんでしょう。でも、森三樹三郎の『老荘と仏教 』に書かれているような仏教と老荘思想の関係を教えると、源流を辿りたくなるオタク気質であればあるほど食いついてきます。
あとは、「荘子」に出てくる「胡蝶の夢」と押井守監督作品の世界観との関係とか、アニメ「COWBOY BEBOP」の映画版が「胡蝶の夢」をベースにしていたりとか、老荘思想はアニメ好きの人のアンテナにも引っ掛かるようです。
そうそう、老荘思想が変化して道教という宗教が生まれて、その道教をベースとして「封神演義」ができあがっているんだよ、なんていうと俄然読む気になった人もいました。ただ、藤崎竜のマンガ版「封神演義」が昔のような知名度がないのが残念です。
三国志好きには、道教が重要な役割を果たす陳舜臣の「秘本三国志」なんかを薦めたこともあります。同じ著者の『中国畸人伝』には、老荘思想の体現者として名高い竹林の七賢が出てくるのでお薦めです。
そして、そんな神話的世界が好きならば、『道教の神々』や『訳注「淮南子」』、『淮南子の思想』なんかにも興味が向くかもしれません。「老子」はともかく、「荘子」は神話的な要素がたくさん含まれているので、哲学や思想としてではなくギリシャ神話などと同じように楽しめると思います。「渾沌、七竅に死す」など、なかなかぶっ飛んでて面白いですよ。
今月は、ちょうどEテレの「100分de名著」が「老子」を取り上げています。テキストの『老子(100分 de 名著)』もとても良くまとまっているのでぜひ。
私が偉そうにああしろこうしろと具体的に助言するよりも、読書してパニック状態になっている頭を一度鎮めて、冷静になってもう一度考えればなんとかなる場合が多いみたいです。「ゆとり世代」とか「さとり世代」とかいろいろといわれてる今の若い人たちですが、なかなか捨てたもんじゃないですよ。
のま・つとむ●東京生まれ。米子在住。学校図書館に勤務。勤務地の日野も花から緑の季節へ。3階の図書室から見える山の緑がとてもきれいで、心あらわれる毎日です。まさに山笑うという言葉がぴったりです。