どうも、今年もまた暗闇の中からこんにちは。
時が経つのは早いもので、その年の年末に、その年に観た映画を振り返りながら、その中でもとりわけ面白かったものを、そのときの勢いで書き連ねる、この連載的な何かも、どうやら今回が最終回。ということで、良い機会なので、過去に書いたものをザーッと眺めながら、自分がどんな映画にどんなことを感じて来たのかを、ザーッと振り返ってみたりもしたのですが、なるほど、そこにはなにがしかの「時代感」が確かにある、というか、いささか風化している作品もなくはないなあと、まあ、無責任に思ったりしなくもないのですが、今年も映画館やら試写やら配信やらで、たくさんの映画を観ました。ぶっちゃけ10年前より観ている模様(今年は200本超えた)。よく飽きないよな。ヒマなのかな? とはいえ、いわゆるコロナ禍を挟んで、「映画」をめぐる状況が、ドラスティックに変化したこと。そこには、「映画」というアートフォームの存在意義的なものも含まれていることを、日々実感せずにはいられないわけで。果たして、「映画」に「未来」はあるのでしょうか? みたいな「主語」の大きい話を、ここで書くのもなんか違う気がするので、本稿では2024年に公開された5本の日本映画と、それを撮った5人の日本人監督を紹介しながら、彼らに「未来」を託すと言いますか、それをもって、この連載を締め括りたいと思います。
・『ぼくのお日さま』(監督:奥山大史)
・『夜明けのすべて』(監督:三宅唱)
・『悪は存在しない』(監督:濱口竜介)
・『カラオケ行こ!』(監督:山下敦弘)
・『Cloud クラウド』(監督:黒沢清)
それでは以下、個々の作品について、簡単な解説と感想を――。
『ぼくのお日さま』(監督:奥山大史/出演:越山敬達、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也、他)
おくやまひろし・1996年生まれ / 前作というかデビュー作である『僕はイエス様が嫌い』(2018年)を観たときは、正直そこまでピンと来てなかったのですが、本作にはぶったまげました。北海道の田舎町で暮らす、冬の必修科目であるアイスホッケーが苦手な吃音の少年が、同じリンクで滑っている少女に魅せられ、恐る恐るフィギュアスケートを始めてみるという「ひと夏」ならぬ「ひと冬」の物語。いわゆる「ボーイ・ミーツ・ガール」の話ではあるのですが、2人を指導するコーチ(池松くん)も含めた3人の描写が本当に秀逸で……。その終わりの「残酷さ」とラストの「予感」も含めて、とても素晴らしかったです。自身も少年時代にフィギュアを習っていたという監督自身による撮影も、本当に美しかった。スケートって、実はものすごく映画的だったんですね。氷上を移動する流麗なカメラワーク。や、すごい若手監督が現れたと思いました。ちなみに、タイトルはハンバート ハンバートの同名曲から(映画の最後に流れます)。や、監督の父親が、元・松竹の社長で映画プロデューサーの奥山和由、兄は写真家・映画監督の奥山由之であることに、改めてビックリですわ(知ってたけど)。
『夜明けのすべて』(監督:三宅唱/出演:松村北斗、上白石萌音、光石研、他)
みやけしょう・1984年生まれ / 若手最注目とされて久しい、才気溢れる三宅監督だけど、岸井ゆきのを主演に擁した『ケイコ 目を澄ませて』(2022年)を経た本作で、いよいよシネフィル以外の人々にも周知されたのでは? 何と言っても松村北斗に上白石萌音ですから。や、正直なところ、この原作小説には、そこまでピンと来るところはなく、その映画化を不安視していたところがあったのだけど、そんなものを軽々と超えて来るのが、この監督の凄みなのです。というか、原作とは異なる翻案部分が実に素晴らしく、しかもそれが「映画」としての表現になっているところに感服しました。松村北斗が、ただ自転車で坂を下って来るだけのシーンに、なぜ心を揺り動かされるのか。長回しのラストショットから、どうして目が離せないのか。映画の「秘密」を熟知している監督だと思います。ここ数作は、敢えて自分自身とは「遠い」テーマを習作的に選んでいるように思える三宅監督。それでこのクオリティなんだから、まったく恐れ入ります。いつか撮るであろうオリジナル作は、いったいどんなものになるのだろう。それを考えるだけでもWAKU WAKUしちゃうぜ。
『悪は存在しない』(監督:濱口竜介/出演:大美賀均、西川玲、他)
はまぐちりゅうすけ・1978年生まれ / 村上春樹の複数の短編小説を翻案して映画化した『ドライブ・マイ・カー』(2021年)で、もはや完全に「世界のハマグチ」となってしまった濱口監督が、同作の音楽を担当した石橋英子の依頼を受けて作り始めたという『悪は存在しない』。なので、最初は「習作」というか、イメージ映像みたいなものなのかな?と思ったら、とんでもなかった(汗)。コロナ禍の不況にあえぐ芸能プロダクションが、補助金目当ての新規事業として、地方にグランピング施設を作ろうとするも、地元住人たちの反発にあうーーという、実に同時代的なプロットに、思わず身を乗り出してしまいましたよ。もちろん、インパクトのあるタイトルが示唆するように、最終的には深遠な世界に誘われてしまうのだけど、ここで声を大にして言っておきたいのは、濱口監督の映画って、ユーモアがすごいんですよ。ときに爆笑してしまうほどに。前作『偶然と想像』(2021年)がそうだったように、濱口監督が書くオリジナル脚本って、ユーモアがあって、大変面白いのです。映画的な教養と怜悧なまなざしを持ちながら、きっちりユーモアもある監督。あ、それはひょっとすると、師匠譲りなのかしらん?
『カラオケ行こ!』(監督:山下敦弘/出演:齋藤潤、綾野剛、芳根京子、他)
やましたのぶひろ・1976年生まれ / ここ数年、新作映画を撮るペースが鈍っていて少し気掛かりではあったけど、2024年は実写パート(?)を担当したアニメ映画『化け猫あんずちゃん』(この映画も、すごく面白かった!)も含めて、実に4本もの長編映画が公開! ケチャドバ! その中でも、本作がいちばん好きだったかも。原作はご存知の通り、和山やまの人気コミックなのですが、脚本を担当しているのが、今をときめく野木亜紀子。ちなみに、山下監督と野木さんは、ドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』(2020年)でタッグを組んでいるので、お互いのことをわかっているというか、山下監督の持ち味を想定しながら野木さんが書いたであろう脚本が、まあ実に見事なものでして。しかも、失われゆくものへの「思い」という野木さん自身のテーマも、きちっとそこに描かれていて。山下監督が得意とする「中学生男子演出?」も、とにかく最高でした。今年は『リンダ リンダ リンダ』(2005年)を彷彿とさせる『水深ゼロメートルから』という小品もあったし、企画と座組みが上手くいけば、やっぱり山下監督の映画は面白いし、全然信用できるなって改めて思いました。
『Cloud クラウド』(監督:黒沢清/出演:菅田将暉、古川琴音、奥平大兼、窪田正孝、他)
くろさわきよし・1955年生まれ / 国際映画祭では引く手あまたの「世界のクロサワ」こと黒沢清監督ですが、ここ数年は、コロナ禍もあり、なかなか新作映画の企画が進まなかった模様。しかし、ここへ来て、自身の過去作である『蛇の道』(1998年)を、フランス主導、柴咲コウ主演でセルフリメイクした作品が公開されたことをはじめ、配信作品として制作された中編『Chime』の上映が、小規模ながら連日満席という異常事態が発生。黒沢監督の代表作であり、世界中を震え上がらせた『CURE/キュア』(1997年)を彷彿とさせるその内容によって、映画界はただならぬ気配になったんです(?)。そして満を持して公開されたのが、菅田将暉を主演に擁した本作『Cloud クラウド』なのですが、これがもうホント面白くってさ。「転売屋」という今日的な仕事を生業とする主人公が、いつの間にかネットを通じて顔も知らない不特定多数の人々からの不興と怒りを買って……という至極現代的なホラー作品かと思いきや、最後は廃工場で銃撃戦(!)。いやあ、こういうのが観たかったというか、やっぱり黒沢監督が考えることがいちばん面白いなって、個人的には思いました。そのユーモアも含めて。あ、先述した濱口監督は、東京大学を出たあと、東京藝術大学で黒澤監督に師事していたとか。弟子筋の活躍も含めて、黒沢組の活躍と盛り上がりに、大いに期待したいところです!
そう、上記5人の監督の、いずれも素晴らしい新作が公開された、ある意味、惑星直列みたいな一年――個人的には、それが2024年だったんですよ! 彼らが新作映画を撮り続ける限りは、まだまだ映画は面白いぞ!と声を大にして宣言しながら、ひとまず本稿――というか、この連載を終えたいと思います。
ところで最後、今更ですけど、この連載タイトルは、小沢健二のソロデューシングル「天気読み」のB面曲のタイトルから取りました。〈物語の始まりには丁度いい季節になったろう〉ってアレです。なんか勝手に映画館をイメージして「いいかな?」と思って(笑)。それにしても、まったくもって「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」って感じで、しばし呆然としてしまうのですが、だからこそ約10年分の記録として、こういう形で何かを残せたのは良かったような気がします。そこは上野に感謝だな。また、どこかで。あるいは、暗闇の中で会いましょう。ありがとうございました。
▼麦倉正樹「暗闇から手を伸ばせ REACH OUT OF THE DARKNESS」
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麦倉正樹●LIGHTER/WRITER インタビューとかする人。音楽、映画、文学、その他。基本フットボールの奴隷。