9月も終わりに近づいてようやく秋らしい空気になってきましたね。私にとってこの秋は気になる映画ラッシュ。今回はそのうちのひとつ、三谷幸喜監督の映画『スオミの話をしよう』をご紹介したいと思います。
<STORY>
その日、刑事が訪れたのは著名な詩人の豪邸。
≪スオミ≫が昨日から行方不明だという。
スオミとは詩人の妻で、そして刑事の元妻。
刑事は、すぐに正式な捜査を開始すべきだと主張するが
詩人は「大ごとにするな」と言って聞かない。
やがて屋敷に続々と集まってくる、スオミの過去を知る男たち。
誰が一番スオミを愛していたのか。誰が一番スオミに愛されていたのか。
スオミの安否そっちのけで、男たちは熱く語り合う。だが不思議なことに、
彼らの思い出の中のスオミは、見た目も、性格も、まるで別人…。
スオミはどこへ消えたのか。スオミとは一体、何者なのか。
この秋、三谷幸喜真骨頂!極上ミステリー・コメディの幕が上がるー!
(公式HPより)
まさに三谷劇場だった。「長澤まさみさんのために映画を作りたい」という思いのもと出来上がったという本作は『スオミの話をしよう』というタイトルそのもの。スオミ=長澤まさみさんをめぐるおじさんたちの戯れ、小競り合いの物語である(笑)。舞台は、スオミの現在の夫・詩人の寒川(坂東彌十郎さん)の豪邸。そこにわらわらと集まったスオミの元夫たちが、ああでもないこうでもないと言い合いながら、行方がわからなくなったスオミを案じている。神経質で細かい性格の警察官・草野(西島秀俊さん)、(スオミの)中学の元教師で現在は庭師の魚山(遠藤憲一さん)、セスナ機を所有する“人気YouTuber”十勝(松坂桃李さん)、人情味のある警察官・宇賀神(小林隆さん)というまるでタイプの違う元夫たちと、草野の有能な部下・小磯(瀬戸康史さん)、寒川の世話係・乙骨(戸塚純貴さん)という豪華で個性的な顔ぶれを見るだけで、何が起こるんだろうとワクワクさせてくれる。スオミが自分のもとを去っているにも関わらず、我こそがスオミの一番の理解者だと、我こそがスオミにとって特別な存在なんだと主張し大人げなくマウントを取り合う姿は呆れるほど滑稽。そんな脱線しまくりの夫たちを一喝したり冷静にツッコんだり、時にはにこやかに毒を吐いたりする小磯が爽快だった。
三谷監督の作品は、当て書きで登場人物一人ひとりにたっぷりの愛情が注がれている。演じる俳優たちも監督の想いや遊び心を存分に受け止め、ひとクセもふたクセもあるキャラクターを楽しんでいるようだった。今回、宇賀神という情に厚い人物を演じた小林さん。監督の「若くあれ」というリクエストに応えて、眉毛くっきり、アイプチとつけまつげで撮影に臨まれたのだそう。小林さんと顔を突き合わせるシーンが多かった西島さんは、撮影が進むたび、どんどん濃くなっていくアイメイクに笑いが止まらなくなったのだとか。夫たちとは違う立ち位置の戸塚さんには「一般人が間違ってテレビに映ってしまったような感じで」とオーダー。コメディセンスにも定評のある戸塚さんが困惑しながらも見せた、渾身の顔芸に笑いがもれる。ほかにも教師時代の魚山など思わずくすっと笑ってしまうシーンの連続で、常に目の前の人を楽しませよう、驚かせようと策を練っている監督の顔が浮かぶようだった。歌舞伎界の大御所、坂東さんに「今日は4歳児でいきましょう」と言えるのは三谷監督しかいないのではないだろうか。
スオミという人物は、相手によって自分を変え、常に相手が望む妻を演じていた。私たちもスオミほど極端ではないにしても、日々接する相手によって違う顔を見せていることがある。最初はスオミの役作りに苦労された長澤さんもそんな共通点を見いだして、一番素に近いという不器用で控え目な草野の妻を基準に、パワフルに流暢な中国語を操る妻(中国語は台湾映画への出演時に身につけたのだという)、子どもの送り迎え、学校行事をそつなくこなす妻、サバイバルゲームに興じるアクティブな妻など多面的なキャラクターを作り出していったのだそう。長澤さんにオファーが絶えないのは、こんな役柄を演ってほしいと思わせる余白のある人で、長澤さんもまたそんな想いに誠実に全力で応える人だからなのだろう。今回、それは役柄だけに留まらず、どんな洋服も颯爽と魅惑的に着こなす長澤さんに、三谷監督が「このドレスを着せたい」と言って生まれたシーンもあったのだとか。気品ある美しい佇まいに、誰もが目を奪われていたに違いない。
薊(アザミ)を演じる宮澤さん(宮澤エマさん)のバイタリティーのある演技はさすが。元夫たちのドタバタにピリリとスパイスを効かせている。また、セスナ機での瀬戸さんのワイヤーアクションシーンには劇場中から笑いが起こった。私も思わず吹き出してしまったシーンだ。三谷作品の常連でもある宮澤さんと瀬戸さんが、振り切った演技で作品に華と笑いを添えていた。終盤の、監督が西島さんの笑顔が効果的に出るような話にしたいとおっしゃっていた“笑顔”は必見。喜びが込み上げる絶妙な表情と、「しょうがないな」という言葉にこの物語のテーマが凝縮されているような気がした。そして、そこからつながっていくラストのミュージカルシーンも最高だった。もともとは台本にはなかったそうだが、監督の無茶ぶりが見事にはまったと言っても過言ではないだろう。松坂さんははずかしいと、ダンスは苦手分野だと話されていたけれど(きっと松坂さんだけではないはず)、それぞれが考えたという決めポーズも見逃せない、味わい深いフィナーレだ。大学生が「こんな桃李くん、観たことないー!」と嬉しそうに話している声を聞きながら、長澤さんの歌う「ヘルシンキ」を口ずさみたくなる、多幸感いっぱいの帰り道。これももしかしたら監督の思惑通りなのかもしれない。まるで極上のギフトのような三谷劇場だった。
shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。今年も小籔千豊さん主催の「コヤブソニック2024」に行ってきました。音楽とお笑いが一度に楽しめるイベントで、石崎ひゅーいさんが出演する1日目に参加。ほかにもWEST.、ジェニーハイ、imaseさんたち豪華アーティストとさや香、ビスケットブラザーズ、テンダラーなどの人気芸人さんのライブで盛り上がり、朝から晩まで楽しみ尽くして約9時間。さすがにクタクタになったけど堪能しました。
【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」】
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第57回「中村倫也さんと向井理さんの華麗なる競演! 劇団☆新感線『狐晴明九尾狩』」
第56回「斉藤和義が最強のバンドメンバーと魅せた“202020&55 STONES”ツアーファイナル」
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第53回「高橋一生さんの覚悟と揺るぎない力を放つ真の言葉。NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』観劇レポート」
第52回「観るものに問いかける『未練の幽霊と怪物 ー「挫波」「敦賀」ー』」
第51回「明日の原動力になる『パリでメシを食う。』ブックレビュー」
第50回「こんな時代だからこそのサプライズ。優しさに包まれる藤井フミヤさんコンサートツアー“ACTION”」
第49回「いよいよ開催へ! 斉藤和義さんライブツアー“202020&55 STONES”」
第48回「全身全霊で想いを届ける。石崎ひゅーい“世界中が敵だらけの今夜に −リターンマッチ−”」
第47回「西川美和監督の新作『すばらしき世界』公開によせて」
第46回「森山未來が魅せる、男たちの死闘『アンダードッグ』」
第45回「チバユウスケに、The Birthdayの揺るぎないバンド力に魅せられた夜 “GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR”」
第44回「ありがとうを伝えたくなる映画『461個のおべんとう』」
第43回「京都の空を彩る極上のハーモニー。パーマネンツ(田中和将&高野勲 from GRAPEVINE)with 光村龍哉さん『聴志動感』~奏の森の音雫~」
第42回「清原果耶さんの聡明さに包まれる映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』」
第41回「YO-KINGのはしゃぎっぷりがたまらない! 真心ブラザーズ生配信ライブ“Cheer up! 001”」
第40回「ギターで感情を表す本能のギタリスト~アベフトシさんを偲んで」
第39回「真心ブラザーズ・桜井秀俊さんのごきげんなギターと乾杯祭り! 楽しすぎるインスタライブ」
第38回「斉藤和義さんとツアー『202020』に想いを馳せて」
第37回「奇跡の歌声・Uru『オリオンブルー』が与えてくれるもの」
第36回「名手・四位洋文騎手引退によせて。」
第35回「2020年1月・想いのカケラたち」
第34回「藤井フミヤ “LIVE HOUSE TOUR 2019 KOOL HEAT BEAT”」
第33回「ドラマティックな世界観! King Gnuライブレポート」
第32回「自分らしくいられる場所」
第31回「吉岡里帆主演映画『見えない目撃者』。ノンストップ・スリラーを上回る面白さを体感!」
第30回「舞台『美しく青く』から見た役者、向井理の佇まい」
第29回「家入レオ “ 7th Live Tour 2019 ~Duo~ ”」
第28回「長いお別れ」
第27回「The Birthday “VIVIAN KILLERS TOUR 2019”」
第26回「石崎ひゅーいバンドワンマンTOUR 2019 “ゴールデンエイジ”」
第25回「中村 中 LIVE2019 箱庭 – NEW GAME -」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第23回「控えめに慎ましく」
第22回「藤井フミヤ “35 Years of Love” 35th ANNIVERSARY TOUR 2018」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第20回「真心ブラザーズ『INNER VOICE』。幸せは自分のなかにある」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第18回「君の膵臓をたべたい」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第16回「恩返しと恩送り」
第15回「家族の風景」
第14回「三面鏡の女(中村 中 Live Report)」
第13回「それぞれの遠郷タワー(真心ブラザーズ/MOROHA Live Report)」
第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
第9回「スターの品格(F-BLOOD Live Report)」
第8回「ありがとうを伝えるために(GRAPEVINE Live Report)」
第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」
[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”