1年のなかで一番好きな季節…5月を駆け抜けて6月に入りました。すでに湿気が…梅雨入りも近いのでしょうか。今回は5月10日に行われた石崎ひゅーいさんの初ホールワンマンライブ(東京国際フォーラム ホールC)のようすをお届けします。デビュー時からホールライブが目標だと語っていたひゅーいくんが満を持して迎えたこの日。「みんなが集まってくれるか会場を埋められるか、心配していた」らしいけれど、そんな心配は無用の満員御礼。開演前会場から沸き起こった拍手に、ここにいる誰もがこの瞬間を待っていたのだと胸が熱くなった。

バンドメンバーに続いて弾むようにステージに現れたひゅーいくんをさらに大きな拍手が迎える。笑顔で1階席から2階席、3階席まで見渡して、ドラムのカウントからそっと歌い出したのは「虹」(菅田将暉さんへの提供曲のセルフカバー)だった。おそらく誰もが聴きたいと願っていた1曲だったのだろう。会場から歓喜の声が漏れた。観客一人ひとりの顔を確かめながら、まるで語りかけるように想いを丁寧に届けていく。陽だまりのようなふわっとした空気とまるみのある柔らかな歌声に観客全員が心を掴まれたのがわかるようだった。

続いて演奏された「邂逅」(槇原敬之さんからの提供曲)、「スパノヴァ」(長澤知之さん)、「あたしは恋をしている」(尾崎世界観さん)など、敬愛するミュージシャンたちが“ひゅーいくんのために”と贈ってくれた“宝物”を、大切に爽やかに歌っていく。ひゅーいくんもタンバリンやシンセサイザーなどを操り、遊び心たっぷりのカラフルな音色が空間を彩る。情動的なギターリフが一瞬にしてシーンを塗り替えた「ワスレガタキ」、メロウな雰囲気に身をまかせながらシンガロングへ誘う「デュラ・デュラ」など、前半は昨年リリースされた10周年記念アルバム『宇宙百景』からの楽曲を披露していく。

 
 
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ひゅーいくんは満面の笑みで何度も「ありがとうー!」と言って、観客に手を振ったり「(ライブに)初めて来てくれた人いるかな」などと問いかけたりして和やかにステージを進めていく。「“石崎ひゅーい”の音楽は、一つひとつの素敵な出会いのおかげでできていると思っています」という言葉には、こうしたライブでの出会いも含まれているのかもしれない。ひゅーいくんは誰一人として置き去りにしない、まさにコミュニケーションの鬼。そして自他ともに認める“人たらし”(笑)。寂しがりやで人が大好き(なんだかワンコみたい)、男女問わず気になる人には自分から寄っていくのだそう(まさにワンコそのもの。笑)。時にはマジメな顔をして大ウソをついたり(地元・茨城県の橋の上でUFOにさらわれたことがあるのだとか)、ニコニコしながら実は人の話を聞いていなかったり覚えていなかったり…適当なところも憎めない。そんな人柄にも惹かれて、周りには大勢の人が集まってくるのだろう。業界内にもファンが多く、この日カバーしたアイナ・ジ・エンドさんへの提供曲「アイコトバ」(TVアニメ『薬屋のひとりごと』のエンディングテーマ)もアイナさんからのご指名だったのだという。原曲も素晴らしいが、メロディアスなギターと瑞々しいピアノに乗せて、多感な少女の揺れ動く心情を歌い上げるひゅーいバージョンに心が震えた。

“石崎ひゅーい”の世界をより鮮やかに魅力的に表現するバンドメンバーは、これまでもツアーやレコーディングをともにしてきた西田修大さん(Gt.)、越智俊介さん(Ba.)、山本健太さん(Key.)、よっちさん(河村吉宏さん/Dr.)、真壁陽平さん(Gt.)の5人。今最もオファーの絶えない最強のミュージシャンが初ホールワンマンを盛り上げている。彼らが奏でるメロディーやリズムは瞬時に目の前の景色を鮮やかに軽やかに変えていく。また特筆すべきはツインギター(ひゅーいくんもギターを持ちトリプルギターになる曲も)という贅沢な構成だろうか。ステージの両端から2人の奇才が放つ変幻自在で多彩なアプローチは、まるで音が織り成す絶景を見ているようだった。また「ファンタジックレディオ」では、西田さんから順番にコーラスを重ねていくというメンバー紹介に会場が沸いた。〈Baby,Baby,Baby〉と、さらりと美声を披露する人、照れながら歌う人、それぞれの個性が感じられる。なかでもムードメーカーのよっちさんのおどけた歌声にはひゅーいくんも大爆笑。その後観客もコーラスに加勢し、ホール中が一体となった幸せな1シーンだった。

ライブの後半は、事前にSNSで呼びかけていたファンからのリクエスト曲に応えたような選曲で、「トラガリ」では大きな歓声が上がり、「僕だけの楽園」へと続くと会場はさらにヒートアップ。高くジャンプした真壁さんのトリッキーなギターが炸裂し、ファンキーなアレンジでバンドメンバーもダイナミックに躍動する。フロアはクラップとステージを駆け抜けるひゅーいくんとの「YEAH!」の応酬でボルテージは最高潮、まるでカオスのようだった。〈君と僕と猫と〉のくだりでは、ひゅーいくんお気に入りのかけ声(合いの手)でさらに盛り上がり、聴き入る観客にさらにかけ声を要求する場面も(笑)。思わず誰もが笑顔になってしまう多幸感漂う空間に、今度はエモーショナルな「ラストシーン」が届けられた。〈世界中の灯りをともしてさ 君の涙に手を伸ばすんだよ〉というドラマティックなリリックに情景が浮かんでくる。ひゅーいくんは、情感豊かにタフな歌声で会場を魅了した。

 
 
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ひゅーいくんは「歩幅は狭めだけど、一歩一歩着実に歩いてきた」とデビューからこれまでを振り返り、今日を迎えることができて幸せだと笑顔で感謝を伝えた。そして「天国の大切な人もきっと喜んでくれていると思う」と言って歌い出したのは「花瓶の花」と「天国電話」。アコースティックギターを抱えながら、内面をさらけ出すかのように言葉を紡ぎ天を仰いだ。いつだって自分の原点はここにある、それはこれからもずっと変わることはないけれど〈でもなにか足りないと思うのは きっとあなたがいないから〉、中盤からあたたかいアンサンブルがセンターで佇むアコギを包み込んでいく。それは“一人じゃないよ”と伝えているようにも聴こえ、すすり泣きのフロアからはいつまでも拍手が鳴り止まなかった。

ふだんからあまり欲がない人間なのだという。でも一つだけ大切にしているのは「みんなをもっと素敵なところへ連れていきたい」という想い。その素敵な景色を観るためには何でもやってやろうと思っているのだと語り、「ついてきてください」とまっすぐな瞳を向けた。そしてラストを飾る「宇宙百景」は、応援してくれている一人ひとりに向けて書いた手紙のような楽曲。〈欠片を不揃いに並べても けして綺麗とは呼べないかな? それでいいよと笑いながら受け取っておくれ〉と観客に手を差し伸べ屈託のない笑顔を見せる。等身大のひゅーいくんがそこにいるようだった。ラストのサビ部分は、ステージの後方に瞬き出した満天の星を纏ってアカペラで魅せ、凛とした笑顔で〈そして会いに行くよ〉と想いを届けた。

こうしてより多くの人に観てもらえる機会を得て、これまで積み上げてきた経験や時間が、まだ通過点ではあるけれど、すべてこの日のためにあったのだと愛おしく思えた。琴線に触れる素晴らしい楽曲を生み出し、どんな曲でも歌える強み、何者にもなれる凄さ。あらためてひゅーいくんの豊かな才能と、希代のメロディー・メーカーであることを印象づけたのではないだろうか。“石崎ひゅーい”という愛すべきシンガーソングライターが、この先もっともっと世に羽ばたいていくことを確信した初ホールワンマンライブだった。

 
 
 
 
 
 


 
プロフィール用写真shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日は大阪城野外音楽堂で行われたお笑いライブへ。ずっと天気がよかったのに当日は朝からまさかの雨。レインコートでの参加でしたが、豪華な芸人さんたちのネタが面白くて雨がまったく気にならないほど盛り上がりました。なかでもかまいたちさんがダントツだったかな。声を枯らして“辻褄”についてアツく訴える濱家さんに対して、クールに正論を語る山内さん。二人のシュールなコンビネーションが最高でした。
 
 

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第44回「ありがとうを伝えたくなる映画『461個のおべんとう』」
第43回「京都の空を彩る極上のハーモニー。パーマネンツ(田中和将&高野勲 from GRAPEVINE)with 光村龍哉さん『聴志動感』~奏の森の音雫~」
第42回「清原果耶さんの聡明さに包まれる映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』」
第41回「YO-KINGのはしゃぎっぷりがたまらない! 真心ブラザーズ生配信ライブ“Cheer up! 001”」
第40回「ギターで感情を表す本能のギタリスト~アベフトシさんを偲んで」
第39回「真心ブラザーズ・桜井秀俊さんのごきげんなギターと乾杯祭り! 楽しすぎるインスタライブ」
第38回「斉藤和義さんとツアー『202020』に想いを馳せて」
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第36回「名手・四位洋文騎手引退によせて。」
第35回「2020年1月・想いのカケラたち」
第34回「藤井フミヤ “LIVE HOUSE TOUR 2019 KOOL HEAT BEAT”」
第33回「ドラマティックな世界観! King Gnuライブレポート」
第32回「自分らしくいられる場所」
第31回「吉岡里帆主演映画『見えない目撃者』。ノンストップ・スリラーを上回る面白さを体感!」
第30回「舞台『美しく青く』から見た役者、向井理の佇まい」
第29回「家入レオ “ 7th Live Tour 2019 ~Duo~ ”」
第28回「長いお別れ」
第27回「The Birthday “VIVIAN KILLERS TOUR 2019”」
第26回「石崎ひゅーいバンドワンマンTOUR 2019 “ゴールデンエイジ”」
第25回「中村 中 LIVE2019 箱庭 – NEW GAME -」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第23回「控えめに慎ましく」
第22回「藤井フミヤ “35 Years of Love” 35th ANNIVERSARY TOUR 2018」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第20回「真心ブラザーズ『INNER VOICE』。幸せは自分のなかにある」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第18回「君の膵臓をたべたい」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第16回「恩返しと恩送り」
第15回「家族の風景」
第14回「三面鏡の女(中村 中 Live Report)」
第13回「それぞれの遠郷タワー(真心ブラザーズ/MOROHA Live Report)」
第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
第9回「スターの品格(F-BLOOD Live Report)」
第8回「ありがとうを伝えるために(GRAPEVINE Live Report)」
第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」

[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”