始まりましたGAL Radio。ここは友人とカフェで会話するように、音楽の魅力についてお話する場所です。

今日は藤井風さんの「花」についてお話します。フジテレビ系ドラマ『いちばんすきな花』の主題歌としても話題となった、2023年を代表する曲です。
今回のテーマは「生と死」。
まずは美しいMVと共にお聴き下さい。

 
 

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サウンドが放つ花の色


風に揺れる花のように、しなやかなメロディーが心地良く沁み入る楽曲。淡々と力まない歌い回しの中にも芯の強い生命力を感じさせます。

洗練されたサウンドは都会的でありながら、広大な大地のようなリズムがどこか懐かしい風景も感じさせる『相反する感覚』が同居する不思議な力を持っています。

風さんは長年、YouTubeで独自の演奏スタイルのピアノ弾き語りカバーを披露し続け、オリジナル楽曲にはその多くのルーツをミックスさせた卓越したセンスと、音楽への愛が詰まっています。今作もジャズやピアノの旨みを存分に引き出したポップスの要素を堪能できる素晴らしいアレンジとなっています。

イントロの印象的なピアノのリフからは、大事な人に花束を渡しにいく前のような弾む気分と、少しの憂いを帯びた、どこか悲しみも孕んでいる印象を受けました。その要因のひとつをチューニングが演出していると感じています。

 
 
 

432Hzチューニング


現代のポップスの多くは「440Hz」という基準でチューニングされています。耳馴染みのある音楽は大体この調律なんですが、この曲はヴェルディピッチと呼ばれる「432Hz」でチューニングされています。風さんの楽曲は何曲かこの432でレコーディングされていて、意図的にここにメッセージを忍ばせ、感覚的な心地よさを表現していると推測できます。

ではこの440と432の8Hzの違いはなんなのか…気になりますよね。
印象的なコードのリフをそれぞれご用意しました。
まずは原曲と同じ432をお聴きください。

▼432Hz


続いて、440をどうぞ。

▼440Hz


いかがですか?これは僕の個人的な感想ですが、440の方はなんだか居心地悪く聞こえてくるというか、ムズムズします。
もう一度432を聴いてみて下さい。フィットするというか、落ち着く印象を与えてくれる響きに聴こえます。

この違いが何を意味しているか、2つ推測してみました。
ひとつは歌詞にある「萎れた花束」を表しているということ。440がハリのある元気な満開の状態の花だとすると、432は少し枯れ始めている、萎れた花を表現していると受け取りました。

もうひとつはドラマ主題歌として「物語に寄り添った」チューニングではないかということ。(ドラマの内容やあらすじについてはここでは割愛します)一般的な440Hzチューニングが性別や年齢、こうあるべきといった“記号”で型にはめようとする「無意識に誰かを傷付ける盲目的な常識」のメタファーだとすると、432Hzはそこに違和感と居心地の悪さを感じている“彼ら”にも居場所があることを感じさせる、人物の心情にフィットしたチューニングなのかなと想像しました。

不穏な音を聴いたら不安な気持ちになるように、人の声でグラスが割れるように、音が心や物質に影響を与えることがある訳ですから、チューニングもなんらかの影響を及ぼす訳で。風さんからのメッセージであると思うと聴こえ方が変わってくる仕掛けのひとつだと感じます。(440Hzは悪魔のチューニングと言われていたりも…興味のある方は調べてみて下さい。)

 
 

藤井風×NewJeans=花


ちょっと話は逸れますが(でも大事な寄り道)昨年の音楽界の大きな話題といえばNewJeansの世界的な活躍です。風さんも韓国で行われたライブで「K-POPで一番好きな楽曲」という旨のMCと共に「Ditto」をカバーされています。(この時のピアノの調律も確か432Hzチューニング)

「Ditto」や「OMG」のように「花」も冒頭からラストまで基本、同じコード進行がループしていきます。(Aメロとサビが同じ和音の進行でメロディーが変わっていく構成、というイメージです)

 
 

 
 

厳密に言うと途中ドラマチックなコードが入ったり、間奏で別のコードを挟むのですが、基本的にはイントロのループが続いていきます。(「花」のトラックに合わせて「OMG」を歌ってみると心地よく歌えます)

藤井風 花(Instrumental)-Apple Music

NewJeansにハマっている風さんが何かしらの影響を受けて制作されたのかなと思いを馳せられるのも音楽の面白さです。同じコード進行が“ループしていく”ことが、この曲が醸し出す「生と死」の匂いともリンクしているように思えます。

ではいよいよ、歌詞について紐解いてみましょう。

 
 

生きていくことは死んでいくこと

 
 
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藤井風「花」

 
 

風さんの歌詞は音の響きを活かした言葉遊びの中に、メッセージ性の高いスピリチュアルな世界観を融合させています。風さんの死生観が色濃く出ていると感じさせる印象的な歌詞を抜粋しました。

〈枯れていく 今この瞬間も 咲いている〉
命には限りがあり、終わりへと向かっていくという前提で曲が始まります。咲いているということは枯れていくということ。生きているということはゆっくりと死んでいっているということ。つまり生きることのゴールは死です。しかし、死ぬために生まれたと考えるのは余りにも悲しい。終わりは死という残酷なものだとしても生きている最中には沢山の美しさがある。そんな矛盾が常に存在しているという、時間に対してどう捉えるかの問題提起から始まったように思えます。

〈誰もが一人 全ては一つ〉
人は誰もが孤独を抱えていて、その人の孤独はその人だけが感じられるもの。だけどそれが人間の共通点でもあります。分かり合えないということが分かり合うためのヒントでもある。そんな矛盾が人間には備わっていて、孤独が救いにもなると思えるワンフレーズです。孤独というと寂しいイメージを連想させますが、孤独であることは物凄く信用出来ることでもあると思うんです。このあとに歌われる「え〜い」がいいですよね。

〈しわしわに萎れた花束 小わきに抱えて 永遠に変わらぬ輝き探してた〉
いつか終わると分かっていながらも、永遠に変わらぬ輝きを探している。ここでも人間の矛盾が歌われています。

「小わきに抱える」には「無視する」と反対の意味の「自分の声を聴いて向き合う」という意味があるそうです。一聴した時は『物理的に萎れた花束を抱えている姿』を想像したのですが、しわしわに萎れた花束は『誰かに渡せなかった想いや後悔』のメタファーで、時が経過し、美しいと思っていたものが形を変えても、変わらない大切なものがあり『生きていくことの本質は何かを探して向き合っている“今”を信じたい』と歌っているように聴こえました。

〈わたしは何になろうか どんな色がいいかな〉
自分に何が出来るのかを考える時、直接的にせよ間接的にせよ、自分以外の存在も感じていると思うんです。誰だって自分が一番かわいいけど、誰かを思うことが自分の力になるように、他者のために行う行為は自分に帰ってくる。その発信源は自分のエゴなのも美しい矛盾です。内なる花を咲かせに自分だけの道を歩む。そう決心した勇気のあるところに花は咲く気がします。

〈僕らを信じてみた 僕らを感じてた〉
自分たちを信じ、感じる瞬間とはきっとお互いが素直になる瞬間のことで、自分の中の花を感じる時、他者の中にある花も感じられる。

ドラマの中で多様性の話が出てきますが、多様性はそれぞれの生き方のことだけではなくて、個人の中にもあると僕は思っています。多面的とも多重とも違う、考えや価値観の揺らぎ、様々な意見が気分や時期によって自己の中に存在していて、自分とはひとりではないと思うんです。家族の前の自分と友人といる時の自分、両方自分だけど違う顔がありますよね。多様であることを認めることは、他者と自分の矛盾だけでなく、自分の中にある矛盾も認めるところに還ってくるんだと思います。

〈my flower is here〉
「生と死」をテーマにお話してきました。人は皆矛盾を抱えていますが、道端に咲いている花に気付く時のように、純粋な瞬間の中には矛盾や理屈を超えた自分だけが感じる今が存在している。そんなことを歌っている気もしました。

探しにいく、咲かせにいくと歌いながらも最後は「私の花はここに咲いている」と、そよ風のように肯定してくれる風さんの人間力、脱帽です。

吹く風も春のものに変わってきました。そろそろカフェを出ましょうか。
最後までお読み頂きありがとうございました。

 
 
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●お知らせ

ふがねくんの新曲「誰かの言葉」に編曲・共同サウンドプロデュースで参加しました。優しさ溢れるポップなメロディーに乗せた力強いメッセージ、ふがね君のお人柄が滲み出る名曲です!
▼ふがね「誰かの言葉」 DL & Streaming URL

 
 
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2021.08~新プロフィール画像高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲・演奏家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始、2016年活動休止。現在は演奏から録音、ミックス・マスタリングまでを自身で手掛けるスタイルでソロ活動中。楽曲はApple Music、Spotifyなどで配信中。レコーディングなどお仕事依頼はTwitter DMからお待ちしております。
Twitter:@zazamino

イラスト:matsun
 
 
 
 
 

 
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