季節が変わり肌寒さを感じるようになりましたが、関西はまだまだアツい日々が続いています。先日は京都競馬場で行われた3歳牝馬のG1レース秋華賞では圧倒的1番人気のリバティアイランドが快勝。牝馬三冠(桜花賞、オークス、秋華賞)の偉業を達成したリバティアイランドと川田将雅騎手を称える大歓声、そして無事にレースを終えた全頭の馬、ジョッキーの健闘を労うあたたかい大きな拍手に感動しました。また、プロ野球・日本シリーズもついに関西ダービーが実現。さて、どんなドラマが待っているのでしょうか。
さて、今回はデビュー30周年を迎えた斉藤和義さんのツアー『30th Anniversary Live 1993-2023 30<31〜これからもヨロチクビーム〜』のファイナル(9月22日・東京国際フォーラム ホールA)のようすをお届けしたいと思います。前回のツアー『“PINEAPPLE EXPRESS”〜明日大好きなロックンロールバンドがこの街にやってくるんだ〜』が終了してから1か月弱で名古屋からスタートしたアニバーサリーライブ。開演を待ちきれない観客の拍手が会場を包むなか、ステージ奥の大型スクリーンに楽曲のタイトルなどを配したアニメーションが映し出されると徐々に歓声が大きくなっていく。そして記念すべきオープニングは「COME ON!」(2009年)。華やかな音たちがシャワーのようにきらきらと会場に降り注がれた。和義さんはみんなにお祝いされることに少し照れているようで、ステージ両脇に設置されているモニター(表情や手元をアップで映している)も「イヤなのよね〜」と苦笑いだったけれど、会場の隅から隅までゆっくりと見渡しながら「今日も楽しませてもらいます~」と手をひらひらと振った。
キャッチーなギターソロから会場が沸く「ずっと好きだった」(2010年)やCM曲にもなった「やぁ 無情」(2008年)など演奏されるたびに歓声が上がる。加賀まりこさんをイメージして作られた「底無しビューティー」(2023年『PINEAPPLE』収録)は、〈誰も他人なんて見ちゃいない 好きなことやるだけよ〉という歌詞の潔さと和義さんのゆるい雰囲気がマッチした心地いい楽曲だ。デビュー前にメインで使っていたヤマハのアコギで聴かせてくれたのは「かすみ草」(2007年『I LOVE ME』収録)。アコギとブルースハープ、そして和義さんの歌声がダイレクトに胸に迫ってくる。人気投票をすると常に上位に入ってくる名曲だ。このツアーは、これまでに発表された約300曲のなかから和義さんが選んだ候補曲(50~60曲)と事前に募集していたリクエスト曲を参考にセットリストが組まれたのだそう。ずっと聴き続けているファンにとっても、初めて“斉藤和義”のライブを観る方にも喜んでもらえる選曲になっていたのではないかと思う。
会場のある有楽町は、和義さんが上京後初めてバイトをしたお惣菜屋さん(銀座)の近くで、当時厨房でステーキを焼いたり仕込みをしたりして早朝から終電間際まで働いていたことを振り返った。帰りの電車で同じアパート(風呂なし)に住んでいる同郷の友だちと「こりゃあ、まだ風呂(銭湯)いけんな」(和義さんの栃木弁にほっこりした)と言って周りの人たちに田舎ものと貧乏がばれたと笑った。音楽をやるために上京したものの、約1年半も続けているうちに新店舗の店長に推され、これはいけないと逃げるようにやめたのだそう(笑)。これまでにも魚を売ったりトラックの運転手をしたりという話も聞いたことがあったが、デビューするまでいろいろあったんだろうなぁと思いを馳せた。天安門事件、湾岸戦争など激動の世界を憂い、もやもやする思いを歌にしたという「僕の見たビートルズはTVの中」(1993年)はデビュー前の和義さんに出会えたような気がして胸が熱くなった。みんなきっと思っただろう。あのとき、社員になることを断ってくれてよかった、音楽を続けてくれてよかったと。
久しぶりに演奏された「例えば君の事」(1995年『WONDERFUL FISH』収録)では、当時住んでいた東京での記憶が不意に呼び覚まされた。前奏のないオリジナルとは違い、松本ジュンさん(Key.)のあたたかみのある美しいメロディーが和義さんの歌へとエスコートするアレンジで、真壁陽平さん(Gt.)のエモーショナルなギターソロが感情を揺さぶってくる。もう会う術のない人やお世話になった人の顔が次々と浮かんできて、時の流れになんだか泣けた。そのまま楽曲の世界に静かにダイブした「オートリバース~最後の恋~」(2020年『202020』収録)。そして、和義さんがギターを爪弾き「歌うたいのバラッド」(1997年)を演奏しはじめると悲鳴のような声が上がる。この曲を聴いたとき「やっと来た!」と思ったことを思い出す。ライブで初めて聴いたのは学園祭だっただろうか。1997年の発売から、“斉藤和義”という名前とともにじわじわと浸透して、25年以上経った今もなお多くの人の心に留まり輝き続けていることが誇らしくてたまらない。演奏を重ねるたび、この曲の普遍性に新たな息吹が吹き込まれ、瑞々しさを増しているような気がしている。目をつぶり細くて長い足でゆるやかにリズムをとりながら、エンディングのメロディーを鳴らし続ける和義さんを、ずっと見ていたいと思ったのは私だけではないだろう。
会場中が感極まり余韻に包まれるなか、スクリーンに男性ダンサーの後ろ姿が映し出される。「問題ない」(2018年『Toys Blood Music』収録)の曲とともにその人物が軽快なリズムで振り返ると、和義さんの顔とダンサーさんの合成映像だったという衝撃! 和義さんがキレのあるダンスを踊る…というありえない(!?)映像に笑いが起こる。こういう遊び心も和義さんのライブの魅力のひとつ。また、“斉藤和義”の音楽にスパイスを加え、豊かな色彩を見せてくれるバンドメンバーの存在も欠かせない。真壁さんはラップスティール・ギターやエディ・ヴァンヘイレンモデルなども駆使し、多彩なアプローチで観客を魅了する。山口寛雄さん(Ba.)は恵まれた体格から放つ迫力のあるベースラインが魅力だが、今回も和義さんの達者な話術に押されっぱなしで終始苦笑い。シャイな人柄がうかがえる。最年少の松本さんは、クレバーでどこか達観しているようにみえるが、和義さんの思いがけないツッコミに吹き出す場面も。今年30歳で、和義さんがデビューした1993年生まれという偶然も何だか感慨深い。
よっちさん(河村吉宏さん・Drs.)は、2つのバスドラムでセンスが光るダイナミックなドラミングを披露。天然キャラで少し舌足らずなトークを和義さんも面白がっているようだった。そんなよっちさんが「(マヨネーズが大好きで)何にでもマヨネーズかけちゃうもんねー!」と流暢にマヨネーズ愛を語り(和義さんの指令?笑)会場を沸かせて、「ポストにマヨネーズ」(1995年)へと突入するという演出も。「幸福な朝食 退屈な夕食」(1997年)では投下される渾身のメロディーがまるでカオス、このバンドでしか生み出せないゾクゾクするようなグルーヴを目の当たりにした。続く「FISH STORY」(2009年『フィッシュストーリー』収録)、「Mojo Life」(2000年『HALF』収録)ではレアな選曲にどよめきが起こり、鍵盤を連打する松本さんの没入プレイに目を奪われた。そして、和義さんがステージの前に出てきてアコギをかき鳴らし「明日大好きなロックンロールバンドがこの街にやってくるんだ」(2022年)が演奏されると、フロアが開放感に満ち溢れた。大好きな人たちが“この街”にやってきた。それだけで嬉しいという私たちの心情とリンクして、大いに盛り上がった。この先もきっとライブに欠かせない一曲になるに違いない。
アンコールでは、「君の顔が好きだ」(1994年)を当時のようにピアノバージョンで披露。歌い終わると会場から「ありがとう」「おめでとう」の声が飛んだ。改めて大勢の観客を見渡しながら「こんなに来てくれてありがとうございます~」と微笑んで、和義さんにとっては30年も通過点なのだろう、みんなにお祝いされることに照れもあるのかもしれない。「20年25年と周年ライブをやってきて、30年だけやらないのはね」なんて笑って「これからも歌っていくつもり」だと和義さんらしい言葉で語った。そして、ラストを飾るのは「歩いて帰ろう」(1994年)。和義さんのギターリフからステージと会場が一体になる、ライブでは欠かせない楽曲。終わってほしくないという想いと今この瞬間を精一杯楽しもうという想いが交錯する。間奏で、和義さん、真壁さん、寛雄さんがステージ前に出てくると、観客のボルテージは最高潮に達し、最後はみんなで同時にジャンプして締めるという最高に楽しいラスト。和義さんの、はにかみながらのぎこちないジャンプにみんなが笑顔になった。
約3時間25曲というフルマラソンのようなライブを終え、長い足を少しふらつかせながら「またね~」と手を振る。当たり前のように、Tシャツを胸の上までまくり上げるサービスも欠かさない(笑)。ファイナルだからといって特別なことはしない。いつだって、新鮮な気もちで一回きりという想いでステージに上がる。今日のこの日を、何か月も前から楽しみにしてくれている、一人ひとりに向けて。宝物のような時間だった。きっと誰もが和義さんとの出会いの瞬間を想いながら見つめていただろう。父と同じ名前という他愛もないことがきっかけで和義さんに出会った私だけど、ソールドアウトのライブが諦めきれずにあの日当日券の大行列に並んだ自分を褒めてあげたい。ステージでフラワーカンパニーズとセッションして嬉しそうに笑っていた和義さんが浮かんでくる。今も変わらない、和義さんのふわっとした佇まいと尽きることのない魅力にこれからもずっと惹かれ続けていくのだろう。
shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日、将棋の藤井聡太竜王・名人が、王座戦を制し前人未到の八冠を達成しましたね。周囲が偉業達成に沸くなか、ご本人はいつもの笑顔でいたって普通。劣勢を覆すことができたのは「平常心」と話し、1局ごとに勝ち負けがつくので、勝ったときよりも負けたときにどう気分をよくするかということを意識しているという言葉に真の強さを感じました。
【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」★斉藤和義さん関連記事】
第78回「今関西がアツい!2023夏はまだまだ終わらない」
第71回「万事休すからのスペシャルギグ!斉藤和義さん弾き語りツアー『十二月~2022』」
第63回「MANNISH BOYS-Anniversary LIVE TOUR 2022 GO! GO! MANNISH BOYS! 叫び足りないロクデナシ- 」
第56回「斉藤和義が最強のバンドメンバーと魅せた“202020&55 STONES”ツアーファイナル」
第49回「いよいよ開催へ!斉藤和義さんライブツアー“202020&55 STONES”」
第38回「斉藤和義さんとツアー『202020』に想いを馳せて」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
☆特別企画
「Live Love Letter〜私たちが愛するライブハウスへの手紙〜」
☆Live Report
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUTOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで””