始まりましたGAL Radio。ここは友人とカフェで会話するように、音楽の魅力についてお話する場所です。ごゆっくりどうぞ。
今回はYUKIさんのファンクラブ会員限定ライブについてお話します。(以下、FCライブ)
FCライブならでのコアな選曲を、ニアな距離感で感じる、レアな時間となった内容の一部を振り返ります。(韻踏んでぇん!)
“COSMIC BOX”会員限定LIVE『YUKI LIVE “little night music”』
9月1・2日(大阪・Zepp Namba)、15・16日(東京・Zepp DiverCity)の全4公演。夏の終わりと秋の始まりの狭間というタイミングでの開催は、これまでの季節への感謝を感じながら、これから来る季節を迎え入れる、ソロ21年目のYUKIさんの活動が次のフェーズへと移行する、現在地を示すような2週間でした。
昨年の20周年が全てのファンに向けた“エンターテイナー・YUKI”としての表現だとすれば、今回のFCライブは、次の新しい表現を見つけるために、より自由に音楽と戯れる“ミュージシャン・YUKI”が凝縮されたライブ、という位置付けだった風に思います。
信頼関係を感じ合う、ファン冥利に尽きる幸福の連続
今回のライブのタイトル「little night music」=小さな夜の音楽=アイネクライネ・ナハトムジーク(モーツァルト作曲)=ドイツ語で「ひとつの小さな音楽」という意味。ナハトムジークは親しい相手から贈られる「音楽のプレゼント」を指します。つまり、そういうことですよね。FCというクローズドな空間だからこそ味わえる特別感を表すピッタリなタイトルです。
ユキンコリニスタ(YUKIさんFC会員を指す名称。YUKIさんファン全体を指す際の呼称はゆきんこ)ならこの曲も喜んでくれるかな、という思惑も、仲の良い友人に見せてくれる表情のようなとてもフランクなMCも、今までにない心理的距離の近い空気が終始、会場を埋め尽くしていたことも、タイトルの意味を想像するとより鮮明に心に残りました。
最新アルバム「パレードが続くなら」収録曲から、ツアーの演出上、泣く泣くSET LISTから外れたライブ初披露となる曲、久しぶりにお披露目される初期の名曲、上白石萌音さんへ歌詞を提供した「永遠はきらい」のセルフカバー、ライブ披露の少ないアルバムやカップリング曲まで、FC会員が文字通り狂喜乱舞する裏ベスト的な名曲のオンパレード。さらにレコーディングすらしていない未発表曲まで余すところなくやりたい曲を届けるそのサービス精神は、誤解を恐れず言わせて頂くなら「YUKIさんも音楽オタクなんだろうなぁ。あれだけ僕らが聴きたい曲をYUKIさんもやりたかったってことはきっと話が合うよね!」と烏滸がましくも感じてしまうほど。YUKIさんが音楽と真摯に向き合い、創作し続けてきた歳月が幸福な旅路だったことを改めて感じさせる濃密なライブでした。
今年出演した東京、福岡、苗場での3本の夏フェスに引き続き、サポートメンバーの演奏もこのメンバーでアルバムレコーディング、全国ツアーして頂きたいくらい素晴らしかった過去のツアーに参加されたメンバー再集結と今回初参加の方との化学反応。ドラム、ベース、キーボード、ギター2本というシンプルなバンド編成でそれぞれの音が分離して聴こえながらも、ひとつの音の塊として曲の骨格とボディラインの柔らかさの両方を巧みに響かせる心地良さたるや…。そんな素晴らしいバンドと奏でる、今回初披露となった1曲目「タイムカプセル」のイントロと共に湧き上がった拍手と歓声からは、きっとファンの皆さんがこの瞬間を待ち望んでいたであろうことが手に取るように伝わり胸が高鳴りました。(しかもYUKIさんはベースを持って登場。ベースソロから始めるところ、ニクいですよね)
音楽が空間を支配し、息を呑んだ瞬間
最も心に残ったのは1st Album収録の「ふるえて眠れ」です。ずっと「歌ってくれたら嬉しいなぁ」と思ってはいたものの、どこかで「もう歌わないのかもな」と諦めている部分があったので、21年ぶりの演奏に衝撃が走りました。
内面を吐露し、剥き出しの感情をあらわにするような楽曲は、ぐちゃぐちゃで歪なんだけど、とても愛おしい想いが複雑に何層にも重なる曲で、矛盾した感情が常に体内に存在しているとても人間らしい曲だと思っています。
その歪なままの形の何かが目の前に現れたようで、絶滅したと思っていた野生生物と近距離で対峙するような(この例えが合っているのか…)息を呑み、視線を逸らせない緊張感と、それでいて心の奥のキツく絡まった糸を解いていくようなやさしさも感じる不思議な体験でした。ライブ後、ビヨンセの名言「人生で大事なのは、何回息をしたかではなく、何度息を呑むほどの瞬間に
出会えるかである」を思い出しました。
エンターテイメントとしてステージをどう魅せるか、コンセプトや世界観を表現するのがホールやアリーナなど大きい会場の醍醐味だとするなら、ライブハウスは音楽そのものをダイレクトに届ける絶好の場所だと思っています。そういった意味で特にこの曲は今回のライブにふさわしかったと言えます。
楽曲リリース当時と声質や歌い方は変わっているけれど(変化していくことが美しい)今のYUKIさんの声で、でも当時の歌い方やニュアンスを呼び戻すようなパフォーマンスは圧巻。時間を超えて音楽が空間を支配する瞬間がそこにありました。
ライブハウスは始まりの場所
FCライブは当初、2020年に開催を予定していたそうです。そこから3年後の開催となったこともあり、MCではYUKIさんがこのライブにかけている思いや、つらいことが続いた日々でも音楽を、自分の感覚に素直でいることを大切にされていたことを直接的な言葉として伝えてくれました。
また、「このライブは私にとってご褒美です」とも話されていました。生きていると、否が応でも困難は襲いかかります。思い描いていた未来とは別の今にいることなんて山ほどあると思います。それでも、軌道を逸れたとしても、その放物線上から見える景色は、最初辿り着く予定だった未来を別の角度から見れた景色な訳です。逆を言えばその角度はそこからしか見えないということ。物事は多面的でひとつの事実でも真実は人の数だけあって、そこからの景色をどう受け取るか、その瞬間をご褒美だと思えるかはやっぱり今の自分次第で。苦しいことも乗り越えるとそこには感動が待っているんだと。
20周年を超えた先でこのライブが行われたこと、今のYUKIさんの音が鳴らされたことはものすごく意味があり、勇気を与えるものだと感じます。YUKIさんの音楽の旅をファンも共にしてきたように、それぞれの人生に寄り添ってYUKIさんの音楽があったことを強く思えたなら、その放物線が交差し、またそれぞれに描いていく、その重なりのようなライブだった気がしています。
「打ち込みも好きだけど生のバンドの音が好き」という旨のMCからも、ライブハウス、バンドから始まったYUKIさんの中には今でもその遺伝子が生き続けていて、始まりの場所からまた次を始める。その第一歩は特別に大切なユキンコリニスタと一緒に、というスタンスが今回のライブには込められていると勝手ながら受け取らせて頂きました。変わり続けながら、音楽に対する初期衝動は変わらず輝きを放ち持ち続けている。その根っこの部分のDNAまで垣間見た気がします。今が一番カッコいいです、YUKIさん!!
大きな愛をまだ受け止めきれていないので、余韻に浸りながら、僕も次の季節へと進んで行けたらと思います。そろそろカフェを出ましょう。最後までお読み頂きありがとうございます。
●お知らせ
①高橋圭 2nd Album『landmark』絶賛配信中!
▶︎DL & Streaming URL
②YouTubeにてlandmark tree 展開中!
ダウンロード、ストリーミングサービスを利用されていない方にも新曲たちを聴いて頂けたらという思いから、YouTubeにて楽曲を公開中です。改めてMIXもし直し、少しずつ育つツリーのようにアルバムCMと共にアップして参ります。
▶︎landrmark tree
高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲・演奏家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始、2016年活動休止。現在は演奏から録音、ミックス・マスタリングまでを自身で手掛けるスタイルでソロ活動中。楽曲はApple Music、Spotifyなどで配信中。レコーディングなどお仕事依頼はTwitter DMからお待ちしております。
Twitter:@zazamino
イラスト:matsun
「Ginger Ale Lover’s Radio」ここまでの道のり
第1回「はじめましてのご挨拶(自己紹介)」
第2回「Guitar~ダサい僕が手にした最高の相棒~なんでこんな邦題足したの? っていうB級洋画の和訳タイトルみたいなダサさ(ギター愛を語る回)」
第3回「真夏の特大号 想像力(YUKI『チャイム』レビュー、久しぶりのライブ、真夏のドライブプレイリスト)」
第4回「バンドは生き物、刺身はナマモノ。(赤い公園特集)」
第5回「Mr.Children(メジャーセブンス、センス、スタンスとバランス)」
第6回「Mr.Children 『重力と呼吸』アルバムレビュー」
第7回「ミスチル、YUKIライブレポート特集」
第8回「新春新曲祭」
第9回「レコーディングオタク」
第10回「YUKI 『forme』アルバムレビュー」
第11回「音楽で逢いましょう」
第12回「good sleeps Album『SIGNAL』セルフライナーノーツ」
第13回「雨ソング特集」
第14回「Live DVD &Blu-ray『Mr.Children 『Tour 2018-19 重力と呼吸』ディスクレビュー」
第15回「BUMP OF CHICKEN NEW ALBUM『aurora arc』アルバムレビュー。何故彼らは宇宙を歌うのか」
第16回「竹内まりや「カムフラージュ」から学ぶ切なさ講座」
第17回「新曲発表のコーナー『ねぇ、できちゃった』完結編!」
第18回「YUKI『聞き間違い』から学ぶ “ きっと大丈夫 ” 講座」
第19回「何故私たちはクリスマスソングを作り、聴くのか」
第20回「TRICERATOPSから学ぶリフで踊ろう! 講座」
第21回「3ヶ月連続企画! 第1弾 Chara +YUKI『楽しい蹴伸び』から学ぶ無意識の美しさ」
第22回「3ヶ月連続企画! 第2弾「Chara +YUKI 『echo』全曲レビュ ー」
第23回マイフェイバリットエモーショナルソング 10選」
第24回「和田唱(TRICERATOPS)『ALBUM.』から学ぶ笑顔の大切さ講座」
第25回「『ねぇ、できちゃった』のコーナー夏の特別編! 新曲「ひまわり」セルフライナーノーツ」
第26回「ニッポンの偉大なギター名盤10選」
第27回「夏とシティポップ」
第28回「初秋にこそ聴いて欲しい、サザンオールスターズ『真夏の果実』の魅力」
第29回「温かみ、手触りを感じる名作 Yuzukana 『ZUSHIKI』制作秘話!」
第30回「Mr.Children『Brand new planet』レビュー」
第31回「Mr.Children NEW ALBUM『SOUNDTRACKS』レビュー 〜人との出会いと音楽の化学反応〜」
第32回「TRICERATOPS トリビュート盤レビュー&ライブレポート!」
第33回「写真家・薮田修身 展覧会『THERE WILL BE NO MIRACLES HERE』レポート」
第34回「新企画!『YUMECO RECORDSのテーマソングを作ろう』始動!!」
第35回「YUKI『Baby it’s you』が示す、君と私の世界が愛と音楽に満ちている理由」
第36回「YUKI NEW ALBUM 『Terminal』レビュー」
第37回「ホタルライトヒルズバンドNEW ALBUM『SING A LONG』レビュー」
第38回「東京スカパラダイスオーケストラ 『TOUR2021 Togeter Again!』ツアーファイナルライブレポート」
第39回「新しいギターを買ったよ!」
第40回「音楽と食」
第41回「NEW SINGLE『花束』が出来るまで」
第42回「和田誠展で感じた普遍的な愛」
第43回「クリスマスソングの新たな名曲! Yuzukana『POST』ライナーノーツ」
第44回「YUMECO RECORDSのテーマソングを作ろう! デモ音源フル尺完成!!」
第45回「Official髭男dism「Pretender」から学ぶロマンス論」
第46回「YUMECO RECORDS テーマソング企画 Season 2 スタート!」
第47回「音楽プロデューサー・蔦谷好位置の魅力 & 蔦谷さんクイズ優勝報告!」
第48回「TRICERATOPS NEW ALBUM『Unite / Divide』レビュー」
第49回「アートディレクター・森本千絵さんとMr.Children」
第50回「YUKI ソロデビュー20周年記念企画第1弾 私が『ビスケット』を好きな理由」
第51回「スタジオデスクをDIY!!」
第52回「妄想! 脳内夏フェス2022!」
第53回 YUKI ソロデビュー20周年特別企画第2弾 「描き続けてきた『歓びの輪』」
第54回「ドラマ『silent』と主題歌 Official髭男dism『Subtitle』が丁寧に紡ぐ音と言葉」
第55回「YUKIソロデビュー20周年記念特別企画第3弾『Oh!ベンガル・ガール』レビュー」
第56回『「YUMECO RECORDSのテーマ」リリース!』
第57回「YUKI 『concert tour “SOUNDS OF TWENTY”』ライブレポート」
第58回「YUKI NEW ALBUM『パレードが続くなら』レビュー」
第59回「音楽と共に生きていく」
第60回「Mr.Children 30th Anniversary Tour『半世紀へのエントランス』 ツアーレポート&ディスクレビュー」
第61回「5年ぶりのステージで感じたこと」
第62回「高橋圭 NEW ALBUM『landmark』セルフライナーノーツ」
第63回「YUKI 「トロイメライ」から知る『ゆるし合う』ということ」