始まりましたGAL Radio。ここは友人とカフェで過ごすように音楽の魅力についてお話する場所です。ごゆっくりどうぞ。

皆さんはドラマ『silent』ご覧になられていますか?とても素敵な作品で、Official髭男dismが歌う主題歌『Subtitle』も名曲で、僕は毎話3回は観てしまうほどハマっているんですが、このドラマと主題歌が何故こんなにも胸を震わせるのかを今回は研究していきたいと思います。

 
 

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画像1&サムネ画像
OFFICIAL HIGE DANDISM 『Subtitle』
2022.10.12 Digital Release

 
 
 

今期最も話題を集める“丁寧な”作品づくり



楽曲の素晴らしさを掘り下げるために、まずはドラマについてお話させてください。
『silent』は現在フジテレビ系木曜夜10時から放送中、川口春奈さん主演、目黒蓮さん(Snow Man)共演のドラマ。本気で愛した人と、音のない世界で”出会い直す”切なくも温かいラブストーリーです。見逃し配信(放送後1週間、TVer・FOD・GYAO!の合計値)がフジテレビ全番組で歴代最高記録を樹立。TVerでも民放歴代最高記録を塗り替える大記録を達成するなど、多くの人に届く熱量を持った、今最も注目されている作品です。

脚本家・生方美久さんの胸を締め付けるセリフや、現在と過去の時系列のシームレスな描写、渋谷タワレコや世田谷代田駅など聖地巡礼したくなるようなフォトジェニックなロケ地、山崎樹範さん、風間俊介さん、篠原涼子さん、藤間爽子さんら脇を固める素晴らしい俳優陣(夏帆さんの笑顔可愛すぎ問題)etc…SNSで誰かと共有したくなるような細かく作り込まれた設定、仕掛けが随所に施されています。

できるだけ分かりやすく、でもそれは決してインスタントなものではなく、無駄なものが極力削ぎ落とされたシンプルさと、こだわりを感じる丁寧な作りがたくさんの共感を呼んでいる理由だと、いち視聴者として感じています。

 
 
 

「言葉はなんのためにあるのか。何故生まれ、存在し続けるのか」



視聴者を惹きつける丁寧さの根源には、この作品が「言葉」というテーマを大切にしているからだと思います。
特に僕が毎回感動するのは名作映画のようなカット割りです。登場人物たちの心情を映し出すカメラワークの画角の美しさと演者さんたちの繊細な「間」に毎回グッときます。先ほどセリフが素敵とお伝えしましたが、視線や仕草もセリフの一部であり、大切な人が聴力を失うことを通し、それぞれの立場の葛藤や心の機微が彼らの表情や一挙手一投足から窺えますし。目は口ほどにものを言うんだと改めて強く感じます。それを敢えて言葉で説明しないことが言葉をより感じさせるし、”視聴者を信じている”愛情があると思うんです。これはとても幸せな信頼関係だと声を大にして申し上げたい。(←どの立場よ)

 
 
 

今音楽が繋ぐ恋



今作では言葉と同じくらいに音楽が特別重要な役割を担っています。
恋仲であるふたりは音楽が好きで、思い出の曲として、スピッツ「魔法のコトバ」が使われていたり、この曲が主題歌で全員が片想いの映画『ハチミツとクローバー』の話題やフレーズが登場します。好きな音楽が一緒だと恋愛の距離は一気に近づきますよね。

作中の音楽は作、編曲家・得田真裕氏が担当。『石子と羽男-そんなコトで訴えます?-』『アンナチュラル』『MIU 404』『監察医 朝顔』など数多くの話題作の音楽を手掛けています。クリーンなギターやピアノが作る音風景が映像をよりスーッと心に染み込ませてくれます。

音楽が好きな二人だからこそ、同じ音を共有し合った時間があったからこそ、声や音を共有できなくなった今に喪失感を感じるでしょうし、それでもなんとかコミュニケーションを図りたい、そんな想いを音楽が語っているようにも感じます。そして毎回クライマックスのめちゃくちゃ良きタイミングで流れる主題歌『Subtitle』によって、視聴者(僕)は一気にカタルシスを感じてしまうのです。それではここでお聴きください。

 
 

 
 
 

J-POPのひとつの完成形



大切な人への言葉を雪に例えた今年の冬を切なく染めるラブソングはドラマ制作サイドからの熱烈なオファーを受けて書き下ろされました。字幕という意味の「Subtitle」手話で会話をするシーンに充てられた字幕が大事な意味を持つ作品にも、視聴者にも、ドラマを観ていないリスナーにも深く届く余白を感じさせる素晴らしいタイトルです。楽曲の世界観がドラマにより深みを与える「作品に寄り添った」最高の歌の贈り物だと思います。

僕はよく素晴らしいサウンドを「音に必然性を感じる」と表現するんですが、この曲もまさにそれで、さまざまな要素が過不足なく配置、絶妙なバランスで構築されていて、その美しさはJ-POPのひとつの完成形といっても過言ではないほど完璧なアレンジです。クリーンと歪みを巧みに使い分け、髭男史上最高にエモーショナルでありながら、ちゃんと楽曲の世界観を最大限引き立たせるフレーズを弾くGt.小笹大輔さんのエレキギターの冴え渡り具合は聴きどころとしてぜひ推したいポイントです。

 
 
 

言葉はまるで雪の結晶



曲中、冷たさや熱さ、火傷、生温い、熱量、凍てつくなど温度を感じさせるワードがいくつも歌われています。
冒頭の歌詞、
「凍りついた心には太陽を」そして「僕が君にとってそのポジションを」
そんなだいぶ傲慢な思い込みを拗らせてたんだよ


なぜこの考えが傲慢な思い込みなのか。それはサビで歌われる『言葉は雪の結晶』で、太陽の熱が言葉という名の雪を溶かし、消してしまうことに繋がります。

火傷しそうなほどのポジティブの冷たさと残酷さ〉〈ひんやり熱いもの〉などの相対する表現、いわゆる「矛盾しているのにしてない現象」も印象的です。自分は良かれと思って伝えても相手にとっては不快に感じさせてしまうこともある言葉のやりとりや、人の心の簡単には説明できない部分を感じさせます。

 
 
 

最も凄さを感じた歌詞



かけた言葉で 割れたヒビを直そうとして
足しすぎた熱量で 引かれてしまったカーテン


凍てつく心を溶かしたくて、割れたヒビを直そうとするつもりでかけた言葉も、熱量を足しすぎるあまり光は強く射し込み、眩しさを遮ろうとカーテンを引かれてしまう。そんな人間関係の難しさ、曖昧さを表現したフレーズですが、これ、×、÷、+、−とダブルミーニングになっていて試行錯誤を重ねて君と答えに辿り着きたいと表現しているっていう…

更に、その答えは〈救いたい=救われたい このイコールが今 優しく剥がしていくんだよ 堅い理論武装 プライドの過剰包装を〉にかかっていると推測すると、誰かを救うためにした行為が自分を救う、間違えながらでも素直に伝えようというメッセージなのでは。。藤原聡さん、マジですごいよね!(かけたは×と、声を掛けたと、欠けたのトリプルミーニングにも!)

この丁寧にしたためた手紙のようなぬくもりと、一言一句に込められた情熱が音と言葉を届けたいドラマの想いとシンクロし相乗効果を生んでいるのではないでしょうか。

 
 
 

愛してるよりも愛が届くまで



僕らの生活や人生の至る所に”想い”は無数に存在しています。それはさまざまな形をしていて、つい見落としてしまいがちです。人間の歴史上、認識すらされない言葉の方が多かったはずです。伝えられた言葉でも発した瞬間に100%伝わるものもあれば、時間が経ってから気付かれるものもあります。忘れられない言葉や、忘れていたけど思い出す言葉にはきっと誰かの強い想いが宿っているのでしょう。

ドラマのタイトルである「静寂」の中にも「字幕」があるとするならば、言葉にすらならない想いを誰もが抱えていて、それにお互いが気付き行動する時、言葉は言葉でしかないとしても、何らかの形で想いは届き、また紡がれていくのだと信じたい気持ちになりました。

第1話の冒頭は川口春奈さん演じる青羽紬が雪を掴もうと手を伸ばすシーンから始まります。『言葉はまるで雪の結晶』ともリンクした最重要カットであり、このシーンから始まったストーリーが、今後ふたりの心にどのように重なり、降り積もっていくのか。冬の匂いを感じながら見守っていきたいと思います。

そろそろカフェを出ましょうか。別れ際にもう一回聴いて頂いてお別れです!(足しすぎた熱量とはこのことでしょう)最後までお読み頂きありがとうございました。

 
 

 
 
 
 

YUMECO RECORDSのテーマソングを作ろう!Season 2


【Vol.10 まつんさん】

1年間かけて様々な方とひとつの楽曲を育てていく壮大企画。今回は似顔絵屋さん・まつんさんにコーラスを歌って頂きました! とてもファンシーで人気のイラストについてもお話頂きました。
 
 

 
 
 
 
 
 
 


 
2021.08~新プロフィール画像高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲・演奏家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始、2016年活動休止。現在は演奏から録音、ミックス・マスタリングまでを自身で手掛けるスタイルでソロ活動中。楽曲はApple Music、Spotifyなどで配信中。レコーディングなどお仕事依頼はTwitter DMからお待ちしております。
Twitter:@zazamino

イラスト:matsun
 
 
 
 
 

 
「Ginger Ale Lover’s Radio」ここまでの道のり
 
第1回「はじめましてのご挨拶(自己紹介)」
第2回「Guitar~ダサい僕が手にした最高の相棒~なんでこんな邦題足したの? っていうB級洋画の和訳タイトルみたいなダサさ(ギター愛を語る回)」
第3回「真夏の特大号 想像力(YUKI『チャイム』レビュー、久しぶりのライブ、真夏のドライブプレイリスト)」
第4回「バンドは生き物、刺身はナマモノ。(赤い公園特集)」
第5回「Mr.Children(メジャーセブンス、センス、スタンスとバランス)」
第6回「Mr.Children 『重力と呼吸』アルバムレビュー」
第7回「ミスチル、YUKIライブレポート特集」
第8回「新春新曲祭」
第9回「レコーディングオタク」
第10回「YUKI 『forme』アルバムレビュー」
第11回「音楽で逢いましょう」
第12回「good sleeps Album『SIGNAL』セルフライナーノーツ」
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第14回「Live DVD &Blu-ray『Mr.Children 『Tour 2018-19 重力と呼吸』ディスクレビュー」
第15回「BUMP OF CHICKEN NEW ALBUM『aurora arc』アルバムレビュー。何故彼らは宇宙を歌うのか」
第16回「竹内まりや「カムフラージュ」から学ぶ切なさ講座」
第17回「新曲発表のコーナー『ねぇ、できちゃった』完結編!」
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第24回「和田唱(TRICERATOPS)『ALBUM.』から学ぶ笑顔の大切さ講座」
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