石崎ひゅーいさんのデビュー10周年アニバーサリーライブが、7月25日東京・恵比寿リキッドルームで開催された。開演前の会場に流れていたのは、デヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』。石崎家の窓には、収録曲「Rock ‘N’ Roll Suicide」の歌詞が刻まれていたのだという。子どものころから耳にしていた家族の大切な思い出の曲。この節目のライブを亡くなったお母さまへ届けたいという強い思いを感じた。「第三惑星交響曲」からスタートしたシンガーソングライター“石崎ひゅーい”の物語から10年。ライブタイトルの「、」(てん)に込められた思いとして、10周年のten、これからも物語は続いていくという意味で「。」でなくて「、」、そして、ずっと「天」に向けて歌っているようなところがあるから、と知って胸が熱くなった。今回は、10周年アニバーサリーライブのようすをお届けしたいと思います。
トオミヨウさん(Key.)、よっちこと河村吉宏さん(Dr.)、西田修大さん(Gt.)、越智俊介さん(Ba.)の登場後、満面の笑みでひゅーいくんが現れると会場は万雷の拍手に包まれた。全身から喜びをにじませながら、すべての始まりである「第三惑星交響曲」から記念すべきライブがスタートした。この10周年アニバーサリーライブは1日だけの開催とあってチケットはかなりレアだった。そんな状況を把握していたひゅーいくんは、今日ここに来ることが叶わなかった人たちへと「第三惑星交響曲」を生配信していた。そのやさしさに救われた人がどれほどいただろう。ライブでは欠かせないこの曲が、今日はひと際輝いている。ひゅーいくんは弾けるようにステージを動き回り、観客を一人ひとり確かめながら、時には、指をさしたり手を振ったりして、こぼれるような笑顔で応えている。「バターチキンムーンカーニバル」「夜間飛行」では、キラキラと浮遊するような西田さんのギターリフが “石崎ひゅーい”のファンタジーな世界をカラフルに彩っていく。5月まで行われていたツアーのバンドメンバーということもあり、ひゅーいくんとの息もぴったり、バンドサウンドもさらに充実していた。
ひゅーいくんは、フロアを見渡し深呼吸をしながら、応援してくれているすべての人に想いを届けるようにこの日を迎えられたこと、集まってもらえたことを「ほんとうにありがとうございます」と感謝を伝えた。実は、人から祝ってもらうのは正直得意ではないのだそう。「はずかしいよね」と照れて「でも、今日だけは盛大に祝ってください!」とはにかんで言うと、観客だけでなくバンドメンバーからも拍手が湧き、うれしそうに頭を下げた。そして「今日のライブを思う存分余すことなく楽しんでください!」と、デビュー当初からの人気ナンバー「メーデーメーデー」「1983バックパッカーズ」で会場を盛り上げた。
久々の「カカオ」はメロウな空気感を醸し出し、マイクから少し下がって(オフマイクで)うつむきながら歌った、後奏のコーラス部分はとても美しくて息をのんだ。まるで私たちが聴きたい曲がわかっているかのような選曲だったが、実は、この日のことを考えて眠れない日々を過ごしたのだそう。「どうやったら、みんなが楽しんでくれるのかな、喜んでくれるのかなと思ったら眠れなかった」「デビューして10年経つけれど、悩んでばかりだし、いまだに確固たる自信はありません」と語った。それでも10年間ステージに上がり続けてこられたのは、こうして“石崎ひゅーい”の音楽を聴いてくれる人がいること、そしてたくさんの素敵な仲間、スタッフに恵まれていること。だから頑張ることができると言って、観客、バンドメンバー、そしてステージの袖に向かって頭を下げ「今日はゆっくり眠れそう」とにっこり笑う。
そのとびきりの笑顔はフロアをふわりとときめかせた。クールなピアノのメロディーと抑えたトーンで密やかに歌い出す「ナイトミルク」。これまで積み重ねてきたさまざまな光景を慈しみ、あふれる想いとともにこれからをつづった「花束」。そして「天国電話」は、今日のために作ったような曲だと言葉少なに言ったその姿とピアノのメロディーから泣けてきた。これほどまでに心を揺さぶられる曲に出合ったことがない。いつだって、いくつになったって、子どもは親に見ていてもらいたいし褒めてもらいたいのだ。そんな気もちが苦しいほど伝わってきて涙が止まらない。ひゅーいくん自身も目に涙を浮かべながら歌い切った。涙で放心状態のフロアに、さらにそっと「花瓶の花」が投下される。ぬくもりのある、豊かな歌声とトオミさんのピアノが寄り添う“石崎ひゅーい”の背骨のような曲。試行錯誤の末に披露されたセットリストにフロア中が抱きしめられた尊い時間だった。
後半は「友達の歌なんですけど、友達と一緒にやってもいいですか。さよならエレジー!」。そう言うと菅田将暉さんがステージに! 突然のサプライズに観客は湧いた。ひゅーいくんはアコースティックギターをかき鳴らし喜びを爆発させ、菅田くんは(何かの撮影中なのだろうか)坊主頭で少し髭を生やし、精悍な顔立ちで「さよならエレジー」を歌い始める。菅田くんとも仕事をしている、ベースの越智さんがとってもうれしそうで躍動感のある低音を響かせていた。続いて、「虹」では瞳を潤ませながら、芯のある澄んだ声で歌う菅田くんとやわらかくてまあるいひゅーいくんの声の相性の良さを心から味わった。終わったあと、うつむき目頭を押さえていた菅田くんがとても印象的だったこと、またマイボトルを持参してコップに中身を注いで飲む姿に、丁寧な暮らしぶりや真面目な人柄を垣間見たような気がした。ひゅーいくんもグレーのマイボトルで飲み物を(中身はルイボスティー?)飲んでいる。二人が仲良く水分補給するようすを見ながら、二人の間に流れる穏やかな空気に触れて、あぁ、ほんとうに同志みたいな関係なんだなと感じた。
ひゅーいくんはこの楽しい時間が終わることを惜しんで「始まっちゃうと終わっちゃうから」と少しでもこの時間を引き延ばしたいようだったが、「時間は大丈夫?」と菅田くんを気遣うやさしさも。そして、ここで2つめのサプライズ、二人で制作した新曲「あいもかわらず」が8月2日に配信されることが発表されたのだ。10周年を記念して、大切な人と歌いたいと思ったときに、真っ先に浮かんだのが菅田くんだったと話す。菅田くん曰く「熟成したチーズ」みたいなこの曲にたどり着くまで、紆余曲折あったのだという。また、これまでにも菅田くんが歌入れまでしたものの世には出ていない曲が山ほどあると言い、「バードメン、つけ麺…」と曲の仮タイトルを挙げると、(すべてを知っていると思われる)トオミさんが思わず苦笑するシーンも。初披露された「あいもかわらず」は、二人のこれまでとこれからをあたたかく包み込むような陽だまりのような曲だった。ひゅーいくんとのバディ感をたっぷり見せてくれた菅田くん、去り際も潔くかっこよかった。
「最後は笑って終わりたい」とひゅーいくんが「ファンタジックレディオー!」とシャウトすると、ドラムのよっちさんが立ち上がって両手でシンバルを鳴らす。その姿がかっこよくてしびれた! 観客もハンドクラップで応え、混然一体となったサウンドのループがシャワーのようにフロアに注がれる。「“石崎ひゅーい”に出会ってくれた君の事が好き」と歌い、「これからもずっと、僕が作る歌の物語の主人公でいてください」と言葉を紡いだ。それはまるで、約束、とでも言うような力強い言葉だった。これ以上ないほどHAPPYなラストシーン。ひゅーいくんは両手を合わせてオフマイクで「ありがとうー!」と、何度も何度も言いながら「天」を見上げていた。
後日、ひゅーいくんはラジオでこの10周年ライブのことを話していた。当日ステージに立ったときにどんな感情が湧くんだろうと思っていたけれど、ただただ「ありがとう」という気持ち、感謝しか出てこなかったと明かした。そして「ぼくは、先頭に立ってみんなを引っ張っていくタイプではないから、みんなに助けられてここにいるんだと思った」と語ったのだが、全然気がついていないと思ったのは私だけだろうか。ほんとは、とてつもない求心力の持ち主であり、ごくごく自然にみんなを引っ張っていることを。みんながついてきているか、遅れている人はいないか、最後の一人まで心を配りながら先頭をゆく。それがひゅーいくんなんじゃないかと思っている。音楽的センスはもちろんだが、人としても最高にチャーミング。
最近はSNSを活用しファンの声を大切にしている。ライブ配信を行うなかでコメントに対して真面目な顔をしてさらりと冗談を言ったり、まるで大喜利のようなキレのいい回答をしたり。「なんかみんなあったかいよね。…田舎の集まりみたい」と時には失言も(笑)。いつもひゅーいくんの周りは笑いにあふれていて、みんなが、ついていきたい、この人のために力を尽くしたいと思わせる人なのだと思う。あの日、バンドメンバーのみなさんのとっても幸せそうな顔をひゅーいくんに見せてあげたかった。菅田くん以外にも、お友だちが大勢来られていたのだそう。愛されているなぁって、“愛”にあふれた幸せな空間だったなとしみじみと思い返している。
さて、10周年YEARもいよいよ後半戦。どんなサプライズが待っているのだろう。一緒に盛り上げ、“石崎ひゅーい”がもっともっと輝く物語を作っていきたいと思っている。
shino muramoto● 京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日、吉岡里帆さん初主演の舞台『スルメが丘は花の匂い』大阪公演を観てきました。作・演出はかもめんたるの岩崎う大さん。自分の物語を作るというファンタジー・コメディで次々と物語が展開されるテンポのよさと、随所に散りばめられている笑いにすっかり惹き込まれてしまいました。久々にかもめんたるのYouTubeを観ています。
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第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
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第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」
[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”