11月も半ばになり、秋も深まってきましたね。京都では紅葉も見ごろを迎え、夜間のライトアップや寺院の特別拝観なども始まりました。昼間とはまた違った幻想的な紅葉が観られます。私もまた足を運んでみようと思っています。さて今回は、10月31日に東京国際フォーラムでツアーファイナルを迎えた斉藤和義さんの「202020&55 STONES」のようすをご紹介します。

 
 
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5月のスタートから47公演目。なんとか無事にたどり着いたこの日、「待っていたよ!」という観客の大きな拍手が、和義さんはじめ、バンドメンバーを迎える。彼らが定位置につき、SEが止み一瞬の静寂のあと、真壁陽平さん(Gt.)のギターリフが会場を包み込む。アルバム『55 STONES』の1曲目でYMOのカバー「BEHIND THE MASK」だ。和義さんの鳴らすギター、山口寛雄さん(Ba.)、今回初参加の平里修一さん(Dr.)、松本ジュンさん(Key.)の音が層を成すように重なり合っていく。和義さんは静かに伏し目がちにリズムを刻み、会場の空気を確かめているかのようだ。


「いつもの風景」(アニメ『ちびまる子ちゃん』エンディング主題歌)では、「イエーイ! 東京!」という声とともに客電が灯り、一斉に手を上げた観客たちの表情に和義さんの笑みがこぼれる。約2年ぶりに開催されたツアーは、私たちと同じように待望のツアーだったに違いない。初日の三重公演では、コロナ禍の約束事として、マスク着用で声出し禁止を厳守している観客を前に「ふーん、こんな感じなんだねぇ」と戸惑いもあったようだったが、すぐに「マスクをしていると(お客さんが)若く見える。(コロナが収束しても)ずっとマスクをしていたらいいのに」とあいかわらずの毒舌も健在。会場が沸くと「そこは笑うところじゃないんですけどね」とさらに毒を吐き嬉しそうに笑っていた。ライブを重ねマスク姿にも慣れたこの日は「声は出せなくても、みんなの“気”みたいなものは不思議とちゃんと伝わってくるので、心のなかで歌って、いつもより大きめの拍手で楽しんでいってくださいー」と言って手をひらひらと振って笑った。

 
 
写真 (2)
 
 

「純風」(テレビ朝日系『じゅん散歩』テーマ曲)、「一緒なふたり」(CM曲)とテレビでおなじみの曲でフロアをあたためたあと、暗転したステージには鍵盤の音色が響きスポットライトが松本さんを照らす。デビュー当時の、ピアノを弾いていた和義さんをどこか彷彿とさせる光景だった。情緒的で美しいピアノのメロディーをイントロダクションにした「彼女」はとても新鮮だったし、続いて演奏された「破れた傘にくちづけを」(2006年当時、限定発売のシングル)はほぼオリジナルの骨太なギターサウンドで会場を魅了していく。中盤には、CMに起用されている新曲「Over the Season」、そしてコロナ禍を綴った壮大なスケールの「2020 DIARY」。昨年は、すべてにおいて「仕方ない」と、あらゆる感情をなかったことにするしかない日々だった。不安とどこにもぶつけようのない、やるせない思いが和義さんらしい言葉で飄々と語られている。セットリストの中心に配置されているこの曲は、もしかしたらこのツアーの核なのかもしれない。淡々と熱く、祈りを捧げるように歌い上げる和義さんの静かな叫びに応えるように、会場からはいつまでも拍手が続いていた。


今回も、和義さんがメンバーをいじったり無茶ぶりをしたりしてご満悦のシーンが随所でみられた。独学でプロのキーボーディストになったという松本さん(28歳好青年)には「気に入らないですね」とジェラシーを垣間見せたり、このツアーで60杯以上のラーメンを食べたという平里さんには、ライブ前に食べたラーメンを消化するぐらいの激しいドラムをリクエストしたり、歌舞伎役者みたいだと「見得を切ってみて」と言ってみたり(和義さんの愛あるディスりは、時にはステージにはいない藤井謙二さんや吉井和哉さんにまで及んだ日もあった)。この日、メンバーを最もうならせたのは、和義さんから「最終チク日(最終日×チ○ビ)」という謎のセッションのお題が出されたときかもしれない。ツアー開始当初は「ヒロくん、なんか弾いてよ」なんてラフな感じだった(突然振られて、本気でたじろいでいた寛雄さんがおかしかった)のが、だんだん「今までやったことがない感じで」とか「レッチリ風に」とお題が出されるように。みんな苦笑しながらトップバッターに指名されないよう和義さんからそっと目を逸らしていく。この日、なぜかみんなの視線は真壁さんに注がれ、真壁さんが「えっ、俺!?」。すかさず和義さんから「なすり合わないでください」と声がかかる。観念した真壁さんが弦を爪弾くように軽やかに演奏し始めると、メンバーが思い思いに音を鳴らしていく。最後に和義さんが加勢し、クールでファンキーな「最終チク日」という名のジャムセッションが最終日に華を添える。


続く「万事休す」「シャーク」でもその瞬間の閃きや遊びが散りばめられ、私たちはその日限りの極上のセッションを体感した。なかでも、エディ・ヴァンヘイレンモデルを手にした真壁“ヨウヘイレン”の、エディ愛が炸裂するギターソロは必見! スリリングでハードロックなシチュエーションからなだれ込む「Room Number 999」は、ダイナミックなスラップベースを皮切りに安定感のあるドラム、華やかで弾むようなメロディーと疾走感のある鮮やかなギタープレイで会場をジャックしていく。最強のバンドメンバーが鳴らす最高のR&Rナンバー。和義さんが、バンドにこだわる理由がここにあるのだと思う。ここから畳みかけるように王道の曲が続くのだが、驚いたのはツアー途中からセットリストに加えられた「虹」。和義さんは、自身のアコ―スティックギターのパートを松本さんに委ねて、ハンドマイクで歌ったからだ(松本さんに突然「ギターを弾いて」とリクエストしたのだそう。これが、最大の無茶ぶりでしたね)。手持ち無沙汰感が否めない和義さん、少し照れて恥ずかしそうに見えたけれど、ステージを右に左に行き来し、マイクを観客に向けては「心のなかで歌って」と何度も自分の胸を指さし、心のコール&レスポンスをする。声は聞こえなくても“気”が伝わってくると言っていたけれど、確かにみんなの“声”が聞こえたような気がしていた。そして、顔をしかめながら苦しそうな表情で歌う和義さんの、少しでもみんなに近づきたいという気持ちが尊くてマスクの下でみんな泣いていた(と思う)。本編のラスト「Boy」まで笑い泣きの感慨無量のステージだった。

 
 

 
 

この日のアンコールの1曲目は、大切な家族との別れを歌った「朝焼け」(映画『リクはよわくない』の主題歌)だった。〈始まりと終わり 終わりとその次 出会ったこと 感じたこと 全部胸に抱えて〉というリリックとシンプルなギターのカッティングがストレートに心に響く。その余韻と終わってほしくないという想いを和義さんのかき鳴らすアコギが吹き飛ばす圧巻の「I Love Me」。そしてラストは、ツアーの後半で突如加わったドゥーワップショーに和まされた。「ぐるぐる」の最後に、楽器を置いてステージ前方に並ぶ彼ら。何が起こるのだろうと見つめていると、真面目な顔をした寛雄さんが低音を刻んでいる。続いて、真壁さんが声を重ねていく。平里さんも松本さんも。どや顔の和義さんをセンターに、メンバー全員で「ぐるぐる」をゆるく歌い踊った。会場中が笑いに包まれる。これこそが和義さんの、そして“チーム斉藤”のライブの醍醐味。「ラッツ&スターでした」と締めるラストはこの上ないハッピーエンドだった。


思い返すとさまざまなシーンがよみがえってくる。最初の自粛期間中に作られた2本のギターに加え、この日はさらに2本のギターが登場した。浜崎貴司さんから「ミルクティー」と名付けられたギターと、ライトブルーのギター。こちらは配線が足りなくて音が出ないのだと笑う。また真壁さんの両手タッピングに触発され、チャレンジするもののうまくいかず、あははと笑いながら再チャレンジするようすを、寛雄さんも、私たちもみんなニコニコしながら見守っていた。飾らない、ありのままを見せる。そんな和義さんが大好きだと思った。きっと、みんな同じ気持ちだったのではないだろうか。こんな人になりたいと思う。疲弊した心を芯からあたためてもらったようなライブだった。今でも思い出すたびにやわらかい気持ちに包まれる。きっとこの先も、私たちに寄り添い背中を押してくれるだろう。今回、チケットを持っていても参加を断念した方は多い。その方たちの想いをすべて受け取ったうえで、和義さんは言った。「あきらめた人も、参加できた人もどちらも正解」だと。痛めた心も流した涙も、次はきっと笑顔に代わりますように。そして、和義さんが見据えている次のステージに想いを巡らせる。次は、弾き語りかMANNISH BOYSか、それともあのグループだろうか。いずれにしても楽しみは尽きない。

 
 

 
 
 


 
プロフィール用写真shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。10月31日は、和義さんのライブ前に東京競馬場へ。当日は朝から雨が降ったり止んだりだったのですが、G1レース天皇賞(秋)に出走する馬がパドックに登場するころには雨がぴたりと止んで、奇跡のようでした。皐月賞馬エフフォーリア、無敗の三冠馬コントレイル、GI 5勝の牝馬グランアレグリアなど間近で観た各世代のトップホースは誇りに満ちていてとても美しかった。競馬場からライブ会場へのハシゴ…(笑)。かなり無謀でしたが大満足の1日でした。
 
 
 

【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」】
第55回「飄々と颯爽と我が道をゆく。GRAPEVINE “tour 2021 Extra Show”」
第54回「こういうときだからこそ豊かな未来を歌う。吉井和哉さん “UTANOVA Billboard”」
第53回「高橋一生さんの覚悟と揺るぎない力を放つ真の言葉。NODA・MAP第24回公演『フェイクスピア』観劇レポート」
第52回「観るものに問いかける『未練の幽霊と怪物 ー「挫波」「敦賀」ー』」
第51回「明日の原動力になる『パリでメシを食う。』ブックレビュー」
第50回「こんな時代だからこそのサプライズ。優しさに包まれる藤井フミヤさんコンサートツアー“ACTION”」
第49回「いよいよ開催へ! 斉藤和義さんライブツアー“202020&55 STONES”」
第48回「全身全霊で想いを届ける。石崎ひゅーい“世界中が敵だらけの今夜に −リターンマッチ−”」
第47回「西川美和監督の新作『すばらしき世界』公開によせて」
第46回「森山未來が魅せる、男たちの死闘『アンダードッグ』」
第45回「チバユウスケに、The Birthdayの揺るぎないバンド力に魅せられた夜 “GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR”」
第44回「ありがとうを伝えたくなる映画『461個のおべんとう』」
第43回「京都の空を彩る極上のハーモニー。パーマネンツ(田中和将&高野勲 from GRAPEVINE)with 光村龍哉さん『聴志動感』~奏の森の音雫~」
第42回「清原果耶さんの聡明さに包まれる映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』」
第41回「YO-KINGのはしゃぎっぷりがたまらない! 真心ブラザーズ生配信ライブ“Cheer up! 001”」
第40回「ギターで感情を表す本能のギタリスト~アベフトシさんを偲んで」
第39回「真心ブラザーズ・桜井秀俊さんのごきげんなギターと乾杯祭り! 楽しすぎるインスタライブ」
第38回「斉藤和義さんとツアー『202020』に想いを馳せて」
第37回「奇跡の歌声・Uru『オリオンブルー』が与えてくれるもの」
第36回「名手・四位洋文騎手引退によせて。」
第35回「2020年1月・想いのカケラたち」
第34回「藤井フミヤ “LIVE HOUSE TOUR 2019 KOOL HEAT BEAT”」
第33回「ドラマティックな世界観! King Gnuライブレポート」
第32回「自分らしくいられる場所」
第31回「吉岡里帆主演映画『見えない目撃者』。ノンストップ・スリラーを上回る面白さを体感!」
第30回「舞台『美しく青く』から見た役者、向井理の佇まい」
第29回「家入レオ “ 7th Live Tour 2019 ~Duo~ ”」
第28回「長いお別れ」
第27回「The Birthday “VIVIAN KILLERS TOUR 2019”」
第26回「石崎ひゅーいバンドワンマンTOUR 2019 “ゴールデンエイジ”」
第25回「中村 中 LIVE2019 箱庭 – NEW GAME -」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第23回「控えめに慎ましく」
第22回「藤井フミヤ “35 Years of Love” 35th ANNIVERSARY TOUR 2018」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第20回「真心ブラザーズ『INNER VOICE』。幸せは自分のなかにある」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第18回「君の膵臓をたべたい」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第16回「恩返しと恩送り」
第15回「家族の風景」
第14回「三面鏡の女(中村 中 Live Report)」
第13回「それぞれの遠郷タワー(真心ブラザーズ/MOROHA Live Report)」
第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
第9回「スターの品格(F-BLOOD Live Report)」
第8回「ありがとうを伝えるために(GRAPEVINE Live Report)」
第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」

[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”