今年で結成10周年を迎えたホタルライトヒルズバンド。今回はそのアニバーサリーとアルバム『SING A LONG』のリリースを機に、YUMECO RECORDSでメンバー全員のソロ・インタビューを敢行。彼らの活動拠点である千葉県・柏市で、それぞれに思い入れのある場所を巡りながら、朝から夕方まで1人ずつインタビューを行った。ちなみにインタビュー項目の中には、こちらから投げかけた6つの質問の中からひとつ選んでもらう“ランダム質問”のコーナーもあるのでそれぞれが何を選んで語ってくれたかにも注目。

5月某日、朝から柏西口第一公園で小倉大輔さん、柏駅東口ダブルデッキ広場にて小野田尚史さん、ライブハウス柏DOMeで徳田直之さんのインタビューを終えたら、この取材もいよいよラスト! 夕暮れの時間が近づき、あの曲が生まれた柏駅南口近くの陸橋で、藤田リュウジさんにお会いしました。
(取材・文=上野三樹/撮影=藤田駿〈ARIGATO MUSIC〉)

 
 
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藤田リュウジ(作詞作曲・ボーカル・ピアノ・ギター)。大阪府門真市出身、O型。

 
 
――この陸橋はどんな思い入れのあるところですか。
 
「高校生の時に、よく立ち寄っていた場所です。楽器を持ったままちょっと遠回りして歩いたり、時にデートしたり、夕陽が綺麗に見えるので後に『パンザマスト』という曲を生み出すきっかけになった場所でもあります。柏=夕焼けみたいなイメージがありますね。隣駅の松戸が僕の地元なので、高校時代は柏って、ちょっと背伸びをしていく場所だったんです。お洒落なお兄さんお姉さんがいる街って感じで。そこにだんだん親しみを持って『駅の近くにこんな景色があるんだ』って馴染んでいったきっかけが、この陸橋付近でした。東京からこっちに戻ってきて、バンドが始まった当初は特に、柏ならではの、都会でもなく田舎でもない、この絶妙な感じをホタバンで歌いたいなって思っていたんです」
 
 
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――ホタバンが始まった当初から柏の街に根付いた音楽をやって行こうと思っていたんですね。
 
「そうですね。バンドを結成した時に色々と手伝ってくれた音楽業界の方がいて、その方の柏愛、柏からバンドを輩出したいという想いが強かったのもあり。僕も柏に帰ってきてカフェとかで働きながらあらためて良い街だなと思っていたので。柏から全国に、っていうのはいいなと思った。地元への愛はバンドを始めてからどんどん育っていった感じですね」
 
 
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――ホタルライトヒルズバンドのメンバーとして10年を振り返って思うこと。
 
「アルバム『SING A LONG』に、この10年が結構出たな、やりたかったことが全部できたなと思っています。今までだったら『こういうアルバムを作ろう!』って意識しないと作れなかったと思うんですけど。今回、何も考えずにこの1年間でできた曲をパッと集めたら『めっちゃ10年じゃん!』っていうものが作れた。やってきた音楽の幅とか、みんなの演奏スタイルとか、僕の歌い方とか含めて『こういうことをやってきたな』っていう一番濃いポイントがアルバムになった。だからバンドって楽しいなと思ったし、続けてこなかったら絶対に作れなかったアルバムだと思う。やっと10年か、と思う感じもあるし、もう10年経っちゃったかと思う感じもある不思議な作品になって、また次のアルバムを作るのが楽しみになりました。正直、毎回アルバムを作る度に、ここ最近は『次の作品ができるかわかんないな』って自信がない時もあったんですけど、今回はスッキリして次に行ける感じがします。ますます無理しなくなったな。得意なことを全員でやってイエーイ! ってやろうぜっていう(笑)」
 
――そこでこれだけバラエティに富んだ楽曲たちが並ぶのがすごいことだと思う。
 
「結構、ホタバンがやってるようなポップスというか、みんなが聴いて心地良い音楽って難しいよねって言われてきたけど、あんまり実感なかったんですよ。むしろパンクバンドとかの方が続けるの大変だろうなと思ってた。だけどだんだん、尖ってなくて聴き心地が良くて常に平均点以上のポップスみたいなものを意識し始めると、どんどん穴が小さくなっていって、その穴に通さないとアルバムを出しちゃいけないんじゃないかとか自分たちでどんどん制約を作ってしまって。そうやって精神的に参っちゃう人も、割とポップス界に多いと思うんですけど、それもわかるなって感じになっていって。ホタバンが4人体制になって新しいものを作らなきゃと肩に力が入ってた時期もあったし、2人で歌ってたことを1人で歌うことで言葉への責任も変わったし、僕もその穴が小さくなりかけて自信を失いかけた時期もあったんですけど。それがなくなりましたね、完全に。また風通しが良くなった気がしています」
 
――藤田くんが肩の力を抜いて、でもこれだけ進化を見せられる楽曲たちを作って。そこにメンバーみんなが足並みを揃えられたということがとても幸せなことですね。
 
「みんな音楽に対して好き嫌いがなくて、楽曲を作る僕としてはもうちょっと選択肢が狭い方が楽なのかなと思った時期もあったんです。みんな何でも好きだし、何でもある程度、演奏できるところが壁になってた時期もあった。もっと濃いものを作りたいとか思ってしまったりもした。本当に単純に僕が歌ってメンバーが弾けば、ちゃんとホタバンになってるよって、みんな言ってくれてたんだけど。でも、いつも僕は違う材料を入れようとしていて……それをみんなは『違う』とは言わずに見守り続けてくれてた。僕が良い具合に気楽になってく、そのベクトルがみんなともハモるというのが今ですね。しかもただのお気楽じゃなくて、おじさんの本気ですから(笑)。ここがこの先もバンドをやっていく上で一番楽しいところなのかなと思います」
 
 
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――ホタバンのメンバーとしての歩みとは別の、いち個人の10年を振り返って。
 
「結婚して、お坊さんになって、父親になってっていう、なんかもう、ここ3〜4年の変化がすごすぎて(笑)。バンドをやってライブをすることが、今まではあまりに普通のことで、それ以外の物差しがなかったんですけど。今はスケジュールをやりくりして、とっておきの日にライブがある。更にコロナのこともあったし、ライブをするってこんなに特別なことなんだと思って。今日で終わってもいいくらい出しきって歌わないと勿体無いなと思うようになりました。以前はスタジオで練習することやメンバーが集まることすらも、当たり前だと思っていたから、そのまま生きてたらどうなってただろう。そういう意味では色んな人に迷惑をかけてしまったなと反省ばかりの10年とも言えるかもしれない。今となってはライブは非日常で特別なことだし、僕はライブをして、その次の日の朝に法事をやる可能性も大いにあります」
 
――ライブして、法事して、その後オムツを替えて。
 
「オルタナティブですよね〜(笑)。好奇心のままに生きてきたけど、だんだんと責任が伴うようになってきた時に、結果、見てみると人生が面白い混ざり方になってきてるなと思います。どこにいても何をしてても、僕がそこにいることで周りの人と幸せになりたいなと思いますね。『自分が周りを幸せにしてやろう』っていうマインドじゃなくて、自分がそこに行くなら周りの人と丁寧に関わりたい。ライブでもそうですね」
 
――アルバムのラストを飾る「希望」についても聞かせてください。
 
「この曲はレコーディング3日前までできてなくて、みんなに『このアルバムは本当に完成するのか!?』ってヤキモキさせたと思いますけど。この曲は届けたい人を一番シンプルにしました。というのも、メンバー3人に向けて書いたんです。10年の節目に一体誰に『ありがとう』って言いたいかというと、お客さん、家族、友人、バンド仲間もそうですけど、やっぱりメンバーだなと思って。そこが定まるまでに時間がかかりました」
 
――メンバーのどういうところに一番感謝していますか。
 
「やっぱり、三樹さんがライナーノーツで書いてくれてたところですね。〈太陽いっぱいに照らせなくたっていいよ/同じ影の中にいたい〉。僕はとにかく、声が明るいからあんまり暗い曲を歌うのは向いてないよねって、よく言われてきたんです。僕は根も明るいし自分でも良くわかってるんですけど、暗いところにいられないというか。でも、自分で見ようとしてなかっただけで、バンドにとって暗い時期ってやっぱりあって。無理やり僕はそれを明るく見せようとしてたりとか、『いや、今は明るいから!』って言ったりしてきたと思うんですけど、そういう時にメンバーは影にいてくれてたんだなってことを今になってやっとわかるというか。感謝もあるけど『希望』という曲は、反省の曲でもあるのかもしれないですね(笑)。こんなにポジティブに歌ってきたけど、やっと影の部分にいることの温かさにも気づけたし、それはそこにメンバーがいてくれるからだったし。そういう気持ちに気づけたのは大きかったから、歌いたかったんです。最初は夢や願望を歌うバンドだったけど、正直それだけじゃないんだって人生でわかってきた上で、自分よがりじゃない、けど温かい気持ちになれるものって何だろうって考えた時に、それは僕の中で音楽だった。今、音楽という言葉にぴったりなものは『希望』だったし、そこにはエゴが入る余地がないと思ったんです。『希望』は『希望』でしかないし、いくつ持ったって人に迷惑をかけるものではない。今のホタルライトヒルズバンドには『希望』があるなあと思うんです。みんなそれぞれ、希望を持って、音楽をやって行こうっていう。僕は今までそれは夢じゃなきゃいけない、願望じゃなきゃいけない、野望じゃなきゃいけないって、そういうエネルギーを時にメンバーに押し付けてたかもしれないですね」
 
――確かにこうしてメンバー全員取材して思ったのは、野望というより、それぞれの希望を持って音楽と向き合っていたし、あと藤田くんのことをすごく理解してくれていますね。
 
「そうですねえ……。だから今回はどうしても『希望』というこのメンバーに向けた曲を書いてアルバムを完成させたかったんです。かといって大袈裟な曲にならず、素朴な音で仕上げられたことも、嬉しかったんですよね」
 
 
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千葉県柏市では「夕焼け小焼け」のメロディを「パンザマスト」と呼ぶ。
ホタバンの「パンザマスト」はまさにこんな夕景から生まれた。

 
 
――では藤田くんのランダム質問はどれにしますか?
 
「僕は『自分の心を支えてきたホタバンの1曲』にしようかな。これ誰か選びました?」
 
――いや、今回6つ用意しましたがメンバー全員が違う質問を選ばれました。
 
「そうなんだ(笑)。僕にとって、それは『ビューティフル』という曲なんですけど。この曲を作ったことは今だに大きいですね。ホタバンの代表曲とも言われがちですけど、自分自身に跳ね返ってくることが多い曲でもあります。この曲の良いところはひとつで、それは〈ビューティフルじゃなくても〉と歌えているところ。その言葉がいつも〈今、ビューティフルになろうとしてないか?お前〉って自分に跳ね返ってくる。あの歌が今までもこれからも自分が目指していくところを歌ってる歌だと思うんです。バンドでもずっと節目には演奏するし、10年だけじゃ完成しない、20年、30年、歌い続けていく余白がある曲だなと思っています。お坊さんになって仏教を勉強してからこの曲の歌詞を見ても、何というか、教えがある歌詞だなと思うんです。学校に通ってお坊さんの友達が増えた時に、僕が書いた曲を聴いてもらうと『これって仏教を勉強した後に書いた曲ですか?』って聞かれたりするんですけど、全然そうじゃなかったりするんですよ。『エンディングノート』とかも仏教の教えに通じるものがあるみたいで、もともとそういう歌をずっと歌い続けてるんだなと思います。要は一生懸命、生きてるって何だろうって考え続けるってこと。それはお坊さんの仕事でもあるし、音楽をやってて、それを大きな声で歌える。お坊さんになったことで自分の歌が変わっちゃうかなと思ったけど、全然そんなことなかった。『ビューティフル』を歌っていると大丈夫だなと思うんです。だからこれからも、このゼロ地点を見失わないようにしたいですね」
 
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――これからどんなバンドになっていきたいか、今後のホタバンに期待していることは。
 
「最近メンバーとも話すんですけど、僕らがまず楽しく生きて、人生って不思議だけど面白いよねって言いながら、だんだんと衰えていく体を引きずりながら(笑)、ロックしていく。それがたぶん、ホタバンならではの『ビューティフル』でもあると思うんですよね。それがこの先もできたらカッコいいなと思います」
 
――うん、アルバム『SING A LONG』、ほんと素晴らしい作品なので私としては、みんなもっとホタバンを聴いてもらいたいなと思ってます!
 
「そうですね。もっと『聴いて聴いて!』って言えたらいいんだけど、そういうところが下手なんですよ(笑)。そんな宣伝下手なバンドですけど、これからも良い曲を書いて、良いライブをするというシンプルなことを一生懸命やっていくってことかな……って、インタビューの締めとしては面白い発言じゃ無いですけど(笑)、これを迷いなく言える時期ってそんなに多くはないってこともわかってるから、これからもぎこちなくやっていきます!」
 
 
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ホタルライトヒルズバンド 10周年記念メンバー全員インタビュー in 柏
第1回 小倉大輔(ベース)編
第2回 小野田尚史(ドラムス)編
第3回 徳田直之(エレキギター)編

 
 
 
 
SING_A_LONG_JKサムネ&本文最後掲載用画像
▼『SING A LONG』各配信サイトURL
https://nex-tone.link/A00087134

 
 
 
 


 
IMG_0678 上野三樹●YUMECO RECORDS主宰 / 音楽ライター / 福岡県出身。『音楽と人』『anan』『月刊ピアノ』などで執筆中。最近の趣味は、ピラティスと洋服づくりと韓国ドラマ。