気がつけばあっという間に6月に入りました。関西は例年より早い5月の梅雨入りでしたが、無事に初日を迎えた斉藤和義さんのツアー「202020&55STONES」に参加したり久々に友人と連絡を取り合ったりして、湿気を忘れるぐらいワクワクした1か月でした。和義さんのライブレポは、ツアー終了後にゆっくりとお届けすることにして、今回は、先日読んだ川内有緒さんの著書『パリでメシを食う。』(幻冬舎文庫)とGRAPEVINE(以下バイン)の新譜『新しい果実』をご紹介したいと思います。
『パリでメシを食う。』というインパクトのあるタイトルに惹かれて手にとったこの作品は、著者の川内さんが、フランス・パリで過ごした5年半に出会った日本人たち10人にインタビューをして、彼らの暮らしをつづったもの。カメラマン、フローリスト、スタイリスト…。どのようなことがきっかけで、パリに住むことになったのか、パリの街の印象は、そしてこれからもパリに住み続けるのか。順風満帆ではなくトラブルの連続。パリだけでなく、異国の地で生活することはたやすいことではないのは誰の目にも明らかだ。決して迷いがないわけではない。だけど、あえてその状況に身を投じていくことの覚悟と潔さ。日本で描いていたパリのイメージとのギャップ、厳しい現実に絶望した人もいる。騙されて無一文になった人もいる。でも、そんな苦しくて眠れないほどの日々を越えて、彼らは軽やかに笑っている。辛くてもあきらめない、一途な想い。だけど、その想いに執着はしない柔軟さ。この表裏一体の、相反するふたつのバランスが、異国だけでなく、この世界を生き抜くためのヒントなのかもしれない。導かれるように、その場所にたどり着くこともある。筋書きのない予測不能な人生は、楽しんだもの勝ちだなと何度もうならされ、清々しい思いに包まれた。
読みながら「そうだった。私はパリで生活したかったんだ」と遠い記憶が蘇ってきて、懐かしい思いに浸りました。パリを旅したとき、分厚い鉛色の雲に覆われたパリの街並みはどこを切り取っても凛としていて、旅行じゃなくてここに住みたいと、フランス語習得のためスクールに通い、短期留学やホームステイの情報を集めていた日々があったこと。結局、目先のことを優先して実現には至らなかったけれど、もし渡仏していたら、今ごろどんな生活だっただろうかと、自分の人生について想いを巡らせる機会を与えてもらったような気がしている。文中に、長く続く今のこの状況にも当てはまる、とても惹かれたフレーズがある。「二人はいつもモノゴトの明るい面だけを見る方法を知っている。そうして、トラブルはいつかチャンスになり、無謀な旅はいつしか冒険になる」。一歩を踏み出す原動力になる、おすすめの一冊。
そして、5月26日にはGRAPEVINE(以下バイン)の新譜『新しい果実』が発売されました。おなじみのメンバーで作り上げた本作は、バインらしさがそこかしこにたゆたう名曲揃いだ。憂いに満ちた琴線に触れるメロディー、世間を皮肉りながらも本質に触れ心揺さぶるメッセージ。そして、6月からの全国ツアーでさらに化けるであろう楽曲たちにゾクゾクさせられた。どんな状況であっても、飄々と颯爽と我が道をゆく。バインのかっこよさがここにあるような気がする。デビュー約25年のベテランでありながら、このアルバムにどこか新鮮さを感じるのは、久々にバンドとして集結した彼らの高揚感が溢れているからかもしれない。まだまだ底を見せていないGRAPEVINE、恐るべしである。
shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日は、1年以上開催が延期されていたTHE GROOVERSとThe Birthdayのライブへ。藤井兄弟というとフミヤさん、尚之さんが有名ですが、こちらは広島県福山市出身の藤井一彦さんとフジイケンジさんの兄弟対決に盛り上がりました。お兄さんから譲り受けたギターを手にTHE GROOVERSのステージにはにかみながら登場したケンジさん。何だか弟の顔になっていて、二人仲良く並んでギターを鳴らし合う姿に子ども時代を想像して感動しきり。The Birthdayのアンコールに一彦さんが登場したときチバさんが言った「福山の名産品!二人!」はほほえましくて、熱気と多幸感に満ちた最高の一夜でした。
【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」】
第50回「こんな時代だからこそのサプライズ。優しさに包まれる藤井フミヤさんコンサートツアー“ACTION”」
第49回「いよいよ開催へ! 斉藤和義さんライブツアー“202020&55 STONES”」
第48回「全身全霊で想いを届ける。石崎ひゅーい“世界中が敵だらけの今夜に −リターンマッチ−”」
第47回「西川美和監督の新作『すばらしき世界』公開によせて」
第46回「森山未來が魅せる、男たちの死闘『アンダードッグ』」
第45回「チバユウスケに、The Birthdayの揺るぎないバンド力に魅せられた夜 “GLITTER SMOKING FLOWERS TOUR”」
第44回「ありがとうを伝えたくなる映画『461個のおべんとう』」
第43回「京都の空を彩る極上のハーモニー。パーマネンツ(田中和将&高野勲 from GRAPEVINE)with 光村龍哉さん『聴志動感』~奏の森の音雫~」
第42回「清原果耶さんの聡明さに包まれる映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』」
第41回「YO-KINGのはしゃぎっぷりがたまらない! 真心ブラザーズ生配信ライブ“Cheer up! 001”」
第40回「ギターで感情を表す本能のギタリスト~アベフトシさんを偲んで」
第39回「真心ブラザーズ・桜井秀俊さんのごきげんなギターと乾杯祭り! 楽しすぎるインスタライブ」
第38回「斉藤和義さんとツアー『202020』に想いを馳せて」
第37回「奇跡の歌声・Uru『オリオンブルー』が与えてくれるもの」
第36回「名手・四位洋文騎手引退によせて。」
第35回「2020年1月・想いのカケラたち」
第34回「藤井フミヤ “LIVE HOUSE TOUR 2019 KOOL HEAT BEAT”」
第33回「ドラマティックな世界観! King Gnuライブレポート」
第32回「自分らしくいられる場所」
第31回「吉岡里帆主演映画『見えない目撃者』。ノンストップ・スリラーを上回る面白さを体感!」
第30回「舞台『美しく青く』から見た役者、向井理の佇まい」
第29回「家入レオ “ 7th Live Tour 2019 ~Duo~ ”」
第28回「長いお別れ」
第27回「The Birthday “VIVIAN KILLERS TOUR 2019”」
第26回「石崎ひゅーいバンドワンマンTOUR 2019 “ゴールデンエイジ”」
第25回「中村 中 LIVE2019 箱庭 – NEW GAME -」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第23回「控えめに慎ましく」
第22回「藤井フミヤ “35 Years of Love” 35th ANNIVERSARY TOUR 2018」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第20回「真心ブラザーズ『INNER VOICE』。幸せは自分のなかにある」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第18回「君の膵臓をたべたい」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第16回「恩返しと恩送り」
第15回「家族の風景」
第14回「三面鏡の女(中村 中 Live Report)」
第13回「それぞれの遠郷タワー(真心ブラザーズ/MOROHA Live Report)」
第12回「幸せのカタチ」
第11回「脈々と継承されるもの」
第10回「笑顔を見せて」
第9回「スターの品格(F-BLOOD Live Report)」
第8回「ありがとうを伝えるために(GRAPEVINE Live Report)」
第7回「想いを伝えるということ(中村 中 Store Live/髑髏上の七人)」
第6回「ひまわりのそよぐ場所~アベフトシさんを偲んで」
第5回「紡がれる想い『いつまた、君と~何日君再来』」
第4回「雨に歌えば(斉藤和義 Live Report)」
第3回「やわらかな日(GRAPEVINE Live Report)」
第2回「あこがれ(永い言い訳 / The Birthday)」
第1回「偶然は必然?」
[Live Report]
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ“SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”