今年で結成10周年を迎えたホタルライトヒルズバンド。今回はそのアニバーサリーとアルバム『SING A LONG』のリリースを機に、YUMECO RECORDSでメンバー全員のソロ・インタビューを敢行。彼らの活動拠点である千葉県・柏市で、それぞれに思い入れのある場所を巡りながら、朝から夕方まで1人ずつインタビューを行った。ちなみにインタビュー項目の中には、こちらから投げかけた6つの質問の中からひとつ選んでもらう“ランダム質問”のコーナーもあるのでそれぞれが何を選んで語ってくれたかにも注目。5月のよく晴れたある日、朝一番に柏駅で待ち合わせしたのは、大ちゃんこと小倉大輔氏。彼が選んだ思い入れのある場所は、柏駅から徒歩10分ほどの場所にある柏西口第一公園。公園のベンチに座って、虫が飛んできたり、工事現場の音や小さい子供たちの声が聞こえてくる中で、和やかにインタビューしました!(取材・文=上野三樹/撮影=藤田駿〈ARIGATO MUSIC〉)
――柏西口第一公園に来ました。ここはどんな思い入れのあるところですか。
「実は今日、僕は初めて来たんですけど。ゆうかちゃんという、前にいたメンバーが撮影で使った公園なんです。ホタバンは10周年を迎えましたけど、この10年の中には5人だった時期も、もちろん含まれていて。ボーカルが一人抜けるというのは他のパートが抜けるよりも大きいことだったと僕は思うんです。だから結構、ゆうかちゃんが抜ける前には深夜に集まってスタッフさんも含めて話し合うことも多かったし。4人になると決まってからは、僕らは前に進むしかなかったので」
――ゆうかちゃんと大ちゃん、仲良かったですよね。
「そうですね。そもそも僕はゆうかちゃんと専門学校の同級生で、学校に通っていた時はあんまり喋らなかったんですけど。ホタバンが始まる前に、ゆうかちゃんとスリーピースのバンドをしていたんですよ。でもゆうかちゃんがホタバンに誘われてそっちに入りたいんだけどって相談を受けて。僕はゆうかちゃんの人生だからゆうかちゃんが決めたらいいと思って、『やりたいことをやった方がいいよ』って言いました。そうしてホタバンの前身バンドであるネロが出来上がって、僕とゆうかちゃんが組んでたスリーピースバンドは解散したんです。そんな経緯で、今度はゆうかちゃんが僕をホタバンに誘ってくれて、最初はサポートで入りました。なので、ゆうかちゃんがいなかったら僕はホタバンに入ってないですし、存在としては大きかったですよ。だけど、ゆうかちゃんは今、別のユニットで音楽活動を続けていて、僕らは4人でホタバンを続けていて、お互い楽しそうにやれてるから良かったなと思います。ゆうかちゃんがホタバンを抜けたことで音楽も辞めちゃってたら僕は一生、引きずってたと思うんですけど。SNSでゆうかちゃんがライブをしている笑顔の写真とか見ると嬉しくなります。……お!(こちらに向かって虫が飛んで来て、追い払ってくれる)これは攻撃してこない大丈夫なやつだと思います。僕は……(虫を)見たい気持ちもあるんですけど」
――見たいですか(笑)。虫が好きなんですよね。
「虫も好きですし、生き物全般が好きです。最近は、4月に誕生日を迎えたこともあり色んな方に虫のグッズをプレゼントしてもらうことが多いです。本とか、虫柄のバッグとか。食べるコオロギやバッタまでいただきました。(地面を見つめて)アリとかもすごくないですか? この大きさで同じ命があって社会を作って生きてるんですよ?(と、ここからしばし虫の話が続きます…)感動しますよね」
――ホタルライトヒルズバンドのメンバーとして10年を振り返って思うこと。
「10年って長いのか短いのか……。最近、人生ってすごく短いもんだなって思うんですよね。震災とかも起こるし、何があるかわからない。平均寿命をフルで生きたとしても、男性で80歳くらい。その8分の1をバンドやってるってすごいなと思うんです。人と付き合うのは好きだけど、難しい時もあるじゃないですか。それでも一緒に10年も一緒にバンドをやってるってすごいなってあらためて思いましたね」
――アルバム『SING A LONG』の制作中に感じたこと、作り終えての手応え。
「もともと去年『金魚のジョン』が〈みんなのうた〉に決まった時点で、シングルにしようという話になったんですけど。コロナ禍でライブもできない中、CDとしてリリースするのは難しいんじゃないかっていう意見も出てたんです。ライブ会場の物販で売ることも、インストアライブもできない、ましてやファンの方にCD屋さんに行ってもらうことも、今はどうなんだろうって。だから配信でリリースにしようという話になって。『金魚のジョン』と『ラブソングス』を配信リリースのために録音して、『ダンデライオン』ももともとあったし、『Sunny Sunset Music』はARIGATO MUSICの企画で作ったものなので、実際アルバム用にレコーディングしたのは『またね』と『希望』だけなんですよ。その2曲のデモを聴いた時に、ノスタルジックな音色にしたいなと思ったんです。僕はいつも、フレーズよりも先に音色のイメージが沸くんですけど。ベースの音色をどうしようかなと考えた時に、ノスタルジックにすると言っても、すごく曖昧なものじゃないですか。『おふくろの味』ってどんな味かよくわからないみたいに(笑)。サウンドもそうで、人それぞれにノスタルジーがあるから、みんながそれを感じるような音を探さなきゃいけなくて。自分が小さい頃に両親が家や車でかけてた音楽が懐かしいものだと思うんですけど、それもそれぞれに違う。でも両親にもお父さんお母さんがいてノスタルジーが受け継がれてる。そう考えた時に、どんどん辿っていくと昔の方が音楽ってシンプルだったと思うんです。ベースも倍音が少ない、ベースらしいベースの音というか、そういうものだったんじゃないかなと。だからその2曲は本当にシンプルなベースの音を意識して作りました。今まであえてやってなかった音色でやっているので、そこはこだわりでした」
――ホタバンのメンバーとしての歩みとは別の、いち個人の10年を振り返って。
「いち個人としての10年は、ベース以外にも色々やっていて。ベースと同じくらい絵を描くのが好きですし、メンバーも知らないかもしれないけど色んな楽器をやっています。テルミンを家で練習したり、サンプラーやシンセを買って遊んでみたり。なんだかんだ言って結局ベースに戻るんですけど(笑)。ライフスタイル自体はそんなに変わってないです。多分、メンバーの中で僕が一番変わってないんじゃないですかね。2年前くらいにバイトを辞めたっていうくらいで」
――バイトを辞めたきっかけは?
「僕、ベースでサポートをやったり、あとは映画などでの劇中演奏指導の仕事もやったりしてるんですけど、あるタイミングで『あ、(バイトを辞めても)大丈夫だ』と思って。色んなバンドでサポートをすることで、ホタバンにも還元されてると思います。曲を書く人って、音楽以外の生活が曲に還元されていくじゃないですか、リュウジくんもお坊さんをやってることは曲作りに還元されてると思うし。でも僕は曲を書かないので、色んなところでベースを弾くことがバンドに還元されると思います。演奏指導のお仕事も面白くて、俳優さんたちに役の中でも楽器に触れる時には楽しんでやってもらえた方が身につくと思うので、どうしたら楽しんでもらえるかを考えながらやっています。もともと映画『覆面系ノイズ』という作品をホタバンで演奏指導させてもらったんですけど。その後に、たまたま高校の同級生と再会して、その人が映画のキャスティングのプロデューサーをしていたこともあり、またお仕事させてもらったりしています」
――ランダム質問はどれにしますか。
「えーっと、どれにしようかな。じゃあ、『ホタバンのメンバーとしてこれだけは誇れること』。誇れることは、自分とメンバーが楽しく音楽をしていて、それを喜んでくれるお客さんがいるってこと。やっぱり自分たちだけじゃなくてお客さんにも楽しんでもらえないと『何でやってんの?』ってなっちゃうと思うので。それを続けてきたことは誇れることだと思います」
――これからどんなバンドになっていきたいか。今後のホタバンに期待していること、そのためにやらなきゃいけないと思っていることなど。
「ホタバンって振り幅が色々あるというか、たぶん何をやってもホタバンはホタバンになると思うんですよ。例えば極端な話、ハードロックっぽいことをしてもホタバンになる。それを考えた時に、ホタバンは今、4人いて誰か1人がそこに入った時の化学反応ってすごいんですよ。今作でも中村(“tono”僚)さんが入ってくれたことでサウンドが変わったし、メンバーだけだとそもそもああいうアレンジは出てこないし。そこがやっぱり面白いところで。音楽的な面だけじゃなくて、僕らは普段からライブが終わっても打ち上げとかそんなにしないバンドだし、今日はみんなと『おはよう』と『お疲れ』しか言ってないなっていうこともあるくらい、会話は少ないけど意思は通じてる熟年夫婦みたいな4人なので(笑)。そこに、もう1人誰かが入ることでよく喋るようになるし、ライブでも誰かがサポートで入ってくれたりすると、会話もサウンドも全然違ってきて、また新しい方向性が見えてくるのがいいですね。ホタバンは結構、色んな楽曲に幅広く対応できるし、それでいてどうやってもホタバンらしくなるし、誰かが1人加わるとまた変わるっていうのは今後も期待できるところだと思います」
次回は小野ちゃんこと小野田尚史氏(ドラムス)のインタビューを6月10日(木)に公開します。お楽しみに!
上野三樹●YUMECO RECORDS主宰 / 音楽ライター / 福岡県出身。『音楽と人』『anan』『月刊ピアノ』などで執筆中。最近の趣味は、ピラティスと洋服づくりと韓国ドラマ。