やわらかい陽射しが気持ちのいい季節になりました。まだまだ収束の兆しが見えない毎日ですが、先日行われた水泳の日本選手権での池江瑠花子選手に勇気づけられた方は多いのではないでしょうか。大変な病気を克服されただけでも素晴らしいことなのに、体力も筋力も衰えている身体で凄まじいほどのリハビリとトレーニングを経て掴み取った4冠の重み。この場所に戻ってくるための日々。あの涙のインタビューには心が震え、池江選手の強い気持ちと澄んだ視線の先に、私たちが今の状況を乗り越えていくヒントがあるような気がしました。この状況も、悪いことばかりではないと信じたい、そう思っています。そして、2017年にスタートしたこの連載もこの4月で5年目に突入しました。ありがとうございます。主宰の上野三樹さんから、連載をさせていただけると連絡をいただいたあの日のこと。舞い上がって、無意識に化粧ポーチをゴミ箱に放り込んでいたこと、スマホがない! と探していたら、冷蔵庫に入っていたこと(笑)。これからも、あの日の気持ちを忘れずに書き続けていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

 
 
IMG_6808
 
 

そして、いよいよ5月から始まる斉藤和義さんの全国ツアー。ツアーに先駆けて発売されたアルバム『55 STONES』。この自粛期間を振り返って、和義さんは「音楽が仕事でよかった」と語っていた。「音楽は家でも作れるし、楽器を弾くことで暇つぶしができる」と。もちろん、ライブができないという苦悩の先の言葉だが、以前、和義さんが「音楽以外のことに興味がない」と言っていたことを思い出した。いやなことやへこんだことがあったときはギターを鳴らす。そうすると気持ちが晴れて、ギターがすべての悩みを解決してくれたのだと。今回のアルバムは、自粛期間中、和義さんがありとあらゆる楽器と機材を駆使し、コツコツと地道な作業と試行錯誤を重ね、一人多重録音で作り上げた楽曲が多く収められている。YMOの「BEHIND THE MASK」のカバーがあり、ツアーを共にするバンドメンバーが参加した楽曲もあり、バラエティに富んだラインナップだ。


なかでも「木枯らし1号」のクレジットを見て思わず声を上げた。そこには、The Birthdayのギタリストであり、和義さんのライブを2014年までサポートしてきた藤井謙二さんの名前があったからだ。いつの間に? 秘すれば花とはこういうことを言うのだろうか。まさにサプライズ。和義さんのインタビューによると、2013、14年ごろのレコーディングで、藤井さんが何気なく弾いたギターのフレーズに惹かれ、ちゃんと曲にしたいと二人でスタジオに入って作った曲なのだそう。当時は歌詞がつかなかったためにそのままになっていたが、今回、満を持して藤井さんとのレコーディングが実現したのだという。OKを出しても、納得のいかない藤井さんが何度もやり直して、レコーディングがなかなか終わらなかったと話す和義さんの口調から、お二人の変わらない関係性のよさがうかがえた。当時からひたむきにギターを鳴らす姿はめちゃくちゃかっこいいけれど、話すと天然の藤井さんに和義さんのつっこみは容赦なく、そんなお二人のやり取りがとても微笑ましくて大好きだった。また、ライブで藤井さんの話が聞けることも楽しみのひとつだ。

 
 

 
 

いつだったか、和義さんが「バンド、いいなぁ」とつぶやいた姿を見たことがある。吉井さん(THE YELLOW MONKEY)、民生さん(UNICORN)たちのことを思っていたのだと思う。バンドの大変さもすべて知り尽くしたうえで、それを上回るバンドの結束力、誰かと共作する喜び、心の拠り所となる“帰る場所”があることをほんの少し羨んでいたのかもしれない。以前、バンドメンバーと一緒に曲を作りたいと言っていたのもこうした想いがあるからなのだろうか。一緒に作れたら楽しいし、それが理想とするバンド像でもあると。今回のバンドメンバーは、2015年のツアーから和義さんのライブには欠かせない真壁陽平さん(Gt.)と山口寛雄さん(Ba.)。お二人とも、和義さんが「いいな」と思い、声をかけたことがきっかけだという。


真壁さんの、ギターの固定概念を覆すプレイとカラフルで豊かなフレーズ、寛雄さんのメロディアスで揺るぎのないベースラインは、和義さんに寄り添い、一層華を添える。和義さんのスタジオライブなどで、すでにその存在を不動のものにしているドラムの平里修一さんは、和義さんの無茶ぶりにも難なく応えてくれるのではないかと期待している頼もしいキャラクターだ。そして、初参加の松本ジュンさんは、その名前だけでもインパクトがあるけれど、藤井フミヤさんや錦戸亮さんのツアーなどでも人気のキーボーディスト。ふわっとした爽やかなプレイは、ステージをより鮮やかに盛り上げてくれるに違いない。唯一心配しているのは、和義さんからの下ネタの洗礼。負けないでほしい(笑)。50代(和義さん)、40代のバンドメンバーのなかで最年少の20代。そんなことも含めて可愛がられる存在になりそうだ。


ツアーの前には(4月27、28日の2日間)特別企画として「“202020”幻のセットリストで2日間開催!~万事休すも起死回生~」(東京・中野サンプラザ)が開催され、後日配信も予定されている。そして、5月から9月まで続くツアー「202020&55 STONES」。どんなドラマが待っているんだろう。和義さん自作のギターはお披露目されるのだろうか。無事の開催と完走を願いながら、すでに頭のなかでは(アルバムから先行シングルとして発売された)「Boy」がリピート再生中だ。曇りのない、真っ青に晴れ渡った空を突き抜けるような疾走感に溢れたこの曲を聴きながら、手をひらひらと振り、時には毒を吐き、下ネタに“ぐふふっ”と笑う、和義さんの姿を想う。和義さんとメンバーの極上のセッションに心を躍らせながら、楽しみを通り越して、すでに泣きそうになっている日々である。

 
 

 
 
 


 
プロフィール用写真shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日、東京・渋谷PARCOで朗読劇「ラヴ・レターズ」を観ました。幼なじみの二人が長年にわたり交わしたラブレター。向井理さんと青葉市子さんが椅子に座り、その表情と声で、私たちに情景を伝える。言葉にならない行間から、二人の秘めた想いがこぼれてくるようだった。向井さんの、甘い穏やかな声、時折、長くて細い脚を組む姿も、のどを潤すタイミングも美しくてたった1日限りの公演だったのがもったいないぐらい贅沢な時間でした。
 
 
 

【shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」斉藤和義さん関連記事】
第38回「斉藤和義さんとツアー『202020』に想いを馳せて」
第32回「自分らしくいられる場所」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第21回「かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビーチク~」
第17回「Toys Blood Music」
第4回「雨に歌えば」
第1回「偶然は必然?」


★特別企画
「Live Love Letter~私たちが愛するライブハウスへの手紙~」


★Live Report
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUTOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016“風の果てまで”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “風の果てまで”