さあ、始まりましたGAL Radio。今年もよろしくお願いします。
昨年高橋 圭としてはシングル「ひまわり」「Noël」の2作を配信リリース、作曲家の仕事も始まり音楽を作る楽しさと難しさを強く感じた年でした。同時に暗いニュースばかり垂れ流され、つい心もそのチャンネルに合わせてしまいがちだった1年でもありました。それでも『自分にとって大切なものはこれだ!』と思い出させてくれた12月30日リリースのTRICERATOPSさんのトリビュート盤と同日、新木場COASTにて行われたライブについて今回お話して参ります。まずはこちらをどうぞ!
▼TRICERATOPSトリビュートアルバム「TRIBUTE TO TRICERATOPS」 – イープラス特設サイト
「TRIBUTE TO TRICERATOPS」ディスクレビュー
ファンファーストな想いが詰まった作品
2002年にリリースされたシングル『2020』にちなんで企画された豪華トリビュート盤で、作品やステージで共演してきた親交の深いミュージシャンが集まっています。お三方の音楽性とお人柄、スタッフさんとのチームとしての関係性があってこそでしょう。
プロの中でも特に個性が確立された方々のアレンジはそれぞれの持ち曲かと思わせるフィット感で最大の聴きどころです。トライセラは『踊れるロック』なパブリックイメージですが縦揺れよりも横揺れなナンバーが多くチョイスされている選曲の妙も面白い点と言えます。
バンド名の文字数と同じ11曲+ボーナストラック1曲(事前発表一切なし)でリリース当日までワクワクさせてくれる粋な計らいや、ブックレットの歌詞、クレジット、選曲理由やトライセラとの繋がりについてのコメント、全員のサインが並ぶ見開きに至るまで、ファンが愛してきた曲を「俺もこの曲好きだよ」と気持ちを共有出来るのが今作の醍醐味。
ストリーミングも定着し様々な手段で音を届けることが可能な時代に「その作品にとって最も伝わる方法は何か」を考えまずはファンに届けるべくCDでリリースしてくれたと想像すると胸が熱くなります。それはトライセラが貫いてきた自分たちが楽しめるものをファンと共有するスタンス、音楽への真摯的なマインドそのもの。様々なものが分断させられてしまいそうな年に、トリビュートという繋がりを感じる作品で示したことも強い意味を感じさせます。
マネージャー・大森洋さんの今作についての胸熱ブチかまし案件確定最&高な記事も是非。
▼15_CD「TRIBUTE TO TRICERATOPS」が繋ぐ物語
全曲解説
1.奥田民生 – ロケットに乗って
カンタンカンタビレ出張編とでも言いましょうか「さすらい」っぽさもあるイントロど頭から民生さんグルーヴ全開でゴキゲンです。アウトロのフランジャーとアナログディレイの発振音がロケットのエンジン音のよう。和田唱さんが学生時代に楽器屋で出会った民生さんからアルバムが始まるというのも良き。
2. GRAPEVINE – 2020
1997年デビューの同期バンドとして共に歴史を重ねてきたバインからの直筆の手紙のようなさりげなくも愛に満ちたサウンド。ヒンヤリとした空気を徐々に昇る朝日が景色の全てを温めていくような、凪の海のように穏やかに、でも大きくうねり暴れています。彼らの新曲と言えるほど美しさを感じます。
3.LOVE PSYCHEDELICO – New Lover
節回し、譜割りやメロディーラインはデリコそのもの。今回紅一点ですがトライセラの曲は女性が歌うと更に素敵な曲も多く色んな方にカバーして貰いたい。今作参加陣はトライセラ同様、特にビートルズに影響を受けており、この曲の逆再生ギターなどビートルズライクなアレンジも聴きどころです。
4.スキマスイッチ – if
トライセラはスリーピースのアンサンブルでどう響かせるかをひとつのテーマに体現してきたバンドだと思うのですが、この曲のスウィートさをスキマらしくエレピやホーン、オルガンなど軽やかにポップに描くサービス精神。神企画 “THE PLAYLIST” で是非聴いてみたい。大橋さん歌上手すぎ…
5.Base Ball Bear – Raspberry
小出さんの声のネオシティーロックな雰囲気がピッタリ。アルバムの中盤でコピーに近い形が一つ来るだけでトリビュートとしての幅が広がっています。原曲に忠実に再現するって実は一番難しかったりするのでこの曲を真正面から演奏しつつちゃんとベボベらしいグルーヴにもしているところ、凄いです。
6. OKAMOTO’S – Guatemala
トライセラの根底にあるアンチスタンダードな部分、抗うというよりはスルリと「俺らならこう表現するよ」と提示してくるスタイリッシュさとサイケデリックさを見事にカバー。今回コウキ君がメインボーカルを取るというのもニクい。(「なんかホーリー」「WENDY」など彼のボーカル曲は良きです)
7. UNISON SQUARE GARDEN – 赤いゴーカート
新たな歌詞と転調まで付け加えてくれる愛! カバーの新しい形を提示していながら最高のクオリティとオリジナリティを放っています。2分39秒の間にユニゾンエッセンスが満載な展開と斎藤さんの可愛いボーカルはまさにゴーカートがアクセルベタ踏みでギュオギュオ走り回るよう。演奏上手すぎます。
8.山崎まさよし – シラフの月
タイトルはシラフですがウイスキーでも飲みながら聴きたくなる上品な演奏。山崎さんだけに。。。ずーっと同じコード進行で展開するトライセラの真骨頂な一曲をこんなに贅沢でいいんでしょうかと思いながらも酔いしれるシックなアレンジ。ガットギターソロは思わず目蓋を閉じて体が斜めになります。
9.仲井戸“CHABO”麗市 – New World
スナフキンのようなさすらう旅人が醸し出す流浪感。心地良いアコギの上をポエトリーリーディングも交えながら音符と音符の間をブルージーに転がっていきます。極限までシンプルに削ぎ落とし曲の骨格を浮き彫りに孤独さも強調させつつやさしく響かせるCHABOさんは本当に凄いミュージシャンです!
10.KAN – トランスフォーマー
原曲が持つ可愛さを最大限に引き出しタイトルにちなんで曲を変形させてく遊び心に思わず笑顔が零れてしまいます。ラストにあのギターリフを持ってくるお洒落さたるや。宮崎由加さんの“TransWhisper”が降臨するきゃりーさん好きなKANさんらしいアウトロは今作のハイライトのひとつです。エンターテイナー!
11.Quattro Formaggi(桜井和寿+TRICERATOPS) – ラストバラード
『ご本人たちもセルフカバーで参加するトリビュート』という形も斬新。Mr.Childrenの最新アルバム『SOUNDTRACKS』でネクストレベルへと進化した“ゴルゴン”桜井氏のレアチーズケーキをやさしく包む肌触りのいいあのガーゼのようなファルセットと心にブッ刺さる地声のボーカルの使い分けは圧巻です(チーズにまつわるバンド名なのに別のチーズを例えに出してごめんなさい)。2012〜3年頃トライセラはメンバー脱退の可能性を抱えた時期がありました。2014年桜井さんと共演、マッジオのオリジナル曲「Stand by me」は苦難を乗り越えたバンドとファンへのご褒美のように思えました。アルバム『REFLECTION』収録「未完」はトライセラに影響されて書いたとも言われており、お互いに影響し合う幸福の延長線上にこの再共演があるのです! ピザ食べたくなってきたよ!
BONUS TRACK
12.和田唱 & 小田和正 – Fever(TBS「クリスマスの約束 2017」より)
ライブにも定評がある彼らのトリビュートのラストがライブ音源でしかも小田さんで締めくくるというこのストーリー! TV番組、地上波に滅多に出ない和田さんがこの番組で小田さんと度々共演しセッションを重ねてきた信頼感と楽しさに溢れる素晴らしいテイク。小田節とも言える追いかけるコーラスやMIXで小さめにされていることが多い小田さんが弾くアコギもしっかり聴けるのは貴重です。
サビの一節の〈そしていつか君はきっと幸せ味わうのさ だけどそれが僕によってのものならば素敵だね〉は今までは切なく響いていましたがバンドとリスナーの関係性だと仮定すると、この作品を受け取った今まさにあなた達によって幸せを味わっているよ!と声を大にして言いたい。そう感じさせてくれる音楽はやはり魔法だ。素敵です!
THREE HORNS IS BACK 2020 “MORE” 最終日ライブレポート
12月30日、東京・新木場COAST。
思えば配信ではなく会場に足を運んでライブを観るのは1年間でこの一夜のみ。ローディーさんのサウンドチェックの音だけでも「ああ、この感覚懐かしい。。」とグッと来ていました。
検温、消毒、マスク着用、公演中も換気、座席も間隔を空け、歓声は上げられず拍手のみなど徹底した感染予防対策を講じて開催してくれたことが嬉しい。
結論、今までの彼らのパフォーマンスで一番感動しました。
スピーカーから伝わる演奏のダイナミクスやメンバーの呼吸感、宗教的かもしれないけれど確かに放たれる波動のような目に見えないパワーを感じる瞬間の連続で、いつもなら歓声を上げて反応するオーディエンスの心の中で叫んでいるエネルギーが声援ではない何かでステージへと向かいそれを受け取り更に魂を込めて音で返しているのがビッシビシ伝わる言うなれば「こ、こんなの初めて…!」な感覚。音楽が場を支配する瞬間の更に純度の高い一体感に包まれていました。
全曲良かったけど特に「Fever」の演奏は熱が入っていて凄まじかった。『未来の歌として歌うのは今日が最後。これからは過去の歌になっちゃうね。でもこれからも歌うと思う』という紹介から始まった「2020」のスケール感と時を超えて今目の前で彼らが演奏している姿には思わずこみ上げるものが。メドレーや久々のレア曲など挙げればキリがないけれど本当に素晴らしい夜でした。
帰り道、車や人の交通量も減り空白を感じる年末特有の景色の中、彼らが揺らした空気の余韻が耳と心にそっと入り込んでくれていました。
18年前のラブソングで共にいることを約束した大切な2020年、思い描いていたより困難な状況の中、それでもこんなに素敵なプレゼントを持って、数々の過去を乗り越え、魂と愛が込められたトリビュート盤と復活ライブでその存在を証明するTRICERATOPS。控えめに言って最高です。
こちらも併せてご覧下さい。
▼第20回「TRICERATOPSから学ぶリフで踊ろう! 講座」
▼第24回「和田唱(TRICERATOPS)『ALBUM.』から学ぶ笑顔の大切さ講座」
●高橋 圭からのお知らせ
高橋 圭 2nd SINGLE『Noël』好評配信中!
1st Album『RADIO WAVES』収録のクリスマスソングをリアレンジ。ゴスペル風コーラスや日本に1本しかない(多分)Gibson Les Paul Specialの荒ぶるギターリフなどを再レコーディングし生まれ変わりました。次のクリスマスまでよろしくどうぞ。
▼各配信サイトはこちらから
https://linkco.re/60BfaxU1
高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲・演奏家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始。2枚のシングル、1枚アルバムをリリース。2016年活動休止。演奏から録音、ミックス・マスタリングまでを自身で手掛けた意欲作。アルバム『RADIO WAVES』、シングル『ひまわり』共にApple Music、Spotifyなどで配信中。
お仕事依頼はTwitterからお待ちしております。Twitter:@zazamino
イラスト:matsun
「Ginger Ale Lover’s Radio」ここまでの道のり
第1回「はじめましてのご挨拶(自己紹介)」
第2回「Guitar~ダサい僕が手にした最高の相棒~なんでこんな邦題足したの? っていうB級洋画の和訳タイトルみたいなダサさ(ギター愛を語る回)」
第3回「真夏の特大号 想像力(YUKI『チャイム』レビュー、久しぶりのライブ、真夏のドライブプレイリスト)」
第4回「バンドは生き物、刺身はナマモノ。(赤い公園特集)」
第5回「Mr.Children(メジャーセブンス、センス、スタンスとバランス)」
第6回「Mr.Children 『重力と呼吸』アルバムレビュー」
第7回「ミスチル、YUKIライブレポート特集」
第8回「新春新曲祭」
第9回「レコーディングオタク」
第10回「YUKI 『forme』アルバムレビュー」
第11回「音楽で逢いましょう」
第12回「good sleeps Album『SIGNAL』セルフライナーノーツ」
第13回「雨ソング特集」
第14回「Live DVD &Blu-ray『Mr.Children 『Tour 2018-19 重力と呼吸』ディスクレビュー」
第15回「BUMP OF CHICKEN NEW ALBUM『aurora arc』アルバムレビュー。何故彼らは宇宙を歌うのか」
第16回「竹内まりや「カムフラージュ」から学ぶ切なさ講座」
第17回「新曲発表のコーナー『ねぇ、できちゃった』完結編!」
第18回「YUKI『聞き間違い』から学ぶ “ きっと大丈夫 ” 講座」
第19回「何故私たちはクリスマスソングを作り、聴くのか」
第20回「TRICERATOPSから学ぶリフで踊ろう! 講座」
第21回「3ヶ月連続企画! 第1弾 Chara +YUKI『楽しい蹴伸び』から学ぶ無意識の美しさ」
第22回「3ヶ月連続企画! 第2弾「Chara +YUKI 『echo』全曲レビュ ー」
第23回マイフェイバリットエモーショナルソング 10選」
第24回「和田唱(TRICERATOPS)『ALBUM.』から学ぶ笑顔の大切さ講座」
第25回「『ねぇ、できちゃった』のコーナー夏の特別編! 新曲「ひまわり」セルフライナーノーツ」
第26回「ニッポンの偉大なギター名盤10選」
第27回「夏とシティポップ」
第28回「初秋にこそ聴いて欲しい、サザンオールスターズ『真夏の果実』の魅力」
第29回「温かみ、手触りを感じる名作 Yuzukana 『ZUSHIKI』制作秘話!」
第30回「Mr.Children『Brand new planet』レビュー」
第31回「Mr.Children NEW ALBUM『SOUNDTRACKS』レビュー 〜人との出会いと音楽の化学反応〜」