始まりましたGAL Radio。秋真っ盛りですね。先月原稿を書いていた頃は半袖を着て飲み物も氷を入れていたのがいつの間にか長袖でホットコーヒーを頂く時間へと変わりました。窓から見える秋風に揺れる景色は最&高でございます。(秋が好きなもので)


先日リリースされたYuzukanaの2nd mini album『ZUSHIKI』にミックスとマスタリングで参加致しました。とても素晴らしい作品に携われた今の思いを忘れぬよう書き留めつつ皆さんにもご紹介したいと思います。まずはおふたりの簡単なプロフィールからどうぞ。

 
 

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写真1
Yuzukana
奄美大島(須野)出身の深田(Gt.)と宮城県仙台市出身のあわゆいかなこ(Vo.)によるユニット。ギターの島人(しまんちゅ)が紡ぎ出す優しい旋律に、泡を結うような柔らかい歌声が重なり合い生産される音楽は多くの人の心を虜にする。

 
 

深田 譲(Vo.Gt.)
懐メロからポップス、ジャズ、どんなジャンルでも弾きこなすギターの島人。フィンガーピッキングデイの全国大会に二度出場。ソロ、ユニット、サポート等、様々なスタイルで活動中。

あわゆいかなこ(Vo.)
シンガーソングライター、翻訳家。歌詞に重きを置いたオリジナル曲は200曲以上。ユニットやピアノ弾き語りで活動中。珠算暗算9段。

 
 

●出会い


遡ること5年ほど前、ライブイベントで何度か共演したのをきっかけに交流が始まり、その音楽性に惹かれ彼らのライブに足を運んだり、僕がギターを担当していたgood sleepsのアルバム発売イベントに出演してもらったりと兼ねてから親交がありました。今年6月
にリリースしたシングル『ひまわり』を聴いてくれて制作依頼の声をかけてくれたのがこの『ZUSHIKI』というアルバムです。

 
 
写真2
紅葉を迎え色付いていく木の葉のようなこれからの季節にピッタリな色味のジャケット。
盤面のデザインも素敵ですね。

 
 

高いソングライティング能力とおふたりのお人柄が滲み出る音の純粋なファンでしたし、良い意味で僕には作れないメロディー、歌詞、演奏、どれも素晴らしく作業前の音をはじめて聴かせてもらった瞬間ウルッと来てしまいました。(特に同じギタリストとしてお伝えしておくと譲くんのギターはめちゃくちゃテクニカルかつ魂が込められていてブルージーなカッコ良さがあるのです)

 
 

●制作の裏側


僕が担当したミックス、マスタリングは録音された歌声や楽器の各パートごとの音量や定位のバランスを調整したりリバーブなどのエフェクトで、より音の旨味を味わってもらうような例えるならもこみちの追いオリーブ的な(多分違う)ベールを纏わせるアルバム制作の最終段階です(ざっくり)。


コロナの影響もありオンラインで制作を進めることに(凄い時代ですわ)。直接話した方がスムーズにいくのでリモートはかなり時間はかかりますが(オンラインならではの弊害)おふたりの想いや楽曲が持つエネルギーを最大限に引き立てるべく締め切りギリギリまで時間を使い、丁寧に音と向き合い作業は進行しました。


とはいえ僕の解釈で良いと思ってもご本人たちが一番感動して貰わないと何の意味もありません。音にどんな処理をしたのか、音源データと説明文を送り確認、修正箇所を伝えてもらい何バージョンも微調整を試しては比較、を繰り返し聴く人からすれば気付かないような箇所も納得いくまでやりとりし細部までこだわり気づけば合計12回パターン以上を経てようやく最終形が完成。


意識した点は歌声とギターのシンプルな編成だからこそアンサンブルを際立たせ、ひとつひとつに意味を感じるような音を目指しました。素材が既に素晴らしいのでそれをどう味付けするか、盛り付けるか、音の追いオリーブは本当に必要なのか試行錯誤しました。

 
 

●純文学小説のようなコンセプトアルバム


今作のコンセプトは「生きて、死んで、その後のこと」。生と死、輪廻転生、運命といったテーマをベースに6つの異なるストーリーを収録。生とは何か、死とは何か、現実とは何か、リスナーの想像力を掻き立てるような作品に仕上がっています。


個人的にはミクロな場所からマクロな視点へと開けていくメロディの壮大さと、心を柔らかくしてくれる文学性の高い歌詞が心地良いなぁと感じます。またそれぞれ違う物語のオムニバス形式のようでありながらもどこかで繋がっていて誰しもの潜在意識に流れている音のようにも思える妙がパーソナルな感情に寄り添ってくれる、不思議な感覚にもなれる作品だなぁと。


その魅力をより伝えてくれるのが歌詞カードに掲載されている「超短編」と名付けられた各楽曲ごとの短いストーリーです。今回お話を頂いてまず「曲の抽象的な色や景色を教えて欲しい」と投げかけました。技術的な話の前にイメージを共有し、同じ絵を想像しながら取り組むことで音にもそれが現れ結果的に彼らの頭の中で鳴っている音像に近づけるんじゃないかという意図です。


Vo.かなこさんが言葉をとても大切にされていらっしゃることもあり、送って頂いた楽曲解説が小説のようで大変興味深く、リスナーの方にも世界観をより堪能して頂けるのではという思いから「歌詞カードに一緒に載せるのはどうでしょうか?」と完成間近にご提案致しました。(我ながらナイスプレー!)先に読むもよし、読みながら聴くもよし、一度聴いてから読んで再び聴き直すもよし、きっと違った聴こえ方や響きがそこにあると思います。

 
 

●まとめ


皆さん、聴きたくなりましたか(笑)? だんだ〜ん聴きたくなってますよね?(催眠)


音は勿論、歌詞カードや紙ジャケットの質感、文字のフォントに至るまで丁寧に綴られたラブレターのように愛が散りばめられています。配信主流の今、LとRの情報としてだけではなく、CDというマテリアルならではの「なるべく多くの感覚を使う」ことで得られる付加価値とおふたりの音楽の手触り感、温かみを存分に感じられる1枚です。是非お手に取って頂き、深まっていく秋と共に季節と心の移ろいを感じて頂けたら嬉しいです。是非!!!

 
 
写真3
(写真中央)絵に描いたようなコロナ太り。部屋が狭いんじゃありません、僕がデカいだけです。
プールに通い始めています。

 
 

アルバム完成後打ち上げでスタジオに遊びに来てくれたおふたりと、美味しいウイスキーを飲んで酔っ払いました。

 
 
 
 


サムネ用写真ZUSHIKI
Yuzukana 2nd mini Album『ZUSHIKI』
1. Hisou
2. スプモーニ -約束の海へ-
3. お言葉遊び
4. 平べったくなって -同化、そして輪廻のこと-
5. ナゲキノブルース
6. 図式
(6曲入り ¥1500)
2020.09.14 Release


 
 

▼9月14日 Yuzukana オンラインショップにて発売開始
https://yuzukana.base.shop/

 
▼Youtube Yuzukanaチャンネル/アルバム予告編

 
 
 
 
●お知らせ


パーカッショニスト・大塚浩貴氏の映像作品にレコーディング、撮影で参加しました。「打楽器のみで曲を作る」をテーマに4つのパートで構成されたポリリズムが転がっていく面白い展開です。ロケ場所は自宅兼プライベートスタジオの1階、とても綺麗に映像化してくださっています。是非!
▼HIROKI OOTSUKA 叩いて鼓舞する音楽作品「始まりはテーブルの上!」

 
 

アートにエールを!東京プロジェクト(個人型)/叩いて鼓舞する音楽作品・始まりはテーブルの上!(HIROKI OTSUKA)

 
 
 
 
 


 
今回用プロフィール
高橋圭(たかはし けい)●作詞・作編曲・演奏家 1988年5月3日生まれ。2011年よりgood sleepsの作曲、ギターとして活動開始。2枚のシングル、1枚アルバムをリリース。2016年活動休止。演奏から録音、ミックス・マスタリングまでを自身で手掛けた意欲作。アルバム『RADIO WAVES』、シングル『ひまわり』共にApple Music、Spotifyなどで配信中。
お仕事依頼はTwitterからお待ちしております。Twitter:@zazamino

イラスト:matsun
 
 
 
 
 

 
「Ginger Ale Lover’s Radio」ここまでの道のり
 
第1回「はじめましてのご挨拶(自己紹介)」
第2回「Guitar~ダサい僕が手にした最高の相棒~なんでこんな邦題足したの? っていうB級洋画の和訳タイトルみたいなダサさ(ギター愛を語る回)」
第3回「真夏の特大号 想像力(YUKI『チャイム』レビュー、久しぶりのライブ、真夏のドライブプレイリスト)」
第4回「バンドは生き物、刺身はナマモノ。(赤い公園特集)」
第5回「Mr.Children(メジャーセブンス、センス、スタンスとバランス)」
第6回「Mr.Children 『重力と呼吸』アルバムレビュー」
第7回「ミスチル、YUKIライブレポート特集」
第8回「新春新曲祭」
第9回「レコーディングオタク」
第10回「YUKI 『forme』アルバムレビュー」
第11回「音楽で逢いましょう」
第12回「good sleeps Album『SIGNAL』セルフライナーノーツ」
第13回「雨ソング特集」
第14回「Live DVD &Blu-ray『Mr.Children 『Tour 2018-19 重力と呼吸』ディスクレビュー」
第15回「BUMP OF CHICKEN NEW ALBUM『aurora arc』アルバムレビュー。何故彼らは宇宙を歌うのか」
第16回「竹内まりや「カムフラージュ」から学ぶ切なさ講座」
第17回「新曲発表のコーナー『ねぇ、できちゃった』完結編!」
第18回「YUKI『聞き間違い』から学ぶ “ きっと大丈夫 ” 講座」
第19回「何故私たちはクリスマスソングを作り、聴くのか」
第20回「TRICERATOPSから学ぶリフで踊ろう! 講座」
第21回「3ヶ月連続企画! 第1弾 Chara +YUKI『楽しい蹴伸び』から学ぶ無意識の美しさ」
第22回「3ヶ月連続企画! 第2弾「Chara +YUKI 『echo』全曲レビュ ー」
第23回マイフェイバリットエモー ショナルソング 10選」
第24回「和田唱(TRICERATOPS)『ALBUM.』から学ぶ笑顔の大切さ講座」
第25回「『ねぇ、できちゃった』のコーナー夏の特別編! 新曲「ひまわり」セルフライナーノーツ」
第26回「ニッポンの偉大なギター名盤10選」
第27回「夏とシティポップ」
第28回「初秋にこそ聴いて欲しい、サザンオールスターズ『真夏の果実』の魅力」