誰かに惹かれる瞬間というのは、本当に不思議だと思う。その人のことを何も知らないのに、ただ好きだと思う。それは、ちょっとした仕草かもしれないし、言葉の端々から感じる優しさかもしれない。ポロンと鳴らした、ギターのフレーズにも、その人が見え隠れしているような気がする。なんだかわからないけれど、気になって、まるでパズルのピースを埋めるように、少しずつ時間をかけて、その人のことを知っていくのだ。1ピースごとに、発見があったり共通点を見つけたりしてワクワクしながら、やっぱり、好きだという想いを積み重ねていくのだと思う。
私の、“斉藤和義”さんとの出会いは、歌だった。パーマのかかった長い髪にサングラス。いくつもの伏線はあったがちゃらちゃらした人だと思っていたから、恐る恐る聴いた「素敵な匂いの世界」は衝撃だった。アルバムタイトルにもなっているこの曲では、ピアノを弾き、そして骨太のボーカルに凄まじいほどの雄叫び、ほかに類を見ない“斉藤和義”の世界を見せつけられた。当時から、東京、大阪のライブは即SOLD OUTだったが、並びに並んで幸運にも当日券で入れたライブハウスで、なぜか、“やっと会えた”と思った。なぜそう思ったのか、今でもわからない。もしかしたら、長身で細身のスタイルがそう思わせたのかもしれない。50代になってもなお、20代から全く変わっていないそのスタイルで、長い手足をもて余すようにしながら、はにかみ笑う顔が大好きだ。
ある番組で、40代でのブレイクについて聞かれたときのこと。和義さんは言った。「ずっと頑張ってたよと思うし、あなたが知らなかっただけでしょ」と。柔らかい物言いのなかに、まっすぐな軸を持ち続けている人。震災時、急遽、動画配信をしたり、被災地の子どもたちにギターを届けたり、チャリティライブを決行したりする、その実行力と男気。また、CMで「自分の弱さとは」と聞かれて「案外弱くはないと思ってて。どうにでもなるやって最終的には思っている」と答えていた和義さんに、私は、あぁ、やっぱりこの人のこと好きだと思った。穏やかで、凪のような人。熱い思いは胸に秘め、ふわりとそこにいる。でも、歌うたいとして、ステージに立ちギターを手にすると、すっとした佇まいに魅了され目が離せなくなる。ギタリストとしても秀逸だが、ライブではピアノやドラムを演奏することも。なかでも、2011~2012年のツアー「45 STONES」で玉田豊夢さん(Dr.)とのツインドラムは圧巻だった。「虹」を歌いながら、渾身の力でドラムを叩く姿はとてもかっこよくて惚れ惚れした。豊夢さんに負けじとスティックを回してみたり、投げてみたり。武道館公演では、投げたスティックを思いがけずキャッチできたときの驚きと嬉しそうな顔には、観ているこちらまで幸せな気持ちをもらった。いつだって、全力で、誰よりも一番ライブを楽しんでいる。
人が大好きで、優しい人なのだと思う。だから誰からも愛されるのだろう。カーリングシトーンズ(奥田民生さんやトータス松本さんたちとのユニット)のグループLINEのエピソードがある。寺岡呼人さんが、よく既読スルーされて寂しいと話し、でも、和義さんだけは必ずスタンプなどを返してくれるのだそうだ。「そうだっけ?」と言う和義さんに、「そうそう」と呼人さん。優しくされた方は、嬉しくてずっと覚えているものなのだ。また、忘れられないのは、2015年11月から2016年6月にわたって70本近く行われたツアー「風の果てまで」の日本武道館公演。(サポートメンバーのスケジュールを考慮したうえでのことかもしれないが)ゼロからバンドを作り上げたいという試みで、それまで長く務めたメンバーがほぼ一新されていたのだが、PA席には、(前回までのサポートメンバー)フジイケンジさん(ex.The Birthday/Gt.)や隅倉弘至さん(ex.初恋の嵐/Ba.)の姿があった。また、正面スタンドの関係者席には仲のいい民生さんや田島貴男さんの姿も見えた。そして、吉井和哉さんをはじめ、再結成が発表されていたTHE YELLOW MONKEYのメンバー全員が黒のスーツで現れたときには、心臓が、時間が止まったような気がした! …余談ですが、アニー(菊地英二さん/Dr.)ファンだったので大興奮。そんな彼らが、和義さんのゆる~いトークや下ネタ、そして、バンドメンバーも巻き込んで繰り広げられるダンスコーナーには、手を叩いて大爆笑。会場全体が笑いと多幸感に包まれて、なんだか胸が熱くなったのだ。はにかみながらも誇らし気にも見えた和義さん、愛されているなぁと。
2月末から始まるはずだったツアー「202020」。今日もまた、6月初旬までの開催延期が発表された。この状況では、止むを得ないことだと十分理解している。だから、どうか和義さん、スタッフの皆さまには、申し訳ないとか心苦しいとか思わないでいただきたいと思う。私たちよりも、大変な思いをされていることもわかっているから。私たちは、その日まで、ライブに想いを馳せながら、無事に開催される日を待っている。
ツアー「202020」のバンドメンバーは、先述の「風の果てまで」ツアーから、和義さんのライブには欠かせない真壁陽平さん(Gt.)と山口寛雄さん(Ba.)。ギターの真壁さんは、豊かで華やかな色彩を放ち、変幻自在に音を操る。安定感のある魅せるベーシスト・寛雄さんとともに、日々進化し続けるプレイを見せてくれるだろう。寛雄さんは、今回も和義さんにいじられるのだろうか。シャイな二人は、雄弁に語る楽器を置くと、和義さんからの容赦ない下ネタやつっこみに押されっぱなしだけど、今回、“チーム斉藤”初参加の平里修一さん(Dr.)が、二人にとっての救世主になるのではないかと秘かに楽しみにしている。大らかで、親しみのあるキャラクター。きっとムードメーカーとして和ませてくれるのではないだろうか。前のツアーで、衣装を着た寛雄さんは、和義さんに「幕末の人(西郷どん)みたい」と言われていたけれど、鹿児島県出身の平里さんの登場で、もしや今回は西郷どんが二人…笑!? ステージが狭く感じるぐらい暑苦しくなることを覚悟しながら、今まで以上に熱気に満ちたライブの開催を楽しみに待ち続けたいと思う。
「今日も、最後まで楽しませてもらいま~す!」
会場を隅々まで眺めながら手をひらひらと振って笑う。そんな幸せな光景が一日も早く訪れますように。
shino muramoto●京都市在住。現在は校閲をしたり文章を書いたり。先日、京阪電車石山坂本線の『麒麟がくる』(NHK大河ドラマ)ラッピング電車に乗りました。明智光秀演じる長谷川博己さんはじめ、向井理さん、川口春奈さんたち24人の出演者の競演は華やかで見ごたえたっぷり。12月まで運行予定なので、コロナが収束したらぜひ、皆さまにも見ていただきたいです。
★shino muramoto「虹のカケラがつながるとき」斉藤和義さん関連記事】
第32回「自分らしくいられる場所」
第24回「MANNISH BOYS TOUR 2019“Naked~裸の逃亡者~” 」
第19回「KAZUYOSHI SAITO 25th Anniversary Live 1993-2018 25<26~これからもヨロチクビー
チク~」
第17回「Toys Blood Music(斉藤和義 Live Report)」
第4回「雨に歌えば」
第1回「偶然は必然?」
★特別企画
「Live Love Letter〜私たちが愛するライブハウスへの手紙〜」
★Live Report
2017年1月27日@Zepp Tokyo MANNISH BOYS “麗しのフラスカ” TOUR 2016-2017
斉藤和義 Live Report 2016年6月5日@山口・防府公会堂 KAZUTOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016“風の果てまで”
GRAPEVINE/Suchmos Live Report 2016年2月27日@梅田クラブクアトロ “SOMETHING SPECIAL Double Release Party”
斉藤和義 Live Report 2016年1月13日@びわ湖ホール KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2015-2016 “
風の果てまで”