11月6日、7日と大阪・Zepp Osaka Baysideで行われた「King Gnu Live Tour 2019 AW」。そこはまるでブラックホールのようだった。ものすごい求心力。霞みがかったスモークのなか、ステージに現れた4人が「飛行艇」を演奏し始めると大歓声があがった。CM曲に起用され、King Gnuの人気を不動のものにした、この楽曲の持つエネルギーがウエーブのように押し寄せてくる。そして、まず目を奪われたのは、Vo./Gt.常田大希さんのカリスマ性だった。彼の周りは、光に満ち、何ものも寄せ付けない強力なバリアが張られているかのようだ。武骨のようでいて、実は研ぎ澄まされた刀のような佇まい、声、歪んだギター、そのすべてがアーティスティックだった。


2曲目の「Sorrows」では、しなやかな表情を見せるVo./Key.井口理さんがハンドクラップを呼びかけ、「あなたは蜃気楼」「ロウラヴ」とアバンギャルドな世界観を見せつける。緻密に計算され、重厚でダイナミックなヌーの音楽がとても心地いい。常田さんの描く世界を、豊かな表現力で歌い上げる「It’s a small world」。「今夜、世界は僕らのもの」と、まるでこの瞬間を表現しているかのような歌詞と、柔らかく奥行きのある井口さんの声は癒やしだ。根強い人気を誇る「Vinyl」では、せきゆーことDr./Sampler.勢喜遊さんがドラムソロで魅せた。スポットライトが、彼の力強く鮮やかな手さばきをとらえる。ファンキーな髪をエネルギッシュに振り、まるで秘密基地の中にいるような幸せそうな表情でドラムと向き合う姿に惹き込まれた。そんなせきゆーの隣で、軽やかにリズムを刻み、ソウルフルな太い音を鳴らすBa.新井和輝さん。ドラムとシンクロし合い、ボーカルの二人の動きを常に視界に入れて、それはまるで淡々と獲物を狙うスナイパーのようだった。「Hitman」で彼の指先から放たれた低音は、心臓を撃ち抜かれたように痺れる音だった。

 
 
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家入レオちゃんへの提供曲「Overflow」。レオちゃんが常田さんから受け取ったデモテープには井口さんの仮歌が入っていたと話していたことを思い出した。歌い手、演者が変わるとまた違った魅力が引き出される曲だ。そして、King Gnuを一躍スターダムへと押し上げた曲「白日」。常田さんと井口さん、2人のボーカリストの剛と柔のバランスは、時に牽制し合ったり、調和したり、あらゆる局面を見せる。また、常田さんの歌詞は、日常を吐露した、哲学だと思う。それらを纏って、時に聖人君子になったり邪悪なモンスターになったり、さまざまな表情でオーディエンスを魅了する。鮮やかな色彩やスポットライトのみのシンプルな演出も、すべて洗練されている。1曲ごとに新しいページをめくるように、別のカラーに塗り替えられていく。特に「The hole」は圧巻だった。常田さんの鍵盤と、井口さんの切ない声が会場に滲んで、沁みわたる。この歌を聴くためにここに来たと言っても過言ではない、そう思った。


特筆すべきは、アコースティックコーナーではないだろうか。4人がステージ前方に並んで座る。原点ともいうべき、楽器そのものの素朴でシンプルな音。それらが重なり合っていく楽しさ。「Don’t Stop the Clock」「Mcdonld Romance」などをセッションしていく。新井さんはコントラバスを鳴らし、常田さんは歌詞を間違えて、井口さんにつっこまれ、みんなが笑う。井口さんは持ち前のキュートさを発揮。とても贅沢で和やかな時間だった。その前後のMCで、井口さんは唐突に話し出した。「みなさんには大切な人はいますか?家族とか」と。ライブ前楽屋で、千鳥さんの番組「相席食堂」を観て、4人でげらげら笑っていたのだそう。その時に、何だかいいなぁって、血はつながっていないけれど、家族みたいでいいなと思ったと語ってくれた。そんなエピソードも、目の前の彼らの姿を見て、素直に普段の彼らに思いを馳せることができた。後半は、新井さんのクセのあるベースから始まる「Tokyo Rendez-Vous」から、壮大なスケールの「Prayer X」「Flash!!!」と畳みかけるように加速していく。井口さんは、オーディエンスに目を配りながら声を出して盛り上げ、常田さんはギターをかき鳴らす。奇才であり、曲者揃いのKing Gnuの凄まじいバイタリティーを見せつけられた。

 
 

 
 

アンコールでは、先日入籍を発表したせきゆーに、会場から「おめでとう!」と声援が飛んだ。彼はニコニコ指輪を見せつけるようにすると拍手が沸き起こるというシーンも見られた。そしてラストは「サマーレイン・ダイバー」。うだるような暑さを一蹴するかのようなスコールのあと、一面がモーヴに染まっていく情景が浮かぶ。King Gnuの音楽はドラマティックだ。憂いに満ちた常田さんの声と、井口さんのコーラスが美しい。そして、彼らに促され、オーディエンスの声が会場を包む。圧巻のシンガロング。〈Dance,dance anyway,it’ll work〉。まるで煌めく雨粒のようだ。それはとても神聖で厳かな時間だった。彼らがステージから去ったあとも、私はいつまでも心のなかでリピートしていた。

 

毎日、彼らの音を聴かない日はない。現在もCMソングとして新曲「Teenager Forever」「ユーモア」「小さな惑星」(アルバムに収録予定)の起用、年末にはNHK紅白歌合戦出場を控え、King Gnuの勢いは留まるところを知らない。底を見せていないモンスターバンドは、まだまだ無数のカードを秘めている。2020年は、1枚1枚、それらが開かれていくのだろう。どれほどのカードを忍ばせているのか、また、斬新なスタイルを目の当たりにし、そのたびに私たちは歓声を上げるに違いない。

 
 

 
 
 


 
プロフィール用写真shino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在は校正をしたり文章を書いたり。上記のKing Gnuライブで、ふいに涙がこぼれてしまった。それはせきゆーがあるドラマーと被ったからだ。ダイナミックなドラムソロに盛り上がる光景。目がなくなるほどの笑顔で幸せそうにドラムを叩く姿は、確かに記憶のなかにあった。それは15年前に他界したチェッカーズのドラマー・クロベエこと徳永善也さん。ずっと封印してきた、当時の記憶。この広い会場で、そんなことを想っていたのはきっと私だけだっただろう。でも、たったそれだけの理由でも私はせきゆーのドラムを、このバンドをずっと見ていたいと思ったのだ。