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WEAVER、ニューアルバム『流星コーリング』は彼らが導き出した答えのカタチ


 
今年メジャーデビュー10周年を迎える3ピースピアノバンド・WEAVERが、3月6日にニューアルバム『流星コーリング』をリリースした。今作は、小説家としても活動する河邉徹(Dr.)の同名小説(同日発売)に、WEAVER自身がサウンドトラックのようなイメージで楽曲を制作したもの。物語の内容に沿った音楽をミュージシャンが作るということ自体は珍しいことではないが、ストーリーの構想から楽曲制作までを一つのバンドが手掛けるというのは未だかつてない試みだろう。これまでもWEAVERというのは、河邉の書く物語性のある歌詞が大きな魅力の一つだった。その河邉が思い描く世界の色彩、温度、質感を、きっと誰よりも忠実に汲み取ることができるのが、長年お互いの感性を曝け出してきたメンバーなのである。音と文字がリンクする流星コーリング・プロジェクトが、一つのバンドによって完結されることの意義ーーそれをはっきりと示してくれる作品となっている。
 
物語の舞台は広島。高校の天文部に所属する2組のカップルが、“流星の素”を打ち上げて人工的な流れ星を作り出す“人工流星”という試みがあることを知る。関心を持った4人は、実際に人工流星を目撃するも、その日を境に主人公・りょうの身に異変が起こる。同じ日をループするようになってしまったのだ。なぜ、次の日に進めなくなったのか。自然に逆らった人工流星が原因なのか。何度も訪れる1日の中でりょうはその理由を探し続ける、というストーリーだ。
 
アルバムはインストゥルメンタルである「Overture 〜I’m Calling You〜」(M1)から幕を開ける。ピアノの音色で始まったフレーズにベースとドラムが加わり、まさに“Overture=序曲”として物語の始まりを予感させるよう少しずつビート感を増して「流れ星の声」(M2)へとスムーズに聴き手を誘う。そして、〈例えば今夜世界が終わり/明日が来ないとして〉という物語が転がり始めたことを連想させる歌い出しの「最後の夜と流星」(M3)や、仲宗根泉(HY)とのコラボによってヒロイン・詩織の気持ちを豊かに表現したバラード「栞 feat.仲宗根泉(HY)」(M5)、“時間がループする”という物語のキーワードを歌った「Loop the night」(M7)などを経て、物語の結末を想起させる「I would die for you」(M10)へ。楽曲を聴いただけで、小説で描かれる情景や登場人物の心の動きまでもが感じ取れてしまうのは、歌詞の全てを物語の生みの親である河邉が手掛けているからというのは言わずもがなである。
 
 

「最後の夜と流星」(M3)
 
 
歌詞の世界観もさることながら、サウンドの幅広さにも目を見張るものがある。疾走感のある3ピースのバンドサウンドが結成初期を彷彿とさせる曲から、エレクトロの要素をふんだんに盛り込んだ曲まで、実にバラエティーに富んだ音の響きがこのアルバムには溢れている。WEAVERは5年前のメンバー3人でのロンドン留学以降、ジャンルにこだわらず作品ごとに新しいサウンドに挑戦してきた。そんな活動に対して、古くから彼らを知るリスナーには戸惑いもあったと思うし、実際彼ら自身も悩みながらの制作だったと各所で明かしている。バンドとして代名詞となるようなサウンドがあったほうがいいのではないかと思いながらも、どんなテイストの楽曲も作れてしまい、何よりそれが好きだという葛藤。しかし、悩みながらも様々な楽曲を発信してきたからこそ、その歩みが集約され今作が完成したのだと感じている。例えばエレクトロのテイストが強い「Loop the night」では、“時間がループする”という物語の場面を、エレクトロにおいて重要な“リフやフレーズがループする”という要素で表現しているように、その曲がその音で鳴らされる必然性がきちんと存在しているのだ。
 
 

「Loop the night」(M7)
 
 
アルバムの最後のトラックには、声優・女優の花澤香菜による小説のイントロダクションの朗読も収録されている。音楽のみならず、人の声によって語られる物語もまた、文字だけでは生まれない物語の世界観の広がりをリスナーに与えてくれる。河邉は、「小説を読む」、「アルバムを聴く」、「アルバムを流しながらエピソードF(ブックレット掲載のオリジナルストーリー)を読む」の順がおすすめだと話しているが、映画において原作を先に読むか否かの問題が永遠に結論付かないように、どんな順序で触れてもそれぞれに良さのある作品になっていると思う。
 
WEAVER・河邉が紡ぐ物語をWEAVERが曲にしたからこそ、細部まで忠実に物語の世界を落とし込むことができたニューアルバム『流星コーリング』。それはデビュー10年、とりわけバンドとしての変化の大きかったここ5年間の集大成と言えるだろう。そしてリスナーに、何より音楽に真摯に向き合う彼らが、葛藤を重ねた末に導き出した一つの答えのカタチだとも。10周年イヤー、そしてこれから先、WEAVERがどんな音を鳴らしてくれるのかが早くも楽しみになるアルバムだ。
 
 
 

『流星コーリング』(2019年3月6日発売)
01. Overture ~I’m Calling You~
02. 流れ星の声
03. 最後の夜と流星
04. Interlude Ⅰ
05. 栞 feat.仲宗根泉(HY)
06. Interlude Ⅱ
07. Loop the night
08. Nighty Night
09. 透明少女
10. I would die for you
11. 流星コーリング ~Prologue~ feat.花澤香菜

 
 
 
 
 
 


 
プロフィール画像岡部 瑞希●1992年生まれ、愛知県在住の会社員兼音楽ライター。名古屋の音楽情報サイト「しゃちほこロック」も運営。“自分の好きな自分でいる”をモットーと口実に、今宵もライブハウスへ。昂ぶる夜にピアノを叩き、3日に1回カレーを食べることで健やかな日々を送っています。Twitter:@momry1023