皆様ごきげんよう、イシハラです。
年末年始の慌ただしさも、チョコレートジャンキーの祭典・バレンタインデーも終わり、街も落ち着きを取り戻した今日この頃。当連載も今月からは通常運転です。そこで今回は初心に返ってライブハウスの現場から、とっておきのバンドを紹介したいと思います。
“無名”の冠をつけられながらも、名曲を生みだし圧倒的なライヴパフォーマンスを披露するロックンロールバンドは、まだまだライブハウスに潜んでいる。
存在を知ってもらえれば、音楽を聴いてもらえれば、ライブを観てもらえれば、その良さは絶対に伝わるはずなのに。そんな使い古されたタラレバをタラレバのままにしたくなくて始めたのが、この連載でした。連載タイトルの「やめられないなら愛してしまえ」も、自分に向けた言葉であり、ロックンロールに取り憑かれてしまったバンドマンたちに捧げた言葉でもあります。
芽が出ないから、お金にならないから……そんな理由で離れられたらどんなに楽だろう。でもきっとそんなことをしたら幸せになる前に退屈で死んでしまうよね。そんな気持ちと、私の愛する音楽をどうか辞めたりしないでね? という少しの呪いをかけながら。
■黄金のロックンロールを密造セヨ―其ノ二人組、BLANK DISK BOOTLEG
この連載で数々の格好良いロックンロールバンドを紹介してきましたが、今回はその中で最も「粋」という言葉が似合うバンド・BLANK DISK BOOTLEGのお話です。
BLANK DISK BOOTLEGは、2009年結成のスリーピースロックバンド。2017年末にドラマーが脱退し、現在は杉本タカフミ(Vo. / Gt.)と荒木ケイタ(Ba. / Cho.)の2名にサポートドラマーを迎えて活動している。彼らの粋たる所以は、その音楽性。ガレージロックを基調としながらも、ジャズやロカビリー、ラテンの要素を取り入れたサウンドは、情熱的かつ洒脱。
けれど彼らの魅力は“お洒落なバンド”になりきらないところだと、私は思う。粋な音楽と振る舞いの一方で、歌われるメッセージには泥臭さが滲み、実にロックンロールバンド然としているのだ。シブさやダンディズムを“燻し銀”と表現することがあるけれど、私の中で彼らのイメージは“燻し金”。アンティーク・ゴールドだ。優雅で粋で華があって、それでいてハングリー。ハードボイルドやフィルムノワール好きとしては、彼らの格好良さと禁酒法時代のギャング映画の格好良さに通ずるものを感じている。
そして昨年1月に開催されたワンマンライブでは、ベースの荒木がエレキアップライトベースを披露。今年で結成10周年ながら、まだまだ“格好良さ”の追求は終わらないらしい。世界観、ではなく“ムード”を作れる数少ないバンド。今年はより一層、彼らの動向に注目していこうと思います。そしてバンドの動向と共に注目しているのがヴォーカル・杉本のブログ(https://ameblo.jp/blank-taka/)。サブカルから文学、音楽の境目を取っ払って繰り広げられる思考宇宙の素敵さたるや。その中でも特に私が愛してやまない記事がこちら。夏目漱石と二葉亭四迷、そして竹久夢二までもが登場し、「Fly Me To The Moon」が流れ、ある事件が起こる……。真相はぜひ記事を読んで確かめていただきたい。
ちなみにバンド名の意味は“空白の海賊盤”とのこと。BLANK DISK BOOTLEG、以後お見知りおきを。
▽公式サイト
http://blankdiskbootleg.wixsite.com/blankdiskbootleg
▽ライブスケジュール
3月1日(金)池袋Adm
「見放題東京2019〜サムライ将軍ステージ〜池袋で前夜祭しNIGHT」
BLANK DISK BOOTLEG / The Doggy Paddle / moll / HUMANDRIVE 他
3月29日(金)下北沢Daisy Bar
「moll presents 8th Single [HIGH COLLAR] Release Party」
BLANK DISK BOOTLEG / moll / 純情マゼラン / バニーブルース
3月30日(土)池袋Adm
「夜のばけもの Vol.2」
BLANK DISK BOOTLEG / THE CROWS NEST / unknown pleasures / platoon shepherds by The Doggy Paddle
■monthly Rock ‘n’ Roll vol.9 ― EGO-WRAPPIN「くちばしにチェリー」
本文中で杉本氏の文学・サブカル愛に触れましたが、ベース荒木氏は大のハードボイルド作品ファン。ならばこの曲しかあるまい、と永瀬正敏主演のハードボイルドシリーズ『私立探偵 濱マイク』の主題歌であるエゴラッピンの名曲で締め括ろうと思います。横浜・黄金町を舞台にした探偵モノなのですが、テレビシリーズではデビューして間もない中島美嘉や、阿部サダヲ、BLANKEY JET CITYの中村達也など音楽とゆかりの深い人物も多数出演しているのも魅力のひとつ。『リバースエッジ 大川端探偵社』の「Neon Sign Stomp」然り、日本の探偵モノとエゴラッピンは、不動のゴールデンコンビだと言えよう。
イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。2016年11月号より『音楽と人』レビュー陣に加わる。余談ですが、私が一番好きなナッツはピスタチオです。殻なしピスタチオがコンビニで販売される未来が来ればいいのに……と思う反面、殻をパキっと割るあの行程にこそピスタチオの浪漫があるような気がしています。どうしても割れない殻がある、それもまた人生。