師走の風も、ずいぶんと乾いてきた今日この頃。
 
年の瀬があちこちで、この1年の評価をねだっている。
 
その度に私は思うのだ。
 
良い年だったとか、悪い年だったとか。
 
そんな風にひとことで言えたら苦労はないよ、と。
 
そんな訳で今年の締めは、2018年を転がり続けたロックスターに託します。
 
先月に引き続き、宜しくお願い致します。
 
 
 
■ビレッジマンズストア 15周年記念インタビュー


 
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左から 岩原 洋平(Gt)、ジャック(Ba)、水野 ギイ(Vo)、坂野 充(Dr)、荒金 祐太朗(Gt)

 
 
昨年10月にギタリストが脱退し、4人体制で2018年のスタートを切ったビレッジマンズストア。しかしその勢いは加速する一方で、エンターテイメントとロックンロールを融合させたパフォーマンスを武器に、全国各地のライブハウスで多くの観客たちを魅了し続けてきた。そして6月にはかねてよりサポートを務めていたDroogの荒金祐太朗が加入し、再び5人体制へ。8月には初のフルアルバムを発売、10月には2度目の名古屋ダイアモンドホール公演を成功させるなど何かと話題に事欠かない1年となった。そして現在は1年に渡ってワンマンライブや自主企画を行う「村立15周年記念お礼参り 聖地巡礼行脚」の真っただ中だ。そこで約1年ぶりにバンドのソングライターでありフロントマンの水野ギイにインタビューを実施。2018年を振り返ると共に、来たる15周年についても存分に語ってもらった。
 
 

バンド界の遊撃部隊でいたい


 
――5人のビレッジマンズストアが戻ってきましたね。
 
「そうなんです!」
 
――5人体制になったことで活動がより活発になったように思います。
 
「フットワークが軽くなったんですよね。最近、住んでいる場所は関係ないなって思うんです。発信の方法はたくさんあるし、全員が“ホームはジャパンです”っていう気持ちでいいんじゃないかなって」
 
――ビレッジマンズストアといえば名古屋、というイメージが強いので少し意外です。
 
「名古屋のバンドだよっていうのはずっと思っているけど、俺たちはバンド界の遊撃部隊でいたいんですよ」
 
――名古屋から各地へと戦いに出る感覚。
 
「そう。地方で活動しているバンドって、いずれこの感覚になると思うんです。むしろ自ずとそうなってこなきゃダメっていうか。だから今はそれが積もり積もって家もいらないかなって(笑)」
 
――そこまでいきますか(笑)。
 
「バンドの車があればどこにでも行けるし、そういう感覚になって初めてどこの地域に行っても帰ってきた感覚になるというか。そうやって帰る場所が広がっていく気がしてるんですよね」
 
――なるほど。
 
「それに“名古屋のバンドだぞ!”って口に出していれば忘れないし。意識が変わるっていうより範囲が広がるだけだから、ビレッジマンズストアが名古屋のバンドであることは一生変わらないんですよ」
 
――実家は名古屋です、みたいな。
 
「そう! それに名古屋でずっと応援してくれている人も、俺たちが名古屋だけで活動してたらきっとつまらないと思うし」
 
 

荒金祐太朗のギタリスト人生の中で一番かっこいい状態にしたい


 
――名古屋といえば、10月には2度目のダイアモンドホール単独公演がありました。無謀とうたわれながらも成功した初回は、ある種お祝いムードがあったと思います。けれど今回は敢えていつも通りのライブをしているような印象を受けました。
 
「それはライブをやる前から意識していて。初回は自分たちが本当はできないことをやったという素晴らしさがあった。それは悪いことじゃないし、前に進むために必要なことだったんです。でも今回はちゃんと自分たちの足で歩いていって、立つべき場所に立った結果としてのステージにしたかった。自分たちの功績として、ちゃんと褒めてあげたいなっていう気持ちがあったんです」
 
――なるほど。前回と違って今回は会場とバンドが対等な関係に見えたんですよね。
 
「いつまでも特別な会場には変わりないんです。でも気持ちとしては、もう仲良くなったのにいつまでも他人行儀にするのは失礼じゃない?って感じで(笑)。安心感がありました。これからもバンドのスタンスや信念を変えずに辿り着くべきところにちゃんと辿り着いていきたいですね」
 
――そして初回とはメンバーも変わってのステージでした。
 
「アンコールで荒金祐太朗がひとりでステージに出て行ったじゃないですか。そこであいつが“俺はダイアモンドホールに何の思い入れもない!”って言ったのがすごく嬉しくて」
 
――それはどうしてですか?
 
「彼は色んなことを考える人間だから“俺もここが夢でした、ダイアモンドホールのステージに立てて嬉しいです!”って言うこともできたと思うんです。でもそうじゃなくて“何の思い入れもないけど、ここに連れてきてもらったから大事な場所になった”って。ビレッジマンズストアが今までやってきたことを肯定してくれたような気がしたんですよね」
 
――確かに話を合わせることはできたかもしれない。でもそれをしない誠実さがあった。
 
「今までの活動を軽く見てたら言えるんですよ。でも彼はそうじゃなかった。音楽活動をする中で、挫折や喜びを味わってきたからこそ、あそこに立つ重要性を分かってああ言ってくれた。それがすごく伝わったからこそ、俺たちはあいつがそんなことを言わなくていいような活動をしていかなきゃいけない。今の荒金祐太朗がいるビレッジマンズストアをあいつがちゃんと肯定できるようにしてあげたいですね」
 
――荒金さんがまだサポートの時代のライブも何度か拝見しましたが、一度たりともサポート感がなかったというか。荒金さんも、メンバーの4人も良い意味で全く遠慮がなかった。それも信頼関係が出来上がっていたからこそ、だったんですね。
 
「俺らからしたら、彼にリスペクトがあるからこそ気を遣ったら失礼だなと思ったんですよね。ただ荒金祐太朗はめちゃくちゃ俺たちのDVD観たらしいんですよ。もちろん自然に合う部分もあったとは思いますけど。自分が観てきたビレッジマンズストアを大事にしてくれた上でビレッジマンズストアの一員であろうとしてくれてる。だから今の荒金祐太朗が彼のギタリスト人生の中で一番かっこいい状態にしたい。そう思うから音源でも彼のエッセンスはちゃんと入れたいんです」
 
 

驚かせること、意表をつくことは、自分たちなりのサービス精神


 
――そうして完成したのが8月に発売されたファーストフルアルバム『YOURS』ですね。
 
「せっかくファーストフルアルバムなんだから、高校生が作るようなアルバムを作ってやろうぜ! って。あとは自己紹介ですかね。だから未完成の楽しさやフレッシュさみたいなものを詰め込みました」
 
――『YOURS』からはメンバー5人の一体感に、聴いた人たちまでをひとつにするような意気込みを感じました。
 
「5人になった喜びがひたすら爆発してるんです(笑)。俺は岩原洋平(Gt)が入ったときも、みつる(坂野充・Dr)が入ったときも“ビレッジマンズストアが始まった!”って思ったんですけど、それは今回も同じで。だから5人が同じラインに立ってビレッジマンズストアを作ってるんだってことを提示していきたいな、と」
 
―その一方で、今までにないくらい水野さんの個人的な要素も色濃く出ているとも思いました。
 
「なるほど! 確かに! 自分の中でもバンドはこういう音を出してくれるだろうなとか、メンバーも水野はこうしたいだろうなって分かり合っていたから安心して出せたのかもしれません。もちろん誰かが嫌だったら嫌ですって言うし。そういうやりとりが自然にできるようになったから、個人の気持ちを出すこともあんまり怖くなくなったんですよね」
 
――今回は、アコースティックギターと歌を基調とした曲も収録されています。これは4人体制になったときに水野さんが積極的に弾き語りライブをしていたことが影響しているんでしょうか。
 
「そうですね。4人になったときに、ひとりひとりができることを増やさなきゃ、って思って。自分はひとりでやることの範囲を広げていきたいと、弾き語りを始めたんです。それが表れたんじゃないかな」
 
――『YOURS』は4人になったからこそ生まれた表現や、今の5人の音。そして、バンド初期の楽曲「眠れぬ夜は自分のせい」の再録もあり、バンドの歴史をひとつに繋げるような作品になっているな、と思いました。
 
「やっぱり初のフルアルバムだから、プライドもあったり勝負する気持ちも強くて。背水の陣みたいなところがあったんです。それに荒金祐太朗という存在がちゃんと武器になるようにしないと、って。最初に異物だと思われてしまったら、周りからはダメだと思われてしまうから。でも今はそういう心配がなくなって、5人のビレッジマンズストアがすごくクリエイティブになってきてる。楽しんでがむしゃらにやってる感じなんですよ」
 
――確かにバンドがどんどんフレッシュになっていってるような気が……。
 
「そうなんですよ! ワケが分からないですよね(笑)。メンバーが若くなってきてるというか、ガキになってきてる。たぶん俺らはあまのじゃくだから、歳をとったら熟成されていくっていう当たり前すら嫌なんだと思う。常に驚かせていたいし、意表をついていたいから」
 
――「TRAP」をリリースした際もそうでしたが、やっぱりそこに至るんですね。
 
「これは俺らなりのサービス精神でもあるんです。だからヒヤヒヤドキドキさせたいけど、危ない橋を渡ってるつもりはなくて。あくまで自分たちの出来得るエンターテイメントとしてずっとヒヤヒヤドキドキさせていきたいだけなんです」
 
――それってテーマパークみたいなスタンスですよね。お化け屋敷とか絶叫マシーンとかって、エンターテイメントとしての恐怖やドキドキを提供しているわけで。
 
「そうそう! もし二度と乗りたくないくらい怖いジェットコースターに乗ったら、80歳までその話すると思うんですよね」
 
――確かに。
 
「メリーゴーラウンドに乗ってもきっと“楽しかった”で終わっちゃうけど。俺たちはたとえ“ふざけんな!”って怒られても、10年後とかに“あのライブでビレッジマンズストアに怒ったの、最高に面白かったな”って思われたいんですよ(笑)」
 
 

15周年のテーマは“ダメな部分を直していこうな!”ってこと


 
――ややこしいエンターテイナーですね(笑)。そして現在は15周年企画の真っただ中ということですが、どんなテーマがあるんでしょうか。
 
「俺たちは明確なビジョンもないまま遊び感覚でバンドを始めたから、足りない部分が多かったんですよね。リリースペースも遅いし、ワンマンライブや自主企画も殆どやらない。それも周りから言われて気付いたくらいで。それでも自分たちでは“しょうがないじゃん”って思っていた部分もあったんですよね。だから15周年といってもベスト盤を出すみたいな集大成をみせるようなことができないし。それで考えた15周年のテーマは“ダメな部分を直していこうな!”ってことなんです(笑)」
 
――なるほど。そして12月8日の東京ワンマンでは15周年第1弾シングル『黙らせないで』が発売されました。
 
「色んなふり幅を持たせたアルバムの後で、あからさまに真っ当な曲がくる。誰もが想像し得るビレッジマンズストアらしい曲がこのタイミングでシングルになるっていうのも面白いかなって」
 
――確かに、まさに王道というか。それぞれが得意技をフルパワーで出している感がありました。
 
「そう。それに加えて荒金祐太朗がフルアルバムより自由に弾いてるし、サウンドメイキングを担当している岩ちゃん(岩原)も荒金の使い方が分かってきた。だから挑戦するよりも、今のメンバーで持っているものをちゃんと出すということをやってみたかったんです。それで逆に驚いてもらえたらいいなって」
 
――15周年とはいえ、現体制では1年目で始まったばかり。そこでバンドの王道を極めるのは、とても正しいことのように思いました。
 
「引出の多さって重要だと思うけど、その一方で周りが求めるバンド像みたいなものがあるもの知ってるから、そういう要素をゼロにする気もないんです。だから15周年という括りで最初に出すのがそういうものだったら嬉しいかなって。第2弾、第3弾は遊び倒しますけど(笑)」
 
――驚かせたいと思う一方で、周囲の人が求めるバンドでありたいという思いもあるんですね。
 
「最終的には驚くことを求めてもらったら最高なんですけど。いわゆるロックバンド像みたいなものをビレッジマンズストアに当てはめるのはアリだと思うし、それも楽しみ方のひとつだと思う。でもそこからはみ出しちゃいけないルールはないし、はみ出した部分にもかっこ良さはある。だから自分の中でバンド像が固まっている人にはちょっと嫌がられるかもしれないけど、今はそういう人のことも最終的には楽しませる自信がついてきたかなって」
 
――バンド像っていうのは、いわゆる“ロックバンドらしさ”みたいなものですか。
 
「そうですね。今ってSNSが盛んで、色んな声がアーティストにも関係者にも届くんです。それは良いことでもあり、悪いことでもあって。やっぱり人の声って大事だから、その声によってロックバンドの形が決められてしまう部分もあると思う。ただそれによって自分たちが考えたことや声に出したいことが削がれてしまうのは怖い。でも俺たちが観てきたロックバンドは、ひとの声を聴き入れてなかったし。それって超かっこいいか、かっこ悪いかの二択だけど、それでいいと思っていて。『黙らせないで』というタイトルにはそういう意味があるんですよね」
 
――つまり自分たちも声を出していきたい、と。
 
「やっぱりロックバンドが声を出さなくなったら終わりだな、と。自分の主張を貫いたり世間に対してただデカい声を出したり、それが良いか悪いかは置いておいて、ロックバンドとして騒ぎ立てることが俺たちの衝動だと思うんです。だから周りの声に対して聴く耳持たないとかじゃなくて、俺たちはロックバンドとしての仕事をしますよっていう決意の表れとして『黙らせないで』を作った。15周年の第1弾としてビレッジマンズストアとはどうあるべきかを提示したかったんですよね」
 
――なるほど。それがビレッジマンズストアなりの“声”への応え方なんですね。
 
「俺たちは元々、考えることしかできない人たちの集まりで。ただ考えるだけで止まっていたんですけど、声を出すことですごく面白くなったんです。だからずっと〈逃げてくあの娘にゃ聴こえない〉っていう気持ちでやってきたけど、最近はさらにその上に行っていて。〈逃げてくあの娘〉に聴こえなくても別にいいから、後ろ姿に風圧くらい届けばいいやくらいの気持ちでいるんです。どう受けとめられるかは分からないけど、こっち側の主張をやめることはしませんよって」
 
――“どうせ聴こえない”から“聴こえなくてもいいや”になった、と。
 
「そうですね。結局言ってることはずっと変わらないんですけど」
 
 

安心してヒヤヒヤドキドキしてほしい


 
――15周年、これからも色々な企みが続いていくと思いますが。
 
「今までのビレッジマンズストアに足りなかったかったものを全部やります!当たり前のことをちゃんとできるようにしたいんです」
 
――どうしてそう思うんですか?
 
「あんまりヒヤヒヤさせると“ちゃんとしてないんじゃない?”って心配する人もいると思うから」
 
――このジェットコースターすごく揺れるけど、ネジ外れてるんじゃないの?って。
 
「そうそう!だから“これは木製のジェットコースターだから揺れるんだよ?このグラグラは計算されたものだから大丈夫だよ”って伝えたいんですよね」
 
――15年経ったけど、しっかり点検したから安全だよって(笑)。
 
「そうそう(笑)。だから安心してヒヤヒヤドキドキしてね?って。もう俺はそれだけかな」
 
 
 
▼リリース情報
 
スクリーンショット 2018-12-19 18.05.30
会場限定シングル『黙らせないで』(2018年12月8日発売)

収録曲

01:黙らせないで

02:すれちがいのワンダー(2018.10.13 LIVE)

 
 
 
 
▼ライブスケジュール
「ビレッジマンズストア御礼参り“聖地巡礼行脚」
2019年1月12日(土)名古屋 池下CLUB UPSET
ビレッジマンズストア / a flood of circle
 
2019年1月14日(月・祝)大阪 十三FANDANGO
ビレッジマンズストア(ワンマン)
 
2019年1月19日(土) 東京 池袋 Adm
ビレッジマンズストア(ワンマン)
 
 
▼オフィシャルサイト
http://villagemansstore.com/
 
 
 
■monthly Rock ‘n’ Roll vol.7 ― Age Factory 「GOLD」


 

 
真っ赤なビレッジマンズストアに対して、こちらは金色。先程のインタビューで、水野さんの「住んでいる場所は関係ない」という発言を受けて真っ先に頭に浮かんだのがAge Factoryでした。彼らは現在も地元・奈良を拠点としながら全国区での活動を続けている。ひと月のうち数えるほどしか奈良の家に帰れないこともあるという。それでも先日、東京・渋谷wwwxを見事にソールドアウトさせた。何がなんでも上京、という時代はもう終わりつつあるのでしょう。バンドだけじゃなく、たとえばライター業なども「住んでる場所は関係ない」と言えたらいいな。
 
 
 
 
 
 


 
プロフィール用 イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。2016年11月号より『音楽と人』レビュー陣に加わる。今年も1年間ありがとうございました! 来年も引き続き、宜しくお願い致します!