「おかえり」「ただいま」。何気ないこの言葉が、じんわりと沁みる作品だった。帰って来てくれる人がいる、愛おしい存在があるという幸せ。帰る場所がある、自分のことを待っていてくれる人がいる幸せ。そして、「ありがとう」を伝えたくなる。そんな、あたたかい気持ちに包まれて心がほんわりとオレンジ色に染まった映画『かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-』。
晶(有村架純)は、夫・修平(青木崇高)とその連れ子・駿也(歸山竜成)と東京で幸せに暮らしていたが、修平の突然の死で生活は一変。残された駿也と共に夫の故郷・鹿児島へ向かい、まだ会ったことのない義父の節夫(國村隼)を訪ねる。節夫は、運転士の仕事一筋で家族を顧みずに生きてきたが、突然やってきた晶たちを戸惑いつつも受け入れ、3人の共同生活が始まった。そして晶は、亡き修平の子供の頃の夢でもあり、電車好きな駿也のため、鉄道の運転士を目指すことに。「このままじゃダメだって分かってます。変わりたいんです。」血のつながらない息子の母として、そして運転士になるため真っすぐに生きようとする晶の姿に、これまでの人生で見出せなかった<大切なこと>に気づいていく節夫。愛する人を亡くし、一度家族を失った3人は、もう一度<家族>になれるのだろうか―。(公式HPより)
11月30日から全国で公開されている『かぞくいろ-RAILWAYS わたしたちの出発-』は、地方の、ローカル鉄道の運転士を描いた「RAILWAYS」シリーズの第三作目。熊本から鹿児島までを結ぶ1両、または2両編成の「肥薩おれんじ鉄道」の沿線が舞台。有村架純さん、國村隼さんがW主演を務め、不器用でどこか不揃いな登場人物が、互いを思い合い心を寄せ合いながら、時には衝突しながらも奮闘していく姿が描かれている。駿也を「肥薩おれんじ鉄道」に乗せたいという強い思いで、運転士を目指してひたすら突き進む晶。学校では東京からの転校生として、少し居心地の悪さを感じている駿也。そんな晶と駿也を、無償の愛で受け止める節夫…。3人の心の中には、いつも修平がいる。後半は、晶、駿也が、ずっと黙って耐え、感情を抑え込み、心の奥底に封印していたあらゆる感情が一気に噴き出してしまうシーンに、何度も心を揺さぶられ涙ぐんだ。いつのまにか、それぞれの登場人物の気持ちに寄り添いながら観ている自分がいたのだ。
「肥薩おれんじ鉄道」は、電車じゃなくて、ディーゼルで動いている気動車なのだそう。そんな鉄道に関する用語が散りばめられていたり、列車が走る心地よいリズムやトンネルを抜ける高揚感も味わえたりして、鉄道の魅力を少し垣間見れたような気分。ラッピング電車を観るとワクワクするし、たまに女性運転士さんを見かけると応援したくなるし。また、普段、電車に乗っていて、急ブレーキがかかったり、電車の停止位置がずれて、少し戻ったりする、そんな光景と映画のワンシーンを重ね合わせて、運転はとても難しいんだろうなと、やっぱりすごいことなんだなと尊敬の念を抱いてみたり。この映画のおもしろさは、そんなところにもある。
とても好きなシーンがある。それは、義父の節夫と駿也が、深夜、食卓に並んでカレーを食べるシーンだ。傷ついた駿也に、節夫が作ったカレーは、父がよく作ってくれていたさつまいも入りのカレーだった。それは、ここ鹿児島の実家で代々作られていたカレーだったのだ。10歳の小さな駿也が、両親を失った悲しみを誰にも言えず、小さな胸に抱えて、ここにいるのか。そんな胸の内を想うだけで苦しくなったが、余計なことは何も言わず、駿也を見守る節夫の表情に、いろいろな感情がするりとほどけて、ほろりときた。
出演シーンは少ないが、存在感をひと際放っていたのは青木さん。まっすぐで、生命力あふれる笑顔。どのシーンも輝きを放っていて、亡くなった悲しみをより一層際立たせていた。青木さんは、映画のシーンとは別に、息子役の歸山竜成くんと一緒に野球をしたり、さつまいもカレーを一緒に作ったり、記憶のなかに家族の思い出をと、共に過ごす時間に尽力したのだそう。歸山くんは、その家族の記憶をたどり、見事な演技を見せてくれた。國村さんは、とても穏やかな佇まいで、表情、言葉、そのすべてが味わい深くて、とても魅力的だった。そして、シングルマザー、女性運転士という難しい役を演じ切った架純ちゃん。可愛いだけじゃない、芯の強さがうかがえるこの作品は、シーンによって、表情がくるくると変わるのはさすがの演技力だった。また、運転士の制服姿は必見!
そして、主題歌『カラー』を歌うのは斉藤和義さん。実は、この曲を作るために、実際に「肥薩おれんじ鉄道」に乗って創作意欲を高めたのだそう。先日のライブツアーでは、その話に触れ、「架純ちゃん可愛いよね~」って、「主題歌を歌っているのに、会えない」というようなことをぼやいていたっけ。それを、偶然ライブを観に来られていた國村さんのご友人が、國村さんに伝えて、公開初日の舞台挨拶に和義さんが登壇するというサプライズも話題に。和義さんは「言ってみるもんですねぇ」と終始ご満悦の様子だったとか(笑)。
映画のラストシーンで『カラー』が流れるなか、九州の西海岸の壮大な風景を、「肥薩おれんじ鉄道」が力強く北上していく。夕陽を浴びてオレンジ色に染まる、その姿は、とても愛らしく頼もしく、まるで、晶たち<家族>のようにも思えた。穏やかな日々を愛おしむように、それぞれが、家族、大切な人に思いを巡らせ、観終わったあと、大切な人に「ありがとう」って伝えたくなる、そんな優しさに満ちた映画だった。
今年も「虹のカケラがつながるとき」を読んでいただき、本当にありがとうございました。
私もまた次のステージへ出発するときが来たようです。来年も皆様にとってワクワクできること
がたくさん詰まった1年になりますように。
shino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在は編集、時々物書き。「The Birthday TOUR19 NIGHTS 2018 AUTUMN」四日市CLUB ROOTSのアンコールで、缶ビールを片手にステージに現れたチバさん。そしてフロアに降りてきた!(スタッフが背中、ファンが足を支えていたとか!?)大歓声の中、「しーっ」とファンを静かにさせてから歌い出す『くそったれの世界』。力強くて優しい声、そしてファンを見つめるチバの顔は眩しくて神々しかった!