黙っていたら変わってしまうことと、黙っていたら変われないこと。
どちらの方が多くて、どちらの方が悲しいのだろう。

 
メンバーの交代という大きな変化を経て尚、変わらないことを誓ったバンドがいる。
 
時間は流れ、世界は進み続ける。
その中で変わらずにいることはつまり、変わり続けることとイコールなのだ。

 
だからこそ、彼らは5人のビレッジマンズストアであることを守り抜いたのだろう。
 
変われないあなたと、数え切れない眠れぬ夜に。
 
彼らのステージをお届けします。
 
 
■ライブレポート:ビレッジマンズストア『YOUR』リリースツアー@ダイアモンドホール


 
①■DSC_8405
 
「変身した先がちゃんとダイアモンドホールであったこと、変身した先にお前がいたこと。このふたつが俺たちにとっての誇りであり自慢だよ。ありがとう」
 
本編も終盤にさしかかった頃、水野ギイ(Vo)はその表情に安堵の色を浮かべながらそう語った。2018年、10月13日。ビレッジマンズストアは、ホームタウンの名古屋・ダイアモンドホールのステージに戻ってきた。昨年1月に無謀だと言われながらも初めて同会場で単独公演を成功させた彼ら。そこから今日に至るまでの活躍はめざましく、名古屋のみならず全国にその名を轟かせていった。
 
ところが昨年の秋、ギタリストの脱退という予期せぬニュースが私たちの元に届いた。歯がゆい期間を乗り越えてようやくバンドが勢いよく転がり出したタイミングで、なぜ。それが第一報を聞いたときの正直な感想だった。次いで頭をよぎったのは、バンドの代名詞でもある2人のギタリストによるダイナミックなライブパフォーマンスだ。ビレッジのライブから、あの光景が失われてしまうなんて。しかしそんな心配を余所に、彼らはサポートメンバーを迎え5人でステージに立つことにこだわった。そして今年6月、かねてよりサポートメンバーとして活動してきたDroogのギタリスト・荒金祐太朗(Gt)が正式加入。そこからの活動は、以前にも増して活発になり、今年8月には結成14年目にして初となるフルアルバム『YOURS』を発売。そのリリースツアーのファイナル公演として彼らはダイアモンドホールのステージへ戻ってきたのだ。
 
②■DSC_0480
 
1曲目はジャック(Ba)の奏でるベースラインが蠢く、『YOURS』のリードトラック「サーチライト」。彼らは冒頭から会場の全員と歌うことを選んだ。かねてより「俺たちにとっての前は、いつもお前だ」とステージから伝えてきた水野。だからこそ、このスタートは自分たちの向くべき方向を今一度確かめようとしているように思えた。たとえ各地で新体制が温かく迎えられたとしても、いくばくかの不安はあっただろう。ましてやここはダイアモンドホール。彼らがずっと望んで辿り着き、挑み続けている場所なのだから。そんな思いに応えるように観客たちの盛大な歌声が、満面の笑みが、無数の手がステージへと向けられる。そのひとつひとつがサーチライトとなって、こちらが前だと5人を導いているようだった。
 
▽「サーチライト」 (Official Music Video)

 
信じて前を向いたら最後、完全無敵のロックンロールバンドになるのがビレッジマンズストア。そこからは坂野充(Dr)を筆頭にメンバーが思い思いにフロアを煽り、攻撃的なライブチューンをすさまじい熱量で続けざまに披露してゆく。荒金がサポート時代のライブでは、個々が持てる力を全力投球していることは痛いほど伝わるが、それゆえに一体感に欠けてしまったステージを観たことがあった。しかしバンドは今、限りなく正五角形に近い形をしているのだろう。個々の力がステージ上で集結し、ひとつの塊となってフロアを圧倒していた。それがパフォーマンスも音も、全てが正しいバランス感覚を以て作用している何よりの証拠だ。
 
 
③■DSC_0023
 
 
そしてステージの空気が一変したのは最新作に収録されているバラード「すれちがいのワンダー」。水野は首にかけていたトレードマークの白い羽を外し、代わりにアコースティック・ギターを携え、ややぎこちない様子で弾き語りを始めた。ワンコーラスを終えた時点でバンドサウンドへ移行すると、岩原洋平(Gt)のエレキギターが哀愁をいっそう際立たせる。ピンスポットから、5人の真っ赤なスーツとの対比が美しい青、そして歌詞とリンクした柔らかな7色という照明の妙も手伝って、誰もが直前までの狂騒を忘れて曲の世界へと引き込まれた。続く「盗人」でも水野は弾き語りを披露。以前のインタビューで、彼はこの曲を〈大事な曲だから、色んな形で表現できるようになりたくて。20年後も歌っていたい曲なんです〉と話していたように、この曲の在り方がその時々のバンドを象徴しているように思う。その実、インタヴュー当時は前任のギタリストから譲り受けたエレキギターを手に水野はこの曲を歌っていたのだ。だからこそ単独での弾き語りライブを重ね、バンドのステージでもアコースティック・ギターを手にした水野と、優しく寄り沿うように曲の肝となるフレーズを弾く荒金の姿が彼らの今を物語っているようで思わず胸が詰まった。
 
 
▽「アディー・ハディー」(Official Music Video)

 
 
また、新たな一面という意味では、坂野の叩くドラムに合わせて観客が手拍子をする「リズム&レスポンス」で大いに会場を盛り上げた「UTAUTAU」だろう。回を追うごとにハイレベルになっていくリズムに観客たちが降参したところで、坂野が渾身のドラムソロを披露し歓声を独り占め。曲に戻るとポップなメロディーと、水野が鳴らすカウベルのひょうきんな音も手伝って、和気藹々としたムードが漂う。するとこの曲を皮切りに、セットリストはアトラクションモードへと舵を切った。手をヒラヒラさせるダンスがお決まりの「MIZU-BUKKAKE-LONE」では来年のバンド結成15周年を祝い、観客たちが来場時に配られたクラッカーを一斉に鳴らして祝福。「アディー・ハディー」では音源のフェードアウトを再現し、会場を暗転させたり観客たちを大ジャンプさせたりと、立ち回りを見せた。こういった演出の数々は、ロックスターでありながら、エンターテイナーでもありたいと願う彼らだからこそ成せる業だろう。
 
 
④■DSC_0384
 
 
「無責任な正しさに、俺たちの正しさを殺すことはできない。お前がここに遊びに来る正しさを、これからも俺たちが証明してやるからな」。そう約束して水野が歌い出したのは前回のダイアモンドホール公演で来場者特典として配布された「正しい夜明け」。彼らが自分たちなりの正しさを見つけるに至った、もうひとつの道標的な楽曲だ。そこから前を向くための「最後の住人」を演奏し、「逃げてくあの娘にゃ聴こえない」では岩原・荒金のギタリストコンビがフロアへダイブ。やはりこのパフォーマンスは、ビレッジマンズストアのライブには欠かせない。そして本編のラストは「眠れない夜を何度も超えてお前に会いに行ってやるよ!」と「眠れぬ夜は自分のせい」で締め括った。
 
 
⑤DSC_0666
 
 
赤いスーツを脱いで登場したダブルアンコール。そこで彼らは観客たちにひとつの誓いを立てた。それは、ずっと変わらないこと。「何十年経っても変われないお前のために、歌を歌おうと思うんだ」と、水野。そしてもし変わってしまったとしても、戻ってきたときに再び「お前の横」にいられるように。「俺たちはずっとライブハウスにいます、永遠に。この喉が枯れるまで、この体がなくなるまで。お前を一緒に遊ぶことを誓います」。それはまるで、始まりの「サーチライト」で向く先を示してくれた観客たちへの恩返しのような誓いだった。行場がなくなったら、道に迷ったら、帰ってきたくなったら、ライブハウスに来ればいい。お前の行く先はいつも、ビレッジマンズストアが正解で、それは絶対に変わることはないのだと。この先もきっと、バンドは変化してゆく。しかし彼らはその度に、向くべき方向を確かめ合い、同じ誓いを口にするだろう。ここ、ライブハウスのステージで。
 
 
(写真=オフィシャル提供)
 
 
 
 
 

▼セットリスト
1. サーチライト
2. WENDY
3. Don’t trust U20
4. トラップ
5. セブン
6. スパナ
7. すれちがいのワンダー
8. 盗人
9. 夢の中ではない
10. ビレッジマンズ
11. UTAUTAU
12. 最後の日曜日
13. MIZU-BUKKAKE-LONE
14. ロマンティックに火をつけて
15. アディー・ハディー
16. 変身
17. 正しい夜明け
18. 最後の住人
19. 逃げてくあの娘にゃ聴こえない
20. 眠れぬ夜は自分のせい
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en1. 風船女
en2. 帰れないふたり
++++++
en3. PINK


▼ライブスケジュール
11月23日(金・祝) 磐田 FMSTAGE
【PAN「ムムムムツアー」】
ビレッジマンズストア / PAN / Northern19


11月24日(土) 渋谷 WWW
【Yellow Studs結成15周年企画 方位磁針】
ビレッジマンズストア / Yellow Studs / アシュラシンドローム


12月14日(金) 池下 CLUB UPSET
【ビレッジマンズストア御礼参り“聖地巡礼行脚”】
ビレッジマンズストア ワンマンLIVE!!

 
▼オフィシャルサイト
http://villagemansstore.com/
 
 
 
■monthly Rock ‘n’ Roll vol.6 ― The Birthday「青空」


 

 
刻一刻と色を変え、表情を変え、時に怒り、涙を流す。それでも毎日、私たちの頭上にあり続ける空。移ろいゆくも、永遠にそこにあり続ける。それはとてもビレッジマンズストアの誓いに似ていた。重く垂れこめる曇天を彷彿とさせるベースが唸り、雲間から差す光のようなギターが切り込む。そして噛み締めるように、青空を願い歌うチバ。冒頭に書いたものの答えはでない。ただ言えるのは、変えないと誓い、変わらないように守り抜くものを持つことが、自分の行く先を示す矢印になるということ。
 
 
 
 
 
 


 
プロフィール用 イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。2016年11月号より『音楽と人』レビュー陣に加わる。眠れぬ夜を、誰かにせいにできたらな、と思う。誰かのせいにしてもつい回収して、結局自分のせいにしがち。そんな時に聴くのがビレッジの「眠れぬ夜は自分のせい」。