《枝折(しおり)とは、道しるべ、手引きという意味です。私の人生は、常に「本」が伴走してくれています。けっして、道に迷わぬよう。今回の連載より、自分の人生に影響を与えてくれた本の紹介と人生のエピソードをエッセイとして書いていきます。》
■島本理生『ファーストラヴ』(文藝春秋)
“初恋”って10代の頃とかにどうしようもなく気になってしまう自分や、家族以外の人って思っていた。というかその解釈しか無いと思っていた。
けれど、今年一番ヘビロテしてる宇多田ヒカルのニューアルバムのタイトル曲でもある『初恋』も恋人に対する想いでは無いとインタビューを観て、なるほどと、深く頷いたのである。
宇多田ヒカルにとっての“初恋”とは「初めて人間として深く関係を持った相手」という意味を持ち、彼女の“初恋”の対象は両親なのだという。
今回紹介する、島本理生『ファーストラヴ』は決して甘い“初恋”では無かった。まさに、両親に対するものであった。自分が思う通りに受けいれられない悲しみ、やり場のない感情に溢れた物語だった。久々に恋愛小説でも、読もう!と心躍らせていたが、とてつもなく深い闇に引きづられていく小説だった。
主人公臨床心理士の真壁由紀は、父親殺しの犯人、女子大生で女子アナ志望の聖山環奈の事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼される。この事件は、環奈の美貌も相まってマスコミで大きく取り上げられる。環菜やその周辺の人々に面会し、事件の真相に迫っていく。由紀は環奈の心の闇に触れるにつれ、自分の子供の頃の闇を思い出す。また、担当弁護士の迦葉は、初恋の相手。二つの初恋が交錯する物語だ。
読者は、誰しも自分と親の関係を考えるだろう。我が家は、主人公の家庭とは違って、問題を解決するため、離婚という選択肢を選んでくれた。そのことに感謝したい。夫婦関係が崩壊している家庭に流れる時間は耐えがたい。父親の支配、それを逃れられない母親。守ってもらえない子供は、どうしたらいいのだろう。私は、中学生の頃は何故か自分がこの家庭を守るしかないと思った。「父に出ていってもらうしかない」と、母に話した日のことは、今でも忘れられない。距離をとって生活した日があったからこそ、今の良好な親子関係があるのかもしれないと改めて感じた。また、自分が家庭を持ちわかってきたことがある。
親というレールから外れられない。子供というレールから外れられず、苦しみ続ける。いわゆるアダルトチルドレンの小説でもあるが、最後に主人公の由紀には救世主が現れる。ネタバレになってしまうから書けないが、私もこの愛に触れて救われた。本作で、直木賞を受賞された島本理生さんの筆力に、圧倒される小説であった。これからも、読者の心のかさぶたを剥がすようなヒリヒリとした小説を書いて欲しい。
鳴門大橋のうず潮が見頃です! 何度見ても不思議と興奮します。
上村祐子●1979年東京都品川区生まれ。元書店員。2016年、結婚を機に兵庫県淡路島に移住。