8月に入りましたが、まだまだ残暑厳しいですね。みなさま、いかがお過ごしでしょうか。
3月末からスタートした、斉藤和義さんのツアー『Toys Blood Music』が7月31日香川・レクザムホールでファイナルを迎えました。ツアー中、地震や豪雨などの災害があり、全47公演行われたなかには、苦渋の決断だった日もあったと思います。私自身も交通手段が断たれてライブ会場までたどり着けなかったこともありました。また、2月には和義さんのMVにも出演されていて、親交の深かった大杉漣さんの急逝。当たり前だと思っていたことはすべて奇跡の連続でした。そんな万感の想いでこの日を迎えたのです。
ステージには、鉄の骨組みと大きい配管。ロボットが転がり、廃墟と化したおもちゃ工場のセット。湧き起こる拍手のなか、和義さんとバンドメンバーが姿を現し、うす暗いステージにシルエットが浮かび上がる。SE曲が終わって、ドラムのカウントで曲が始まる、その一瞬の静寂が好きだ。オープニングは、同名のアルバムの1曲目「マディウォーター」。おもちゃの兵隊さんを思わせる黒のナポレオンコートの衣装が、スタイルのいい和義さんにとても映える。山口寛雄さん(Ba.)は、どう見ても、幕末から抜け出してきた人(西郷どん)にしか見えなくて、存在感がすごい(笑)。続いて、ロック色の強い「砂漠の赤い花」、音楽番組でも披露された「青空ばかり」が演奏されると、会場の熱気が一気に上がる。
和義さんは、いつものように、会場を2階、3階と見渡して、はにかんだ顔を見せた。「ツアー最終日だけど、いつも通りやりま~す」と手をひらひら振りながら。かっこいい歌と、ゆる~い仕草とMCのこのギャップ。和義さんが話すたびに笑いがもれ、心を和ませてくれるのは今も昔も変わらない。この日は、うどんは喉ごしが大事だという“うどん”県の人に「噛まないで飲むんでしょ? …変な人たち!」と言って笑わせてくれた。でもすぐに「ウソです」って撤回して、ぐふふと笑うのもキュート(笑)。
また、感銘を受けたというボブ・ディランの言葉を挙げ、自身も同じように「いつも、初めて観に来てくれる人たちのために歌っている」と言ってくれた。「(同じツアーに)何回も来てもらえるのもありがたいけどね」とフォローもしつつ。だからいつも全力で、最高の音を届けてくれるのだ。そう言って、弾き語りで聴かせてくれた「Good Night Story」と「世界中の海の水」は初めて聴いたときからすっと入ってきた、大好きな曲。ギターの弦の“きゅっきゅっ”という音までもが愛おしく感じる。個人的に「世界中の海の水」は、感情にぴたりとはまる歌詞に、心を揺さぶられた曲だった。
アルバム『Toys Blood Music』は、ドラムマシンやシンセサイザーを多用して打ち込みで作られたもの。無機質なはずの機械音にどこか温もりを感じるのは、あえて昔のやり方で作ったという和義さんのこだわりなのかもしれない。ツアーでは、打ち込みの音とバンドサウンドを“同期させる”という初の試みで、マニュピレーターの大川さんがツアーに帯同し、カラフルでポップな世界を再現している。
もちろん、バンドメンバーの力も絶大で、寛雄さんはシンセベースやウッドベース、またハープで「12時55分」を盛り上げる(今回はなかったけれど、「いたいけな秋」では歌も!)。真壁陽平さん(Gt.)は、エフェクターを駆使し、さまざまな音の変化を聴かせてくれたり、「行き先は未来」では、背中にギターを回して、ラップスティール・ギターを操る様子は二刀流のサムライにも見えたり。和義さんのトランペットも深みを増していてかっこいい。それぞれが、技を結集して色を重ねていく。
また、エンターテインメント性も散りばめられているのも魅力。たとえば、鈴木雅之さんに提供した「純愛」では、客席を振り返ったみんなが、鈴木さんの如くサングラスをかけていて驚かされ歓声がもれたり(和義さんは、子どものころ大好きだった松田優作さんを彷彿とさせてくれた)、和義さんは、ラストに決めポーズで笑わせてくれたり(笑っていいんですよね? )。
一番のハイライトは「問題ない」からの(荻野目洋子さんの)「ダンシング・ヒーロー」のダンス。みんなが楽器を置いて、ステージに並んで踊る姿は必見! ツアー初盤に和義さんは「そのうち、三浦大知くんみたいに踊れるかな」なんて言っていて、さすがにそれは無理だったけど(笑)、見ごたえたっぷりのシーン。あと、和義さんの無茶ぶりの数々のメンバー紹介。いろいろなネタを振り、絶妙の間で、みんなの様子を楽しんでいる。その間はプレッシャーなのか、みんなが、身構えてる様子がおかしかった。今回ツアー初参加のよっちさん(河村吉宏さん/Drs.)は、何を言われてもニコニコしながら、素直に応えていて可愛らしい。真壁さんは黙秘してみたり、寛雄さんはとにかくいじられまくりで大爆笑。唯一、和義さんに抵抗して重圧を跳ね返しているのが、同じ歳で長い付き合いの崩場将夫さん(Key.) 。芸達者な崩場さんですら和義さんのつっこみに思わず「うまいなぁ」と感心するほどのトーク力には脱帽。
後半、「真っ赤な海」「グッドモーニング サニーデイ」の2曲は、アルバム『俺たちのロックンロール』からの選曲で、ともに〈Thank You Goodbye Yesterday Good Morning Sunny Day〉がキーワードになっている。まるで、デビュー25周年の伏線のような、斉藤和義とこのバンドメンバーでしか成し得ない景色が垣間見えたような気がした。「僕の踵はなかなか減らない」からは、会場はグルーヴの渦に包まれ、コール&レスポンスで息つく間もなく畳みかける。「月光」では、もう汗だくになっている和義さん。髪の毛から滴る汗にも気を留めず、渾身の力をふりしぼってハープを吹き、歌っている。ピックから飛び散るカケラが見えるほどギターをかき鳴らして、ただ、歌うその姿に、涙が溢れてくる。全身全霊で向き合ってくれているのだ。
アンコ―ルの「歩いて帰ろう」では、ステージ脇の花道に出て、左右、後方の客席にも余すことなく音を届ける。みんなの幸せそうな顔、きっと音だけでなく和義さんの想いや人柄も届いているのだと感じる。そして、ステージでは、よっちさん、崩場さんの前で楽しそうにリズムを合わせる寛雄さんを目がけて、真壁さんが左の袖のあたりから嬉しそうに走り込んでいく光景。どこを見渡しても楽しさしかない。「ずっと好きだった」では、和義さんはドラムをよっちさんから奪い(笑)、よっちさんはベース、寛雄さんはギターへとパートチェンジして盛り上がる。会場一体を包み込む多幸感。これが、斉藤和義が25年かけてたどり着き、築き上げてきたものなのだ。最後は、ステージの前方に出てきた和義さんとバンドメンバー“チーム斉藤”が手をつなぎ、鳴りやまない拍手に応えていた。終わってしまった…とはけるメンバーの後ろ姿を見送っていた。
そのとき、入れ違いにステージの和義さんのもとにアコギが運ばれてきた。それは、まさかのサプライズ。そして、何も言わずに奏でられた「空に星が綺麗」に、涙が止まらなかった。
〈口笛吹いて歩こう 肩落としてる友よ いろんなことがあるけど 空には星が綺麗〉
東日本大震災、熊本地震の時にもこの曲を歌い、被災地、被災者に寄り添った和義さんの想いが伝わってきたからだ。何も語らず、たださらりと弾き語るかっこよさ。言葉は、ただ、「どうもありがとう」。こんなに多くの想いが詰まった「ありがとう」を、私は知らない。斉藤和義という人の、計り知れない強さと優しさに改めて触れた瞬間だった。観客だけじゃない、同じステージに立っていたバンドメンバー、スタッフみんながステージの袖で、ただ、和義さんを見つめていた。心意気とギター1本で、観るものすべてを魅了する。こんなかっこいい“歌うたい”は、斉藤和義しかいない。ステージの和義さんから、神々しい光が放たれたような気がしたのだ。
8月24日には、大阪から『25th ANNIVESARY TOUR』がスタートする。ぜひ、一人でも多くの人に、和義さんの音楽を体感していただけたらと願ってやみません。
shino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在は校正士、時々物書き。今回のツアーでは、たくさんの和義さんのファンの方に出会うことができました。不思議なことに、文章に人柄って現れるんですね。みなさん、初めて会ったような気がしなくて、ものすごい安心感。改めて、偶然は必然なのだと感じて、素敵な出会いに感謝でいっぱいです。