今年の桜は、例年に比べて長く何度も愛でることができて、なんだかほんわかしたいい気分を味わいました。そして、昨年の4月に仲間に加えていただいたこの連載も2年目を迎えさせていただくことになりました。今年も丁寧に言葉を紡いでいきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
今回は、梅田シャングリラで行われたMOROHAの自主企画ライブ第17回「破竹」のライブレポをご紹介します。独創的な世界観を持つ新進気鋭のラップグループMOROHAと真心ブラザーズの対バン!
まず最初に登場したのは真心ブラザーズ。オープニングはファンの間でも人気の高い「突風」。いつもとはまったく違う客層にサングラス越しにニヤリとするYO-KING。自在性のある独特のスタイルでロック色の強い「マイ・リズム」「アーカイビズム」へと続き、弾けるGt.の桜井さんとバンドメンバーが安定のグルーヴ感でフロアを真心のリズム(世界)ヘと誘う。男性ファンから「KINGかっこいい!」と声がかかると「ありがとう。俺も激しく同意する」と応えたKINGは「アーカイビズム」の歌詞のごとく“俺はかっこいい”のスタンスであいかわらずの余裕を感じさせる。桜井さんは、リハーサルで観たというMOROHA・UKさんのギターを「うまいよねぇ」と溜め息混じりに絶賛。「俺も頑張らないと」と言ったあとのフロアの反応に「激しく同意されてる!」と苦笑する愛すべきキャラの持ち主。マイペースで毒を吐くKINGをかいがいしくフォローする桜井さんのトークは今日も最高に楽しかった。そしてオトナ真心の「すばらしきこの世界」「流れ星」、当時某局をなぜか出入り禁止になったという「拝啓、ジョンレノン」などを含む全9曲は、“THE真心”でありファンの心をくすぐる最高のセットリストでした。
いよいよ、予備知識がほとんどないにもかかわらず楽しみにしていたMOROHA(MC.アフロ/Gt.UK)。ラッパー・アフロさん(以下アフロ)の親しみのある表情と全身から溢れ出す渾身の言葉たち。何よりもその熱量はカリスマ性を感じさせる。そして、姿は見えないけれどUKさんの(以下UK、アフロさんはユーキくんと言っていた)異彩を放つアコースティックギター!一瞬で空気が変わったような気がしました。シンプルなんだけど、力強くて生命力のある美しいフレーズ。あぐらをかいて座ってギターを弾く、めずらしくもかっこいいそのスタイルは実は初ライブで椅子を借りようとしたところ貸してもらえなかったことから生まれた偶然の産物だそうです。そしてギターのボディを肘や手で叩いてドラミングする独特の奏法に釘づけ。まさにひと目惚れならぬひと聴き惚れでした。
いつだって電話越しに もう帰ってきなさいって言っていた母が
初めて俺に 悔いのないように頑張りなさいと言った時
皮肉にも母の元へ帰りたいと思いました
俺は親不孝でしょうか
3月から順次公開されている映画『アイスと雨音』の主題歌でもある「遠郷タワー」。ふいに舞い降りてきたこの言葉に当時東京で暮らしていた自分がオーバーラップして立ちすくむような想いがしました。2年という約束で上京したのに帰るそぶりをみせない私に「いつ帰ってくるの?」と言っていた母が、父が亡くなったときに言った言葉を思い出したから。「自分の人生だから、好きにしなさい」と。そのとき、私も初めて家に帰りたいと思ったこと。自分のことを親不孝だと思ったこと…。でもそんな私に「親孝行は離れていてもできるんだよ」と、「親のことを想って心で手を合わせるだけでも親孝行なんだよ」と言ってくれた人たち。ずいぶん前のことなのに、まるで映画の回想シーンのように一気に押し寄せてきて涙を堪えるのに必死でした。気がつけばフロア中からすすり泣く声…そうか、この人たちは今懸命に闘っているんだなと。アフロのメッセージ性のあるリリックには、等身大の彼の不器用だけどまっすぐな生きざまを映し出している。思いのこもったメッセージはダイレクトに届き、時には心に刺さったり、ささくれた心をまるく包み込んでくれたり笑顔にさせられたり。私は「それいけ!フライヤーマン」の<どうせ誰も照らしてくれないなら せめて自分の輝きだけは絶やすな>というシーンが大好き。お守りのような言葉。
今年で結成10周年を迎えるMOROHA。高校の同級生である二人は切磋琢磨し合うライバルであり、リスペクトし合う最強のパートナー。今まで悔しい思いをすることで成長してきたのだそうです。そして、ずっとある根本は、頑張ることだとインタビューで語っています。まっすぐにそう言う彼らの姿は眩しく、アフロのごつごつとしたストレートであったかいリリックとUKの繊細で濁りのない澄んだメロディーを武器にこれからどこまで昇っていくのか、楽しみで仕方ありません。
6日から放送されているテレビ東京系ドラマ25「宮本から君へ」ではエンディングテーマに「革命」が、そして12月にはZEPP TOKYOでの単独ライブも決定しています。
まるで短編映画をいくつも観終えたような感動と充実感。最後にライブのラストで心が震えた「四文銭」をお届けします。人生はいくつになっても、悩んだり迷ったり、葛藤の連続だけどそれも悪くないと思える。その先には必ず願った明日があると思うから。アフロが背中を押し、UKのギターは暗い足元をそっと照らすしるべなのかもしれない。一人でも多くの人に届きますように。
shino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在は校正士、時々物書き。先日は久しぶりにパーマネンツ(GRAPEVINE・田中和将&高野勲さん)のライブへ。バインとは少し違うテイストで、ムーディーな選曲といい勲さんのキレのあるつっこみといい限りなく好み。極め付けは田中くんのどS発言「しばくぞ!」が久々に出てゲストの佐々木健太郎さん(アナログフィッシュ)も大爆笑。笑いすぎてスペシャルな夜でした。