街を歩けば華やかなクリスマスツリーにときめく季節、いよいよ2017年もあと半月になりました。みなさまにとって2017年はどんな1年だったでしょうか? 私は一期一会に恵まれ、ライブ、そしてこの連載と…幸せを噛みしめる充実した1年でした。ある日電車で隣り合わせた小学3年生くらいの男の子が、これからお父さんと二人で動物園に行くんだと話してくれました。別れ際「ばいばい」と手を振った私に、あどけなさの残る顔で凛々しく「また会おうね!」。思わずどきっとした、そんな出会いもありましたね。いや、でもまだ半月あります! 年末まで余すことなく2017年を堪能したいと思います。
今回訪れたのは「F-BLOOD POP’N’ROLL TOUR2017」。F-BLOODとは藤井フミヤさんと尚之さん兄弟によるユニットで今年は結成20周年なのだそうです。私は結成当時観に行って以来約20年ぶりに大阪(9月Zepp Osaka、11月Zepp Namba)と東京(Zepp DiverCity)のライブに参加してきました。その場所はどこか同窓会にも似たにぎやかな雰囲気が漂い、ライブハウスでお二人が観られる貴重な機会だということで開演前から熱気に溢れていました。
ステージに二人が現れると大歓声! そんな興奮をいったん鎮めるかのように尚之さんのギターで始まった「BLOOD♯1」は、1998年に発表されたアルバム『F-BLOOD』の1曲目で、私自身思い入れのある曲。一瞬で当時の記憶がよみがえりました。あぁ、またここに帰ってきたんだなと。周りを見るとまっすぐにステージを見つめながら涙ぐんでいる方々の姿が見られ、タンバリンでリズムをとりフロアを見渡しながら歌っているフミヤさんにもこんなファンの顔が見えているといいなと願いました。続く「ROCK BAR」は最新アルバム『POP’N’ROLL』のオープニング曲。尚之さんのサックスに「うんうん、これこれ!」と唸ってしまうほど、それは懐かしくて心躍る音色。サックスを手にリズムをとる姿に惚れ惚れしてしまう。
この『POP’N’ROLL』のアルバムについてフミヤさん曰く「(F-BLOODとして)3枚目のアルバムで、50半ばにして今までで一番ポップでロックンロールで、若いアルバムを作ってしまった」と。あるときは「子どもが大人っぽく見せようと背伸びをするように、大人が若く見せようと背縮みするような(アルバム)」と言ったフミヤさんに、すかさず尚之さんが「にぃちゃん、背縮みって…もっとちっちゃくなっちゃうよ~」とつっこんで兄弟ならではのゆるくて絶妙なトークを、またあるときは「今しか歌えないから若作りで行こうぜ」と、フミヤさん。フロアにも「大丈夫、若いよ!」と調子よく言って「…暗くてあんまりわからないけど」と笑わせるシーンも。『POP’N’ROLL』を中心に過去2枚のアルバムから、歌詞を間違えても笑ってごまかす余裕の二人にみんな頬をゆるめながら、尚之さんがメインボーカルをとる曲やチェッカーズ時代の曲を随所に散りばめ、ファンを魅了していく。
当時から好奇心旺盛で流行に敏感だったフミヤさん。プリンスやテレンス・トレント・ダービーに影響を受け、ハウスやクラブミュージックを誰よりも早くチェッカーズに取り入れていたっけ。時代を引っ張る資質を持ち、すべてはフミヤさんの手のひらの上だったように思う。アイドルとして時代に淘汰されたくないともがき続けていた彼らが、オリジナルの楽曲で勝負を賭けた「NANA」や「Long Road」がまたこうして聴ける喜び。フミヤさんはあの頃と変わらず…というよりむしろ今の方が自由でしなやかに見える。両手を広げてすべてを受け止めようとするかのように、自分を見つめるファンを見つめ返しながら、言葉をメロディーに乗せて届けていく。誰かのためにではなく、目の前にいる“きみ”のために歌う。だからこそフミヤさんの歌は聴くものすべての人の心に響くのだと思う。さらりとふわっと心に入り込んでくる。
また、そのパフォーマンスも実にフミヤさんらしい。モニターに足をかけたり軽やかに乗ったりしてフロアの後ろの方まで見渡しては、手まねきをしスタンドマイクをくるくると華麗に操る。鍛えられた腹筋を見せ、熟練したハープを聴かせ熱狂させる。一つひとつの動きが洗練されていて、足の先、指の先まで見られていることを意識しているように見える。この人は、きっと物心ついたころからいつも輪の中心に居る人なのだろう。そういう星の下に生まれてきた、選ばれた人なのだろう。どこにいても、そこに居るだけで周りを明るく照らす、太陽のような人。そこに居るだけで、どんな人もファンになってしまう。まさにスターなのだと思う。
私にとっては眩しすぎて、どちらかというとその輪の隅っこのほうで話に入るでもない、でもちゃんと話を聞いて穏やかに笑っている。そんな寡黙で飄々とした職人気質のベーシストが好きでした。数年前にその方、大土井裕二さんにお会いして「(裕二さんは)私の人生を変えた人です」と告白したら笑われてしまったけれど、今回、改めて彼らは私の人生に間違いなく関わっているのだと確信しました。フミヤさんの書く詩に自分の原点をみたから。当時寝ても覚めても聴いていた彼らの詩が、今なお私の血となり肉となり、生き続けていることに気づいてしまいました。(来年はデビュー35周年なのだそうです。)
今回F-BLOODの二人を盛り立ててくれた(レコーディングメンバーでもある)バンドメンバーにも感謝。フミヤさんから「いろいろなギタリストとやってきたけど一番絡みにくいギタリスト」と最高の褒め言葉をいただいた真壁陽平さん。ツアーが深まるにつれてステージを動きまわり、背面弾きや瞬間瞬間で豊かな色彩を奏でるカオスなギターを魅せてくれました。バンマスである大島賢治さんは安定感のあるドラムで、まさにステージ後方からみんなを見守ってくれる様子が心強かった。癒やし系ベーシストのまーくんこと中村昌史さんはその佇まいや笑顔が裕二さんと重なって見える瞬間もあって和ませていただきました。
『POP’N’ROLL』は今しか歌えないと言っていたけれど、フミヤさんなら永遠に歌い続けることができるかもしれない。だって、彼はスターであり続けることを楽しんでいるのだから。「また一緒に遊ぼうぜ!」と両手を振って颯爽と去っていくフミヤさんに手を振りながら、ふっと「また会おうね!」と言った少年の顔が重なりました。あの少年はきっと、フミヤさんのようなスターになるのかも知れないなぁ。
shino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在は校正士、時々物書き。先日、The Birthday@Zepp DiverCityのセミファイナルで大モッシュに巻き込まれ、床に尻もちをつくというアクシデント! 一瞬将棋倒しを覚悟したのですが友人に引っ張りあげてもらい何とか生還。あわや大惨事となるところでした。思い返せばあの状況でかすり傷ひとつなかったのは周りの方たちが守ってくれたからこそ。忘れられないライブになりました。