「ロックンロールとは、転がり続けることである」
ロックンロール好きならこんな台詞を一度は口にしたことがあるのではないだろうか。
多分に漏れず、私もそのひとりである。
だがしかし“転がり続ける”とは、一体どういう状態を指すのだろう。
止まらないこと? 貫き続けること? それとも……。
そんな私に、本当の意味で“転がり続けること”を教えてくれたバンドを2017年の締め括りに紹介出来ればと思います。
■ロックを転がせ!エンタメロックショー、ここに極まれり! ― ビレッジマンズストア インタヴュー
真っ赤なスーツがトレードマークの名古屋出身ロックバンド・ビレッジマンズストア。暑苦しくもキャッチーなロックンロールと、圧倒的なライヴパフォーマンスを武器にその名を轟かせてきた。そして2017年はバンドにとって飛躍の年になったと言っても過言ではない。2月には無謀ともうたわれた名古屋DIAMOND HALL公演を成功させ、続いて開催した東名阪ワンマンツアーでは、大阪 あべのROCKTOWN・渋谷WWW・名古屋Electric Lady Landの全公演がソールドアウト。追い風が吹き始めたことを誰もが確信していた。しかし9月、バンドはギタリスト加納靖識の脱退を発表。それでもサポートを迎え精力的にライヴ活動を続け、12月6日には初シングル『TRAP』を発売。その勢いはまだまだ止まる様子はない。そんなビレッジマンズストアの楽曲のルーツから、バンドの今に至るまで、ソングライターでありヴォーカリストの水野ギイに目一杯語ってもらった。
(取材・文:イシハラマイ)
スタンダード過ぎるのは元々好きじゃない。亜種というか、キメラ的なバンドでいたい
――まずはバンド結成の経緯から教えてください。
「メンバー全員が中学校の同級生です。それで遊びでバンドを組んで。卒業後はお互い別々の生活をし始めたんですけど、地元が田舎だったし、つまらなくなっちゃって……。だったらちゃんとバンド活動をしてみよう、ってバンド名を付けたのが始まりです」
――その名前が、ビレッジマンズストア。
「そうです。だから来年で15年なんですよ。遊びの延長線上で始めたから、15周年! って感覚はないんですけどね。一応15年なんですけど……っていう(笑)」
――ビレッジマンズストアは大きな意味ではロックバンドだと思いますが、それより細かいジャンルに括れないというか。良い意味で雑多な印象があって。水野さんの音楽のルーツを教えていただければと。
「地元が愛知県の豊田市ってところなんですけど、すごくパンクが盛んな街なんです。だから周りにもパンクバンドしかいなくて、パンクをいっぱい聴いてました。高校生になってからはスカのイベントに行きまくってて……たまにロカビリーのイベントにも行く、みたいな感じでしたね」
――ビレッジマンズストアの歌とメロディーには歌謡曲の要素を強く感じますが、そこはいかがでしょう。
「メロディーと歌は自分でもそう思います。20代前半くらいに、歌謡曲がすごく好きな時期があって。バンドサウンドをちゃんと知ってから昔のポップソングを聴くと、グルーブ感が凄いんですよ! キャンディーズの……あ、LPしかないんですけど、ライヴ音源のグルーヴが特に凄い。ロールしてるんですよ!」
――ロールしてる、とは?
「“ロックアンドロール”って、俺の中ではジャンルじゃないんですよね。攻め方みたいなもので、音楽性としては捉えてないんです。例えばロックバンドがあって、フロントに俺がいるとして……俺がひとりで戦っていたら、形としては尖ってしまう。どこかが突出していたら、それって転がらないんですよ。ちゃんと角がたくさん出ていたら丸に近付いて転がっていくはず。ロールするはず。だから俺は“ロックアンドロール”することを大事にしてるんです」
――水野さんの豊富な音楽ルーツが、ビレッジマンズストアの良い意味での雑多な音楽性に繫がっているんですね。
「そうですね。俺はスタンダード過ぎるのは元々好きじゃなくて。ちゃんと亜種というか、キメラ的なバンドでいたいと思ってるんです。中途半端だなって思われるかも知れないけど、その中途半端な存在のまま突き抜けていきたい。それに、バラエティ豊かな中でも自分達の中では“これはやっていい、これはやっちゃいけない。これはやりたい、これはやりたくない”っていうルールはちゃんとあって。そこをしっかり線引きした上で自由に動き回ってる。だから色んな音を鳴らしたとしても、聴いた人が最終的に“ああ、ビレッジマンズストアだな”って分かるという自信はあるんですよね」
勢いのある頼もしい存在でいたかった
――12月6日には初シングル『TRAP』を発売。「トラップ」は、今までにない新鮮な曲調で驚きました。
「ふふふふふふ(笑)」
――バンドのダークサイドというか。前作の『正しい夜明け』のポップでメロディーが豊かな曲たちとは、真逆の印象です。
「最初に再生ボタンを押した時のびっくりで、俺たちは“よっしゃー!”ってなります(笑)」
――意外性を狙った、と?
「この前メンバーが抜けたじゃないですか。周りの反応は別として、抜けたメンバーも含めて、俺らの中ではすごく前を向いた決断だったんです。それが伝わらないのも分かるけど、バンドの雰囲気は良くなった。でも俺がリスナーとして聴いていても、バンドがメンバーチェンジすると、直後の作品は“抑えてきたな”っていうものが多いんですよね。だから真逆を行きたいな、と。それに0か100かを狙いたくて」
――敢えて賛否両論がありそうな曲を作ったということですか?
「シングルだから余計に、この1曲で“変わった”と言う人は言うと思う。でも今回はそれが手っ取り早いというか、それで良かったんです。何曲も出したら自分たちの守備範囲のものが集まって“いつものビレッジマンズストアだな”って思われちゃうので。ダメだって言いたい人にはハッキリそう言われよう、と。それより新しいことをしまくってるぜ、って驚きを見せたくて。そういう意味も込めてタイトルも付けました」
――「トラップ」、つまり“罠”だと。
「足を掬ってやるぜ、みたいね。歌詞含め俺の性格の悪さが出てますね(笑)。確かにバンドの持っている要素の端を狙って作った部分はあるんですけど、俺らは案外しっくりきててるんです。ちょっとバカにしたみたいな曲だし、違和感はあるだろうけど。音楽的に今まで出せなかったルーツ的なものも出せたから“いつもと違うね”と言ってもらえるのは嬉しい。とにかく勢いが増している今のバンドの雰囲気を壊したくなかったんですよね」
――メンバーの脱退があったタイミングだからこそ、勢いのある構えた曲を発売して、弱々しく見えないように意識したのかな、と。
「それは意識しました。バンドはモチベーションが上がりまくっている状態だけど、俺たちを好きでいてくれるお客さんを置いてきぼりにするのはどうなんだ、って。だからちゃんと勢いのある頼もしい存在でいたかった。それにカップリング聴いたら“なんだいつもと一緒じゃん!”ってなるんですよ(笑)」
関わってくれた色んな人に、俺も含めた皆の気持ちを歌いたい
――カップリングの「最後の住人」は「トラップ」とは打って変って爽快なメロディーが印象的な曲ですね。
「どっちかというと環境に左右されたのは〈最後の住人〉の方ですね。〈トラップ〉はさっき言ったみたいな企みがあったけど〈最後の住人〉はそういうのを全部度外視してる。俺たちの……っていうか俺の気持ちを表した曲になっています。俺はいつも悲劇ばっかり歌っちゃうんだけど、この曲は聴き方によってはすごく前向きになるものにしたくて」
――バンドの状況や水野さんの私生活が表れた歌、ということですか。
「俺は田舎から出てきて名古屋に住んで7年になるんですけど、7年経つと周りの環境って全部変わるんですよね。俺はずっと同じアパートに住んでるんだけど、住んでる人も全員変わったし、家の周りも変わった。つまりアパートを出て行った人や、自分の周りからいなくなった人たちにとっては、今自分がいる景色とか、そこで見た物って思い出になるんですよね。でも、誰かの思い出になってしまったところに、自分はまだいるんですよ」
――そうですね。
「誰かの思い出の延長線上で、まだ自分は同じことで戦いながら生きていられる。今も同じものを見据えてやっていますよ、って曲ですね」
――今回の件だけじゃなく、バンドは過去にもメンバーチェンジがあって。バンドを離れた歴代のメンバーにとってビレッジマンズストアは思い出であり、水野さんや今のメンバーにとって現在進行形ですからね。
「そう。関わってくれた色んな人に、俺も含めた皆の気持ちを歌いたいなって。この歌が俺たちから辞めた人に贈る曲だとしても、辞めたやつにとってもこの曲が俺たちに向けての曲であってほしい。そういう気持ちも全部表したかったんです」
――そういう曲をカップリングに隠しておくところも、シャイというか……。
「隠しておきたいんですよ……(笑)。バンドを好きでいてくれる人と、CDを手に取ってくれた人にだけ、この部分は伝われば良い。そもそも俺の気持ちとか、うちのメンバーから出る優しさとかって、パッケージングする必要はないと思っていて」
――それはなぜですか?
「そういうのは無制限に伝えるものじゃないと思っていて。いつも口に出して“好きだよ”と言ってくれる人に対して伝われば良いから、ライヴで表現すれば良い。だから今回も〈最後の住人〉はカップリングで良いんです」
――CDに収録はするけれども、カップリングという形で伝える人を限定した、と。
「今後も“感謝してますよ”みたいなことは、わざとらしく思えて出していけないかもしれない。人類愛みたいな気持ちなったら出来るかもしれないけど、今のところそこまで器用じゃないし(笑)。2曲目聴いて“もう、しょうがねえなあ!”って思ってくれたらいいな」
――「トラップ」の仕掛け方も「最後の住人」に込めた想いも、バンドをずっと観てきた方は“らしいな”って感じると思います。
「そうなんですよね(笑)。〈トラップ〉に対して“おや?”って反応は確かにあるけど、それは俺らが望んだ反応だから嬉しいし。“やっぱりこう来たか!”みたいな声を聞けたときもすごく嬉しかった」
俺がどういう気持ちでライヴしていようと、観ている人にとっては楽しいもの、心揺るがすものじゃないといけない
――先程ライヴのお話が出ましたが、ビレッジマンズストアのライヴはプロフィールに“ロックンロールショー”と書いてあるように、一般的なロックバンドのライヴと比較すると、サービス精神旺盛というか、圧倒的にエンターテイメント性が高い。フロントのメンバー全員がフロアに乗り込んでいく様は、何度観ても痛快です。
「アイドルのコンサートってすごいんですよね。ひとりひとりがちゃんと非日常を作っていて。でもそれは俺らも同じで。俺は日常を歌うけど、日常的なライヴをする気はなくて。(ロックを)ロールしている俺たちみたいなバンドがお客さんに提供できるエンターテイメントは何かって考えたら、あれしかないんです。昔、俺はロックバンドのライヴを観た瞬間“今俺は学校と違うところにいる!”って感覚になったんですよね。それを自分で再現してるんです。ライヴハウスで出来る非日常ってコレだよね、っていう分かりやすいものを提示してあげたい。それに俺らステージにいる人間があそこまでやっていたら観てる側も楽しんでくれるんじゃないかな、って」
――ライヴがエンターテイメントである、というのは水野さんの中では当たり前の感覚ですか? バンドの中には表現の場であってもエンターテイメントという感覚はない人たちもいると思います。
「俺もそれすごく分かるんです。でも俺は学生の頃に観た怖いパンクのイベントでも、最強のエンターテイメントとして楽しんでいたんですよね。本人たちはそんなつもりはなかったと思うけど(笑)。だから俺がステージから提示したいのもやっぱりエンターテイメントなんですよね。俺がどういう気持ちでライヴしていようと、観ている人にとっては楽しいもの、心揺るがすものじゃないといけない。たとえば映画なんてライヴより安く観られるのに、座っていても十分なエンターテイメントを提供しているんですよね」
――確かに!
「だから俺らはもっとやらないと。CGを使わないでCGみたいなことをしないと割に合わないんじゃないかなって」
――ビレッジマンズストアのライヴは、“ロックンロールが転がる(ロール)するためには、多角的でなければならない”という水野さんの信念通り、全員主役体制というか。個々のパフォーマンスが徹底していますよね。
「ステージに対して誠実でいたいというのは、うちのメンバー全員が思ってますね。ちゃんとそれぞれが考えを持ってる。そこはこれからも変わらないと思うし、そこが変わったら辞める時だと思います。それに今はギターがひとりいなくなって、今までは5人で100%になっていたものを4人で100%にしなきゃいけない。ひとり5%ずつ増やさなきゃいけないんです。サポートはいても、それはあくまで+αだって考えてるから。だから更にメンバーそれぞれが研ぎ澄まされてる感じがあって。みんな自分がいることへの必要性を肌で感じてるんですよね」
――水野さんは今までギターを持たないスタイルで歌って来ましたが、メンバーが4人になってから「盗人」(前作『正しい夜明け』の収録)で、弾き語りにも挑戦していますよね。
「そう! (脱退したメンバーが)くれたんですよ! 感情がリアルなものとしてあるうちに一通りの地域に連れて行ってあげようかな、と思って。それに他のメンバーもそれぞれ5%を考えてくれてるから、助けられてばっかりじゃ嫌だな、と。そういう気持ちの表れだと思って貰えたらいいな。良い機会だから、観る側からしてイメージが変わり過ぎるのは嫌だけど、形を決めずにひとつのライヴの中で色んなことをしてきたいと思ってます。それに〈盗人〉は大事な曲だから、色んな形で表現できるようになりたくて。20年後も歌っていたい曲なんです」
名古屋でやることがなくなるまでは、名古屋にいる
――そして来年1月からは『TRAP』を引っ提げたツアーも始まります。今までファイナルは名古屋でしたが、今回は初めて東京ですね。
「あ、そっか! そうですね!(笑)」
――え、無意識ですか? ビレッジマンズストアといえば名古屋、という印象だったので東京でのファイナルは意外だったのですが。
「名古屋はやっぱり特別で。戦ってきた場所でもあるし、帰る場所でもあるから、俺たちはずっと“名古屋のバンド”って言い続けると思う。でも東京もそうだし、盛岡にも良く行くんだけど、きっと無意識のうちにホームが増えてるんじゃないですかね。だから自然な流れで東京“でも”ファイナルができるようになったことは、嬉しいことですね」
――そうなんですね。
「でも昔から“名古屋でやることがなくなるまでは、名古屋にいよう”って言っていて。ダイアモンドホールもきっちりソールドアウトさせたいし、もっと大きな会場もあるし。俺らまだまだ名古屋で戦うことたくさんあるので」
――次の目標がもう、明確に見えているようですね。
「そうですね。昔は大きな目標を掲げても、バンド始めた中学生が“武道館でライヴするぞ!”って言うみたいに現実味がなかったんですよね。でも最近は先のことを具体的に考えられるようになって。良く大きなホールとかって何年後まで埋まってるとか言うじゃないですか。そこでライヴをするバンドは、その何年後のことまで具体的に考えてるってことですよね。そう考えると怖くなるし、俺はまだそこまで想像できないけど、一歩近づくことは出来たのかなって思いますね」
ビレッジマンズストア official web site
http://villagemansstore.com/
▽リリース情報
1st single『TRAP』¥1,200(税別)
2017年12月6日(水)発売
1.トラップ
2.最後の住人
3.ザ・ワールド・イズ・マイン
▽ライヴ情報
【『TRAP』リリース記念アコースティックミニライブ+サイン会】観覧フリー!!
12/20(水)@タワーレコード梅田NU茶屋町店 店内イベントスペース
12/28(木)@タワーレコード新宿店 7F イベントスペース
【THE BOHEMIANS『Looking for friends tour 2017』】
12/22(金)@渋谷WWW
ビレッジマンズストア / THE BOHEMIANS
【ビレッジマンズストア『TRAP』リリースツアー】
2018/1/25(木)@福岡Queblick
ビレッジマンズストア / モーモールルギャバン
2018/2/2(金)@梅田シャングリラ
ビレッジマンズストア / +1Band
2018/2/10(土)@仙台MACANA
ビレッジマンズストア / 藍坊主
2018/2/16(金)@名古屋BOTTOM LINE
ビレッジマンズストア / cinema staff
2018/2/23(金)@東京 TSUTAYA O-WEST
ビレッジマンズストア / +1Band
ほか、詳しくはWebサイトのライプ情報をご確認ください。
▽ライヴレポ―ト
ビレッジマンズストア 「『正しい夜明け』リリースツアー」@DIAMOND HALL 2017/01/28
LIVE DVD『正しい夜遊び』リリースツアー」@渋谷WWW 2017/08/24
■monthly Rock ‘n’ Roll vol.9 ― THE BOHEMIANS「ロミオ」
ビレッジ水野さんのインタビュー、如何でしたか。先月のこのコーナーでもエレファントカシマシとThe Doggy Paddleの話題に絡めて“ミュージシャンのみならず、芸術を背負って立つ人間は、夢追い人の皮を被ってなんぼ。誰かに夢を見せるなら、まずは自分から”なんてことを書きましたが、ライヴをエンターテイメントと考える水野さんのスタンスも通じるものがあるな、と思いました。なので私はステージに立つバンドの衣装にも、いつも注目しています。ビレッジマンズストアに興味を持ったきっかけも、実はあの真っ赤なスーツだったり……。そんな訳で、今月は衣装にこだわって選曲!毎度とにかく衣装が素敵なロックンロールバンド・THE BOHEMIANSの最新ナンバー「ロミオ」をどうぞ。私の大好物・歌謡曲の要素も大いに感じられるロックバラード、最高です。
イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。2016年11月号より『音楽と人』レビュー陣に加わる。12月22日は渋谷WWWにてビレッジマンズストアとTHE BOHEMIANSのツーマンが、下北沢CLUB QueにてThe Cheseraseraの追加ワンマンが開催されるので、早めに分身の術を身に着けようと思います。尚、発売中の『音楽と人』にてTHE BOHEMIANSのインタビューを担当しております!「ロミオ」についても語ってもらってますので是非。