■『Black Box』伊藤詩織著 文藝春秋
この事件は本当に卑劣で許せない。他人事に思えなくて、
詩織さんの会見を見て、その勇気に涙がでた。
これだけ注目を浴びたら事件の真相は明らかになって、
顔を出し、名前を明かした覚悟が報われる気がしていた。
けれど、9月に検察審査会は「不起訴相当」とした。
きっと色々な力が働いているのだなと推測はできる。
ネットニュースだけで好奇心を満たすのではなく、
彼女の「真実」の声を聴いてみたくてこの本のページを開いた。
夢中になって読んだ。ノンフィクションとしてすばらしい。
『伊藤詩織』という一人の女性が、とても幸せな家庭で育ち、
ジャーナリストになりたい! という夢を持って、留学する。
恋をしたり、バイトをしてなんとか生活や学費を稼ぐ毎日が書かれている。
事件のこととは、まったく関係のないようなことだが
彼女の逞しさ、行動力を随所に感じるエピソードが描かれている。
留学先のホストマザーの言葉が心に残る。
「銃で脅されても車に乗っちゃダメ。そこで撃たれても逃げて。
車に乗ったら最後。誰もあなたを探すことができないの。だから、そこに血を残しなさい。
そうしたら、手がかりが残るから」
海外でもサバイバルな状況を生きてきた、幼いころも痴漢にあって苦しんだりしていた場面もあり、
普通の女性より、より用心深く生きてきたのではないかと思う。
ある日突然、事件は起きてしまう。
親しくて、尊敬している仕事の先輩と恵比寿で食事。
そんなことは、東京で働いている女性だったら日常でよくあるケースであろう。
その日の夜の出来事の詳細は、この本に書かれていることを読んで欲しい。
「パンツをお土産に頂戴」と言って隠したり、
「今までは出来る女みたいだったのに、今は困った子どもみたいで可愛いね」
とか反吐がでるセリフも忠実に書かれていて、
思い出して書いたであろう悔しさに、激しい怒りを感じた。
最初は、誰にも話せず怯えたという。
妊娠している可能性もあって、月日が過ぎていくのが怖かった。
けれど、彼女は気丈なふりをして事件の相手のジャーナリストにメールを交換し続ける。
警察だけに頼らず、自分で事実を立証していく姿がとても勇ましい。
あとがきから引用したい。
『レイプは魂の殺人である。それでも、魂は少しずつ癒され、
生き続けていれば、少しずつ自分を取り戻すことができる。
人にはその力があり、それぞれに方法があるのだ。
私の場合その方法は真実を追求し、伝えることであった。』
彼女は血を流しながら、この本を書いた。そして、まだ血は流れ続けている。
勇気を持って、「伝える」行為を貫いた彼女の覚悟を読んで欲しい。
私は、何ができるのだろうと、読後ずっと考えている。
名物の玉ねぎを植える前に、畑はレタスや白菜を植えます!
今まさに、白菜が巻いていく最中。
こんな場面東京では見れないから、成長を観察しています。
上村祐子●1979年東京都品川区生まれ。元書店員。2016年、結婚を機に兵庫県淡路島玉ねぎ畑の真ん中に移住。「やすらぎの郷」と「バチェラー・ジャパン」に夢中。はじめまして、風光る4月より連載を担当させて頂くことになりました。文章を書くのは久々でドキドキしています。淡路島の暮らしにも慣れてきて、何か始めたいと思っていた矢先に上野三樹さんよりお話を頂いて嬉しい限りです。私が、東京で書店員としてキラキラしていた時代、三樹さんに出会いました。お会いしていたのはほぼ夜中だったwと思いますが、今では、朝ドラの感想をツイッターで語り合う仲です。結婚し、中年になりましたがキラキラした書評を青臭い感じで書いていこうと思っています。