気がつけば、もう10月も半ば。今年も残すところ2か月半です!そして4月からスタートしたこの連載も、あっという間に折り返しの7回目を迎えました。毎回、「読んだよ」って言ってもらえることがとても嬉しくて、もともと私は想いを文章という形にすることで、友だちに「聞いてー!」と言うように誰かに伝えたいんだなと思っていたけれど、もしかしたら、そんな「よかったよ」というひと言が聞きたくてこうしているのかもしれない。そんなことに気がつきました。気持ちを受け止めてもらえることってとても嬉しいものです。いただいたメッセージはすべて私の原動力になっています。いつもありがとうございます。
 
さて、先日は私自身が「よかったよ」と全力で伝えたくなるような出来事がありました。それは、雨の銀座(YAMAHA銀座店)でアルバム『ベター・ハーフ』の発売記念として行われたシンガーソングライター・中村 中さんのインストアライブに行ったときのことです。大通りに面したガラス張りのスペースに1台のグランドピアノ。そこへ、軽やかなノースリーブのワンピースに赤いヒールで右手を高々と上げ颯爽と現れた中さん。そっと静かに鍵盤に触れ、アルバムから森田童子さんのカバー曲「たとえばぼくが死んだら」。そして中さんの代表曲でありたくさんの出会いを連れてきてくれた大切な曲だという「友達の詩」が演奏されるとたちまちフロア全体が中さんワールドへと惹き込まれていく。詩に込められた想いと一音一音丁寧に紡がれるメロディーはダイレクトに心に響いて、ふいに涙がこぼれてしまいました。気がつけば入場制限のかかった店内からこぼれてしまった人たちだけでなく降りしきる雨のなか道行く人たち、外国人観光客も足を止め歌声に聴き入っていて、360度自分を取り囲む視線のライトをまるで楽しむかのように微笑みを湛えながら歌う中さんは神々しくも感じられました。そしてこの日の雨にちなんで「みんなで一緒に演りたいと思って」と演奏された「雨のロマンス」。中さんのピアノに合わせてハンドクラップ。そこには雨=憂鬱というイメージはすでになく、まるでジャズバーかライブハウスのような盛り上がり!まさにそこは艶やかに魅せる中さんの独擅場で大きな拍手が湧き起こっていました。
 
曲間には言葉を選びながら丁寧に話をされ、「ベター・ハーフ」の言葉の意味を。天国でひとつだった魂は、この世に生まれるときに男性と女性(あるいは男性と男性、女性と女性)に分けられて別々に生まれてくるのだそうです。その自分のかたわれのことを「ベター・ハーフ」と呼び、身も心もぴたりと合うもう片方の自分に巡り合うために生きているのだと。最後に歌われた「愛されたい」は大好きな曲で感極まってまたもや涙。中さんの、大切な人を大切にし続けることという言葉がぐるぐる巡って、思わず中さんに抱きつきたくなるほど、圧巻で素晴らしかった。約30分ほどのステージでしたがもはやインストアライブの域を超え、中さんの真摯な姿と世界観に包まれた濃密で満ち足りた時間でした。その後行われたサイン&握手会ではこの感動を伝えたい!と意気込んだものの、中さんを目の前にするとオーラと目ヂカラに圧倒されて消え入りそうな声しか出なかったのです。どうした、私!(笑) でも蚊の鳴くような声で息も絶え絶えだったけど何とか感無量だと伝えることができました。「ありがとう!」としっかりと握り返してくれたその手はとてもあったかくて(熱かった!)中さんの漲るパワーが流れ込んできたようで…手と手を繋ぐことで気持ちが伝わるような気がした瞬間でした。

 
 
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その後、放心状態で向かった先は、現在も豊洲で行われている劇団☆新感線の「髑髏城の七人 Season風」。こちらは11月3日(金)まで上演中のため内容について詳しく触れることはできませんが、これは必見です! 作・中島かずきさん、演出・いのうえひでのりさんの「髑髏城の七人」は1990年の初演以来7年ごとに再演され、過去には古田新太さんや市川染五郎さん、小栗旬さん(2011年)が主演している劇団☆新感線の代表作。今年3月から「花」、「鳥」、「風」、「月」、「極」と5つのバージョンで復活。約1年3か月にわたって上演が予定されています。今回の「風」は、小栗旬さん主演の「花」、阿部サダヲさん主演の「鳥」に続く第3弾目。それぞれのシーズンごとにキャストや脚本、演出が大胆にもガラリと変わっているのが特長で、「風ドクロ」は松山ケンイチさんが一人二役を演じていることも話題のひとつ。主役のアツくて飄々とした着流し姿の“捨之介”とその宿敵である残忍で冷酷無比な“天魔王”。二人はかつて織田信長の影武者だった…という壮大な人間ドラマが描かれた風ドクロ。同じ顔を持つ両極端の男をどう演じ分けるのか、また一人二役ならではの早替わりにもぜひご注目を。「えっ!? いつの間に?」っていうシーンもあり目が離せません! カポエイラをやっているというその成果と数々の作品で主役を演じてきた松山さんの座長感や人間力にも惹かれました。
 
また捨之介、天魔王と同じく信長に仕えた男“蘭兵衛”を演じる新感線初参加の向井理さん。その佇まいははっとするほど妖艶で、翻弄され葛藤する蘭兵衛の心の内を見事に表現されていました。コケティッシュだけど凛としていてかっこいい“極楽太夫”の田中麗奈さん、こちらも新感線初参加と知って驚いた、存在感のかたまりのような生瀬勝久さん…。実は新感線初見の私でしたが、橋本じゅんさんがツボにはまってしまって(笑)。新感線ってこんなに笑いがあってアクティブで体育会系なんですね。とにかくダイナミックな動きや殺陣のシーン、衣装やメイクまでどの瞬間を切り取っても見どころ満載の3時間40分でした。楽しかった!
 
 
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そして忘れてはいけないのが、会場のIHIステージアラウンド東京。客席を囲む360度のスクリーンに映し出されるプロジェクションマッピング、1300席の客席が回転することで場面転換をしていくという画期的なこのシステムはアジア初なのだそうです。まるでテーマパークのアトラクションのようで、臨場感のある舞台はこの劇場でこそより一層楽しむことができます。きっと風ドクロは、今日もアドリブなども含めてその日その瞬間にしか味わえない緊張感をもって日々進化していることでしょう。私も近くに住んでいたらあと1、2回は観たかった!「髑髏城の七人 Season風」。ぜひみなさんに観て体感していただきたい作品です。
 
「髑髏城の七人」の番宣の動画はこちらから
http://www.tbs.co.jp/stagearound/kazedokuro/gallery/
 
髑髏城の七人 Season風 公式HP
http://www.tbs.co.jp/stagearound/kazedokuro/
 
 
 
 


 
shinomuramotoshino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在は校正士、時々物書き。先日発売されたGRAPEVINEのアルバム「ROADSIDE PROPHET」は、バインらしくて素晴らしかったです! デビュー20周年でも変幻自在、いまだ底を見せていない瑞々しさを感じて。いよいよ東京からツアーがスタート!今から楽しみで仕方ありません。