爽やかな風が吹き新緑がまぶしい5月は、私を含め友人の誕生日が多く、“おめでとう”を言ったり言われたり、とてもにぎやかな1か月でした。観たライブも盛りだくさん。怒涛のライブ三昧を締めくくったのは5月28日(日)に大阪・Zepp Osaka Baysideで行われたGRAPEVINEの『GRUESOME TWOSOME』でした。全国8か所で行われたこのツアーはGRAPEVINEのデビュー20周年を記念したものでユニコーンに始まり、麗蘭やNICO Touches the Wallsなど豪華ミュージシャンを迎えての2マンイベント。そんなツアーファイナルの大阪はUNISON SQUARE GARDEN。学生時代、GRAPEVINE(以下バイン)を20曲以上コピーしていたという斎藤宏介さん(Vo.&Gt.)は、以前田中くん(Vo.&Gt.田中和将)へバイン愛を伝えたのだそうだ。
 
でも反応は今ひとつ。相当ショックを受けたことを今日、あらためて伝えたところ、本人は泥酔していたためまったく覚えていなかったのだそう。
 
 
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さて、いつものように手を振りながら静かにステージに登場した田中くんが地元・大阪で恒例の「帰ってきたぜー! オオサカー!」と抑揚のない、でもきっと愛を込めているに違いない棒読みで叫ぶ。ファンの顔をゆっくりと見渡してから「ふれていたい」からスタート。田中くんとアニキ(Gt.西川弘剛)のギターが重なり、亀ちゃん(亀井亨)のドラムと金やん(Ba.金戸覚)、勲さん(Key.高野勲)の音が幾重にも層になって混じり合って音の渦を織りなす。始まる! 始まる! とワクワクする瞬間。オープニングからファンは思い思いに腕を上げたり口ずさんだり。田中くんは気持ちよさそうに一人ひとりのファンの顔をまるでインプットするかのように笑みをたたえながら伸びのある歌声を披露する。
 
デビュー20周年というといわゆる大御所なのだが、これほどまでにグループとしてのカタチ、枠にとらわれていないバンドはみたことがない。同じ場所に留まらない、一瞬一瞬で姿カタチを変える。まさに変幻自在。瞬きをしている間に、もうさっきまでの姿はない。そんなバンドなのだ。いつも意表を突いてくる選曲。今回はナミダするファンも多くみられたアコースティックな「Wants」から圧倒的なバインの世界観を見せつける「豚の皿」は凄まじいものだった。そして、バインの王道ともいうべき壮大なスケールの新曲「Arma」をはじめとするバラエティーに富んださまざまな楽曲。飄々と攻め続け、ひとつのイメージに留まらない自在性と名曲の数々を披露していく。
 
今年は嬉しいことにこれから何回も大阪に来るのだという。でも、まだ公表してはいけないものもあり、先走った田中くんが「あ!」とゴニョゴニョ口ごもったり、また、「古いCDを売って新しいCD(『Arma』)を買ってください」とミュージシャンらしからぬ突拍子のないプロモーションをしたり。笑いが止まらない私たちファンを見て、嬉しそうに「あと400曲やります」とか小学生でも言わないようなことを言ってみては「終わるの寂しいから、みんなの顔しっかり見とこ」などと、アイドルでも言わないようなセリフまで身につけた田中くんは最高なのだ。
 
今回の2マンはいわば序章。今年はまだまだバインのレポをご紹介することになりそうなので今日はこの辺りで。(実はバインについて過去記事でも熱く語っているのでよろしければそちらも読んでいただけると幸いです)
 
この夏は7年ぶりだというフジロックをはじめフェスへの出演が続々決定しているGRAPEVINE。「Arma」を携えて、どんなステージを魅せてくれるのだろう。
 
 
 

〈武器はいらない/次の夏が来ればいい

 
 
 
デビュー20年のベテランが集まったロックファンのココロに風穴を開ける存在になるのではと秘かに期待している。
 
 

 
 
 
そして、この季節になると思い出す朗らかで丸いお顔があります。それは、以前不動産関連の仕事をしていたときの上司。「何怒られてたん?」声の大きいその上司と普通に話しているだけなのに同じフロアの人によく言われていたっけ。マンションの住民の方からのクレームやトラブルなど毎日さまざまな電話に追われていてのらりくらりと家賃を滞納してやり過ごそうとする人に上司が声を荒げるシーンも。でも必ず、電話の最後には解決策を提案して親身になって言葉をかけていたことを思い出します。ある日、私が怒鳴られているわけではないけれど、強いその物言いが堪えると言ったことがある。すると、上司は「ごめんね、でもこれは僕の個性だから。そうじゃないと、僕が僕でなくなっちゃう」。デリカシーがないくらいの大声、でも関西弁でズケズケと強く言ったあとに出る “ごめんね”。どんなに「このおっさんー!」と立腹していても不思議と仕方ないなぁと思ってしまう、そんな可愛げのある上司でした。いい大人なのに、八つ当たりされたこともあったし言った言わないで怒鳴られたこともあったし何度、気の強い女と言われたことか(笑)。でも必ずそのあとに、お菓子を買ってきてくれたりごちそうしてくれたり…。
 
今でも忘れられないのは、私が大きなミスをしてしまったときのこと。気づいた瞬間、真っ青になりながら、すぐに上司に報告し謝った。大声で怒鳴られることを覚悟していたのに上司は驚きも怒りもせずに静かに言った。「よく正直に言ってくれたな」と。そして「大切なのは、隠さないことや」と。その上司の声を、表情を、私は一生忘れることはないだろう。張り詰めていた気持ちが、ぱちんと音をたてて崩れていくのがわかった。料理男子の先駆けで、タンドリーチキンや餃子を作ってきてくれたり時代劇好きで、毎晩、馬上から刀を振り回している夢を見ると言ったり坂本龍馬好きの私と張り合い、どちらがより好きかを競い合ったり。
 
白髪も目立ち始めていた60代なのに、髪を真っ黒に染めて若返ったり。たった4年という短い時間だったけど、とても楽しかった。競馬の話、病気の話…時には上司の家庭の話を、まるでスナックのママのように聞いていたっけ。
 
上司の周りにはいつも人が集まっていた。病院に行けば看護師さん、レストランでは店員さん。どこに行っても、すぐ誰とでも親しくなって老若男女、時には犬までも手懐けていたな。こんなにお節介でおばちゃんみたいで人情に厚い、不器用な大人を私は知らない。。。
 
そんな上司が亡くなってもう2年。
 
この季節はあの大きな声と“ごめんね”が恋しくなって、心のなかでそっと手を合わせるのです。
 
 
 
 


 
shinomuramotoshino muramoto●京都市在住。雑誌編集・放送局広報を経て、現在は校正士、時々物書き。先日は中村中さんのデビュー10周年のSHOW『天晴れ!我は天の邪鬼なり』へ。身体をはって何もかもを正直にさらけ出してきた中さんの想い。ファンの方々が真正面からしっかりと受け止めている光景を目の当たりにし、魂の歌声に心打たれました。