連載◆渡辺真綾「夢色ミックスジュース」第2回「一耳惚れの季節」

GWも終わりを迎え、少しずつテストと課題に追われる日常が戻って参りました。皆さん、素敵な連休は過ごされましたか？私は例年通り、各地で開かれている音楽フェスの中からVIVA LA ROCKとJAPAN JAM 、そしてgo! go! vanillas主催『READY STEADY go!go! vol.04』と一家総出で5月病の予兆を吹き飛ばすかのように音楽漬けの毎日を過ごしておりました。
 
 

 
 
個人的に、フェスのお薦めの見方は知ってるバンドと名前だけを知ってるバンドを交互に見て回ること。とはいえ、回数を重ねれば重ねるほど好きなバンドは増える一方で、取捨選択が難しくなるのが悩みの種になるんですけどね。豪華コラボや、話題のニューカマーの中から、今回私が初見で惹き込まれたのがVIVA LA ROCKで観たcero。
 
昨年から続くシティーポップブームと、個人的にご贔屓にしているラジオ局でパーソナリティーをしていたことで名前を聞く機会は多かったのですが、きちんとLIVEを観るのはこれが初めて。勝手によく知っているつもりになっていた分、いつも遊んでいる友人が急に綺麗になって目の前に現れたような、新鮮な驚きと共にど真ん中を撃ち抜かれてしまいました。
 
 

 
 
1つ前のバンドが終わり、急いで移動していたら、外からの光を存分に取り込んだ解放的なステージから流れてきたのは、夏の夜の湿ったような空気。私が読み手だとしたらこの段階で？が頭を飛び交うと思います。でも、音しか聞こえていなかったはずなのに、その場所からは確かに気怠くて、少しだけ甘やかな気配が漏れていて。ラジオ越しにしか聞いたことのなかった音楽が直接鼓膜を震わせた時、背中が粟立つような感覚と共に「このバンド、凄まじい」と本能的に確信しました。
 
 
個人的な感覚かもしれないけれど、私が好きな音楽には、“言葉でうまく表せられない景色や感情を絶妙な温度感で表現してくれているもの”が多いような気がします。聞いた瞬間に、忘れていた筈の匂いや、大切だった想い出が蘇ってくるような。はたまた、見たことも想像したことも無い場所に連れて行ってくれるような。その点で、彼らの音楽はちょっと群を抜いているように思うのです。
 
LIVEでは3人＋複数のサポートメンバーで音を織り成しているcero。ボーカルの髙城さんがフルート奏者という一面を持っていたりと、それぞれが自由に音楽を乗りこなしている様は目に楽しく、視覚的にもかなり刺激的。でも、そんな中で特筆すべきは、彼らの音が持つ表現力の高さではないでしょうか。
 

 
髙城さんの声とジャジーなピアノが化学反応を起こしながら舞踏会顔負けの華やかさを魅せる「Yellow Magus」、無機質にループする時報音の裏に、真反対の性質を持つ人間味が見え隠れする「ticktack」など、ceroの楽曲は1つの景色を描き出したかと思えば、その中からまた新しいものが見えてきて…という風に、開く度に全く違う絵柄が出てくるマトリョーシカのように次々と色を変えるものが多いです。
 
根本に息衝いているのは、真夜中の空気ともシンクロする、落ち着いたグルーヴ感。脳髄を直接揺らしにかかるそれは、良い意味での“彼ららしさ”だと思って観ていたのですが、その土台の上で目紛しく変化していく情景が余りにも鮮烈で。「フェスでちょっと味見…という程度の軽い気持ちで見ていたら、彼らの持つ毒に一瞬で侵されてしまう」。全てが終わった後、半ば放心状態になりながらステージを見上げていた私は、ふと誰かが言っていたそんな言葉を思い出したのでした。
 
ちなみに、余談にはなりますが、印象的だったのは、フロアにいる人の飲酒率が他のバンドに比べて高めだったこと。私はまだ未成年なので実行不可能でしたが、お酒を片手に揺ら揺らと身を溶かしてしまいたくなる、その気持ちが本当によく分かるなあ…と、今、音源を聴きながら改めて思っています。百聞は一見にしかず。皆さんも是非、名前や音源だけで知っているつもりにならずに現場で生の音に触れてみてくださいね。
 
実を言うと、この「夢色ミックスジュース」という連載タイトルに込めた意味を話そうと思って書き始めた文章だったのですが、想定外の出会いがあったので、今回はcero大特集ということでお届けして参りました。これからもライブ狂いの生活の中でキラリと輝く宝石を見つけたら、皆さんに嬉々としてお伝えすると思いますが、暖かい目で見守って頂けると幸いです。皆さんにも、素敵な出逢いが訪れますように！