あけましておめでとうございます。
2年目となるこの連載も、無事最終回を迎えます。
まずは今年もこの貴重な場を提供してくださった上野さんへ、心より感謝申し上げます。
そして、取材にご協力いただきましたミュージシャン、スタッフ、イベンター、カメラマンの皆様、この場を借りて改めてお礼申しあげます。ありがとうございました。
2016年はこの連載も2年目でしたが、音楽ライターとして本格的に活動を始めてからも2年目の年となりました。そして、大きなチャンスに恵まれた年でもありました。
まず、人生で初めて『音楽と人』に原稿が載るという椿事で1年が始まり、さらに夏には「RISING SUN ROCK FESTIVAL」の取材メンバーに加えていただき、メインレポートを担当するという事件が起こりました。ライジングについては、本当に今思い返すとよくやれたなあ……という気持ちでいっぱいです。連載でも書きましたが、何せあれが人生初野外フェスですから。装備もないし、サバイバルの心得もないし、体力はなんとかなるかもしれないけど寒さには弱いし、と不安要素ばかりでした。遊びに行くなら適当にダウンすればいいけれど、取材でそれは許されない。さらに帰ったら帰ったで、経験のない長さの長文原稿を書かなきゃならないのだから、行く前からもう不安しかない状況でした。しかし、いざフェスが始まってみると、そりゃあもう楽しくて楽しくて。記憶は鮮明なのですが、思い返すとなんだか夢みたいに全部が淡い光に包まれた映像で蘇ってきます。……そこからの長文原稿との戦いという現実のギャップは凄まじいものでした。
そして、皆々様のお蔭で無事、ライジングのレポートが掲載された『音楽と人』が店頭に並んで暫く。またも事件は起こったのです。それはなんと、『音楽と人』でのレビュー執筆の依頼でした。音人のレビューは超濃厚な執筆陣がひとり1ページを専有して作品レビューのみならずエッセイも執筆するというページ。私は『音楽と人』を買うと、まず毎月レビューページから読み始めるのが恒例でした。そこによもや自分が加わろうとは。たぶん未だに誌面を見て「こいつ誰だよ」って思っている読者の方は多いと思います。そもそも字面から思いっきり浮いてるし。でもそんな方々にも「なんか面白いこと書いてるな」と思っていただけるよう、精進したいと思いますので、ぜひ今年もチェックしていただけますと幸いです。ちなみに今月号はなかなかロックンロールなラインナップになっておりますので、ぜひ書店やCDショップでお手に取ってみてください。よろしくお願い致します。そうして秋があっという間に冬になり、気付けば年の瀬という1年でした。
あとライターとしてはもうひとつ、ちょっとした夢が叶いました。それは私が音楽の文章を書き始めた当初から実現したかった「音楽×文学」という表現についてです。例えばレビューにしてもライヴレポートにしても、その作品を何も知らない人が読んでも面白い読み物でありたい、つまり文学的に書き残したい、という思いがいつもありました。とはいえ、ライヴレポートやレビューはどうしても伝えるべき情報は伝える、という役割もあるので「面白い読み物」は実現できても「文学的」となると、ちょっと違う。そこを無理やり文学的に……とかこじらせても、何も良いことはありません。そんな文章、私も読みたくないですし。けれども、なんとか「文学的」なアプローチもしたい。これも諦めきれないのが事実。なぜなら私は中高生の頃は本気で小説家になろうとしていた程、物語好きなのですから。だから、ぶっちゃけて言うと「音楽×小説(散文、詩も含む)」的なアプローチがしたかったのです。しかしまあ、現状小説家でもないし「小説で音楽を表現しませんか?」なんて依頼が来るはずもなく。「ライヴレポートさせてください」ならまだしも「あなたの音楽の小説書かせてください」なんて流石に言えるワケもない。だからもう、これに関しては長期的スパンで考えて、いつか清水浩司さん的な小説も書けるライターになりたいと目論んでいた次第でした。
音楽のあれこれをしている仲間同士で呑んでいたある日のこと、ふとした話題から「アルバムのPRとして、楽曲をモチーフにした短編小説を公開したいのだけど、書き手を探している」という、まさかの超ど真ん中の案件があることが発覚。そこで、やります書きます待ってました! と、周りが引く程のふたつ返事で引き受けました。その完成品がコチラ!(小説が終わるとMVが貼られているので楽曲も聴けますよ!)
ENTHRALLSという女性ヴォーカルのピアノロックバンドが11月に発売したアルバム『TEXTURE,MOISTURE』の収録曲「ロンリーガール」をモチーフとした短編小説です。ENTHRALLSのヴォーカル井上さんと、曲が生まれた背景なども伺いつつ、イメージを膨らませながら、物語を作りました。(背景になっている写真も選びました)小説が出来上がってから、急遽物語と歌詞を記載したペーパーを作ってくださり、各CDショップの『TEXTURE,MOISTURE』の展開に置いていただいたのは本当にうれしかったです。本当に、ありがとうございました。
さて、2017年。
今年は一体どんな年になるのでしょう。2016年は始まり続けた年で、それに気持ちと体が追い付かない部分もあり、目盛が振り切れるほどの幸せとしんどさを行ったり来たりしていました。そろそろあらゆるビギナーズラックは尽きたとみえるので、2017年は本当の意味で試される一年になるかと思います。小心者ゆえ、気が気ではありませんが、少しだけ気持ちに隙間を作って、新しいものを受け取ったり、ほっと一息ついたりできたらと思います。それでどうにか2016年に足りなかった「楽しい」「嬉しい」「安心」という感情を恒常的に持てたら良いな、と思います。
皆様のお陰で、今年もまだ「音楽ライター」と名乗っていられそうです。もう少し、お付き合い頂けたら幸いです。愛と、感謝を込めて。
■end “ROCK’N” roll vol.12 ― ビレッジマンズストア 「WENDY」
今年最後のテーマソングは真っ赤なスーツがトレードマークのロックンロールバンド・ビレッジマンズストアの「WENDY」。私の2016年を象徴するのはやっぱり『音楽と人』。この曲が収録されている『正しい夜明け』は、レビューを始めてふた月目の12月号で書いた作品です。それとビレッジマンズストアはサーキットイベント「SAKAE SP-RING」の取材にa flood of circleのライヴレポートなど、何かと訪れる機会の多かった名古屋の地で結成されたバンド。そして何より、色気あるロックンロールであること。この三大要素から、2016年度を総括するテーマソングに選びました。ちなみに、これは今月発売の『音楽と人』のレビューのエッセイで私が思い悩んでいた「あること」の答えにもなっているので、気になる方はぜひ本屋さんで『音楽と人』もチェックしてみてください! よろしくどうぞ。
イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。大晦日は下北のライヴハウスを行き来してお世話になったバンド達のライヴへ。カウントダウンは下北沢Daisy BarでThe cold tommyでした。写真は師走に訪れた京都・清水寺。ここ数年の私にとって特別な場所です。今年度も本当にありがとうございました。
イシハラマイ「続・やめられないなら愛してしまえ」
第11回「ロックンロール・ダンディ:Outside dandy@TSUTAYA O-Crestライヴレポート」
第10回「The Doggy Paddleインタビュー:DIY Rock ‘n’ roll !!」
第9回「ブルーを以て、青く在れ!」
第8回「石狩賛歌」
第7回「たからものをあつめて」
第6回「現実主義者はロックンロールの夢を見るか」
第5回「愛と勇気の“貴ちゃんナイト”」
第4回「その眼差しに捧ぐ」―The cold tommy新体制を観た
第3回ジャンプ ザ ライツインタヴュー「ヒーロー・コンプレックス」
第2回「透明な熱が熟れるとき」
第1回「ロックンロールのそばにいて」