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どうも、今年もまた暗闇の中からこんにちは。
 
2016年も、面白い映画がたくさんありました。ということで、去年に引き続き、その中でも特に強く印象に残っている映画、というか「夢子クルー」のみなさまに是非チェックしていただきたい映画――のみならず、今年は配信ドラマ、地上波ドラマなども含めて10本、ピックアップしてご紹介したいと思います。
 
 
 
■『君の名は。』(監督:新海誠)


 
2016年を代表する一本と言えば、やはりこの映画。まだ観てないという人は、一刻も早く観たほうが良いと思います。その上で、「なぜこの映画が、これほどまで多くの人々の支持を獲得したのか?」について考えてみることは、少なからず意味があることのように思います。正直、海外でもウケるとは思わなかったわ。実際、ワタクシも2回ほど観て、目元を潤ませた気がしないでもないのですが、なぜ泣いたのかと問われると、案外よくわからない。まあ、中盤に登場するカタストロフな風景から、一気にギアが入ったという感じはしていますけど、あのへんの時系列って、一体どうなってんの? みたいな感じがなきにしもあらず。いずれにせよ、“今の気分”という目に見えないものを、ガシッと鷲掴んでしまった監督、そしてRADWIMPSの起用も含めて、それを半ば確信的に掴み取ったプロデューサー、川村元気の手腕に脱帽です。
 
 
 
■『この世界の片隅に』(監督:片渕須直)


 

 
などなど、案外腑に落ちない『君の名は。』旋風、さらに腑に落ちない『映画 聲の形』の興行的な大健闘など、“ポスト宮崎駿”に名乗りを上げる国産アニメが続々と登場する中、その最後に現れた“ホンモノ”の映画、それが『この世界の片隅に』だと思います。こうの史代による原作漫画も相当評価が高かったですけど、「絵が動く」というアニメーションならではの表現はもちろん、美しい背景、綿密な時代考証とリアリティ、コトリンゴの音楽、そして最後の1ピースとして能年玲奈の「声」を獲得した本作は、日本のアニメ史上……否、日本の映画史に残る傑作となりました。完成までに費やしたという6年の歳月は伊達ではありません。個人的には、「過ぎたこと、選ばんかった道、みな覚めて終わった夢と変わりはせんな」という台詞は、なかなかすごいと思いました。未見の方は是非。年明けからは、劇場数も増えるってよ!
 
 
 
■『ちはやふる』(監督:小泉徳宏)


 
少女漫画を原作とした映画、ちょっと多過ぎなんじゃない?とは思いつつ、その中でも最大の驚きは、『ちはやふる』でした。いわゆる“部活もの”としての作劇に新味はないけれど、競技かるたの世界がこれほどまで映画と相性が良いとは、正直驚きでした。詠み手の言葉に耳を傾ける静寂、スッと腰を上げる晴れ着姿の男女……から、電光石火のアクション! いやはや、素晴らしい。そして、主人公である広瀬すずの、もはや“天然もの”と言うべき溌剌とした動き。精魂尽き果てながら白目むいて寝るとかすごいや。「上の句」のラストに登場して、「下の句」で大活躍する松岡茉優も堂々たるものですが、個人的には「上の句」の衝撃が勝りました。好評につき続編の制作も決定したという本作。スルーするには惜しい一本です!
 
 
 
■『シン・ゴジラ』(総監督:庵野秀明/監督・特技監督:樋口真嗣)


 
驚きと言えば、こちらも驚きでした。正直、公開前は「まあ、庵野さんだし一応観るか」ぐらいの気分だったのですが、まさかこんな映画に仕上がっているとは! 形態変化するゴジラのアイディアや、巨神兵を彷彿とさせる禍々しい、あるいは神々しいゴジラ像、といった造形上の工夫はもとより、台詞が織りなすグルーヴと驚愕のテロップ量、そして日本の危機管理システムを揶揄するような物語など、単純に映画としてものすごくスペクタクルに面白かったです。まさしく映画館で観ることの醍醐味を感じました。素晴らしい。それにしても、『君の名は。』しかり、震災後の世界を生きる我々にとって、カタストロフの風景というのは、もはや良くも悪くも悲しみ以上の“何か”を感じさせるものですね。このタイミングで、そういう作品が複数登場したのは、決して偶然ではないと思います。あ、石原さとみも、ワタクシはアリでした!
 
 
 
■『怒り』(監督:李相日)


 

 
『君の名は。』、『怒り』、『何者』など、先述の川村元気プロデュース作品が立て続けに3本公開された下半期。その中でも、とりわけ強く印象に残ったのは、吉田修一原作の映画『怒り』でした。いわゆる“犯人探し”のサスペンス映画としては、やや肩透かし的なところがあり、なおかつ原作同様「沖縄編」の存在が、テーマを少々見え難くしているなど欠点はあれど、「東京編」の妻夫木聡と綾野剛、「千葉編」の宮﨑あおいと松山ケンイチ、そして渡辺謙の演技は、文字通り圧巻でした。特に、宮﨑あおいの“慟哭”には、度肝を抜かれました。すごい女優さんですね。“怒り”というよりも、むしろ“人を信じることの困難さ”を描いた作品として、いつまでも強く心に残り続ける一本だと思います。坂本龍一の劇伴も、本当に見事でした。
 
 
 
■『溺れるナイフ』(監督:山戸結希)


 
先ほど、少女漫画原作の映画が多いと書きましたが、その中でもひときわ異彩を放っていたのが、この映画です。趣里が主演した『おとぎ話みたい』など、近年“日本映画の新しい才能”としてインディーズ界を騒がせていた20代の新鋭・山戸結希監督が初めて監督したメジャー作品――であるどころか、主演に今をときめく小松菜奈と菅田将暉を起用して撮り上げた渾身の一作です。ジョージ朝倉の原作が持つエッセンスをギュッと取り出しながら、決して戻ることのできない“青春のきらめき”と、その喪失を、他の誰とも似ていないやり方で、詩的かつ大胆に切り取ってみせる山戸結希。その才能には、確かに非凡なものがあるかもしれないです。などなど、おっさんたちによる絶賛はともかく、本作が主人公たちと同世代の女の子たちにウケたというのは、どうやら間違いのないことのよう。ま、個人的には結構苦手なタイプの映画だったんですけどねー。
 
 
 
■『ブルックリン』(監督:ジョン・クローリー)


 
さて、ここまで書いてきて、外国映画が一本も入ってないことに気づきました。まあ、邦画がいつになく豊作だったということもあるのですが、もちろん洋画にも観るべき作品は数多くありました。それを挙げていったらキリがないので一本だけ。1950年代、アイルランドからアメリカ東海岸、ブルックリンへと流れついた、名もなき女性の物語。それが、『ブルックリン』です。地方から東京へと上がってきた人たちはもちろん、そうでない人の胸の奥底を搔きむしる郷愁と普遍性が、この映画にはあるように思います。あ、同じく今年公開された『キャロル』(美しい映画です)も、この映画と同時代の東海岸を舞台としているのも、なんだか不思議な話ですね。さらに、時代は違えども、同じくアイルランドの若者たちの物語という意味で、昨年のベストに選出した『はじまりのうた』のジョン・カーニー監督が撮った『シング・ストリート 未来への歌』なんかを参照してみるのも面白いかもしれません。それにしても、『ブリックリン』の脚本を書いているのが、ニック・ホーンビィとは驚きでした。まあ、『17歳の肖像』の脚本も書いていたと言えば納得なのですが、小説家として『ハイ・フィデリティ』や『アバウト・ア・ボーイ』を書いた、ニック・ホーンビィだぜ?みたいな。
 
 
 
■『ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK』(監督:ロン・ハワード)


 

洋画と言えば、昨今のトレンドとして「音楽映画の充実」があります。『ストレイト・アウタ・コンプトン』のように、実話ベースの物語を、プロの役者が演じる映画も良かったですが、今年とりわけ印象的だったのは、膨大なアーカイブ映像を繋ぎ合わせながら、スターダムにのし上がっていく“バンド”の姿を進行形で描いた音楽映画でした。たとえば、『ザ・ビートルズ』。いやあ、このタイミングで、ビートルズの映画に心揺り動かされるとは思いませんでした。オフィシャルの素材はもちろん、個人所有の8ミリ映像などもかき集めて描き出される、ビートルズのアーリー・イヤーズ。登場からわずか5年にも満たない期間で、文字通り世界の頂点へと駆け上がっていった彼らの勢いは、本当にすごいものがあります。というか、そんな彼らの音楽に熱狂する若者たちの姿が、何よりも印象的でした。熱狂を生み出す装置としてのロックンロール。その意味では、『オアシス:スーパーソニック』にも、強く心を打たれました。両者とも、上がっていった、その頂点で映画が終わるのが、とても潔いというか、非常に美しいと思いました。
 
 
 
■『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(監督:ザ・ダファー・ブラザーズ)


 
ここ日本でも、いよいよ普及しつつある映像配信サービスですが、オリジナル作品の充実という意味では、やはりNetflixをワタクシはお勧めします。『ナルコス シーズン2』も相当良かったというか、個人的にはかなりハマりましたが、なにせコロンビアの麻薬王の話なので、ここでは、この夏、アメリカで大旋風を巻き起こした『ストレンジャー・シングス 未知の世界』をピックアップ。舞台は80年代、BMXを乗り回す少年たちのひとりが突如行方不明になります。そこにある施設から脱走してきた少女が加わり……という、『E.T.』や『グーニーズ』など、80年代のアメリカ映画へのオマージュが散りばめられた、さらにはそこに『AKIRA』的な要素も加味した、非常にスタイリッシュかつ緻密な物語でした。全8話と、海外ドラマにしては非常に見やすいサイズ感となっているので、何はともあれ、まずは観てほしい一本です。ウィノナ・ライダーとロブ・ロウも出てるよ。
 
 
 
■『逃げるは恥だが役に立つ』(脚本:野木亜紀子)

 
海外ドラマが盛り上がる一方、視聴率的にはなかなか厳しい日本の地上波連続ドラマの世界。しかし、今年も終わりに近づくにつれ、多くの人々を巻き込みながら、尋常でない盛り上がりをみせた『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)は、2016年、忘れることのできない一本となりました。主演の新垣結衣の圧倒的な可愛らしさに注目が集まった序盤から、だんだんと物語自体が内包する、現代社会に対する問題意識とメッセージが浮かび上がるという、実に巧みな展開となった本作。視聴者たちは、ガッキーや星野源の可愛らしさのみならず、いつのまにか自分たちを取り巻く社会や生き方について、思いを馳せたことでしょう。連続ドラマならではのグルーヴ感というか、評判が評判を呼び、やがて大きな社会現象となっていく様子を久々に見ることができたような気がします。4月期にオンエアされた『重版出来!』(TBS系)ともども、このドラマを手掛けた脚本家、野木亜紀子の名前は憶えておいて損はないと思います。それ以外のドラマでは、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)、『トットてれび』(NHK総合)、『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)などが、個人的には印象に残りました。地上波ドラマには、まだまだやれることがあるはず! とはいえ、深夜も含めて、こんなにたくさん地上波ドラマはいらないかな?と思ったりするのも正直なところですが(苦笑)。
 
 
 
 
ということで、思いつくまま選んだみた10本、いかがでしょう? 今年は特に全体としての総括はありませんが、女性の生き方やセクシュアリティをめぐる問題というのが、依然としてプログレマティークであるのは、どうやら間違いのないことのようです。『逃げ恥』の“百合ちゃん”こと石田ゆり子のセリフではないけれど、「自分に呪いをかけないで。そんな恐ろしい呪いからは、さっさと逃げてしまいなさい」というのは、来年も引き続き、エンタメにおいてもひとつ大きなテーマ――そして、メッセージとなっていくような気がします。
 
さて、当初の予定よりも、だいぶ長くなってしまいましたが、今年も例によって、リアルサウンド映画部のほうでも、2016年のオススメ映画を10本(上記の10本と重複無し!)紹介していますので、気が向いた方は、そちらもご参照くださいませ。いやあ、映画もドラマも、面白いよ!
 
 
 
 


 
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