Do It Yourself、略してDIY。
巷ではすっかりお馴染みとなったこの言葉。
 
この3文字を冠して100円ショップを使ったリフォーム術を紹介するテレビ番組なんかを、最近良く見かけます。ひと昔前は「日曜大工」と呼ばれていた類のものです。要は本来であればプロに頼む大工仕事などを素人が工夫して頑張る、ということ。
 
そしてDIYという言葉はあっという間にお茶の間に浸透し、今やただの日曜大工の進化系ではなくなりました。スタイルや活動方針にもDIYという言葉が使われているのをよく目にします。今回は、そんなDIYの精神で活動をするロックンロールバンドに話を聞いてきました。
 
 
■「The Doggy Paddleインタビュー:DIY Rock ‘n’ roll !!」


 
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左:横道孟(Gt) 右:恵守佑太(Vo/Gt)

 
 
都内ライヴハウスを中心に活動する4人組ロックンロールバンドThe Doggy Paddle。浪漫と哀愁を抱き込んだハードボイルドな歌詞と、雑味の無い鋭角的なバンドサウンドが特徴です。今年2月にメンバー脱退というアクシデントがありながらも、3月にはバンド初の配信限定シングル『Voo!Doo!Do!!』をリリース。まるでタイムスリップをしたかの様な完璧な80年代ディスコミュージックで2016年のリスナーの度胆を抜いてみせたのが、記憶に新しい。
 
10月、サポートベーシストとして活動をしてきた村田慎太郎が正式メンバーとして加入。新体制となった彼らから届いたのは2枚の新しい音源。自主レーベルからリリースされた4枚目の全国流通EPと、会場限定ミニアルバム。そこにはDIYの精神で活動する彼らの心意気がぎっしりと詰まっていた。新譜について、そしてDIYでロックバンドをすることについて。バンドのオリジナルメンバーである恵守佑太(Vo/Gt)と横道孟(Gt)に話を聞きました。
 
 
――同月に全国流通盤のEPと会場限定盤をリリースするのはバンド初の試み。なぜ今回はこのようなリリース形態をとったんですか?
 
恵守「前作から1年以上経っているので、ミニアルバムが作れるくらいの曲数は溜まっていたんです。それで新曲を少し足してフルアルバムを作るつもりで制作を始めました」
 
――なるほど。曲数だけを見れば全国流通盤の『BEFORE THE STORM EP』が4曲入りで、会場限定盤の『THUNDERBOLT PARADE』が6曲入り。フルアルバムも十分狙えたのでは?
 
恵守「そうなんです。でも曲が出来たときに、メンバー全員一致でその曲たちを全部1枚のフルアルバムに収めるのは違うなと思ったんです」
 
――それはどうして?
 
恵守「なんか女子校の派閥みたいなのが曲同士にあるんですよ。同じクラスだからって一緒にしないでよ!みたいな(笑)」
 
――女子校の派閥!?
 
横道「そう(笑)。たとえ良い曲だったとしても、ただ良い曲を12曲入れました、っていうのは違うと思ったし。」
 
恵守「それもこれも曲が出来て行った結果なんですけどね。今回は結構ボツにした曲もあって、その中にはすごく良い曲もあったんですけど、この2枚のCDに入れるにはキャラクターが違うなと思って今回は見送りました」
 
――なるほど。2枚それぞれの曲のラインナップを見ると、全国流通の『BEFORE THE STORM EP』はライヴの定番曲で、会場限定盤はライヴでも披露されていない全くの新曲ですよね。この選曲に2枚に分けた秘密も隠されているような気がしますが。
 
恵守「そうなんです!まず全国流通の方は、なかなかライヴハウスに来られない人に、いつもライヴでやっている曲を聴かせたかったんです。でも、やっぱり自分たちはライヴハウスに来て欲しいんですよね。だから全国流通盤を聴いてもらって気に入ったら“お、会場限定盤っていうのもあるのか。じゃあライヴってやつにも行ってみようか”ってなればいいな、と。そういう人が一人でもいてくれたら大成功だなって」
 
――それに会場限定盤が未発表曲ばかりなのは、ライヴハウスの常連のお客さんにとっても嬉しいですよね。
 
恵守「そう言ってもらえると嬉しいです。だからこその2枚のリリース形態や、それぞれのラインナップにはちゃんと意味があるんです」
 
――今作は新体制となって初リリースでもあります。何か変化はありましたか?
 
恵守「慎ちゃん(新ベーシスト・村田慎太郎)が入ってから、全員のこだわりがより強くなりましたね。慎ちゃんって繊細で、色んなことに気付くんですよ。空気感とか。だから皆で細かいことを気にしていこうよっていう風潮になってレコーディングの感じもすごく変わりましたね」
 
横道「そうそう。口数は多くないんだけど核心を突くんです」
 
――今回の2枚を聴いて、4人それぞれの個性やキャラクターがより強く音になっているという印象を受けました。それでいてバンドサウンドとしてはきっちりひとつの物としてまとまっている。
 
横道「まさにその通りで。慎ちゃんがバランスを取ってくれるんですよね。曲を作る時もそうだけど、自分が何をすればいいか分かってるんだと思う」
 
――慎太郎さんはサポートを始める前からThe Doggy Paddleのライヴをよく観ていて“自分ならこう弾く”というビジョンを持っていたそうです。こういうある種ファン目線的な客観性がバンド内に持ち込まれたということが大きいのかも知れませんね。
 
横道「確かに、曲を作ってる俺と恵守には絶対にない部分だからね」
 
恵守「そう。作った段階で100%無理なんですよ、どうしても」
 
――そうですよね。
 
恵守「スタジオとかでも“俺はずっと観てたから思うんだけど……”って言ってくれることがよくあって」
 
横道「慎ちゃんがバランスを取ってくれたおかげで、俺たちはより好きなことができるようになったっていうか、個性が出せるようになった」
 
恵守「自由度が増しているのに、今までよりまとまっているというか。それが多分イシハラさんが言ってくれたそれぞれのキャラが立ってきたっていうのに繫がっているんだと思います」
 
――あとは前作からの変化としてはレコーディング環境が変わったんですよね。
 
横道「はい。3月に配信した「Voo!Doo!Do!!」からなんですけど、エンジニアにインストバンドのManhole New Worldのドラム・関根米哉くんを迎えて作りました」
 
 

 
 
 
――同じようにライヴハウスで活躍するバンドマンと一緒に作るって、どんな感覚なんですか?
 
横道「ライヴも良く観てくれていたし、対バンもしたことがあったから距離が近いんですよね。レコーディングの時もバンドメンバーと同じくらい話し合いに加わってくれて」
 
恵守「アレンジの提案もたくさんしてくれたんです」
 
横道「全国流通盤のリード曲「嵐が丘」は、レコーディングをしたことですごく良くなって、エンジニアの力を感じましたね」
 
――「嵐が丘」は慎太郎さんのアンニュイなベースが映えるミドルナンバーですし、まさにドギーが最新の布陣で作り出したバンドの新たな代表曲ですね。
 
恵守「ほんとに、そうだと思います」
 
――そして全国流通盤は自主レーベルから4枚目のリリース。The Doggy Paddleはかなり早い段階から自主レーベルを立ち上げて、いわゆるDIY的にバンド活動をしてきました。なぜそういう活動をしようと思ったんですか?
 
恵守「元々レーベルに属していたんですけど、2ndミニアルバムを出す時にちょっとアクシデントがあってリリースが出来なくなるかもしれないという事態になったんですよね。そんな時に“自主レーベルっていう手段があるよ”と教えてくれた人がいて。その人が流通会社を紹介してくれたんです」
 
――では、必要に迫られての選択だったんですね。レーベルに所属していた頃と、自主レーベルでやってみて、一番の違いは何でしたか?
 
恵守「自主レーベルでやってみて感じたのは風通しの良さですね。何が起きているのかが、全部自分たちで把握できる。それが向いてるな、と思ったんです」
 
――The Doggy Paddleは自主レーベルのみならず、所属事務所もなく、完全にメンバーだけでバンド活動に関する全てをまかなっていますよね。
 
恵守「そうですね。グッズのデザインやCDのアートワーク、MV、全て自分たちで作っています。今回のCDのアートワークも全国流通盤が僕で、会場限定盤はコタローがデザインしています。やっぱり俺たちはジャケットも含めて自分たちの作品、という想いがあるので」
 
――物販、CD、MVに全て一貫した世界観が確立されているバンドって、実はあんまりいないんですよね。アルバムごとにテイストが変わってしまうことも多々ありますし。
 
横道「そこはやっぱり自主レーベルの強みだよね」
 
恵守「MVもハイビジョンしか対応してないカメラで撮っていたので、世間にはもっと良い画像のビデオが沢山あると思うんです。でも撮影から何から何までを分たちでやってるバンドはそんなに多くはないと思うんです」
 
――確かに。
 
恵守「でもそうすると、何のフィルターも通さずに、自分たちのやりたいことが届けられるんじゃないかな、と。完成度だけをとったら、全然なってないのかも知れないけど、自分たちの世界観を伝えるというツールという風に考えたらすごくアリなんじゃないかと思いますね」
 
――そうですね。
 
恵守「物販とかも大手のバンドの整った感じも良いとは思うんですけど、俺たちはハンドメイド感を出して行きたいんです。そういうところを俺たちの売りにしていきたいんです」
 
――まさにDIYの精神ですよね。
 
横道「そして実は今、ホームページもリニューアル作業中なんです」
 
 
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本邦初公開! The Doggy Paddle新公式HPトップ画像

 
 
――これはかわいい! これも全てメンバーがデザインを?
 
恵守「はい。そして技術面は、デジタルPRプランナーの石松豊さんという強力な助っ人が力を貸してくださっています!」
 
――石松さんはインターネット広告の運用を仕事にしつつ、WEBサイトの制作や作曲等もされる方だそうですね。
 
横道「そうなんです。俺たちのライヴも観にきてくれて」
 
恵守「要望も丁寧に聞いていただいて、こだわりにこだわり抜いたホームページがついに完成しようとしています…!」
 
――それは楽しみです。慎太郎さんの加入や、エンジニアの件もそうですが、今のドギーは周りにいる同じくDIYの精神で活動している方とすごく良い化学反応を生み出していると思います。
 
恵守「確かにそうかもしれない」
 
――それによって4人の個性がどんどん色濃くないっている。これってDIYバンドの理想形だな、と。
 
横道「そう言ってもらえると嬉しいな」
 
――そして会場限定盤のトレーラーは、各メンバーがプロデュースしたMVがオムニバス形式で流れるものですよね。これも、たぶん以前のThe Doggy Paddleならやらなかったんじゃないかな、と。いつも通り恵守さん監督のものを1本作って…みたいな。
 
 

 
恵守「そうかもしれない。今は活動のすべてに4人それぞれの人となりが出てるんですよね」
 
横道「でも人間性が出せるって本当に嬉しいことで、それが俺が音楽をやる意味なんですよ」
 
――というのは?
 
横道「俺が楽をやる意味は人間性の表現だと思ってて。”この人が弾いてる感”を出したい。そうじゃなかったら俺が弾いてる意味はないしね。正直、俺より上手い人はいくらでもいると思う。でも家庭の味みたいなもので、そりゃ三ツ星のフランス料理の方がおいしいんだろうけど、俺この味好きだわ……みたいな感覚」
 
――まさに“味”ということですよね。
 
横道「そう。もし俺が俺のままで売れないなら、売れても意味がない。極論、俺は野たれ死にでもいいんですよ。俺のままで死ねるなら。だから変わりたくないなって想いもすごくあって。それでメンバーに迷惑をかけることもあって……まあそこはすごく反省してるんだけど」
 
恵守「横道の言ってる事はわかるし、俺もそうだと思う。でも横道は自分の炒飯の味を崩すぐらいだったら俺は中華屋やめてやるっていう意見なんですよ。それはちょっと違うんじゃないかな、と。お前の炒飯は一級品なのはわかってる。でも俺たちは中華屋であって炒飯屋じゃないから、お前の作った回鍋肉も食べてみたいって言ってるだけなのに。喧嘩するの嫌いな上に短気だから、こういうこと言うとすぐ周りをシャットアウトしちゃうんですけどね。」
 
――炒飯って(笑)。
 
横道「喧嘩するのが嫌だから回鍋肉を作るフリはするんだけど、結局納得いってないから炒飯作って。それで皆に怒られるんだよなあ。……俺は音楽以外のこともそうやって生きて来ちゃったから。でもバンドはそれじゃダメだよね」
 
恵守「そう。ぶつかり合いっていい味にしなきゃダメなんだよ。俺自身はもっと歌が上手くなりたいと思っているから、高い声でなくても“それが俺だい!”っていうんじゃなくて。出たらもっと良い炒飯になれるかもしれないな、って。でもそれでも俺の作った炒飯であることに変わりはないから」
 
横道「そうだね。……作るよ回鍋肉」
 
――ではメンバー間のわだかまりも解けたところで、バンドの今後について。お二人はどのように考えていますか?
 
恵守「俺と横道は今28歳なんです。もっと若いころは年上のお兄さんバンドに“お前ら渋いことやってんな”ってちやほやされて嬉しかったんだけど、25歳くらいから下の世代がライヴハウスに出始めて。最近ではライヴハウスで年齢を訊かれて答えると"意外といってるんだね“って言われ始めてきましたね」
 
――そういう今の立ち位置を、どんな風に感じていますか?
 
恵守「バンドマンとか、普通の社会のレールからちょっと外れた人にとって30歳ってひとつのボーダーラインで。でも俺はそのボーダーを認めつつも意識しすぎるなよ、と思っています。まだ2年あるから26から28の2年間よりも濃いものにしてやる、と。30になったら別の物が見えると思うんですよね。でも絶対何かしらのボーダーだとは思ってる。30になるから辞めるって奴もたくさんいるし、30になって売れなかったらどうこうって話しも良く聞くし。でも、魔の数字であることは認めつつも、意識しすぎない。怯えすぎるのは良くないことだと自分は思いますね」
 
――横道さんはどうですか?
 
横道「先のビジョンも大事だけど、俺は一番大事なのは今だと思っていて。人の気持ちでも何でも、結局は変わって行くし、自分の考えすらも変わっていくじゃないですか。正義とかも歴史によって変わるし。何が正しいかって、今自分が思っていることしか確かじゃない。だから今自分が思っていることを大事にしたいと思っているんですよね。納得して死ぬためには、って」
 
恵守「そうそうそう。どういう人生を歩もうが、死ななかった人は多分いないから。絶対にいつか死ぬから。その時に生まれてきて良かったなって思って死にたいんですよね。仮に明日死ぬとしたら今はまだ嫌だなって思うから、もう今日死んでも良いと思うくらい、楽しくその日をちゃんと生きたいんですよね」
 
――それだけ潔く生きる、ということですね
 
横道「最終的にはそうだね。やっぱり、俺は横道として死にたいっていうか」
 
――では最後に11月19日に迫るワンマンについて、意気込みをお願いします。
 
横道「さっき未来のことは分からないなんて言ったけど、多分俺らはもうメンバーが変わることはないし、変わった時は終わる時だろうと思っています。このメンバーでダメだと言われるんだったら、納得して死ねる。……まあ、まだ死にたくはないですけど(笑)。だから最高の新体制でのワンマン、絶対観てほしいんです」
 
恵守「ワンマンのセットリストを今組んでいるんですけど、すごく充実したものになっていて、間違いなく最高の日になるから絶対に来てほしい。ちょっとでも名前知っていて気になるなって思ってるなら来た方がいい。結局シュレーディンガーの猫ですから。あなたが来ない限り、そこには大したことないドギーパドルと、最高のドギーパドルが存在するわけで、だからこそライヴに来て最高のドギーの存在を観てほしい。って犬バンドなのに猫で喩えしまった……!」
 
 
 
 
●The Doggy Paddle
 
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2008年、恵守佑太(Vo/Gt)と横道孟(Gt)を中心に結成したロックバンド。現在は中村虎太郎(Dr)、村田慎太郎(Ba)を迎え、4人編成で都内を基点にライヴ活動を行っている。
 
あくせく犬掻き、悪足掻き
誰かに強がり、何かに抗い
今日も何処かで足掻き続けてる
 
不条理な日々をぶち壊したいなら
俺達の歌を聞いてくれ
響け、遠吠えのロックンロール!
 
 
 
 
 
■end “ROCK’N” roll vol.10 ― THE YELLOW MONKEY「SO YOUNG」


 

 
最近新作「砂の塔」がドラマの主題歌になっている影響もあり、イエモンの露出が多くて嬉しい限り。今回インタビューした二人も、イエモン愛好家。インタビューは横道氏たっての希望で都内の昭和歌謡バーで行われました。そこで流れる昭和歌謡を聴いていて改めて思うは、やはり上質な色気があるということ。男性にしても女性にしても、色気というのは不思議なもので美男子だから、別嬪だから色気があるかと言われると、案外そうでもなかったりする。先日テレビ番組で「SO YOUNG」を歌うイエモンを見た。吉井氏の目元には深い皺が刻まれていた。年齢を重ねた証だった。でも、その皺が、たまらなくセクシーだったんだ。
 
 
 
 
 


 
①photo by Airi Okonogiイシハラマイ●会社員兼音楽ライター。「音小屋」卒。鹿野淳氏、柴那典氏に師事。守りたいのはロックンロールとロン毛。新木場STUDIO COASTで行われたGLIM SPANKYのワンマンは圧巻だった。甘えず、怯まず、怠けずに、「ワイルドサイド」を行こうと思う。