18th Album『風の果てまで』

18th Album『風の果てまで』


 
 
全67公演の長い旅の中で、彼らはどんな景色を見て何を感じてきたのだろう。
 
約半年間、全国をくまなく回り私たちにときめきと幸せを与えてくれた彼らに、ただただ感謝しかない。
 
 
本当は1月に行われるはずだった防府公演。大雪でやむなく延期になり、そしてツアーファイナルとなった。開場前から防府公会堂の周りは熱気に包まれていて、この日のために全国から駆け付けたファンも多かったのだろう。
 
1月に来るはずだった人たちには全員来てほしいと言っていた斉藤和義さん。払い戻しがほとんどなかったという。どれほどこの日を待ち焦がれていたかがうかがえる。
 
 
「今日も最後まで楽しませてもらいま~す」。
 
いつものようにそう言い、ひらひらと手を振る和義さん。今回はツアー初日から、ほぼ変わらないセットリスト。でも後半で新曲「マディウォーター」が加わったり、楽曲のアレンジが日々さまざまに変化し進化し続けたのは、今ツアーの魅せ場のひとつだったのではないだろうか。
 
最初は遠慮気味だったバンドメンバーが、日に日にその多彩なテクニックを披露していく様子はいつも新鮮で楽しみだった。当初から異彩を放っていた「青い光」。どんどんアレンジが変わり、どんどん惹き込まれていった。真壁陽平くん(G.)がバイオリンの弓を使ってギターを弾く。和義さんが手にしていたギターは、いつの間にかコルネットになり最終的にはトランペットになっていた。混沌としたステージに浮かびあがるそのシルエットに、観客からため息と感嘆の声が漏れる。
 
 
弾き語りの1曲は、当日のひらめきで決まる。
 
「座っていいですよ。みなさんがそんなに若くないの、知ってますから」と笑いをとりながら観客を着席させて、丁寧に奏でられるアコギ。アコギの存在感、雄弁さを感じる贅沢な時間。
 
「アバリヤーリヤ」では下ネタを盛り込んだサビと観客を巻き込んでの振り、そして、メンバーが楽器を置いて真面目な顔でセンターに一列に並ぶ。各々カウントを取りながら千手観音のようにぎこちなく手をあげたりおろしたり。そしてあのパフォーマー集団さながらのダンスに会場が湧く。
 
「時が経てば」は、日を重ねるごとに凄みのある深い曲になっていった。和義さんの叫びに心を揺さぶられた。
 
 
さまざまな光景が蘇ってくる。
 
なかでも武道館は仲のいいアーティストや前回までのバンドメンバーたちが駆けつけ、彼らの歌、プレイを聴き入り下ネタに爆笑する姿が見られた。そこには和義さんへの愛が溢れていて、どれだけ彼が愛されているのかを目の当たりにして涙が止まらなかった。
 
彼の周りにはいつも笑いがあって、彼もまたみんなに限りない愛を注いでいるのがわかる。メンバーをいじる和義さんの姿。その優しい表情を見ているだけで、本当にいいチームなんだとぐっとくる。
 
メンバーが阿吽の呼吸で音を作り出す瞬間。ステージを所狭しと動きまわりステージを盛り上げる彼らを見ながら、和義さんがゼロからやりたかったバンドはこれだったんだと胸が熱くなった。
 
 
アンコールの「ずっと好きだった」ではパートチェンジ。和義さんはドラム、ドラムの豊夢さんはギター、ギターの真壁くんはキーボード、キーボードの堀江さんはベース、そしてベースの寛雄さんはギターというように。本業ではない楽器を演奏する彼らの緊張感が伝わってきて、まるで学園祭を観ているようなワクワク感を体感。
 
「ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー」では豊夢さんのソロパートで、放り投げたスティックがアタマに落ちてくるという素敵なハプニング。苦笑いでそのスティックを観客に投げるというサプライズ。
 
そしてみんなの振り上げる腕や想いがすべて和義さんに向かっているという、圧巻の光景のWアンコール。“みんなの想いがひとつになった瞬間” というものにカタチがあるとしたら、きっとこういう光景を言うのだろう。
 
 
最後はみんなでステージに並び手をつないでお辞儀をして。ステージからはけるとき、うつむきながら一礼した真壁くん。堀江さんはクールに、寛雄さんは豊夢さんにそっと背中を押されていたとか。和義さんは最後の最後までずっと手を振ってくれていた。
 
毎回全力を注いで、その日その瞬間の最高傑作を魅せてくれた和義さんはじめメンバーに、ありがとうの想いと惜しみない拍手がいつまでもいつまでも鳴りやまなかった。
 
きっと彼らは、ここを通過点にしてさらなる高みを目指していくのだろう。この鳴りやまない拍手は、彼らの活躍を心から願うものであり、きっとこの先も彼らの背中を押し続けるに違いない。
 
終わりは始まりなのだ。
 
 
 
 
 


 
IMG_20160129_210945shino muramoto●雑誌編集、放送局広報を経て、現在は校正士時々物書きやってます。落ち着いて見えると言われるけど実はそそっかしくて失敗は多数。ライブ会場を間違えたり、チケットを忘れたり…。最大の失敗は、満員電車で見ず知らずの男性の膝の上に座ってしまったこと。そのときのことを思い出すとはずかしくて赤面だけど、今でも笑いが止まりません。