皆様、あけましておめでとうございます。
 
新しい年は始まりましたが、私の連載「やめられないなら愛してしまえ」は、今回を持ちまして終了と相成ります。ひとまず、こうして最終回を迎えられたことを、心底ホッとしております。ご愛読いただいた皆様、本当にありがとうございました。
 
もう、最終回なのか。やっと最終回なのか。自分でも良くわかりません。ただ、上野さんと初めてお会いして、この連載をいただけることになった日のことは、とても遠くに感じています。連載が始まってからは、毎月のテーマ探しに奔走して気が気じゃない日々の連続でした。インタビューの「イ」の字も分からないままインタビューしたり、編集の「へ」の字もわからないまま編集したり…、締め切り前は夜と朝の間までパソコンに向かうのが常でした。
 
昨年2月にこの連載を「会社員兼音楽ライター」という肩書で始めさせてもらった訳ですが。当時は「音楽ライター」と、なんとか名乗ってみるものの、正直自分の中では全く認められておらず。連載を全うするためにも、そう言い切ることで腹を括っただけ、という状態でした。だから常に自分の中には「自称」の文字が頭について回っていたし、それと決別したくてこの連載を動かして来たのだと思います。結論から言えば、「自称」の文字はこの1年でなくなりました。理由としては明確で、この連載や知人の媒体以外での執筆ができたことです。これは媒体の大きさとかそういう話じゃなくて、書き手として私を知った人から、いちライターとして原稿の依頼を受けた、という意味です。
 
回りかけた車輪が、突如高速回転を始めたような、夢のような…狐につままれたような1年でした。だから、色々な反響をいただくと、「あ、現実なんだ」と実感する日々でした。もともと、自分の人生なんて太宰風に言えば「恥の多い人生だし」、バックホーン風に言えば「運命複雑骨折」で。連載を始めた当初は、こうして自分のことでしかない内容を書くのがすごく苦手だったし、違和感がありました。(今も得意だとは思えないけど)どこの誰とも知れない女の偏屈なエッセイなんて誰が読むか!というひねくれた気持ちもあったし。でも、そんな被害妄想に反して、意外とエッセイ部分もしっかり読んで、共感してくれたり、面白がってくれたりする方も多くて。それが分かってからは、調子に乗って楽しく書かせていただいていました。最終回を書き終えてしまうのが名残惜しいし、正直どう締めくくったら良いのかも分かりません。なので、最後に私の2015年がどうやって終わり、2016年がどうやって始まったのか。そして愛すべきバンドたちへの愛を綴って、終わりたいと思います。最後までよろしくどうぞ、お付き合いくださいませ。
 
 
 
12月31日。大晦日。やっぱり私はライヴハウスに居ました。
 
まず向かったのは渋谷のTAKE OFF 7。お目当てはThe Cheserasera。9月に初めてレポートを担当して以来、10月にインタビュー、11月に再びレポートと、去年は怒涛のケセラ期間がありました。ひとつのアルバムの発売を軸に、その前後を含めがっちり追えたことは本当に有難かったなあ、と思っています。ケセラとは、色々な人と人の繋がりが絡まってめぐり会ったようなところがあって、不思議な縁も感じています。私はランキングというものがあんまり好きではないので、「今年のベスト~」みたいなものを挙げたりはしないのですが、この日も演奏された「賛美歌」「インスタントテレビマン」は、間違いなく2015年を代表する名曲だと思っています。不敵で心優しくて、まっすぐでちょっと情けない。そして悪びれのない色気に満ちた、もどかしいロックを、今年も期待しております。
 

 
そして次に向かうは、私が2015年一番訪れたであろうライヴハウス、Daisy Bar。デイジーらしいオーセンティックなロックバンドが集う、カウントダウンイベントが行われておりました。まずは2番手のThe Doggy Paddle。この日もドギーのロックンロールは、見事なまでに私のハートのど真ん中を射止め続ける、正真正銘の「キラーチューン」ばかり。恵守さんの歌が、本当によく響いていました。血統書付のロックンロールと4人の個性があれば、ドギーは無敵だと思っているので、今年も全力で足掻いてください。ロマンチックなロックンロールは任せたよ、ドギー。でも実はちゃんとしたライヴレポートを書けていないので、2016年はドギーのライヴレポートを書く、というのが密かな標のひとつです。(だから、そろそろワンマンやりませんか?)
 

 
僧侶も走る程、せわしないから師走。私も負けじと夜の下北を走りました。ドギーを観た足で向かったのは、デイジーの直線上にあるライヴハウス、SHELTER。待ち受けるは、a flood of circle。シェルターで行われるフラッド主催のカウントダウンイベントは2年目。もちろん前回だって行きたかったし、次回だって行きたい。でも、今回は何がなんでも彼らの音楽と2015年を締め括り、2016年を始めなきゃいけないと思ったのです。その理由を書き始めると収集がつかなくなるので、書きませんが。簡単に言えば、運が味方したみたいな大勝負には、いつも彼らが絡んでいたということ。おまけに彼らも変化の年だったので、勝手に戦友のように思っていて。だから絶対フラッドで年を越したかったワケです。
 
①afoccountdown
 
昨年から引き続き出演のDOESにイマイアキノブに加え、Drop’s、THE BOHMIANSと、納得感抜群の面子にシェルターは常にぎゅうぎゅう。でも個人的に楽しみにしていたのは、ReiとCoyote Milk Storeという初見の2組。Reiはキュートな超絶ギターのブルース・ガールで、Coyote Milk StoreはVeni Vidi Viciousのヴォーカル入江良介氏がギターを務めるワイルドなロックンロールバンド。両者とも、実に興味深かった。個人的には(特にこういうお祭り的なイベントでは)もっと佐々木さんの視野の広さが見えてくるような自由度の高いラインナップも観てみたいと思っています。極端な話、ロックンロール以外のジャンルも出演してしまうようなものもアリではないかと。何となくだけど、そういうことを仕掛けても今のフラッドのファンには通用するだろう、という確信もあって。それはきっと、今のフラッドがシーンを丸ごと作り出せるくらいのバイタリティーと説得力を持っている、ということなんだろうな。ちょっと前までは自分たちの生命維持だけで精いっぱいだったフラッドが、今やロックンロールの未来を憂い、仲間たちを率いて立ち上がる。そんなドラマを観てみたいのかも知れません。
 
超満員のシェルターを一時抜け出し、The cold tommyを観るべく再びデイジーへ。思えば丁度2年前。私はまだ書く場所が自分のブログしかなくて。それでも出会ってしまった、衝撃の塊の様なtommyの音楽をどうにか言葉にしたくて、記事を書いていました。それをいつしかtommyのメンバーが読んでくれるようになって。ライヴハウスで初めて挨拶した時に、まるでポップコーンが弾けたみたいに言葉を散らかしながら、感想を伝えてくれて。その時の、彼らの言葉があまりにも魅力的すぎて、もっと色々な言葉を引き出したいと思ったし、彼らの話すそのままの言葉を色んな人に知ってもらいたいと思った。この「tommyにインタビューしたい!」という気持ちが、全ての始まりでした。それで、取材時間を取ってもらうわけだから、ブログじゃなくてせめて何かバンドにメリットのある形で還元したい! と、YUMECO RECORDSの門を叩いたという次第です。(ここに載せれば、少なくとも上野さんには知ってもらえる! と)。tommyとは今年も色々とありそうなので、皆さま是非チェックしていていただけたらと思います。
 

 
再びシェルターに戻り、久々のDOESに悩殺されていると、あっという間に2015年は残り30分を切っていて。大晦日という非日常がそうさせるのか、せわしなくライヴハウスを行き来していた所為なのか、お酒の所為か。ふわふわと全く実感がないままに、フラッドがステージに登場。けれども、音が鳴った瞬間、私の2015年が突然、終わり始めました。1曲毎にどんどん2015年が終わってゆく。色々な感情が首根っこを掴まれて引っ張り出されては、思いっきりハグされて、勢い良く2016年に投げ飛ばされていくみたいな感覚。そしてシェルターのフロアのしんがりの時計が0時を指して2015年が終了。沸き立つ歓声の中、佐々木さんがシャンパンを開けて「Party!!!」で2016年は始まりました。そして、次の「GO」で投げ飛ばされていた感情たちが、フラッドのGOサインで、時空を越えて降ってきて。自分でも驚くくらい、大粒の涙が2粒こぼれました。ステージから〈目を開けて見る夢をアンタが見せたんだ どうしてくれんだよ〉と、満更でもなさそうな歌声が聴こえてきて、また涙。フラッドにとって、大きな1年になるであろう2016年。1年後、また彼らを戦友だと思えるように私も転がり続けて行きたい所存です。
 
最後はデイジーに戻ってARIZONA 。10月に掲載した対談がきっかけで、12月の初ワンマンもレポートさせていただきました。ARIZONAとはバンドを聴くより前にイシイさんの弾き語りを観るという、変則的な出会い方をしていて。しゃがれ声で、得も言われぬ哀愁を醸し出している上にMCで「普段はロックンロールバンドやってるんですけど…」なんて言われたら、気にならざるを得ない。その後観たバンドも、やはり良くて。ロックンロールバンドとしての硬派さに、歌謡曲の色気と、ポップミュージックの愛嬌が絶妙な塩梅で、溶け込んでいるところがARIZONAの魅力だと思っています。次はどの部分が濃く出た曲が来るのか、楽しみです。
 

 
と、言う訳で私の長い、始まりと終わりの一日は幕を閉じたのでした。今年もやっぱりロックンロールも書く事もやめられそうにないので、よりいっそう愛してゆこうと思います。本当に1年間、ありがとうございました。
 
 
 
 
 


 
_vPmFu_0_400x400イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。『MUSICA』鹿野淳主宰「音小屋」卒。鹿野氏、柴那典氏に師事。この連載を通して、様々な経験やチャレンジができました。この様な機会を与えてくださった上野さん、本当にありがとうございました!読んでくださった皆様、取材等に協力してくださったアーティストの皆様も、ありがとうございました!
 
 

 
 
  第11回「ハイライト・トワイライト・ブルース」
  第10回「ロックンローラーよ、汝の過去を愛し、来たるべき未来を抱きしめろ」
  第9回「ロックンロール対談:イシイマコト(ARIZONA)×村上達郎(Outside dandy)×恵守佑太(The Doggy Paddle)」
  第8回「ケレンロックのすゝめ」
  第7回「男心と、曇り空」
  第6回「The cold tommy『FLASHBACK BUG』インタビュー」
  第5回「平成の流し、世にはばかる」
  第4回「ロックンロールの神様に踊らされて」
  第3回「愛しき遠吠えのロックンロール」
  第2回「The cold tommy解体新書的インタビュー」
  第1回「やめられないから愛してる」