たった1年半。
けれど、濃密な1年半だった。
私がThe cold tommyの音楽に出逢ったのは2014年1月。現メンバーになってから今年で6年目という彼等のキャリアを考えれば、決して長い期間ではないと思う。でもついつい「ずっと」なんて言葉を使いたくなるくらい、もうずいぶんと長いこと彼等の音楽と関わっているような気分でいる。それはこの1年半があまりにもめまぐるしく、濃密だったからに他ならない。
始めてライヴを観た頃は研井さんも榊原さんも黒髪で、松原さんもサイドをあんな刈り上げてはいなかった。ポーカーフェイスを決め込んで強烈にロックを鳴らすその姿はもちろん格好良かった。その後すぐにバンド初のフルアルバム『conservative dolls』が発売され、2014年8月のツアーファイナルでメジャーレーベルへの移籍というビッグニュースを発表。気付けば研井さんはスーツを脱ぎ捨て、メンバーは笑顔でステージに立っていた。
2月に初めて彼等にインタビューをした時、前途洋洋そのものに見えた彼等の1年半に様々な葛藤があったことを知った。同時に彼等が真摯に自らの音楽を突き詰めてゆく姿に胸が詰まった。7月29日、彼等はいよいよ『FLASHBACK BUG』というミニアルバムでメジャーデビューする。発売に先駆けて、その詳細と彼等の「今」を再びThe cold tommyのお三方に伺いました。
(取材・文=イシハラマイ)
メンバー同士がちゃんとぶつかって作れたので、心が開けてる感じがする(研井)
――『FLASHBACK BUG』いよいよ発売されますね! 良い意味での開き直りというか、自然体というか。The cold tommyというバンドの今が、ありのままに出ているように思います。と、同時にメジャーデビュー作としてはちょっとやんちゃというか、攻めているな、とも思うのですが…。
榊原ありさ(B)「そうですね、私自身はずっと制作活動をしていく流れの中で生まれた作品だし自然体という意識でした。でも最近アルバムの曲をライヴで演奏するとそういうお客さんの声も聴いたりして、冷静に考えてみるとよくマネージャーがコレを許したなって思いますね(笑)」
松原一樹(Dr)「確かに。俺もライヴの後に“メジャーだからって丸くなったり角が取れちゃったりしないんですね! かっこいいです!”とは言われたなあ(笑)。好評だったから嬉しかったけどね。だからメジャーを意識して作るということは特になかったです。でも名刺代わりになるような、ドンと行ける作品だし、ちゃんと研井の歌やメロディは生きているから、メジャー感ってわけじゃないけど聴かせる力はあると僕は思っています」
研井文陽(Vo / G)「そうだね、自然体。コンサバ(前作『conservative dolls』)に比べると、メンバー同士がちゃんとぶつかって作れたので、心が開けてる感じがする。ひとりじゃない感。だからその分自信を持って“良いじゃん”って思えるんです。コンサバは“いいもん”みたいなちょっと弱腰な部分があったけど、今回は絶対良いって確信してます」
自分一人でやるより時間が掛かるけど、自分一人では出てこない音が出てくるとそれがすごく楽しい(研井)
――なるほど。具体的に、前作からどんな変化がありましたか?
研井「今までは自分ひとりで曲を作ってきたんですけど、今回「PLUTO」「気まぐれニーナ」「蟻、巣穴へ帰る」の3曲は彼女(榊原)とセッションをしてイチから作った曲なんです」
――つまり新しい作曲スタイルに取り組んだということですね?
榊原「はい。長くバンドを続けていても曲の作り方って知らないことや気付かないことがたくさん出てくるんですよ。それで同じやり方をしていても自分が自分に対して刺激のある音楽ができないな、と思ったんです」
研井「それで“こんなのはどうだろう?”って初めて彼女がぶつかってきて。それでセッションするうちに自分にないものが生まれて。ドラムの解釈も変わったと思います」
榊原「そうですね。たとえば私はベースだからバスドラムとの絡みが気になるんですよ。でも研井さんはギターを弾くからシンバルとの絡みを意識してるんです。だからドラムに対してもちょっと考え方が違うんですよね」
――との事ですが、松原さんいかがですか?
松原「そうですね。研井にしても榊原にしても、ドラムじゃない人から出て来るビートって面白いんですよ。無理難題も多いけど、ちょっと他にはない感じでカッコイイと思っているので頑張りました。だから結果としてすごく楽しい空気感になってるんじゃないかな」
怒りをMAXにした状態と同じイメージを冷静に保つ、そしてそれがいつでも出来るという状態にならないとこの曲は完璧に表現できないんです(榊原)
――新しい作曲スタイルに取り組んでみて、苦労した点はありましたか?
研井「俺はずっと自分の中にあるイメージで曲を作って来たから、他人が作ったイメージを知る過程を“別に理解しなくていいや。俺が考えたわけじゃないし”って思っちゃう部分があるんです。一度理解すれば自分にはなかった発想とか、すごく感動するんですけど、そこに至る前に必ずこの回り道をしてしまう。歌をかぶせた時点からは自分の曲みたいな感覚になるんですけど。そこに至るまでの過程が、やっぱり自分一人でやるより時間が掛かるんです。でも自分一人では出てこない音が出てくると、それがすごく楽しい」
榊原「研井さんは自分の見た世界で曲を作るけど、私の場合は研井さんが歌うこと前提で考えているわけで。すごく軽い話に聴こえちゃうかもしれないんですけど、“こんな服着てたら似合そう”ってイメージで曲を作るんです。でも必ずしもそれが研井さんの着たい服じゃないわけで、私が“これめっちゃ似合うのになんで着ないの?”っていうと“こんな色着たくねえよ!”みたいな。そこの食い違いでめっちゃケンカになるんですよね…多分。「PLUTO」を作っているときもそうで…気付いたらMTRに入ってました。ケンカしすぎて記憶がない(笑)」
研井「そうだね、気付いたら入ってた(笑)」
――でも、それだけぶつかり合って作れたということですよね?
榊原「はい。でもだからこそ、この曲すごく難しくて。怒りをMAXにした状態と同じイメージを冷静に保つ、そしてそれがいつでも出来るという状態にならないとこの曲は完璧に表現できないんです。『ドラゴンボール』でたとえるなら、スーパーサイヤ人がニュートラルじゃないとダメってこと。でも完璧に出来たらすごくかっこいいんです」
松原「ドラムの観点からだけで言ってもテクニック的にはすごく難しくて。僕は性格的にワーッと怒ったりはしないんですけど、その張り詰めた空気を感じるから逆に“やってやるぞ!”っていうパワーで叩けるのかな、とは思いますけどね」
――なるほど。レコーディング後、皆さんが目をキラキラさせて「かっこいいのが出来た」と話してくれたのが印象的で。私はその表情で今作の出来を確信したんですが、レコーディングには深沼元昭(Mellowhead / PLAGUES / GHEEE)さんをプロデューサーとして迎えていますよね。こちらも初の試みだと思いますがいかがでしたか?
榊原「あんなにスムーズなレコーディングは初めてでした! 今まではお互い自分の出したい音のイメージを共有できず、すぐ口論になっていたんです。でも深沼さんはすぐに理解してくれて、欲しい音を返してくれたんです。…結局自分たちは知識不足だったんですよね」
研井「そうだね。それに深沼さんは自分と同じで、ギタリストでヴォーカリストで作曲もしているから、近い感覚で。ドラムやベースに対してギターの出すべきところとか、上手く言葉にならなくても、ちゃんと理解して音にしれくれて…」
――つまり深沼さんとのレコーディングによって自分たちの目指していた音が現実化した、ということですよね。だからこそ、自信が持てた、と。
松原「はい。ちゃんとバンドにも入り込んで、一緒に作ってくれた。それに「bobboy~慣れたら楽園~」なんかは結構遊んでくれたり…(笑)」
リリース前なのにみんな一緒に歌ってくれて。入れて良かったと確信しました(松原)
――「bobboy~慣れたら楽園~」と言えば『FLASHBACK BUG』イチのやんちゃ坊主ですよね。なんと言っても注目すべき点は研井さんのラップ! クラブミュージック調のリズムも新鮮ですが、今までのThe cold tommyの楽曲を考えるとあまりにも新しい。正直この曲を入れることに戸惑いはありませんでしたか?
松原「確かに自分の中でも“これ入れて大丈夫かな…”と思ったこともありました。でもライヴをやったら、まだリリース前なのにみんな一緒に歌ってくれて。入れて良かったと確信しました」
――ライヴでやってみたら以外と愛されナンバーだった、と。
榊原「そうですね。みんなカッコいい感じに体動かしてくれて、良いグルーヴだなって。これ元々は重たいロックな感じのアレンジだったんですよ(笑)」
研井「そうだ。それでギターをオーバーダブする時になんとなく弾いたサビのフレーズが軽くてバカっぽくて。それが良かったから、チープでクラブっぽい感じにしたくなったんです。でもちゃんまつ(松原)はバスドラ増えて大変になっちゃったんだよね」
松原「(笑)。でも研井のラップのスキルは本当に高いと思うんです。メロディアスな曲もあれば<YO-YO!>ってラップも歌う。このふり幅も面白いし。だから俺は4つドドドドってバスドラを踏むわけです」
――新たなライヴアンセムの誕生ですね。まさにお客さんにとっても“慣れたら楽園”!
松原「座布団一枚!素晴らしい!(笑)」
研井さんの思考回路がトミーの血液なんです(榊原)
――「リュカの黒髪」は懐かしさや寂しさ、愛おしさが漂う情景をめまぐるしく交錯させ、鋭い言葉で描き出す研井さんの歌詞が、まさにアルバムタイトルそのもの。ノルタルジックなメロディーとの相性も抜群で、ものの数秒で曲の世界に引き込まれます。この曲はリード曲なんですよね。
松原「はい。「リュカの黒髪」は歌詞の持つ雰囲気からストレートなサウンドを意識しました。だからその持ち味を生かす様にハモリやコーラス最小限にしてあるので、そこにも注目しほしいですね」
研井「タイトルの持つ凛とした空気がすごく好きで、サウンドとしては沈んでいるけどスピード感はある、という感覚を表現したかったんです。歌詞は子供の頃の思い出とか、それを思い出している自分とか…それこそフラッシュバックしてきた情景が軸になっていると思います」
――今作の作詞については何か変化などはありましたか?
研井「伝えたいことがあって、それを誰にでも同じように伝えられる歌詞を作ることってとても大事だし大変だと思うんです。だから自分の頭にある景色とか空気を正確に伝える為にはどこをピックアップしたらいいのかな、とか。あと歌詞は言葉じゃなくて音楽に乗って伝わるものだから、同じ言葉でも違う音楽に乗れば、違う伝わり方をするじゃないですか。だから“どう見られたいのか”を考えて、表現できるようになりたい、とは思いました。で、はたしてそれが考えて出来るのかな…って。そんなこと考えずに衝動的に作りたい気持ちもあるし。…結局考え過ぎるとちぐはぐになってしまうから、一番楽しいのはパッとできて、“良いじゃん”ってなること。それが一番気分が良いんです」
――伝えたい、という思いが強くなる中でテクニックや客観視をしてみても、やはりしっくりくるのは自分の気分が乗った時に出来たもの、ということですか?
研井「そうなんです」
榊原「だから私の理想は研井さんの気分が乗って、良い歌詞が出来ること。その為にまずサウンドで気分を持ち上げる。そういう方法がこの人が歌ったり歌詞を書いたりする上で一番重要な事で、バンドとしても目指すべき場所なのかな、と。運命みたいな気持ちだけど、その方が楽しかったりするじゃないですか。だから私はこれがいいかなって。研井さんの思考回路がトミーの血液なんです」
――そうですね。最初に今作は“ありのまま”と言いましたが、こうやって悪びれもなく“気分次第”と言ってしまえることがThe cold tommyの魅力だと思うんです。「PLUTO」の曲作りのエピソードもうそうですが、ちゃんと人間らしく感情的であることを忘れない。だからThe cold tommyの音楽は信用できる。そう思います。
榊原「無駄に感情的だからね」
松原「(笑)」
研井「人生の寂しさとかも、ちゃんと音楽として鳴らせば共有できる。そうしたらその寂しさもちょっとは埋まるんじゃないかなって思うから、暗い所だけどWin-Win。それが出来たらとても満ち足りるよね」
――ありがとうございました。このアルバムの発売、楽しみですね!
研井「7月29日、しちふくの日です!」
榊原「早くみんなに聴いてほしい。よろしくお願いします」
松原「少し時間は掛かっちゃいましたけど、結果的にすごく良いタイミングになったと思います。ぜひCD聴いてください!」
『FLASHBACK BUG』
1.シロサイは穴掘り
2.リュカの黒髪
3.PLUTO
4.bobboy~慣れたら楽園~
5.気まぐれニーナ
6.蟻、巣穴へ帰る
CTCR-14866 / ¥1,800(税別) / 2015.07.29 Release
official site:http://thecoldtommy.syncl.jp/
イシハラマイ●会社員兼音楽ライター。『MUSICA』鹿野淳主宰「音小屋」卒。鹿野氏、柴那典氏に師事。SAKAE SP-RING取材も無事終了! ZIP-FMさんと「しゃちほこロック」がタッグを組んだアーティスト突撃写真撮影やライヴ実況ツイートは大好評でした! The cold tommyのライヴレポもばっちりしてきましたよ! 「しゃちほこロック」(http://syachirock.jp/)もぜひごらんください。