はじめまして。今年から連載陣に参加させていただきます、大石蘭と申します。うまくいけば来月で大学院(修士)を卒業できる予定の24歳です。
ミュージシャンでも音楽業界の者でもなく、絵と文章の仕事を初めて3年目になる私ですが、一昨年にYUMECO RECORDS主催の夢子会のフライヤーイラストを描いたり、レビューを書いたことがあり、それ以来上野三樹さんはじめ、YUMECO RECORDSに関わる方々と仲良くさせていただいていました。
昨年、私は自分の東大受験について描いたコミックエッセイ『妄想娘、東大をめざす』(幻冬舎)を出版しました。その中には怒濤の受験勉強の日々のなか、大好きな音楽の数々に背中を押されたエピソードも織り込んでいます。
あのとき悶々としながらめくっていた音楽雑誌の中の世界に、今の自分が少しだけ触れたような気がしたこと。YUMECO RECORDSに出会って、その邂逅にどきどきしました。
椎名林檎が、初期3枚のオリジナル・アルバムについて「思春期をなぞる作業だった」とどこかで言っていたのが、ずっと心に残っています。「正しい街」から上京した少女が、「葬列」でなにかを葬るまでの過程の鮮やかさ。
私にとって、『妄想娘、東大をめざす』は自分の思春期をなぞる最初の作品でした。そして、昨年末に提出した修士論文が、思春期をなぞる作業第2弾。思春期から根を張る興味を突き詰めたこの修士論文で、無事大学院を卒業できれば、社会人として、「大人」として本当のスタートを切ることになります。上京7年目。
そんな境い目の2月。
学校の課題と試験のこと、新生活のこと、仕事のこと、一気に迫ってきて頭がパンク状態の1ヶ月。
YUMECO RECORDSの今年のテーマは、大切なホームから新たな人や物に出会っていく〈更なる広がり〉〈更なる繋がり〉……
今月末には引っ越しを控えています。部屋に溜まったCDとか雑誌とか人に見せられないノートとか、そういうものを前にして途方に暮れているところ。この部屋と私を、写真家の川本史織さんが写真におさめてくれました。
この作品は現在世田谷文学館にて開催中の、「岡崎京子 戦場のガールズ・ライフ」展の公式図録『岡崎京子 戦場のガールズ・ライフ』(平凡社)に、岡崎京子トリビュート作品として掲載されています。
この川本史織さんの連作「それもまた日常」は、岡崎京子の漫画の主人公たちのように、都会で生きる女の子の日常をテーマに、女の子の部屋を撮影したもの。
夢を抱えて上京して、戦っていく拠点としての部屋。新しい戦いのために、この部屋はもうすぐ引き払うけれど、この部屋が岡崎京子の漫画の余白にそっと閉じこめられたような気がして、嬉しかった。
部屋はその人を表すと言うけれど、女の子にとっての部屋って、脳みそに詰まった記憶そのものかもしれない。だから、部屋と漫画って、親和性が高いのかも。
思春期をなぞる作業、はそろそろ終わりかな。
一時期聴いていた音楽を久しぶりに流すと、その当時の思い出や居た場所や体調や匂いみたいなものまで、一気に甦るものです。甦るのがこわくて聴けない曲さえある。
ここから始める連載では、12年前から去年まで毎月1年ずつ、思春期をともにしたCDたちをイラストで振り返りながら、甦る時代の空気をお届けできたら、と思っています。
捨てられないお気に入りのものをフリマで楽しく売るみたいな気持ちで、思い出を共有できたらいいな。
波瀾万丈の1年になりそうな予感がしていますが、よろしくお付き合いくださいませ。
大石蘭●1990年生まれ。東京大学教養学部卒、東京大学大学院修士課程。雑誌やWebなどで、同世代女子の思想を表現するイラストやエッセイを執筆。著書に、自身の東大受験を描いたコミックエッセイ『妄想娘、東大をめざす』(幻冬舎)、共著に『女子校育ちはなおらない』(KADOKAWAメディアファクトリー)。
■HP : http://oishiran.com
■ブログ : http://ameblo.jp/oishi-ran/
■Twitter : @wireless_RAN